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インド経済・月次情勢報告 2026年8月


 

<ヘッドライン>
【1】 8/3~5 インド中銀(RBI)、政策金利(レポ・レート)を5.25%に据え置き
【2】 8/12 7月の消費者物価指数(CPI)上昇率は年率+4.45%と、6月の+4.38%から小幅上昇
【3】 8/14 7月の卸売物価指数(WPI)は年率+9.78%と前月比で小幅軟化
【4】 8/13 7月の乗用車販売台数は45.7万台で前年同月比+34.4%と好調(印自動車工業会)
印自動車ディーラー協会連合会の発表では41.6万台(同+19.1%)
【5】 8/12 タタ・グループの持株会社タタ・サンズのチャンドラセカラン会長が「27年2月の任期満了後、延長を求めない」と発言。事実上の辞意表明。創業家との対立顕在化
【6】 8/5 インド亡命中のハシナ前バングラデシュ首相がインドでオンライン記者会見。現政権を批判し、年内に帰国すると表明。バングラデシュ政府は、インドの対応に強く抗議
【7】 8/15 モディ首相が恒例の独立記念日の演説で「今後1年間で若者1000万人に対してAI教育を実施する」と表明、「難関試験の受験生のための無料オンライン予備校を開設する」と約束。
【8】 8/20 小泉進次郎防衛相がインドを訪問、ラージナート・シン国防相と会談し、海洋安全保障分野をめぐる協力の強化などを確認
【9】 8/24~25 モディ首相側近のアジット・ドバル国家安全保障顧問が中国訪問、王毅外相や韓正国家副主席と会談。国境問題の政治的解決を目指すことを確認し、友好ムードを演出
【10】26年4~6月のGDP成長率、+7.8%に。前期比減速もサービス業、製造業が好調。個人消費もまずまず
【11】8/31~9/1 モディ首相が上海協力機構(SCO)首脳会議に出席、プーチン大統領と会談しウクライナでの戦闘停止を呼びかけ


【1】8/3~5 インド中銀(RBI)、政策金利(レポ・レート)を5.25%に据え置き
 インド中銀(RBI)が金融政策決定会合を開き、政策金利(レポ・レート)を5.25%に据え置いた。据え置き決定は4会合連続。26年度のインフレ(CPI)率予想について、前回の5.1%から5.0%に修正。GDP成長率については同6.6%から6.7%へと小幅上方修正するなど、やや強気の見通しを示す。しかし、中東情勢緊迫化による原油価格の変動や、エル・ニーニョ現象の発生に伴う少雨などが引き続きインフレ要因になりえる、との警戒感を示した。
 決定は満場一致で、スタンスは引き続き「中立的」とした。マルホトラ総裁は、原油価格の上昇によるインフレ圧力について、「行動を起こす前に、明確なインフレのシグナルを見届ける」として、改めて政策変更には状況の見極めが必要とする慎重な構えを見せた。 「成長」と「インフレ抑制」のバランスに苦心していることを窺わせる。6月のCPI上昇率は17カ月ぶりに4%を超えたが、インフレの背景にはもっぱら燃料と食料品の価格上昇があり、いわゆる「コアインフレ」は抑制できている、との見解。
 マルホトラ総裁は「イラン情勢は引き続き懸念材料だが、内需に支えられた個人消費は好調で製造業の業績もまずまず」と前向き。

≪解説≫
・7月の消費者物価上昇率は+4.45%だが、食料品と燃料を除いたコアインフレは+3.9%(前月は+4.0%)。中銀は需要サイドではオーバーヒートしていない、との考え。
・エコノミストの多くが、27年3月末までに0.5%程度の利上げを予想している。
・RBIは前回6月の会合で、通貨ルピー維持のため外国人の国債投資ルールの緩和や売却益へのキャピタルゲイン課税免除など資金流出防止策を発表したが、これらの対策によってインドは約410億ドルの投資資金を呼び込んだ、としている。

【2】8/14 7月の消費者物価指数(CPI)上昇率は年率+4.45%と、6月の+4.38%から小幅上昇
 ショウガ、にんにく、タマネギなど、いわゆるインド庶民の家庭料理に不可欠な基礎的農産物の値上がりが影響し、食料品物価は+5.52%と前月比0.2ポイントの上昇。

(データ:インド統計・計画実行省)

【3】8/14 7月の卸売物価指数(WPI)は年率+9.78%と前月比で小幅軟化
 7月のWPI上昇率は年率+9.78%。食料品が+8.52%、原油・ガスなどの燃料が+20.05%と引き続き上昇基調。

(データ:印商工省)

【4】7月の乗用車販売台数
(印自動車工業会=SIAM)発表
・乗用車45.7万台(前年同月比+34.4%)
・このうちシェア約4割を握るマルチ・スズキは19.6万台(同+42%)
・二輪車は192.3万台(+23%)

(印自動車ディーラー協会連合会=FADA)発表
・乗用車41.6万台(同+19.1%)
・マルチ・スズキ16.1万台
・タタ自動車 5.8万台
・マヒンドラ&マヒンドラ 5.6万台
・二輪車181.8万台(+28.2%)

工場出荷のデータであるSIAMの統計が、小売りベースのFADAを上回っていることから、各ディーラーが秋の祝祭シーズンに向けて乗用車の在庫積み増しに動いていると考えられる。

【5】8/12 タタ・グループの持株会社タタ・サンズのチャンドラセカラン会長が「27年2月の任期満了後、延長を求めない」と発言。事実上の辞意表明。創業家との対立顕在化
 タタ・グループ総帥(持ち株会社タタ・サンズ会長)のナタラジャン・チャンドラセカラン氏(63)が任期延長を求めず、27年2月の任期満了をもって退任すると表明した。タタ・グループでは、傘下の福祉財団がサンズの株式の約66%を握り、会長の任命権を持つ特異な持ち株構造となっているが、チャンドラセカラン会長は「財団メンバーの一人が私の続投に反対した」と異例の発言。財団トップを務める創業家のノエル・タタ氏(69)との対立が顕在化した。この混乱でタタ・サンズは8/18に予定していた株主総会の延期を決めた。グループ経営陣と「大株主」である福祉財団を支配するオーナー一族とのバランスが崩れれば、投資家の信頼が揺らぎかねない。タタの半導体事業に参画しているルネサス・エレクトロニクスや、東京エレクトロンなど日本企業への影響も懸念される。

≪解説≫
・タタ・グループの上場26社の時価総額はチャンドラセカラン氏の「退任表明」後2日間で約4400億ルピー(7300億円)も減少。特に中核企業でインド最大のIT企業TCS(タタ・コンサルタンシー・サービシズ)の株価は一時5%を超える下落。
・チャンドラセカラン氏は1987年にTCS(タタ・コンサルタンシー・サービシズ=現在はインド最大のIT企業)入社。サイラス・ミストリ氏の電撃解任の後を受けて17年1月にサンズ会長に。エア・インディア買収やデジタル事業の推進、スマホ生産(iPhone組み立て)、バッテリー、半導体や電気自動車(EV)など新事業を推進してきた。だが、エア・インディアの赤字や墜落事故、ネット通販部門の不振、半導体やデジタル部門への巨額投資は、ノエル氏やトラスト幹部からは不評とされる。
・先々代のサンズ会長、ラタン・タタ氏の異母弟で、福祉財団のトップを務めるノエル氏が次期会長の座を狙っているとの見方があり、さらには子息のネビル・タタ氏(34)を後継会長に据える考えなのでは、との憶測も。
・創業158年、110万人の従業員を抱えるタタ・グループはインド最大の財閥で、従業員を大切にして浮利を追わない経営と積極的な社会貢献で知られる。同グループの「内紛」はこれが初めてではない。過去にはラタン・タタ氏が後任会長に据えた親戚筋のサイラス・ミストリ氏をわずか4年で「解任」。これが訴訟に発展した経緯も。
・福祉財団はサンズの後任会長を選ぶ委員会を設置する方針だが、メンバー構成が州法に抵触するなどして難航。タタ・サンズも17日に役員会を開き、チャンドラセカラン氏の辞任問題や株主総会の日程などを協議する見通し。

【6】8/5 インド亡命中のハシナ前バングラデシュ首相がインドでオンライン記者会見。現政権を批判
 ハシナ氏は政変の発端となった学生デモが「政治的に利用された」と訴え、バングラデシュ民族主義党(BNP)主導の現政権を批判。「母国を正しい道に戻すため」として逮捕・拘束される可能性を顧みず12月に帰国する考えを改めて表明した。これに対し、かねてインドがハシナ氏の身柄引き渡しに応じないことに不満を表明していたタリク・ラフマーン首相らはインドを強く非難した。この結果、8月23~25日に予定されていたラフマーン首相のインド初訪問は延期となった。首脳会談ではインドによるバングラデシュの道路、鉄道などヘの投資や12月で失効するガンジス川水利協定の更新問題などが協議される予定だった。

≪解説≫
・バングラ側から見れば、インドはかねてBNPなど野党を弾圧したハシナ前政権を支援してきたと映り、これを恨みに思う国民も少なくない。
・最近ではインドが厳しい対応を取る不法移民問題や、バングラデシュとパキスタンの急接近などが両国関係改善の阻害要因となっていた。
・それに加えて、インド「亡命」中のハシナ氏にオンライン記者会見を許可し、現バングラ政府批判とも取れる発言をさせたインドに対し、バングラ側は怒りを強めている。これで両国の関係改善は遠のいたと言えそうだ。

【7】8/15 モディ首相が恒例の独立記念日の演説で「今後1年間で若者1000万人に対してAI教育を実施する」と表明、「難関試験の受験生のための無料オンライン予備校を開設する」と約束。
演説の内容は
・「今後1年間で若者1000万人にAI教育を実施」
・「難関校を目指す受験生のための無料オンライン予備校を開設」
・「今後7~8年で半導体工場7~8軒を増設」
・「原子力開発のテコ入れ」
・「2030年の英連邦競技大会(CWG)やインドが招致を目指している36年の夏季五輪に向け、全国から5~15歳の優秀なスポーツ選手を発掘・育成する」―――など。

≪解説≫
・モディ首相が改めて「若者対策」を打ち出したのは、新興政治運動「ゴキブリ人民党」による抗議デモの激化などで、若者の不満が高まっていることに危機感を覚えたため。
・これまでモディ政権の支持基盤だった若年層は、就職難に加え入学試験問題漏洩というスキャンダルによって怒りの矛先を政府に向け始めていた。
・インドには先ごろ入試問題が漏洩した医学部入学共通試験(NEET-UG)や、理科系大学の最高峰・インド工科大の共通試験(IIT-JEE)など、超難関の入試があるが、専門予備校の学費は高額で、モディ首相も「予備校の授業料は受験生を持つ中間層家庭の負担になっている」と述べている。
・AI教育は、職を求める学生と企業が求めるビジネススキルのギャップを埋める効果が期待できる。無料オンライン予備校も、家庭が裕福ではない地方の受験生らにとっては朗報といえる。

【8】8/20 小泉進次郎防衛相がインドを訪問、ラージナート・シン国防相と会談し、海洋安全保障分野をめぐる協力の強化などを確認
(会談内容)
・海洋安全保障分野の協力強化に関する覚書に署名~艦艇の整備や港湾の利用、海自とインド海軍の部隊間交流を進めることで一致
・海洋に関する情報共有や、捜索・救難、災害支援などの分野での協力で合意
・会談で両大臣は、技術協力によって機雷処理能力の強化を目指すことを確認、艦船の修理に関する協定締結や港湾の相互利用などについても合意
・会談後に発表した共同文書では、「造船分野での共同開発の可能性を探る」と明記
・外務・防衛閣僚協議(2+2)の年内開催についても一致
・7月の日印首脳会談で大枠合意した艦艇搭載型複合アンテナ「ユニコーン」の対印輸出についてもインド国内の手続きを加速させることを確認、防衛装備品の研究開発を進める実務者協議の枠組みを設けることも確認
・シン国防相は「インドのマハサガール=MAHASAGAR (Mutual and Holistic Advancement for Security and Growth Across Regions)=モディ首相による国際海洋ドクトリン=と日本の「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」を連携させることはかつてなく重要になっている」と発言

シン国防相のXより

【9】8/24~25 モディ首相側近のアジット・ドバル国家安全保障顧問が中国訪問、王毅外相や韓正国家副主席と会談
(会談内容)
・ドバル顧問は国境問題に関する印中の第25回会合に出席、25日に王毅外相や韓正国家副主席と会談した。インド外務省によると、両国は国境問題の政治的解決を目指すことを改めて確認した
・韓正副主席は「中印両国は戦略的、長期的な視野に立って二国間関係を運営すべきだ」と発言
・ドバル顧問は「9月にインドでのBRICSサミットを控えるこの時期に会合を持てたことは有意義。印中関係は順調に正常化に向かっている」と歓迎。「我々は今回の会談で、これまでの努力をいかに形にしていくかについて協議した」と強調
・またドバル顧問は「カイラス山巡礼者向けビザ発給などで人的交流は大きな成果を挙げている」「国境の平和維持こそ、二国間関係の正常化にとって重要」「インドと中国は競争相手ではなくパートナーだ」と友好を強調
・王毅外相は「印中関係(の強化)は二国間だけではなく、グローバルな戦略的意義がある」と歓迎。「印中の相互理解が進み、国境問題が適切に処理されることで二国間関係には新たな弾みがつく」と述べた

※アジット・ドバル氏(81)は元警察官僚で諜報部門にも所属、1984年のシーク教徒過激派による黄金寺院立てこもり事件や、1999年のインディアン航空機ハイジャック事件などの解決に尽力したことで知られる。

【10】26年4~6月のGDP成長率、+7.8%に。前期比減速もサービス業、製造業が好調。個人消費もまずまず
 1~3月の+8.6%に比べると小幅減速だが、前年同期の+6.9%と比較すると加速。供給サイドの統計である「粗付加価値(GVA)」でみると、建設が+7.7%(前年同期は+5.2%)、貿易、ホテル、通信などが+8.5%(同+9.8%)、金融、不動産、ITなどが12.1%(同8.8%)といずれも好調。製造業も+9.2%と前年同期の+8.3%を上回った。農林水産業は+3.6%と、前年同期の+4.4%を下回ったが、一般に農業が4%前後の成長を続けていればインド経済に大きな心配はない、とされる。実質GDPでは全体の約55%を占める個人消費が+7.1%(前年同期は+6.8%)と成長をけん引した。昨年のGST(インドの消費税)率引き下げや中間層減税が効果を発揮したとみられる。GDPの34%を占める総固定資本形成(GFCF)は+11.9%と前年同期の+5.8%を大きく超えた。積極的な設備投資を反映しているが、公共投資の伸び悩みが懸念材料。ホルムズ海峡危機が続き、モンスーン期の降水量が平年を下回る状況下(6/1~9/1までの累計降水量は平年比マイナス13.6%。6~9月通期では2009年度以来17年ぶりの少雨となる見通し)、民間投資が持続するかどうかも要注目。

※GDP統計は25年10~12月期から基準年を2022/23年度に変更している

(データ:インド統計・計画実行省)

【11】8/31~9/1 モディ首相が上海協力機構(SCO)首脳会議に出席、プーチン大統領と会談しウクライナでの戦闘停止を呼びかけ
 モディ首相は開催国キルギスのビシケクでプーチン・ロシア大統領と会談、「全ての問題は平和的に解決すべきだ」として対話によるウクライナ戦争の解決を促した。モディ首相は「戦争が1日長引けば人類は1歩ずつ後退する。我々は“終わりなき戦い”から戦闘終結へと動かねばならない。インドは紛争の平和的解決のためのあらゆる手段を支援する」と述べた。

※SCOは2001年に中国、ロシア、中央アジア4カ国の計6カ国によって創設。インドは2017年にパキスタンと同時加盟。現在の正式メンバーはイランとベラルーシを加えた10カ国。アフガニスタンとモンゴルがオブザーバー、エジプト、アゼルバイジャン、トルコ、サウジアラビアなど15カ国が「対話パートナー」として参加している。


【ご参考情報】
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(文責 山田剛委員)