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平成期における日本企業の国際展開 大阪成蹊大学マネジメント学部・教授 ニッセイ基礎研究所・客員研究員 平賀 富一 【配信日:2019/3/4 No.0288-1099】

配信日:2019年3月7日

平成期における日本企業の国際展開

大阪成蹊大学マネジメント学部・教授
ニッセイ基礎研究所・客員研究員
平賀 富一


 平成の時代における日本企業の国際展開の推移・変化を、アジア新興国の経済発展などを含む国際情勢の変化と共に振り返る。


 平成の時代(1989年1月8日-2019年4月30日)も後二ヶ月ほどを残すタイミングとなった。本稿では、新天皇が即位され新たな元号に変わろうとする時点で、日本企業の平成期における国際展開の推移や変化の主要点を、アジア等国際情勢の変化にも言及しつつまとめてみたいとの思いをもった。

 冒頭、個人的な経験で恐縮であるが、平成元年の初日である1989年1月8日に、筆者は、タイのバンコクに滞在していた。それは、アセアン(東南アジア諸国連合)諸国への日本企業の進出ぶりを調査するための出張の途次であった。

 その後も企業のビジネスマン、格付機関のアナリスト、シンクタンクの研究員と立場は変わったが、一貫して日本企業によるアジア等国際展開に関わった。そして、平成が終わろうとする今、大学で日本企業の国際展開を含む国際経営を講じており、その実体験も踏まえつつ以下に私見を述べたいと思う。

 表1に示したように平成のスタート期には、バブル経済のユーフォリア(熱狂的陶酔感)に始まり、海外での大口の買収ケースが話題に上るなど活発な海外投資が見られたが、その後のバブル崩壊によって買収案件からの撤退例が数多く見られることとなった。

表1 平成期における内外の重要事項等(筆者が適宜選択し作成)  他方、平成3年(1991)以降の円高の進展によって、輸出競争力が弱まる傾向を受けて、我が国の製造企業の東南アジア等への進出による現地生産化の動きが加速した。表1に代表例として列挙した様々な事項や要因により、日本の対外直接投資や日本企業の国際展開のペースにはその時々に緩急がみられたものの、図1および表2に示されるように、直接投資額の残高や海外進出企業数は平成期を通じて大きく増加した。

図1 我が国の直接投資残高の推移(単位:百万ドル)  以下では、日本企業の海外進出動向、海外進出目的の変化、ヒトの現地化の動向などについて、それらに影響を与えた事項などと共に述べることとしたい。

 まず日本企業の海外進出の状況についてみる。海外の現地法人数は、平成元年(1989)の7,544社が直近データ(平成28年(2016))では24,959社と3.3倍に増加している(表2)。この内、製造業では、3,243社が10,919社と3.4倍、サービス業が、3,850 社から13,367社と3.5倍になっており、近年では後者の増加率が高まっている。

表2 現地法人の地域別・主要国別分布数・比率の推移  平成の中期ごろまでは、米国が現地法人数で他を圧倒していたが、次第に中国、NIEs(新興工業経済地域)、アセアン(東南アジア諸国連合)、インドやメキシコなど新興諸国の増加傾向が読み取れ、その大きな要因として以下の事項が挙げられよう。

 その一つは、大幅に進んだ円高であり、製造企業は、輸出競争力の低下という状況の下、より低廉な人件費等コスト水準で有利な生産立地を求めてアジア等新興国への進出を加速した。上記に加えて、新興諸国のイニシアティブによる海外からの投資優遇政策や外資規制の緩和、日米貿易摩擦などの回避という観点での現地生産化も進んだ。

 さらに、アジア等新興国の経済発展による市場としての重要度・魅力度の拡大による、製造業・サービス業双方の進出増がみられた。特に近年では、多種多様なサービス企業の国際展開が拡大している。

 上記の結果、海外生産比率は、平成元年(1989)の5.7%が、平成28年には23.8%(国内全法人ベース)に増加しており、近年では、海外進出の目的が、低コスト志向よりも、拡大する現地市場を志向したものにウェートがシフトしている。

 さらに、自動車産業を典型例とするタイを中心とするグローバル・サプライチェーンの進展や、トヨタ生産方式を代表とする日本的モノづくり手法の海外への移転が進んだ。他方、製造工程のモジュール化が進む電気・電子産業では、台湾の鴻海精密工業や台湾セミコンダクター・マニュファクチャリング・カンパニー (TSMC) に代表される受託製造大手企業の出現等国際水平分業化の進行や、現地市場特有のニーズに沿った製品開発などが日本企業の国際展開に影響を与えている。

 さらに、アセアン経済統合の深化により、平成2年(1990)のアセアン域内関税率約11%が段階的に低下し、平成30年(2018)時点に原則撤廃されたことに代表される域内の貿易・投資等の自由化の動きも寄与している。

 同様の観点で、平成期において、大きく進んだ二国間、多国間の自由貿易協定・経済連携協定(日本は、平成14年(2002) 11月の日シンガポール経済連携協定から平成31年2月の日EU経済連携協定まで12件が発効)や、北米自由貿易協定(NAFTA)におけるメキシコや、欧州連合(EU)諸国への進出が指摘できる。

 現地市場を重視し、そのニーズ・嗜好に合わせた製品・サービスの提供を行い円滑に現地での経営・営業を行う上では、現地の実情や文化・慣行に熟知し人脈を持ったヒトの現地化が必要であり、以下その点について述べよう。

 現地人従業員の数が大きく増加しているため、海外従業員に占める日本人派遣者数の比率も、平成6年(1996)調査の2.7%から平成30年(2018)調査では1.2%に低下している(日本在外協会「日系企業における経営のグローバル化に関するアンケート調査」による、直近の平成30年の調査結果は平成31年(2019)1月公表による)。さらに、現地拠点のトップに現地人や現地事情を熟知した非日本人を登用するケースも増加している(非日本人の社長比率は、平成30年(2018)は62%と、平成6年(1996)の29.5%から大幅に増加している(データの出所は、上記の日本在外協会による調査結果に同じ)。

 上記のような企業の国際展開の結果として、我が国の国際収支にも大きな構造変化が生じており、平成初期には、大きなウェートを占めていた貿易収支の黒字が減少傾向にある中、近年では、海外拠点からの配当等受取が、国際収支における重要な項目になっている(平成29年(2017)において、貿易収支黒字444憶ドル、海外からの配当等受取1,770億ドル)。
 以上、平成期の日本企業の国際展開の変化についてのポイントについて述べた。

 最後に、2019年5月からスタートする新元号の時代に向けての注目点を述べたい。

 国際政治経済関連では、全般的な世界の景気動向に加えて、米中関係の推移・帰趨や、英国のEU離脱問題、主要国における保護主義化・自国中心化傾向が、日本企業の海外進出に関わる意思決定の重要な影響要因になると考えられる。

 また、国際展開の成否を大きく左右するヒトの現地化の推進には、企業として優れた人材を惹きつける内容・仕組みを整備することが必要であり、世界各地の従業員が共有できる経営理念、クレド(信条)や行動原則の徹底、国籍を問わず有能な人材を評価し育成・登用する制度、魅力的な報酬・福利厚生制度がより一層重要となるだろう。また、優れた人材を採用・育成して、そのアイデアや才能を発揮させる基盤となるのは本社の国際化の推進である。

 最近、スポーツの分野で、海外にルーツを持つ優れた人材から構成される日本代表などのチームの活躍が目立つが、それは、新たな時代の日本企業の国際経営における重要な参考事例になるだろう。そこでは、戦略的・計画的な取り組みと制度によって、若年時から国際的な経験を積んだ日本人と、海外のルーツを持ちつつチームのメンバーとしての使命・目標を十分に理解・実践できる有能人材によってのチームとしてのまとまりと強みが発揮されよう。

 換言すれば、組織力という日本企業の強みを、かつての日本人中心のものから、様々な国籍やルーツを持つ有能人材のパワーやモチベーションを引き出す多様性をもったものとすることが大切になる。

 そのために、特に、若い世代の日本人には、早くから海外で多様な体験を積む機会を多く与え逞しく育成する事が大切だろう。そのような企業では、「本社-地域統括拠点-各現地拠点」が、単なる指揮命令関係を超えて、相互に情報や知を共有・協力し組織としての学習や付加価値創造を行い大きな競争優位をもつだろう。平成に次ぐ新たな時代において、このような多様性を強みとする新たなタイプの日本企業が、アジア等海外市場の成長を取り込み大きく発展することを期待したい。


執筆者プロフィール
大阪成蹊大学マネジメント学部国際観光ビジネス学科・教授
ニッセイ基礎研究所・客員研究員
平賀富一(ひらがとみかず)

東京大学経済学部卒業後、東京海上火災保険(現東京海上日動火災保険)に入社。外務省や国際金融情報センター(欧州部長・アジア大洋州部長)、日本格付研究所(国際格付部長兼チーフアナリスト)等の勤務を経て、09年にニッセイ基礎研究所に入社。14年7月から主席研究員・アジア部長(この間、新潟大学大学院教授を兼務)。18年4月より現職。このほか上智大学で非常勤講師を務める(博士(経営学)、修士(法学)、ハーバード・ビジネス・スクールTGMP修了)。


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