インド経済・月次情勢報告 2026年6月

【1】6/1 ミャンマーのミン・アウン・フライン大統領が訪印。
モディ首相と首脳会談。ミャンマーのクーデター政権を率いて4月に大統領に就任したフライン大統領は初の外遊先にインドを選んだ。世界的に孤立しているミャンマーだが、インドとしては石油・ガス、希少鉱物などの資源や東南アジアへの貿易路確保、そして同様にミャンマーに接近する中国を念頭に関係強化を進めている、と考えられる。
【2】5月の消費者物価(CPI)上昇率は+3.93%

(データ:インド統計・計画実施省)
部門別では、食品のインフレ率(CFPI)が+4.78%と前月の4.20%から加速し全体のインフレ率を押し上げた。都市部のCPI上昇率は3.53%(前月比+0.37ポイント)、農村部は4.25%(+0.51ポイント)と都市・農村ともに前月から加速した。農村部の食品インフレ率が+4.64%と高いことから、低所得層の購買力低下が懸念される。
インフレ率は依然としてインド準備銀行(RBI)のターゲット(4%±2%)に収まっているが、今後は原油価格の上昇やモンスーン期(6~9月)の降雨不足が大きなリスク要因となりそうだ。
※6/1~7/7までの累計降水量は平年比マイナス17.3%。7月に入って連日平年以上の降雨があり(一部地域では洪水発生)、マイナス30%を超えていた6月下旬に比べてやや盛り返した格好
【3】5月の卸売物価(WPI)上昇率は+9.68%。上昇基調が鮮明に
4月の+8.30%から加速。品目別で「燃料」が4月の+24.89%から+30.33%に加速したことなどが上昇の背景。食品価格も+4.49%と上昇。約63%と最もウエイトが大きい「工業製品」は+7.48%と、前月の+6.68%から加速した。

(データ:インド商工省)
【4】モディ首相が訪仏、エビアンのG7に出席
・6/14、モディ首相は仏ニースで開かれた「Bharat Innovates 2026」に出席。「インドは今やソリューションを消費する国ではなく、ソリューションに貢献する国として活動している」と宣言。「インドのイノベーション・エコシステムは技術と起業家精神によって世界的課題を解決する役割を急速に拡大させている」と自賛。マクロン仏大統領も、「インドはイノベーション大国であり、仏印協力でAIや気候変動など重要な課題において真のパートナーシップを構築できる」と歓迎した。
※Bharat Innovates 2026は、インドの大学や研究機関、スタートアップなどイノベーションを担う団体・組織と、海外の研究機関やインキュベーター、政府などとの協力を目指すイベント
・14日の印仏首脳会談では、「経済安全保障対話」の創設や、重要鉱物のサプライチェーン強化などで合意した。
・両首脳は防衛や小型モジュール原子炉などの分野でも協力を確認。印―EUのFTA交渉決着を踏まえ、「5年以内に印仏2国間貿易額を倍増させるためのメカニズム構築」でも合意。
※25年度の印仏貿易額は約158億ドルで、インド側の小幅な赤字
※途中6/15~16にスロバキア訪問~インド首相として史上初 1993年の独立以来
―――G7におけるモディ首相発言 (6/17)
・「インドの成長は経済発展だけでなく、万人に対する民主的、包括的、大規模なエンパワーメントをもたらしている」
・「アジア、中東、欧州をつなぐ「インド―中東―欧州経済回廊(IMEC)」構想は貿易促進やサプライチェーンの強靱化、新たな投資、雇用、イノベーションの機会をもたらす」
・「中東危機によって弱い国が取り残されるべきではない。途上国へのショックを和らげ、経済的な強さを維持できるような支援メカニズムを創設するべきだ」
・「保護主義を排し、経済統合を進めるべきだ」と述べ、グローバル・スキル・パートナーシップの創設を提唱。国際関係においては「ドナー・レシピエントの関係を超えた対等なオーナーシップで対話や連携を進めるべきだ」と強調した。
・6/17 G7開催中の仏・エビアンでトランプ米大統領との印米首脳会談に臨む。米軍の攻撃でインド人船員3人が死亡した問題でモディ首相は、ペルシャ湾を航行する船舶・船員の安全確保の重要性を改めて訴えたが、米国への直接的な非難は避けた。トランプ氏も事件に対し遺憾の意を表明。
・両首脳とも、印米貿易協定交渉の進展に満足の意を表明。早期完全決着に期待を示した。トランプ氏はXで「彼が指導者である限り、インドは大きな役割を果たし続けるだろう」と称賛。「もしインドが攻撃されたら、我々は駆けつける」と発言し関係改善をアピール。G7のフォトセッションでは、壇上に昇るトランプ氏にモディ氏が手を差し伸べる場面も。
・モディ首相は「ホルムズ海峡における航行の自由や円滑な通商、船舶の安全」を重ねて強調
・両首脳は25年2月の首脳会談で合意した印米COMPACT(Catalyzing Opportunities for Military Partnership, Accelerated Commerce and Technology)=軍事パートナーシップ、通商・技術進展のための機会促進=における協力の進展を歓迎
【5】 6/14 インド国防士官学校(防大に相当)の女子学生第1期生(22年8月入校)17人が卒業。今後陸海空軍の幹部候補生学校に進む。内訳は陸軍9人、海軍3人、空軍5人。
※インドでは艦船の戦闘指揮官や戦闘機パイロットなどの職種ですでに多くの女性が活躍している。
【6】 6/15 デリー首都圏第2空港となるウッタルプラデシュ州西部の「ノイダ国際空港」が商業便の運航開始。
年間1200万人の旅客に対応可能で、将来的には同7000万人以上に受け入れ能力を拡張する計画。3月にモディ首相が出席して開港式を開いていた。運営会社「ヤムナー国際空港会社」にはチューリヒ国際空港会社が100%出資している。だが、デリー中心部からは75キロの距離にあり、既存のデリー国際空港からの乗り継ぎには90分以上を要するなど不便も。また、デリー市民や郊外のハリヤナ州民にとって新空港は遠く、計画中の高速道路やメトロの延伸など公共交通の早期整備が待たれる。
【7】6/15 インド印自動車工業会(SIAM)、5月の出荷統計発表。
乗用車は約43万8800台(前年同月比+27.3%)で5月としては過去最高。昨年秋の消費税(GST)引き下げなどが寄与。シェア1位のマルチ・スズキが19.0万台(+40.0%)、トヨタ3万台、ホンダ5100台など。
一方、自動車販売店でつくるインド自動車ディーラー協会連合会(FADA)がまとめた5月の販売統計では乗用車が約40.2万台(前年同月比+23.2%)、二輪車が約184.4万台(同+7.5%)。メーカー別ではマルチ・スズキが16.49万台(同+33.3%)で首位。以下、地場を代表するタタ自動車、SUV大手マヒンドラ&マヒンドラ、現代自動車、トヨタと続いた。
【8】6/23~24 デリーで米印貿易交渉
・USTRのジェイミソン・グリア代表がインドを訪問。ピユシュ・ゴヤル商工相らと協議。
・交渉でインド側は、米国への輸出における他の競合国よりも有利な待遇を求めるとともに、エネルギー、航空宇宙などの分野での貿易障壁軽減を要請した模様
・米国は、米国産トウモロコシ、大豆、乳製品、フルーツやナッツ類などの食料品や自動車(部品)、鉄鋼製品、アルコール飲料などの輸入拡大を要求。インドの非関税障壁についても改善を求めた
・双方は「交渉の大幅進展」をアピールしつつも、最終合意を目指して協議を継続する考えを示した。
【9】高市首相のインド訪問

7月2日、ニューデリーでインドのモディ首相(右)との首脳会談に臨んだ高市首相
(印報道情報局=PIB=提供)
高市首相は7月1~3日、インドを訪問しニューデリーで第16次日印年次首脳会談に臨んだ。インド訪問には日本の民間企業のトップや産業界のリーダーらも同行し、インドにおける事業に関する129件の覚書に署名した。首脳会談では経済安全保障や投資・イノベーションなど3つの柱における「相互補完的な協力」を推進することで一致した。
【具体的な成果】
1.日印の戦略的協力関係強化
(1) 安全保障・防衛協力
・年内に第4回日印2+2閣僚会合を開催する
・インド洋などでの合同訓練・演習の深化
・防衛装備・技術協力~インドは日本の「防衛装備移転三原則」の見直しを歓迎。両国は艦艇搭載用複合アンテナ「UNICORN」の技術移転で大枠合意
(2) 進化版FOIPの具体化
・印北東部からベンガル湾を結ぶ「産業バリューチェーン」具体化へのコミット
・日米豪印(クアッド)首脳会談の早期開催
(3) 人的交流
・日印共同研究、アニメ・青年交流、山梨県と印北部ウッタルプラデシュ州など地方自治体間交流の促進
2.経済安保・エネルギー安保
(1) 優先5分野でのサプライチェーン強靱化に向けた協力などを盛り込んだ共同声明
・半導体―――日本企業の参画を歓迎
・重要鉱物―――鉱物探査やリサイクルで協力
・情報通信技術(ICT)―――5Gやオール光ネットワーク(APN)、データセンター海底ケーブルなどでの企業の関与を促進
・クリーン・エネルギー―――グリーン水素・アンモニア・プロジェクトの推進やバイオガスの利用促進、バッテリーのサプライチェーン強靱化などで協力
・医薬品―――原薬(API)、主要出発物質(KSM)の安定供給
(2) 重要鉱物の探査、電池、医薬品における協力
(3) ホルムズ海峡を含む航行の自由、通商の確保にコミット
(4) 石油・ガスの上流開発への共同参画
3.投資・イノベーション協業を通じた両国の経済成長
(1) 「10年で10兆円」の対印投資目標のうち、過去1年で2兆円以上の投資が決定
(2) 中小企業やスタートアップのインド市場参入を促進
(3) 日印包括的経済連携協定(CEPA)の見直し検討開始
(4) AI協力に関する日印共同声明、「ウェビナー開催」や「人材育成」などを盛り込んだ日印AI協力覚書(MoC)に署名
また高市、モディ両首脳は7月2日、日本企業150社以上、インド企業80社以上が参加した「日印経済フォーラム」(JETRO主催)に出席した。フォーラムでは「FOIP」や「メーク・イン・インディア・フォー・ザ・ワールド」、「日印アフリカ協力戦略」などをテーマにパネルディスカッションが行われた
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【1】インド・ミャンマー首脳会談のポイント
・首脳会談の議題は、(1)西ベンガル州都コルカタとラカイン州の州都シットウェを結ぶマルチモーダル交通路の整備 (2)「インド―ミャンマー―タイ」経済回廊の整備(3国を結ぶ道路の建設)(3)ミャンマー人留学生への奨学金給与枠を36人→100人に拡大 (4)2024年に創設したルピー・チャット決済システムを活用した二国間貿易の拡大、そのための鉱業、農産物加工、石油部門などへの投資拡大について協議 (5)希少鉱物のサプライチェーン構築に関する協力――など。
・モディ首相は6/1、「ミャンマーは近隣外交ファースト、アクト・イースト政策、インド太平洋政策にとって不可欠な存在」と自身のXに投稿した。
※2014年にインドが掲げたアクト・イースト政策は、いわゆる「ルック・イースト政策」を一歩進め、東南アジア諸国との「 “3 C” =Commerce, Culture, and Connectivity」を拡大することを目指している。これには、インド太平洋地域の安全保障や、インド北東部諸州から東南アジアへの連結性向上といった狙いもある
・ヴィクラム・ミスリ外務次官はミャンマーとの関係について「内政に干渉せず対話を継続させることが重要」と指摘。中国は一帯一路の拡大版ともいえる「中国・ミャンマー経済回廊(CMEC)構想を掲げて接近中。ミャンマーを自国の「裏庭」と位置付けるインドとしても看過できない状況となっている。このほか、インドの国境地帯に跋扈する反政府武装組織の取り締まりなど国境管理においてもミャンマーの協力が不可欠との認識がある。
【4】の「COMPACT」に関するポイント
印米両国の具体的な協力内容は…
〇防衛分野:相互運用性、防衛産業協力、地域安全保障の強化~米国製の防衛装備のインドへの供給、両国の共同開発・共同生産の拡大など
〇合同軍事演習の実施
〇貿易投資:2030年までに両国間の貿易総額を現在の2倍以上の5,000億ドルに拡大
〇エネルギー安全保障の確保に向け、化石燃料の生産および貿易を拡大
〇テクノロジー:防衛、人工知能(AI)、半導体、量子、バイオテクノロジー、エネルギー、宇宙などの重要・新興技術分野における両国の産学官の協力を促進
〇医薬品、半導体、重要鉱物、先進材料の強靭なサプライチェーンを構築
〇多国間連携の推進
〇人的交流:米印間の留学生、研究者、労働者の人的交流の機会を拡大
【6】ノイダ国際空港のポイント
・インドでは25年12月にムンバイ国際空港を補完する「ナビ・ムンバイ国際空港」も開港している。こちらは年間2000万人の旅客に対応、将来的には同9000万人、貨物320万トンに拡張する計画。こちらはムンバイ国際空港と同様、運営会社にはモディ首相に近いとされる新興財閥アダニ・グループなどが出資している。
・2025年、インドの国内線旅客数は前年比3.5%増の1.66億人。国際線は同8%増の7800万人(外国エアライン搭乗客を含む)だった。2014年に74カ所だったインド国内の空港は現在160を超えている。政府はローカル路線の乗客への補助金支給や国営石油会社に航空燃料販売の独占を廃止など、航空業界の支援に取り組んでいる。
・ナビ・ムンバイ空港会社(NMIA)では、インドの航空旅客は25年、コロナ前の水準を超える4.12億人に達したが、2030年までにこれが5億人に拡大するとの見通しを示した。
【9】高市首相のインド訪問のポイント
・今回の日印首脳会談は、コロナ禍を乗り越え高度成長軌道を回復したインドが、世界の注目市場としてその存在感を大きくアピールし、そこに日本の官民が技術協力など多方面で支援を表明する場になったといえる。イラン情勢の緊迫化や中国による重要鉱物の供給削減などで、エネルギー・資源の確保が世界的な重要課題となっていることを念頭に、両国による合意事項の中身も具体的かつ緊急度が高いものが目立った。
・安全保障・防衛協力が日印の「相互補完的協力」の筆頭に挙げられたことは、安倍晋三元首相の路線を継承し、保守派を支持層とする高市政権ならでは、と言える。ステルス性が高い高性能の艦艇用複合アンテナで、最新鋭の護衛艦「もがみ」型にも搭載されている「UNICORN」を巡る技術移転は、日本の対印協力メニューを充実させる上で大きなインパクトがあり、インド側の期待も大きい。バイオガスやグリーン水素・アンモニア製造や廃棄物発電、都市開発など、日本企業の具体的な投資案件がMOUに明記されたことは、環境問題やエネルギーを重視するインドに対する日本の貢献を可視化したといえるだろう。
・すでにアフリカ開発会議(TICAD)などの国際会議では当たり前となっているが、今回の対インド首脳外交には民間企業や産業界トップが同行。日本企業150社以上、インド企業80社以上が参加した「日印経済フォーラム」はインドの有力財閥や大手メーカー、インド産業連盟(CII)など経済団体と直接対話する貴重な機会を提供。投資の主体である日本企業と、合弁事業や提携のパートナーとなり得るインド企業とのコラボを目指す上で意義のあるイベントとなった。
【今回署名した主な日印企業間の覚書】
・IHIなど+ACMEグループ・・・インドでグリーンアンモニア製造支援
・iSpace+HEX20など・・・超小型衛星を用いた月面探査ミッション
・秋葉牧場+ムーマーク・・・乳製品製造に関するDXサービス提供
・エア・ウォーター+タタ製鉄・・・ジャムシェドプル製鉄所の大型産業ガスプラントの長期運転保守契約
・NTTデータ+印決済公社(NPCI)・・・インドのデジタル決済サービス「UPI」を訪日インド人観光客が利用できるようにするサービス提供に関する業務提携
・JFEエンジニアリング+アントニー・ウェイスト・ハンドリング・セルなど・・・廃棄物発電事業で合弁会社設立
・住友不動産+ムンバイ大都市圏開発庁(MMRDA)・・・ムンバイ都市開発における戦略的パートナーシップ
・双日+GPSリニューアブルズ、インド国営石油・・・インドでバイオメタンを製造する合弁事業
・本田技研(ホンダ・モーターサイクル&スクーター・インディア(HMSI)・・・ラジャスタン州タプカラ工場で二輪車生産ライン増設
・みずほFG・・・マハラシュトラ州プネーにグローバル・ケイパビリティー・センター(GCC)開設
・三井住友銀行→民間銀イエス・バンクに24.2%出資
(出所:外務省南部アジア部)
(文責 山田剛委員)