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急成長を続けるインド(2) 激変するインドIT業界と日印連携 元ソニー・インディア・ソフトウェア・センター社長 武鑓 行雄 【配信日:2019/3/4 No.0288-1100】

配信日:2019年3月7日

急成長を続けるインド(2)
激変するインドIT業界と日印連携

元ソニー・インディア・ソフトウェア・センター社長
武鑓 行雄


激変するインドIT業界

 世界的にIT技術革新が加速する中で、インドIT業界は右肩上がりの拡大を継続している。インドIT業界団体であるNASSCOMによると、2000年には80億ドルだった売上が2016年には、1540億ドルと約20倍にも拡大している。その約8割の1160億ドルは海外からの受注である。すなわち、世界を相手にしたグローバル・ビジネスである。

 当初は先進国のソフトウェア開発の下流工程(コーディング、テスト、メインテナンス)を受け持っていたが、その上流工程(要求分析、設計など)も担当するようになっている。現在では、システムや製品・サービス全体の開発も担当している。さらに、ビッグデータ、AI、IoT、ブロックチェーンといった破壊的とも言われる新技術の登場がその成長を加速させている。

 シリコンバレー企業とともに動き、しかも若年の高度IT人材の数がケタ違いに多いインドIT業界は、こうした新技術へのキャッチアップが圧倒的に早いからだ。そのIT技術力はシリコンバレーにも迫ろうとしている。(図1)

インドのIT関連サービスの売上規模の推移  こうした激変の中心地が、南インドの都市、"インドのシリコンバレー"と呼ばれる「バンガロール(正式にはベンガルール)」であるが、現在はインド各都市に急速に広がりを見せている。

 インドIT業界の直接雇用は370万人で、日本の約90万人(経済産業省「IT人材の最新動向と将来推計に関する調査結果」2016年6月)を圧倒する規模である。これだけ規模が大きいのは、主に欧米企業の大規模な仕事を請け負うためでもある。

 2016年のインドのIT関連サービスの輸出額を地域別に見てみると、アメリカが62%と圧倒的に多い。これに、イギリス(17%)、ヨーロッパ(11%)を加えると、約90%を欧米が占めることになる。日本は2%以下の「その他」の中に入っているが、日本だけで見ると1%以下で、金額では10億ドル以下である。現状では日本企業のインドIT業界の活用は極めて限定的と言える。(図2)

インドのIT関連サービス輸出額の内訳(2016年)  インドIT業界の成長を支えているのが、インドITサービス企業である。継続的に規模拡大を続け、巨大化している。10万人以上を雇用しているインドITサービス企業は5社あり、最大手のタタ・コンサルタンシー・サービシズ(TCS)は、約40万人を雇用している。多国籍のグローバルITサービス企業である、IBMやアクセンチュアなども世界従業員数の3分の1の10万人以上をインドで雇用しており、その比率は年々増加傾向にある。(図3)

従業員10万人規模のITサービス企業 戦略拠点に変貌するグローバル企業のインド開発拠点

 インドに自社の開発拠点を構えるグローバル企業も年々増え、その規模も拡大している。現在では、欧米のほとんどの主要企業が拠点を設置していると言ってもいいほどだ。本国以外では最大規模の拠点も多い。業種は、世界を代表するIT企業のみならず、通信、半導体、電気、自動車、産業機械、小売、金融など多岐にわたる。

 こういった社内向けのインド開発拠点の役割は、企業により異なるが、研究開発や製品開発に関係することが多く、R&Dセンターとも呼ばれる。2015年で約1000社が設置しており、80万人が雇用されている。インドIT業界の輸出の約20%にあたり、215億ドル(2兆4000億円)の規模になっている。また、国別では、アメリカ企業が68%、ヨーロッパ企業が24%を占め、日本企業はわずか4%である(図4)。

グローバル企業のインド開発拠点(国別)  多くの日本企業は、日本で研究開発や製品設計を行い、インドをマーケットとして捉えている。ところが、欧米企業は、インドの開発拠点で、すでにグローバル製品の開発を行なっている。さらには、インドなどの新興国ビジネスの戦略拠点として活用している。

急増するインドのスタートアップ企業

 ここ数年、インドのスタートアップ企業数が急増している。2016年時点で、インドのスタートアップ数は、4700~4900社である。この数字は、テクノロジー・スタートアップの数である。他国と比べると、アメリカ(5万2000~5万3000社)は別格としても、2位のイギリス(4900~5200社)に次いで第3位である。第4位はイスラエル(4500~4600社)となる。

 インドのスタートアップ数は、2010年の時点ではわずか480社にすぎなかった。6年ほどで10倍に増えている。さらに2020年には、1万500~1万1000社に達すると予測されている。アメリカに次ぐ、世界第2位のスタートアップ大国になるのは間違いない。(図5)

テクノロジー・スタートアップ数  また、単なる数だけではなく、未上場で、時価総額が10億ドル以上のユニコーン企業の数もCB Insightsによれば、2018年10月時点で14社あり、アメリカ(130社)、中国(82社)の次で、現在急増中である。なお、日本は1社のみである。

 スタートアップが増加している背景には、多数のベンチャーキャピタルやエンジェル・個人投資家の存在、さらに起業家たちを支えるエコシステムが整ってきたことがある。インドでは2016年時点で、スタートアップ支援拠点が140カ所以上に設置されている。大学系、企業系、政府系など様々な形態がある。多くの有名大学には、インキュベーション・センターが設置されている。グローバル企業もオープンイノベーションを目的にアクセラレーター・プログラムを始めている。

IOT時代に向けて日印連携の可能性

 現状では、日本企業は、インドITサービス企業の活用や、自社の開発拠点を設置している企業は少なく、IT分野での日印連携は限られている。

 その理由として、この激変するインドIT業界に対する理解不足がある。また、インド活用に当たって、英語という言葉の問題があるのも事実だ。また、日本独特な仕事の進め方にもあると考える。インドIT業界は欧米流の開発手法を積極的に取り入れ、ある意味グローバル・スタンダードに近いといってよい。IT技術革新のスピードについていくには、日本側が自ら変わる意識と覚悟が必要だ。

 IoT時代を迎え、日本とインドとの連携では大きな可能性が生まれている。日本はものづくりにおいて、まだ圧倒的な強みを持っている。一方で、必要とされるIT人材の不足が大きな問題だ。また、社会インフラが進んでいるが故に、あまりにも特殊で、日本向けの商品やサービスでは世界展開が難しくなりつつある。それはIoTでさらに加速される。他方、インドは、すでにIT先進国であるアメリカとの連携で、最先端のIT技術を獲得し、豊富な人材が生まれている。また、巨大なインド市場がある。

 これまで、日本企業のインドIT業界との連携と言っても、コストダウンを目的とした小規模なオフショア程度であった。残念ながらこのモデルはあまり大きな成果を生まなかったようだ。今は、どの企業もIT技術を中心に置き、イノベーションを起こすことが必要とされている。そのためにも、戦略的なインドとの連携が大きな可能性を秘めている。

 インドITサービス企業とパートナーシップを組み、インド市場やグローバル市場に向けたソリューションを開発する。インドのスタートアップ企業を活用してオープンイノベーションを狙う。インドに自社拠点を設置し、インドのトップ人材を採用し、自社技術と最新IT技術を融合した新製品、サービスを生み出すなど、可能性は様々である。

 インドは、「新興国にも関わらず、IT先進国」という、世界でも例のない国である。様々なインド発のイノベーションも起こり始めている。日本の経験と知恵、インドIT業界が結びつくことが、日本企業がグローバル競争時代を生き抜くための強力な戦略になると考える。


執筆者プロフィール
元ソニー・インディア・ソフトウェア・センター社長
武鑓 行雄 (たけやり ゆきお)

武鑓 行雄
慶應義塾大学工学部電気工学科卒業、大学院工学研究科修士課程修了。
ソニー入社後 、NEWSワークステーション、VAIO、ネットワークサービス、コンシューマーエレクトロニクス機器などのソフトウェア開発、設計、マネジメントに従事。途中、アメリカ・マサチューセッツ工科大学に「ソフトウェア・アーキテクチャ」をテーマに1年間留学。2008年10月、インド・バンガロールのソニー・インディア・ソフトウェア・センターに責任者として着任。約7年にわたる駐在後、2015年末に帰国し、ソニーを退社。帰国後もインドIT業界団体(NASSCOM)の日本委員会・委員長として、インドIT業界と日本企業の連携を推進する活動を継続している。2018年3月に『インド・シフト 世界のトップ企業はなぜ、「バンガロール」に拠点を置くのか?』(PHP研究所)を上梓。


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