「インド研究会」研究会だより (2)
文責:山田 剛
(研究会委員、日本経済研究センター 主任研究員)
〇第2回研究会(7月下旬開催)の結果概要
▶「インドを巡る金融情勢:国際金融と国内金融を中心に」
最近のインド金融情勢を巡る注目ポイントである通貨ルピー安や株式市場の動向、国有銀行の再編などについて分析した。ルピーは26年5月に1ドル=96.9ルピーにまで下落するなど史上最安値レベルで推移している。この為替下落の背景にはイラン危機による原油価格上昇と、それに伴う「輸入インフレ」がある。また、米国による高金利政策の維持によりインドとの金利差が縮小したこと、さらにグローバルな不確実性の高まりや米国の魅力的な利回りを背景に外国ポートフォリオ投資家(FPI)がインド株式・債券市場から大規模に資金を引き揚げたことが挙げられる。
インド政府・中銀(RBI)は、ルピー安対策としてドル売り介入や非居住インド人(NRI)向け優遇預金の金利引き上げ、FPIによる政府証券投資の規制緩和や税制優遇などを導入している。
インド株式市場の主要株価指数であるNSEの「Nifty50」は26年1月に26328.55の史上最高値を記録したが、26年に入ってからは調整局面に。FPIの売買シェアは15年7月の28%をピークに、1/3ぐらいまで低下している。これはインド株式市場におけるFPIの存在感が低下していることを示唆している。外国機関投資家(FII)による売りを国内機関投資家(DII)の買いが上回っている状況で、インドの株式市場は国内資金に支えられている。外国投資家による取引は一時的な株価変動や調整局面につながるが、その重要度は限定的なものとなっている
一方、2017年以降には国有銀同士の合併が進み、16年の27行から現在では12行へと再編された。特に20年4月に政府主導で国有銀行10行が4行に再編され、パンジャブ・ナショナル・バンク(PNB)やユニオン・バンク・オブ・インディア(UBI)などは国内上位10行に入る大型銀行となった。
不良債権比率は18年のピーク時には指定商業銀行(SCB)全体で11.2%、国有銀行では14.6%にまで上昇したが、その後破産倒産法(IBC)による債権回収努力や新規の不良債権増加に歯止めがかかり、25年時点でSCB全体で2.2%、国有銀行で2.6%にまで低下。インドの銀行部門の健全性は大幅に改善した。
▶「インドを巡るエネルギー情勢」
インド経済の行方を左右するエネルギー需給が、ロシア情勢やイラン危機などでどう影響を受けたかについて分析した。インドの家庭で調理用に使われるLPGは牛糞などのバイオ燃料を代替してきたが、バイオ燃料はインドのエネルギー自給(23年度で64.5%)を支えているという側面もある。1990年度には自給率が90.74%に達していて、インドは経済発展とともに原油・石油製品の輸入依存を高めながらエネルギー供給を増やしてきたことがわかる。
インドの家庭における一次エネルギー消費構成では現在、大半を電気と石油(LPG)でまかなっているが、石油の増加は2020年で頭打ち。わずかだが石炭消費は増加、都市ガスの普及は停滞している。石炭の輸入では製鉄用向けの豪州産が最も多いが、ロシアからの輸入増のおかげで輸入元が分散した。発電用ではインドネシアに半分以上を依存。これもロシアからの輸入が増加している。
イラン危機発生後、ホルムズ海峡を通過しなくても原油などを輸出できるサウジアラビアやアラブ首長国連邦(UAE)、ベネズエラなどのシェアが増加あるいは小幅減少となり、イラクやクウェートなどは大きくシェアを落とした。22年以降、割安となったロシア産原油の輸入シェアが急上昇し、23年6月には79%に達した。25年から26年初にかけて割安感がなくなってシェアが一時低下したが、ホルムズ危機により再びシェアが急上昇している。
石油製品の生産・消費では軽油、ガソリンが大幅に増加、家庭用燃料では灯油からLPGへの転換が見られる。LPGは2010年代以降、牛糞や薪からの転換で需要が急拡大し、UAEやサウジからの輸入に依存、最近では米国からの輸入も増えている。ただLPGは製油所で原油から得られる割合が低く、需要増への対応が困難。
インドはホルムズ危機への対応としてLPGの増産に取り組む一方、家庭用や病院、学校向けの供給を優先させている。また米国など新たな輸入元を開拓、買い占めや転売対策にも着手。石炭やバイオマス利用の規制を一時的に緩和し石油製品の輸出を抑制する対策も取っている。
