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ニューノーマルと社会~拡大するフロンティア (2) デジタルの10年、パンデミックとニューノーマル ― 世界的な挑戦の時代にビジネスと社会はどのように繁栄できるのか techUK CEO ジュリアン・デイヴィッド 【2020/10/29】

「ニューノーマルと社会」~拡大するフロンティア

(2) デジタルの10年、パンデミックとニューノーマル― 世界的な挑戦の時代にビジネスと社会はどのように繁栄できるのか

掲載日:2020年10月29日

techUK CEO
ジュリアン・デイヴィッド

対応、適応、復興

 対応、適応、復興。 この3つの言葉は、COVID-19パンデミックの最初のピークとロックダウンに立ち向かうために、私たちtechUKとそのメンバー企業及び関係者が行ったことと、企業と人々がニューノーマルに適応するために私たちがどのように後押ししたか、そして英国の経済と社会のために、世界の経済と社会を復興・再生していくためにどのようなステップを踏まなければならないと私たちが考えるかを集約している。しかし、お分かりいただけると思うが、これは、「それ以前・その渦中・その後」で語ることができるほど単純な話ではない。明確な始まり、途中、終わりが存在しないのである。今、私たちは急速に変化する複雑な時代に生きており、常に対応と適応を必要とし、長期的な復興計画が求められている。

techUKの対応

 私たちの第一優先事項はシンプルであった。それは、全ての企業同様に、まずtechUKのスタッフや関係者を守らなくてはならなかった。

 クラウドを利用することで、全業務を数日でオンラインに移行できた。これで、スタッフは業務を続けながらも、会員やステークホルダーにサービスの提供を継続できた。

 当初は不安を感じていた。通常、オフィスや会議室は私たちの業務に欠かせないものであり、毎年24,000人以上の訪問者があり、オフィスを閉鎖して100%バーチャルで活動すれば、会員やステークホルダーとの関係が損なわれるかもしれないと懸念したのだ。これについては、もっと自信をもち、私たち業界のテクノロジーを信頼するべきだったと分かった。なぜなら、会員企業やステークホルダーのイベント参加率が、実に最大40%も増加したからだ。3月以降、それらイベントのうち約500回は完全にオンラインで開催し、約14,000人が参加した。また、ステークホルダーや政府関係者に対するtechUKの価値は大きく向上した。

 しかし、私たちtechUKにはデジタル化の能力はあったが、多くの企業はそうでもなかった。ロックダウンにより、前例のない規模でのデジタル移行が進行して、私たちの日常生活のあらゆる面に大規模な混乱をきたし、加えて、ウイルス自体が健康に大きな脅威をもたらした。

 そこで、最初の問題は、公共サービスのオンライン化をどのように支援できるかであった。国民保健サービス(NHS)からユニバーサルクレジット、国税庁、学校に至るまで、ロックダウン期間中の人々のサポートには、既存の技術サポートの拡大が不可欠だった。会員企業が、NHSや英国公衆衛生庁、学校に短期間でソリューションを導入するために緊密に仕事をするとき、さらには担当大臣と直接ソリューション導入の仕事をするときなどに、techUKがサポートした。

 会員企業の一社であるMicrosoft社はNHS全体に自社のビジネスチャットツールTeamsを展開しているが、やはり会員企業であるZoomのオンライン会議ツールの使用率も大幅に増加し、人々のつながりを維持するのに役立った。同様に、Google Classroomのようなアプリもオンライン授業を支援するため学校に採用された。

課題の特定

 目の前の対応以外に、英国のデジタルインフラの安全性も考える必要があった。ほぼ全世界向けのオンライン化に取り組むにあたり、現実にはいくつかの疑問が残っていた。特に、オンラインのビデオ、エンターテインメント、ショッピングが激増したことによる諸問題である。会員企業は必要とされる場所へどのようにエンジニアを派遣できるだろうか?機器の調達は?データセンターが落ちることはないか?

 政府とは、日常的なやり取りや会議、そしてTo Doリストの作成を行い、これら課題の克服を試みた。経験のないコラボレーションであり、私たちとしては、この機会を逃さず今後につなげていきたい。なぜなら、官民が支持するデジタル経済、これがわが国の将来向かうべき方向であり、今回の試練を乗り越えることで英国全体に恩恵をもたらすことができると考えるからだ。

 適切なインフラ整備の後にくる課題は、企業・個人がどう新しい働き方へ適応するか、そして、それをニューノーマル下の経済再生にどうつながる形で実現するかである。

 金融、専門サービス、一部教育サービス、そしてハイテク企業にはデジタルに適応する能力を持っているものの、デジタル化の遅れている部門があることをロックダウンは露呈した。

 旅行、観光、ホスピタリティ業界は、もともとリアル産業であるが、今回最も深刻な打撃を受けており、前進するための支援を最も必要としている部門でもある。それでも、とりわけ飲食店はITを利用して宅配事業を増やしたり、レシピをオンラインで公開したり、消費者に直接つながるサプライチェーンを推進している。

その次に来るのは?

 今回のパンデミックは、社会や企業活動のあらゆる面において前例のない課題をもたらし、その課題は企業、業界、地域によって異なり、私たちは自分たちの目で確かめるべく現場へと足を運んだ。

 この数か月間に私たちは、英国の4つの国及びイングランドの様々な地域で一連の全国デジタル・ダイアログを開催してきた。考え方としては、企業、地域、地方自治体、その他投資家から学識者まで様々な利害関係者を一堂に集め、それぞれの課題、チャンス、ニーズを地域レベルで話し合うことだった。

 これら議論の結果を報告書としてまとめ、その中で私たちIT業界がどこで役割を果たすことができるのか、とりわけtechUKが取りまとめ役として、支援を必要とする会員企業のために活動できる分野を取り上げた。

 今後の状況は明らかに一変していくのがわかる。それは、これまで見たことがないようなデジタル経済への大きな動きである。ある意味、リモートワークの普及のような新しい革命的変化もあるだろう。それだけではなく、電子取引やオンラインバンキング、ストリーミングエンターテインメントのような、既に進行形であった様々なトレンドも、数週間で何年もの進歩を遂げている。

 今回はっきり実感したことの一つは、各業界が効果的に対応、適応、回復するうえで重要なのが、私たちの既存の能力だということだ。デジタルインフラがなければ、そしてデジタルツール(携帯電話、ラップトップ、タブレット、そしてそれらを動かすアプリの多くが比較的新しいものだが)がなければ、社会経済の全部門がオンラインで動かすことなど出来なかったであろう。

 5~10年前でさえ、デジタルで人々にサービスを提供できるだけの色々なものはもちあわせていなかっただろうし、隔離やロックダウンの状況下で人々がつながり続けることも不可能であったろう。

 第二に、クラウドへの移行はもはや必要不可欠であるということである。私たちの経済の大きな部分が既にデジタル化されていたこと、特に、金融・専門サービス、多くの教育サービスにおいてそうであった事実が、これら業界の迅速な事態適応能力につながった。その他の医療や社会サービスにとっては、既存の能力を最大限に活用するという挑戦となり、彼らはその課題に対処した。英国はこの点で非常に優れている。英国のデジタルインフラ、デジタルサービス企業、そして国民が「ニューノーマル」に適応していることは世界でも最高水準に並ぶ。英国は、私たちのインフラと地域社会をとてもよく維持できており、その対応は世界のどのベストプラクティスと比較しても遜色ないと考える。

 もちろん、諸外国から学べることはまだまだあるし、英国が注力すべき分野もいくつもある。その一つがインクルージョン(社会的包摂)である。

 英国の400万人以上がデジタルから排除されている状況はもはや容認できない。誰一人置き去りにすることなく、テクノロジーにアクセスできない、あるいはテクノロジーを理解していない人々でも、テクノロジーを使うためのツールが確実に与えられなくてはならない。これが成功すれば、今回のパンデミックの影響で職を探している何百万という人々が、「どうぞ、入ってきて」と言っているテクノロジー業界で、より多くの雇用機会を見出すであろう。今こそ、テック業界自らがオープンになり、より多くのコミュニティーや多様な層を取り込むべきである。とりわけ、過小評価されている女性や民族的少数派を。

 この状況を変えるチャンスが目の前にある。私たちは業界全体そして政府に対し、デジタルの消費国ではなく、つくり出す国として、英国をデジタルスキルが十分に備わった国家として再構築するように呼び掛けている。喜ばしいことに、企業、政府、公共部門組織では考え方が大きく転換した。新しいものを受け入れ、ようやく21世紀に足を踏み入れた。それは企業にも、私たちの国民アンケートにも見ることができる。明らかに、彼らはデジタルスキルの習得を希望し、デジタルの世界でその技術を使って新たな産業に加わり、さらなる成長を成し遂げることを望んでいる。

 同じことが国家間の関係にもうかがえる。最近調印された日英貿易協定を見ると、物理的な製品や貿易のつながりに加えて、両国が「デジタルのつながりも構築する」とかなり明示的に表明している部分がある。テック・イノベーションへのコミットメントが貿易協定に組み込まれているのは、将来への指標である。デジタルへの注力はEUが近ごろ発表した新型コロナ復興計画の中にも明確に示されている。計画には、デジタル技術の必要性が十全に盛り込まれているし、EUと英国の今後の関係について現在進行中の議論の中でも取り上げられている。

 さらに、英国政府は投資や研究開発費を国内総生産の2.4%に引き上げることを約束しており、ヘルステック、グリーンテック、エドテック、アグリテック、その他AI、ロボティクス、新世代通信、宇宙技術を活用した分野等の技術的ブレイクスルーを非常に重視している。そして、これは、何も英国だけの目標ではない。

ただし、正しいやり方でやること

 ここで、いくつか懸念がある。この勢いをとらえて、これから私たちが突入するデジタルの10年間が本当に良いもので生産的な時代となるためには、克服すべき課題がいくつかあるのだ。

 第一の課題は、既に直面している地政学的問題である。つまり、米中という二大技術大国の対立である。私たちtechUKは現実主義的であり、解決すべき現実の問題があることを理解している。しかし、他の当事者は、健康や気候変動といった将来の諸問題にはグローバルなアプローチと多国間のイニシアチブ・協働が必要であるという事実を強調しなくてはならない。

 次の課題は、責任あるデジタル技術の利用である。世界中、将来の世代は目的を持った組織に注目をしていく。未来のテクノロジー・リーダーは、いつ会社の時価総額が10億ドルを超えるかの話ではなく、自らの夢とビジョンが地域社会の生活にどのように貢献できるのかを語れることが必要だ。

 様々な課題の根本にあるのは、信頼の問題である。新たな画期的技術が安全で安心できること、データとプライバシーが守られ、誰もがその新たな技術にアクセスして恩恵を受けられるという、人々の信頼だ。

 私たちtechUKにとって、今こそ、これらを実行する時であると申し上げたい。そして、英国のあらゆる場所、すべての人がこのデジタル転換に乗り遅れることがないようにしたい。2020年代は、デジタルの10年間になるとずっと考えられていたが、パンデミックがそれを加速させたことで、私たちが予見しえなかった、かつ決して望んでもいなかった方法で、加速度的に進んでいる。しかし、正しく進めて行けば、楽観的になれる理由は数多く存在する。


執筆者プロフィール
ジュリアン・デイヴィッド(Julian David)
techUK CEO

ジュリアン・デイヴィッド氏は、世界の一流企業と500社以上の中小企業で構成される国内外800社以上の会員企業を有する情報通信産業の業界団体 techUK の CEOである。また英国政府産業サイバー成長パートナーシップ、デジタル経済協議会、国際貿易省の戦略的貿易諮問グループのメンバー等、英政府のデジタル政策にも多く参画している。

(本稿は国際経済連携推進センターが英語の原稿を仮訳したものである)
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