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コロナの先の世界(6) コロナウィルス・パンデミックに当って現代社会を考える 一般財団法人 国祭経済連携推進センター 理事、消費者政策学会 顧問 井出 亜夫 【2020/05/22】

コロナの先の世界

(6) コロナウィルス・パンデミックに当って現代社会を考える

掲載日:2020年5月22日

一般財団法人 国祭経済連携推進センター 理事
消費者政策学会 顧問
井出 亜夫

はじめに

 コロナウィルスパンデミックにより改めて現代人類社会の脆弱性が浮き彫りにされています。この機会に、かつて西欧社会の人口3分の1の命を奪ったペスト、第1次世界大戦末期のスペイン風邪(死者4000万人と推定)、今世紀直近のSARS、MARS等過去のウィルスによる人類への挑戦にも思いを馳せ、我々は如何なる対応を行うべきか深く考えてみたいものです。

成長至上主義の世界観

 第2次世界大戦の終了・復興、植民地の独立により、経済発展による楽観的認識が世界を支配しました。特にベルリンの壁崩壊、冷戦終結後、市場経済の一般化、グローバル社会の進展を展望して楽観的展望が蔓延しました(歴史の終焉―フランシス・フクヤマ、フラット化する世界―トマス・フリードマンはその代表)。しかし、現実に進展した世界は貧富の格差拡大とこれに起因する政治・社会問題を生み出し、混沌たる事態も出現しています。トマ・ピケティ「21世紀の資本」が世界的ベストセラーとなった所以も多くの人が今日の市場経済システムの不安定性を自覚したからに相違ありません。

「沈黙の春」、「成長の限界」等に始まる成長至上主義への警告と地球サミットへの流れ

 しかし、一方において、既に1962年レイチェル・カーソンは「沈黙の春」において農業・自然界と化学製品の相克問題を提起し、1972年ローマ・クラブは「成長の限界」を提示し、同じく同年、スウェーデン・ストックホルムにおいて「国連人間環境会議」が開催され、先進工業国においては経済成長から環境保全への転換が、開発途上国における開発の推進と援助の増強が重要であるとされました。

 その後、第一次・第二次石油危機の発生に伴うエネルギー問題への対応(IEAの設立、先進国首脳会議の発足)、スミソニアン体制から変動相場制への移行、プラザ合意など世界経済の中枢アメリカ経済の疲弊等によって、この動きは20年後リオ・サミットまで待たなければなりませんでした。1992年、ブラジル・リオデジャネイロで「国連環境開発会議」(地球サミット)が開催され、「環境と開発に関するリオ宣言」、持続可能な開発のための行動計画「アジェンダ21」に加え、気候変動枠組条約、生物多様性条約の署名が開始され、持続可能な開発が、人類の安全で繁栄する未来への道であることが確認されました。この動きは、以降一連のCOP会合、2030年を目指した国連SDGs(下記参照)の動きとなっていますが、今回のコロナ問題は、単にウィルスへの対抗に限らず、これを契機とした人間社会・文明と自然との関係を我々に問いかけています。

国連SDGs-2030年を目指した持続的発展17目標 国連経済社会理事会合意

 1.貧困をなくそう 2. 飢餓をゼロに 3. すべての人に健康と福祉を 4. 質の高い教育をみんなに 5. ジェンダーの平等を実現しよう 6. 安全な水とトイレを世界中に 7. エネルギーをみんなにそしてクリーンに 8. 働きがいも経済成長も 9. 産業と技術革新の基盤をつくろう 10. 人や国の不平等をなくすような対策を 11. 住み続けられるまちづくりを 12. つくる責任 つかう責任 13. 気候変動に具体的な対策を 14. 海の豊かさを守ろう 15. 陸の豊かさも守ろう 16. 平和と公正をすべての人に 17. パートナーシップで目標を達成しよう  

 ―此処には、新型コロナウィルス・パンデミックの防御・拡大の防止策にも直結する多数の事項が含まれていますー

コロナウィルスで世界が求められていること

 今日の新型コロナウィルスのパンデミックに直面して、改めて人間社会の有限性、相対性を感じます。国際社会はこれに対し、如何なる対応が出来るか問われ、取り敢えず以下の点が急務となっています。
(1)感染経路の究明
 情報の透明性、共有、国家対立でなく、国際協調が求められ、特にWHOの活動が重要でありましょう。
(2)感染防止のための諸国民の努力
 (3密の回避、状況に応じた経済社会活動の一時的停止)
(3)専門家、医療関係者への期待・要請(ウィルスの解明、治療薬・ワクチンの開発)
(4)医療体制の整備
(5)二次感染の防止を含め、発展途上国への拡大を防ぐ様々な国際協力

各国の状況と対応

 今日までの動きは、米国ジョンズ・ホプキンス大学の集計によって、概要を知ることが出来ますが、各国の集計方法の違い等から、更なる吟味も必要でしょう。特に、ロシア、北朝鮮、ブラジル等の動向が注意を要しましょう。

 そうした中で、(1)アメリカの対応は、トランプ大統領の発言も含み、アメリカ民主主義なるものの弱点を露呈(貧富の格差拡大、現代先進社会に当然な社会保障制度の不備、大統領選を念頭に置いた支離滅裂な発言等)しています。(2)これに比べメルケル首相等欧州政治家の発言は、人類の共存、相互依存性に触れるなど視座の高さを示しています。(3)一方、中国の習近平政権の世界に対する発信力も注目されます(米中覇権争いの中、今次新型コロナウィルスにおける中国政府の初期対応に問題があったに違いないが、その後の対応は中国へのシンパシーを増すことになるでしょう)。(4)他方、幸いにして日本の被害状況は他のOECD諸国に比しラッキーな状況にありますが、日本からの発信に視野の狭さを感じます。1993年に制定されたわが国環境基本法は、環境の恩恵・継受、将来世代への継承、国際協力による解決という理念のもとに持続的発展社会の形成を謳っています。

ICT(情報通信技術)、AI(人工知能)に代表される情報革命の進展とポストコロナウィルス

 情報化社会の進展は、新型コロナウィルス・パンデミックの中でもその度合いを強め、今回のコロナウィルスへの対応においてもビッグデータの活用、AIの利用は、情報の分析、伝達に更なる革新・変化を加え、働き方、Eコマース等生活様式にも変化をもたらし、また都会への人口集中、地方の疲弊の是正・振興に新たな手掛かりを与えることが予想・期待されます。

この動きに対し新しいルールを作る努力が求められるとともに、物理的距離の制約、組織の大小の不利を克服し、また、人々の相互依存関係を再認識させるなど市場経済システムの永続性を如何にして高めるか、現代人の知恵が試される大きな問題でありましょう。

人間の相対性、相互依存性を述べた東洋思想

 総じて、近代の到来は、自然を克服する欧米思想によってもたらされましたが、この機会に人間の相対性、相互依存性を述べた東洋思想を振り返り、今後の対応に資したいと思います。

(1)『説苑』*に示される国を超える発想

(*中国上代~前漢中期までの故事説話集。前漢の大儒・劉向の編纂)
「楚の共王出猟して、その弓を遺う。左右これを求めんことを請ふ。共王曰く、『止めよ。楚人弓を遺ふも、楚人これを得ん。又なんぞ求めん』と。仲尼(筆者注:孔子)これを聞きて曰く、『惜しいかな、その大ならざる。また人弓を遺ふも人これを得んと曰はんのみ。何ぞ必ずしも楚のみならんや』と。仲尼は所謂大公なり。」


(2)論語に現われたコンプライアンス観、富貴観

・法律制度、刑罰だけで秩序を維持しようとすると、民はただそれらの法網をくぐるだけに心を用い、幸いにして免れさえすれば、それで少しも恥じるところがない、徳をもって民を導き、礼によって秩序を保つようにすれば、民は恥を知り、みずから進んで善を行なうようになるものである(英国金融学者ジョン・ケイも引用)。
・利益本位で行動する人ほど怨恨の種をまくことが多い。
・君子は万事を道義に照らして会得するが、小人は万事を利害から割出して会得する。


(3)人間と自然界との調和を示している老荘思想

・竹林の7賢人(人間社会の喧騒を離れ自然と共生する)
・無為無欲、無為自然の治
・兵は不肖の器


(4)先憂後楽

(中国北宋の政治家・文人、范仲淹(989~1052)の散文『岳陽楼記』の末尾一節)
士当に天下の憂いに先立ちて憂え 天下の楽しみの後に楽しむ


(5)『菜根譚』

(中国明代末期の儒者、洪応明による儒仏道の倫理の集大成)
・仁義の力は何物にも勝る
富の力に対し、仁の徳で対抗し、名誉で来るならば、正しい道で対抗する。
・学んで後に自ら実行する
学問を講じても実行を大切にしなければ口先だけのことである。事業を起こしても自分の利益だけを追求するのであれば、眼前の花のようなものである。
・三態(道徳、事業、権力)の富貴名誉を比較すれば、道徳によるものが最も優れている


(6)二宮尊徳*に現れた持続的発展思想(*江戸末期農政家、1787~1856)

「二宮尊徳一日一言」
・「遠きを謀る者、近きを謀る者」「利を計る遠近」は商法の掟である。
・誠心・勤労・分度(分限、限度に応じ計画を立てる)・推譲(他人を推薦し、自らは譲る・人のため世のための志と実践)


(7)ムハマド・ユヌス

(バングラデッシュグラミン銀行創始者、2006年ノーベル平和賞受賞。1940年~)
「資本主義の欠陥を指摘(ソーシャル・ビジネス、起業家の精神、金融システムの再構築による)貧困ゼロ、失業ゼロ。環境破壊ゼロの世界を提唱」


(8)マハトマ・ガンジー(インド独立指導者、1869年~1948年)

「現代社会7つの大罪」
・原則なき政治 ・道徳なき商業 ・労働なき富 ・人格なき学識(教育) ・人間性なき科学 ・良心なき快楽 ・献身なき信仰


(9)宮沢賢治(作家、農民指導者、1896年~1933年)

「農民芸術概論要綱」(日蓮宗の影響)
我らは一緒にこれから何を論ずるか・・・
世界全体が幸福にならないうちは個人の幸福はあり得ない
自我の意識は個人から集団社会宇宙と次第に進化する
この方向は古い聖者の踏みまた教えた道ではないか
新たな時代は世界が一の意識となり生物となる方向にある
我らは世界の真の幸福を訪ねよう・・・


(10)尹東柱(韓国詩人、日本留学時に治安維持法により獄死。延世大学校、同志社大学に記念碑がある。1917~45)序詩

「死ぬ日まで空を仰ぎ、一点の恥辱無き葉あいにそよぐ風にもわたは心痛んだ。星をうたうこころで生きとし生けるものをいとおしまねば そして私に与えられた道をあゆみゆかねば 今宵も星が風に吹き晒される」


グローバル社会における世界市民としての素養と自覚

 人類の共存、相互依存性の認識を高めるためには、専門領域を超えた、あるいはその根底にあるリベラル・アーツ(哲学、倫理学、歴史 文学、テクノロジーよりもサイエンス)を視座の中に据えなければなりません。(総じて、日本の教育(学校教育&社会教育)は、明治以来近代化を目指したテクノクラート養成に主眼が置かれなかったか、自問してみたいものです。)


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