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コロナショック下の世界と日本:グレート・リセットの時代 (11) 分断する中国イメージと強まる中国の対外宣伝 防衛省防衛研究所 八塚 正晃【2021/7/5】

コロナショック下の世界と日本:グレート・リセットの時代

(11) 分断する中国イメージと強まる中国の対外宣伝

掲載日:2021年7月5日

防衛省防衛研究所
八塚 正晃

1. はじめに

 新型コロナウイルスによるパンデミックが国際政治に深く長期にわたる影響を与えたことは間違いないだろう。ただし、その影響の性質は、新たな国際秩序を創出するというより、それ以前から存在した国際政治の潮流を顕在化させる側面が強いとみられる。その潮流の一つが中国の台頭とそれに対する国際的な警戒感の高まりであろう。「中国脅威論」自体は中国が大国として台頭する過程でたびたび提起されてきた議論であるが、コロナショック下の世界では、中国のイメージをめぐる認識ギャップが中国の内と外で大きく乖離するとともに、中国自身も強硬な対外姿勢を示すことが顕著に見られる。本稿では、コロナショック下で深まった中国イメージの分断の様相と今後の示唆について考えてみたい。


2. 自信を深める中国と中国不信を深める先進諸国

 中国の習近平国家主席は、コロナが拡大してから8か月ほど経過した2020年9月に開催された全国新型コロナ対策表彰大会で「新型コロナウイルスとの闘争の中で勝ち取った重大な戦略的な成果は、中国共産党とわが国の社会主義制度の顕著な優位性、中国人民と中華民族の偉大な力、中華文明の奥深さ、そして中国が大国の自覚と責任を担うことを充分に示した」と述べた (※1) 。世界がパンデミックから抜け出せない中で示された勝利宣言には自らの統治に対する自信が滲み出ている。

 自信の高まりは中国指導部に限られることではない。中国メディアの環球時報が実施した国内世論調査(2020年末公表)によれば、中国が効果的に新型コロナウイルスを抑え込んだことによって国際社会で中国のイメージが向上したと考える中国人は72.6%にのぼる (※2) 。中国においては、中国は世界でいち早く新型コロナウイルスを抑え込み、WHOなど国際機関と密接に連携しつつ、中国が独自に開発したワクチンを国際社会に供給しているとのストーリーができている。

 ところが、こうした中国の自信の高まりと対照的に、国際社会、とりわけ先進諸国は中国への不信を深めている。米国の調査会社ピューリサーチセンターが2020年7月から8月に主要先進国で実施した世論調査によれば、コロナ・パンデミックを受けて、欧米諸国で中国の印象が著しく悪化していることが明らかになった (※3) 。例えば、オーストラリアで中国にネガティブな印象を持つ人の割合は、昨年から24%増えて過去最大の81%という衝撃的な調査結果が示されている。なお、同社は2021年6月末に最新の調査結果を発表したが、コロナパンデミックから一年を経ても先進諸国が持つ中国に対するネガティブな印象はほとんど改善されていない (※4) 。中国の印象悪化の原因には、新型コロナウイルスが中国・武漢から世界へ拡散したことや、パンデミックを引き起こした中国共産党体制の隠蔽体質に対する不信感などがあろう。これに加えて「戦狼外交」と呼ばれる中国外交当局者の威圧的な対外姿勢への嫌悪感も作用しただろう。「習近平は国際関係で良いことを行うと思うか」という問いに対しても、否定的な意見が2019年から大幅に増えて大勢を占めた。このように中国の人々と先進諸国の人々との間では正反対の中国イメージを抱いている。


3. パラレルな言論空間

 なぜ中国のイメージは中国内外でかくも大きく異なることになったのか。一つには、広く知られているように、2000年代後半から中国では、海外の言論空間から切り離されて独自の言論空間が作られていることがある。中国国内の厳しい言論統制はマスメディアや新聞などの伝統メディアのみならず、サイバー空間でも徹底している。習近平政権は国家安全法、サイバーセキュリティ法、反テロ法、反スパイ法などの言論を厳しく統制する法整備を進め、中国国内で政権に批判的なメディア関係者や弁護士を摘発してきた。さらにコロナ禍で、その初期に医療従事者による告発や共産党政権の対応に対する社会の反発があったために、厳しい防疫措置も相まって中国の社会統制はさらに強化された。こうした中で、共産党政権が望むポジティブなストーリーのみが中国国内の言論空間を支配するようになった。

 また、国際的な中国のイメージ悪化には、中国による独自の国際情勢認識に基づく対外行動も関係している。習近平政権は近年、「世界はまさに大きな発展、変革、調整の時期」にあり、さらに「コロナ禍が100年に一度の変革のプロセスを加速させている」と国際秩序が変動期(本シリーズに沿えば「グレート・リセットの時代」)にあるとの認識を示している (※5) 。こうした国際秩序の調整期において中国自身に大きな役割を見出している。2020年秋に開催された第19期中国共産党中央委員会第5回全体会議のコミュニケでは「一帯一路によって質の高い発展を共に建設し、グローバルな経済ガバナンス改革へ積極的に参加する」として、国際秩序を構成するシステムへ改革意欲を示した (※6)

 この背景には、現在の国際秩序が欧米先進諸国に有利に設計された不合理で不公平なものであるとの認識があり、中国指導部はこれを是正するために積極的に中国の主張や提案を広めていく必要があると考えている。つまり、国際社会で中国の言論を広めることで「世界に中国をより良く理解させる」ことが重要なのである (※7) 。この言論空間を支配するパワーのことを中国では「話語権」と呼ばれている。

 こうした中国の主張を対外的に宣伝することへの欲求は、中国と対照的に米国をはじめ自由・民主主義を掲げる主要先進国が新型コロナウイルスの抑え込みに苦戦したことで強化されている。前記した環球時報の調査をいま一度見てみると、米中対立で中国が優勢であると認識する中国人は42.1%にのぼっている。米国が優位と答えた割合が26.3%であることを鑑みると、中国人の自信は近年、顕著に高まっている。

 中国側からすれば、西側先進諸国が最近、中国の「内政問題」へ干渉を強めていることは中国の台頭を抑えて自分たちに有利に設計された既存の国際秩序に固執する動きに映り、強烈な不満を抱くことになる。バイデン政権になって初開催となった2021年6月のG7サミットのコミュニケでは、香港・新疆・ウイグル・台湾海峡・東シナ海・南シナ海に関する中国の取り組みに対して懸念が示された (※8) 。このコミュニケの公表に対して、いまや戦狼外交の象徴的な人物ともなっている趙立堅・外交部報道官は「米国は病気になっており、症状は軽くない。G7は米国の脈を測り、薬を処方した方が良い」とコメントした (※9) 。こうした戦狼外交は、先進諸国から大きな反発を招いているが、中国においてはむしろ歓迎されている。先の環球時報の調査によれば、「戦狼外交」が中国の取るべき外交姿勢であると答えた中国人は71.2%にのぼる。「世界に中国をより良く理解させる」ことの意味は、中国のイメージアップよりも中国の大国としての面子を保つことに重点が置かれているのかもしれない。


4. 強まる中国の対外宣伝

 2021年5月末に中国共産党の指導者らの間で中国の対外宣伝に関して議論され、この場で習近平から「謙遜謙虚で、信頼され、愛され、慕われる中国イメージの形成に努力」するように指示があった (※10) 。こうした習近平の発言から、戦狼外交が修正されるかもしれないとの見方が一部にあった。しかし、上記の中国の認識を踏まえると、その宣伝方法についての調整はあるにせよ、中国の正しさや主張を積極的に対外発信するという路線自体を変えることを意味するとは考えられない。同じ講話で習近平は、「わが国の国際的な話語権と影響力を顕著に向上させる」ために、「中国の主張、中国の知恵、中国のアイデアを広く宣伝し、中国が日増しに世界の舞台の中心に近づき、グローバルイシューにおいて更なる役割を発揮できる能力を有することを広く宣伝すること」を求めている。このために国際会議や外国の主流メディア等のプラットフォームを利用した発信力の増強や国際宣伝に必要な専門人材の育成、財政投入の増大なども指示されている。

 これらを踏まえれば、こうした先進諸国における中国のイメージ悪化は、おそらく中国に外交方針を大きく考えなおすことにつながる可能性は短期的には低いであろう。むしろ、先進諸国からの中国批判が高まるほど、それに比例して中国の反応や発信も強烈になり、中国の内と外で分断した中国イメージの架橋は困難であるばかりか、今後より広がっていくかもしれない。


5. おわりに

 ポストコロナの時代には日本を含む国際社会は、過激で強い発信力を持つ中国の言説に直面することになるだろう。中国の強硬な対外姿勢に対しては、先進諸国の社会で更なる反中感情の高まりや中国離れが進むかもしれない。だが問題は、中国が今後も大国化していく以上、多くの国家にとって中国との国家間関係は今後ますます重要になってくることである。社会が中国への拒否反応を強める中、国家として中国といかに付き合っていくか、各国政府は難しい舵取りが迫られる。また、中国の積極的な宣伝工作は、我々が享受する自由や民主主義の価値を損なう方向に強化されていく可能性もある。価値観を共有する民主主義諸国間で連携を深め、いわゆる影響力工作に対する社会の強靭性を高めていかなければならない。

 また、中国の対外宣伝や影響力工作は、途上国・新興国により顕著な影響力を持つだろう。中国の言説が途上国・新興国において、いかに受容され、あるいはコロナ禍で変化したのか、なお不明な部分は多い。途上国・新興国でも中国に対する警戒感は高まっているとも言われるが、それが政府の対外政策にどれだけ結びつくかは別の問題である。中国のパワーや経済力が途上国・新興国に浸透すれば、中国の言説への支持が国際社会で大勢を占める可能性もある。例えば、2020年6月30日に開かれた国連人権理事会において、香港国家安全維持法の施行を進める中国の立場への賛否が議論されたが、この結果は示唆的である。国連人権理事会の場で中国の立場への支持声明に賛同した国家が53か国に上り、中国の立場への批判声明に賛同したのは27か国に過ぎなかった。この批判声明に賛同した国家はいわゆる西側先進諸国が中心であるが、中国を支持する53か国の多くは発展途上国であった。この状況を数の論理のみで捉えるのであれば、中国の言説が途上国・新興国に支持された結果、(人権を討議する場においてさえ、)広く国際社会で中国に有利に進んでいることを示している。

 このように、こうした中国のイメージや言説をめぐる分断は今後、中国と先進諸国の間で広まるだけでなく、途上国・新興国への言説支持の争奪に波及し、その帰結が世界全体における国際世論の趨勢を決めていくかもしれない。当然ながら、中国の言説が国際的に広まることに日本は無関心ではいられない。台湾問題や東シナ海を含む海洋権益に関する言説への中国の影響力は日本の国益にも直結する大きな問題である。こうした観点から、途上国・新興国においてバランスのある理解を促す外交的努力がより一層求められるであろうし、そのためのアプローチも調整する必要もあるのかもしれない。

※1 習近平「在全国抗撃新冠肺炎疫情表彰大会的講話」新華社、2020年10月15日
※2 「 環球輿情中心発布“中国人看世界”年度調査:七成受訪者認可中国“戦狼外交”」2020年12月30日
※3 Pew Research Center, “Unfavorable Views of China Reach Historic Highs in Many Countries,” October 6, 2020
※4 Pew Research Center, ”Large Majorities Say China Does Not Respect Personal Freedoms of Its People,” June 30,2021
※5 「習近平:決勝全面建成小康社会 奪取新時代中国特色社会主義偉大勝利----在中国共産党第十九次全国代表大会上的報告」中華人民共和国人民政府、2017年10月27日、及び「王毅国務委員兼外長就2020年国際形勢和外交工作」中華人民共和国外交部HP、2021年1月2日
※6 「中共十九届五中全会在京挙行:中央政治局主持会議 中央委員会総書記習近平作重要講話」人民網、2020年10月30日
※7 「習近平出席全国宣伝思想工作会議並発表重要講話」中華人民共和国人民政府、2018年8月22日
※8 「G7カービスベイ首脳コミュニケ」日本国外務省、2021年6月13日
※9 中国外交部HP、2021年6月15日、また、中国の「戦狼外交」については、山口信治「戦う外交官の台頭?」『防衛研究所コメンタリー』116号、2020年6月
※10 「習近平在中央政治局第三十次集体学習時強調 加強和改進国際伝播工作 展示真実立体全面的中国」共産党員網、2021年6月1日


執筆者プロフィール
八塚 正晃(やつづか・まさあき)
防衛省防衛研究所 研究員

1985年生まれ。2008年慶應義塾大学総合政策学部卒。慶應義塾大学法学研究科後期博士課程単位取得退学。日本学術振興会特別研究員(DC1)、香港総領事館専門調査員、外務省国際情報統括官組織専門分析員などを経て、2016年から現職。北京大学留学(2009-2010年)、防衛省防衛政策局国際政策課部員(2018-2019)、法政大学法学部兼任講師(2020-)。専門は、中国政治外交(史)、東アジア国際関係論、国際安全保障論。近著に『よくわかる中国現代政治』(ミネルヴァ書房、2020年、共著)、『中国安全保障レポート2021-新時代における中国の軍事戦略』(防衛研究所、2021年、共著)など。




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