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「第二徴兵制」の勧め (独)経済産業研究所 研究顧問 根津 利三郎【配信日:2016/011/30 No.0261-1026】

配信日:2016年11月30日

「第二徴兵制」の勧め

(独)経済産業研究所 研究顧問
根津 利三郎

<忘れられている退職後の労働力活用>
 安倍首相は2012年末に政権を獲得してから様々なスローガンを掲げて経済政策を運営してきた。彼の政策は国際的にも「アベノミックス」として知られているが、これは国内では「三本の矢」政策と呼ばれている。第一の矢は緩和的な金融政策で、日本銀行総裁に金融緩和論者の黒田東彦氏を指名し、通貨供給量を増やし、円安を実現して、日本企業の利益を拡大させた。これを反映して株価は二倍以上上昇した。第二の矢である財政面では財務省の抵抗を抑えて積極的財政政策、つまり政府の支出を増やして景気を刺激し、需要拡大を図った。

 問題は第三の矢である構造改革だ。これは最初の二つの矢ほど内容が明確でなく、様々な項目がまぜこぜになっているため、どこまで前進したのかよくわからない。TPPが成立すれば農業改革が進み大きな成果が期待できるだろう。企業のコーポレートガバナンスも少しずつ改善されており、日本でも外国人も含め株主投資家が企業経営により影響を与えるようになっている。 

 今、安倍政権が熱心なのは「働き方改革」だ。今なぜ「働き方改革」なのか? 日本は長い間の少子高齢化に歯止めがかからず、1990年代初頭から労働力人口が減少し始め、2008年からは人口そのものも減少に転じた。このままいけば日本経済は縮小が続き、22世紀には東アジアの小国になることは確実だ。若者が家庭を持ち、子供を育てることにもっと積極的になるように社会構造を変えることは単なる人気取りではなく、日本の将来にかかわる重要な政策課題なのだ。そのためには女性も働いて労働力を確保するとともに、子供も産んで育ててもらわなくてはならない。男女を問わず、若者には長時間労働を止め、早めに帰宅して子育てにも時間をかけてもらう。しかもそれで賃金が下落することのないよう、賃金体系も若者に有利なように変えなくてはならない。

日本の年齢別人口構成  これらはすべて正しい。だが彼、というより安倍政権の「働き方改革」、あるいは「一億総活躍」というスローガンから欠落している重要な国民層がある。それは定年退職した男性の高齢者だ。第二次大戦後の1945~50年に生まれたベビーブーマーは現在65から70歳の年齢で、企業の従業員であれ、公務員であれ、ほとんどはすでに退職しているが、まだまだ元気で活動できる。その数は男女合計で1000万人にもなる。現在の日本で現に働いている全労働者数が6500万人であるから、その15%に相当する(図参照。濃い部分は65~70歳層)。「一億総活躍」というなら、このシニアをどうするか明確な指針を打ち出すべきだが、それについては何も言っていない。 

<メリットの多い第二徴兵制>
 ではどうすべきか。70歳、いやもっと先まで働けるよう企業に定年延長させる、というのも一案だ。エコノミストや国際機関はこのやり方を勧める。だが筆者が直接企業の人事担当者と話をすると、彼らは高齢者の雇用には後ろ向きだ。体力や視力が衰え、判断力、行動力が下がってくるのは避けられない。若者に命令されるのは嫌だ、という高齢者も多く、要するに「使いづらい」のだ。それ以上に高齢者が会社に居続けると、若者の就職が難しくなるだけで、社会全体としてみればマイナスが多い。

 筆者は数年前から「第二徴兵制」をいうアイデアをあちこちで言いまわっている。この制度の仕組みはこうだ。65歳になった日本人はすべて最寄りの社会福祉事務所あるいは区役所に登録し、登録カードを受け取るとともに、自分のしたい社会奉仕活動を申し出る。活動には介護施設、病院、学校、保育園での補助的作業、道路や公園の掃除等が含まれるが、そのうちどれを選ぶかはその時の需要動向と本人の意向による。各活動には労働時間に応じたポイントを付与され、登録カードに記帳される。すべての登録者は70歳までの間に所定のポイントに達するまで活動をする。これを達成できない場合は介護保険制度その他の社会保障制度の恩典を受けられない。もちろん自宅で介護すべき年寄がいる等合理的な理由があればこの義務を免れる、あるいは軽減することは出来る。

 この制度の良いところは数多くある。なによりもまず、会社一筋に生きてきた人間に新たな活動の場を与えることができる。筆者自身の自宅の周辺にも同年齢の退職者が多くいる。みんな元気で、何か世のためになることをやってもいい、という気持ちは漠然とは持っている。しかし、実際には何ができるか、何が期待されていることなのか、わからず、次第に家にこもって、終日テレビの前に座ったきりで孤立している。このままでは遠からず認知症だ。彼らに社会貢献の場を与えることで、新たな生きがいを見いだせるのみならず、体を動かし、人と話をし、仲間を作り、いつまでも元気でいられるようになる。

 そればかりではない。高齢化が進む日本にとって公的な医療・介護制度はますます財政的な負担となってくる。介護保険制度は費用の半分が国、都道府県、市町村の負担となっており、国民の税金で穴埋めされているが、今後ともその額は増え、このままでは近い将来破綻することは確実だ。他方で、介護施設で働く従業員は低賃金で人が集まらず、人手不足は慢性的だ。筆者は介護施設でボランテイアしてわかったことだが、このような施設では、掃除、配膳、話し相手など、誰でもできる単純仕事が全体の2~3割はある。このような作業を、介護資格を持った専門家にやらせるのは全くの無駄で、無償のボランテイアに任せても何の問題もない。そうして節約した経費を使えば、介護従事者の賃金を増加し、人手不足を改善出来る。病院や保育園でも同じような改善が可能性だ。筆者自身も近くの退職者二十人程度とグループを作って公園の清掃、緑化運動を行って、住民から感謝されている。

<年寄の面倒は年寄が看る>
 この仕組みの背後にある考え方は「年寄の面倒は年寄が看る」、というものだ。ますます増えていくシニア層を現役世代が面倒を看るという今の仕組みはもう持たない。他方で高齢化社会を支える主要な機能の一部をシニア層のボランテイア活動に依存することには反対もあるかもしれない。だからこそ公的な制度として運営する必要がある。今から70年前まで日本には徴兵制があった。身分、氏・素性、出身地にかかわりなく20歳になった男子は軍隊に入ることを義務付けられたが、終戦とともにこのような強制的な制度は廃止された。
 「第二徴兵制」という名前が適切かどうかは別として、高齢化が進む中で日本という国家を維持、発展させていくためには、現在遊休資産となっている、戦後の団塊世代に意味ある社会貢献をしてもらうことが不可欠だ。そのための制度設計に着手すべき時期に来ている。
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