インド経済・月次情勢報告 2026年9月
<ヘッドライン>
【1】 9/3 ジャイシャンカル外相がウクライナ訪問。ゼレンスキー大統領やシビハ外相らと会談
【2】 9/12 デリーでモディ首相がグテーレス国連事務総長と会談。多極主義の重要性と国連安保理など国際機関における改革の必要性などで一致
【3】 9/12~13 デリーで第18回BRICS首脳会議
・12日に印中首脳会談
・議長のモディ首相はグローバル・ガバナンスを改革する必要性を強調
【4】 9/14 8月の消費者物価指数(CPI)上昇率は前年同月比+4.82%に~前月の4.45%から小幅上昇
【5】 9/14 8月の卸売物価指数(WPI)上昇率は前年同月比+9.92%。前月の+9.78%から小幅上昇
【6】 9/7、9/15 8月の乗用車販売台数
(印自動車ディーラー協会連合会=FADA)
・販売台数は40.2万台で前年同月比+16.1%、8月としては初の40万台超え
(印自動車工業会=SIAM)
・販売台数は43.9万台(同+36.5%)
【7】 9/17 インド最大の財閥タタ・グループの持ち株会社タタ・サンズの役員会、辞意を表明していたチャンドラセカラン会長の「続投」を決議。創業家のノエル・タタ氏が改めてこれに反対を表明
【8】 9/17~19 インド最大の半導体関係の国際展示会「セミコン・インディア」がデリーで開催。52カ国から600超の企業・団体から約4万人が参加
【9】 9/21 インド商工省、ニュージーランドとの自由貿易協定(FTA)が10月20日に発効すると発表
【10】9/23 有力紙「インディアン・エクスプレス」、インド選管のギャネシュ・クマール委員長が他2人の委員の同意なしに独断で重要事項を決定していた、と報道。野党などがクマール委員長の辞任を要求し、政府の責任を追及する事態に発展
【11】9/24 インド有力紙「ザ・ヒンドゥー」、インドと欧州連合(EU)が12月16日にFTAに署名する、と報道
【12】9/29~ ゴヤル商工相が訪米。G20貿易相会合に出席後、米通商代表部(USTR)のグリア代表と会談し、印米貿易協定の決着を目指す
【1】9/3 ジャイシャンカル外相がウクライナ訪問。ゼレンスキー大統領やシビハ外相らと会談
・ジャイシャンカル外相は「インドはウクライナ、ロシア双方と接触し続ける。停戦実現のためにあらゆる支援を行っていく」と明言
・ゼレンスキー大統領は「この正義に反する戦争を終わらせるためのインドの尽力は喜ばしい」と歓迎
【2】9/12 デリーでモディ首相がグテーレス国連事務総長と会談。多極主義の重要性と国連安保理など国際機関における改革の必要性などで一致
・両者はこのほか、イラン危機や世界の持続的発展、人間中心の人工知能(AI)、再生可能エネルギー、食料安保などについて意見を交換
・インドは7月に、2028~29年の国連安保理非常任理事国に正式に立候補しており、今回の会談はその地ならし、と見られる
【3】9/12~13 デリーで第18回BRICS首脳会議
・12日に印中首脳会談。習主席のインド訪問は19年10月以来約7年ぶり。習氏は「中国はインドとの関係を戦略的・長期的な視点で見ている。両国は対等で秩序のある多極世界を提唱していくべきだ」と強調。9月下旬に予定している米中首脳会談を前に、新興国の代表格であるBRICSとの関係を強化しておきたい狙いか
・国境問題についてはこれまで通り「双方が受け入れ可能な解決に向けて取り組む」と表明。モディ氏は「国境の安定化が2国間関係を発展させる基礎」、習氏は「両国はライバルでなくパートナー」「中印関係を前進させることは28億人超の両国民にとっての共通利益」と繰り返した
・中国南方航空は12日、コロナ禍の影響で運航停止していた広州―デリー便を9月21日から6年ぶりに再開させると発表した
・開幕演説で議長のモディ首相は「(グローバル・サウスは)ルールに従う側からルールをつくる側に回るべきだ」と発言。「(意思決定において)グローバル・サウスを後列に押しやっている"特権のピラミッド"を変えていかねばならない」と述べ、国連安保理などグローバル・ガバナンスにおける改革の必要性を訴えた。その一方で、「我々は反欧米の枠組みではない。BRICSはいかなる者とも対立しない」と強調した
・グローバル・ガバナンス改革のための「10項目の提案」としてモディ首相は安保理や国際金融機関などの改革・民主化、海洋救難制度の拡充や危機管理、AIやサイバースペース、宇宙・バイオなど先端分野における新たなルール作りなどを提唱した
・12日には「ニューデリー宣言」を採択。名指しは避けたが米、イスラエルによるイラン攻撃やホルムズ海峡封鎖、中東情勢の緊張に懸念を表明。多国間主義を改めて強調した。ともに加盟国であるイランとアラブ首長国連邦(UAE)の対立で採択が危ぶまれたが、議長国インドの奔走でまとめ上げた格好。メンバー国ロシアの反発を恐れ、ウクライナ侵攻には言及しなかった
・13日のセッションでモディ首相は「技術や希少資源の武器化」に反対を表明。中国のレアアース供給削減に釘を刺した
・13日のタス通信によると、ロシアのペスコフ大統領報道官は11日の印ロ首脳会談の際にインドからウクライナ和平に向けて協力の申し出があったと明らかにした
※BRICSにはブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカの「原加盟」5カ国と、エジプト、エチオピア、イラン、サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)、インドネシア(2025年1月加盟)の11カ国が加盟、このほか、タイ、ベトナム、カザフスタンなど10カ国がパートナー国として参加している
≪解説≫
・インドは改めてグローバル・サウスの盟主としての立場をアピールしたが、イラン危機に関しては米国に対する名指し批判を回避。ロシアにも配慮し、ウクライナ侵攻に関する文言も一切なかった。米・イスラエルによるイラン攻撃を巡って対立が深刻化するイランとUAEにも配慮し、無難かつ巧みに共同宣言をまとめ上げた格好
・共同宣言は「緊張激化に深い懸念」「最大限の自制」など型通りの内容で、提唱した改革案も特に斬新な中身ではなかった。BRICSの結束・発展よりも首脳会議の成功を重視した議事運営だったと言える
【4】9/14 8月の消費者物価指数(CPI)上昇率は前年同月比+4.82%に~前月の4.45%から小幅上昇

(データ:印統計・計画実施省)
・上昇幅は農村部で目立つ。品目別では食品、とりわけ肉類や砂糖が大きく上昇し、食料インフレ(CFPI)は前年同月比+5.95%と、前月の+5.52%から上昇
・基礎食品のうち、トマトはマイナス31%、ポテトは同13%と値下がりしたが、ショウガが+73%、タマネギが+48%と大幅上昇。サービス物価も軒並み上昇
・CPI上昇率は20カ月ぶりの高水準
・コアインフレは+4.2%と、前月の+3.9%から上昇
・食料品以外にも貴金属(銀製品が+107%となったのをはじめ、ダイヤモンド、プラチナなども上昇)が全体を押し上げた
CPI指数(基準年2024年)の推移

(データ:印統計・計画実施省)
【5】9/14 8月の卸売物価指数(WPI)上昇率は前年同月比+9.92%。前月の+9.78%から小幅上昇

(データ:印商工省)
食料品は+5.7%にとどまったが、燃料・電力が+22.9%、うち原油・天然ガスが+34.4%と指数を押し上げた。加工食品も含む食料品の指数は+7.05%で、前月の6.65%から上昇
【6】9/7、9/15 8月の乗用車販売台数
各ディーラーは祝祭シーズンを前に在庫を積み増す傾向。GST(物品・サービス税つまりインド版消費税)の税率下げや良好な金融環境による堅調なローン販売、農村部での販売好調。ローベース効果も
(印自動車ディーラー協会連合会=FADA)
・乗用車40.2万台(前年同月比+16.1%)、8月で初の40万台超え
・マルチ・スズキが16.5万台で首位、約41%のシェア
・二輪は171.4万台(+19.7%)
・EV乗用車は30696台でyoy+51.9%
(印自動車工業会=SIAM)
・乗用車43.9万台(+36.5%)
・マルチ・スズキは17.6万台(+34.8%)
・二輪 203.4万台(+10.5%)
【7】9/17 インド最大の財閥タタ・グループの持ち株会社タタ・サンズの役員会、辞意を表明していたチャンドラセカラン会長の「続投」を決議。創業家のノエル・タタ氏が改めてこれに反対を表明
≪解説≫
・タタ・サンズ役員会では、8月に辞意を表明していた会長のナタラジャン・チャンドラセカラン氏の「続投」を決議。同氏も8月の「辞意」を撤回
・これに対し、サンズの株式の66%を握るタタ系福祉財団の会長で創業家のノエル・タタ氏が「株主総会が開催されていない状態での会長人事を巡る決議には法的有効性がない」「福祉財団の代表2名がともに賛成しない決議は無効」などとして、27年2月に任期満了となるチャンドラセカラン氏の任期延長に改めて反対する声明を発表
・今後の焦点は、定足数を満たせずに延期されているタタ・サンズの株主総会での役員・会長選任に移る
・福祉財団の副会長であるベヌ・スリニバサン氏が賛成に回ったことで、財団役員の中にも意見の相違があることが明らかとなった
・サンズの支配的株主である財団トップのノエル氏が強硬手段に出たり、法廷闘争に踏み切った場合、インド最大財閥は再び大きく動揺することになる
・チャンドラセカラン氏は会長在任中、グループ総売り上げを約2倍に拡大させ、時価総額も3.3倍に増やした立て役者。8月の「辞意表明」に際してはグループ主力企業の株価が大きく下落するなど、市場からも経営手腕が評価されていた
・自身がサンズ会長の座を狙っているとの臆測も出ているノエル氏は、チャンドラセカラン氏が推進してきたエア・インディアやタタ・デジタルなど新規事業の巨額赤字や、半導体事業への大型投資などに否定的、といわれる
【8】9/17~19 インド最大の半導体関係の国際展示会「セミコン・インディア」がデリーで開催。52カ国から600超の企業・団体から約4万人が参加
・開会式でモディ首相は「我々は半導体振興政策・セミコン(インド半導体ミッション=ISM)1.0発表から4年という短期間で工場稼働にこぎ着けた」と成果を強調した。バイシュナウ電子・IT相は振興策第2弾となる「セミコン2.0」では、「1.0」で力点を置いた製造拠点の形成から、設計、製造装置、人材育成、R&Dなどのエコシステム構築へと目標をシフトさせている。技術者やクリーンルーム要員などで10万人の人材育成を目標としている」と述べた
・タタ・エレクトロニクスとパートナーシップを結んでいる東京エレクトロンの河合利樹社長は、インドにおける半導体人材の育成に貢献するため、2027年に日本政府と協力してインド西部グジャラート州に研修センターを設立する、と表明した
・このほか、日本からはアドバンテスト、富士フイルム、NXホールディングスなどが参加
・セミコン2.0の予算規模は1兆2750億ルピー(約133億ドル)
・対象領域は設計、材料、前工程製造、後工程、装置製造、R&Dと人材育成の6本柱
・前工程のシリコンファブに対して最大40%の設備投資支援やスタートアップ支援を盛り込んでいる
【9】9/21 インド商工省、ニュージーランドとの自由貿易協定(FTA)が10月20日に発効すると発表
・同FTAは両国が4月に署名していた。インドからニュージーランド向けの輸出品の関税率は、現在の最大10%からゼロとなる。インド政府はアパレル、皮革製品、宝石・宝飾品、加工食品などの輸出拡大を期待している。インド側もニュージーランドから原料炭、金属スクラップ、木材などを無関税で輸入できるようになるため、メリットが大きい
・投資分野ではすでにニュージーランドが200億米ドルの対印投資を表明しており、農業、インフラ、スタートアップなどが有望な投資先とされる
・ニュージーランドはインドの高度人材向けに年間5000人のビザ発給枠を設ける
・インドの農家に配慮し、乳製品をはじめ羊を除く食肉などを関税撤廃の対象外としたほか、インドが輸入するニュージーランド産キウイ、マンゴーなどについては関税割当制度を導入し、最低輸入価格や輸入時期の調整などを実施する
【10】9/23 有力紙「インディアン・エクスプレス」、インド選管のギャネシュ・クマール委員長が他2人の委員の同意なしに独断で重要事項を決定していた、と報道。野党などがクマール委員長の辞任を要求し、政府の責任を追及する事態に発展
・インドでは選管の決定によって、25年6月以降全国で選挙人名簿の特別集中改訂(SIR)が実施され、不在や死亡などを理由に約1.3億人の有権者が名簿から削除された、とされる。また、新規有権者登録のための「フォーム6」も改訂され、初めて投票する若者の登録が著しく困難になったとの指摘もある。野党は、こうした制度改正によって選挙で与党側に有利となったとして追及姿勢を強めている。
・報道によると、他の委員2人はクマール委員長に対し過去10カ月間にわたって14回もの反対意見を表明した、としている。
・最大野党・国民会議派など主要野党はクマール委員長の辞任、弾劾を要求。
・シャイレンドラ・トリパティ弁護士も最高裁に対し、特別捜査チーム(SIT)設置やフォーム6の原状復帰などを求める公益訴訟を起こした。
・医学部共通入試問題の漏洩に抗議し、プラダン教育相を辞任に追い込んだ政治運動「ゴキブリ人民党(CJP)」は25日、クマール委員長が翌26日までに辞任しない場合は10月2日に大規模な抗議デモを行う、と通告した。
・これに対し、選管は声明を発表。「決定は全て全会一致で行われた」「委員の間で意見の相違があるのは通常のこと」と反論。
【11】9/24インド有力紙「ザ・ヒンドゥー」、インドと欧州連合(EU)が12月16日にFTAに署名する、と報道
報道によると、モディ首相がブリュッセルのEU本部を訪問して署名に臨む。印・EUのFTAは22年6月に交渉を再開し、4年弱の交渉で基本合意に至るスピード決着となった。27年2~3月ごろの発効を目指している。双方の市場規模は計約24兆ドル、人口規模は約20億人に達し、合計の貿易額(サービス貿易も含む)は1800億ユーロ(約32兆円と、インドにとっては過去最大級のFTAとなる。EU側は貿易品目の97%で即時または段階的に完全を撤廃。インドから輸出する繊維、皮革製品、宝石・宝飾品などの関税は即時撤廃され、インド側もEUからの機械、自動車、ワインなどで段階的に関税をゼロとする。
【12】9/29~ゴヤル商工相が訪米、G20貿易相会合に出席。USTRとの協議で米印貿易協定の決着を目指す
・ゴヤル商工相はミルウオーキーで開くG20貿易相会合に出席後、懸案の印米貿易交渉を決着させるため、USTRのグリア代表と会談する予定。米国は今年2月、ロシア産原油の大量輸入などを問題視してインドに対してかけていた50%の高関税を18%に引き下げることで合意。インドは見返りにアメリカ産品5000億ドル分を輸入することになっていたが、肝心の農産物の扱いや非関税障壁、個別品目の関税率などについては先送りとなっていた。
(文責 山田剛委員)
