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「安倍一強」体制は安泰か =任期延長論が試金石= 時事通信社 解説委員長 山田 惠資【配信日:2016/09/30 No.0259-1019】

配信日:2016年9月30日

「安倍一強」体制は安泰か
=任期延長論が試金石=

時事通信社 解説委員長
山田 惠資


 日本では「安倍一強」という言葉がすっかり定着した。2012年12月の発足当初は短命説もささやかれていた安倍晋三首相だが、今も高い内閣支持率に支えられており安定した政権運営を続けている。しかし先の参院選以降、少しずつ変化が生じ始めている。果たして安倍政権は今後も磐石な体制を維持できるのか。


◆参院選「勝者不在」
 今後の政局の行方を見通すため、まず2016年7月に実施された参院選(改選数121)を振り返ってみる。
 この選挙では、与党の自民、公明両党が改選議席から10増の69議席を獲得、過半数(61)を上回った。非改選議席を含めた参院全体としては、憲法改正に前向きなおおさか維新の会(当時、現日本維新の会)、日本のこころの4党などを加えた改憲勢力が、憲法改正の国会発議に必要な3分の2を超えた。また、自民党は参院選で56議席を獲得。非改選(65)を合わせて単独過半数にあと1つまで迫り、その後、無所属の元民主党議員が入党。自民党は27年ぶりに単独過半数を確保した。選挙戦では安倍政権の最大の焦点だったアベノミクスの継続に承認を得たといえる。ただ、にもかかわらず、自民党関係者の表情はあまりさえない。
 「私の感じではめでたさも中くらいなりだ」-。参院選を終えた7月下旬、東京都内で講演した高村正彦自民党副総裁は参院選の結果についてこんな感想を語った。議席数こそ改選議席を大幅に上回ったものの、接戦だった32の1人区で自民党は「21勝11敗」だった。特に今回の参院選では東北地方で自民党の劣勢が目立った。東北6県のうち、自民党候補が勝利したのは秋田のみ。自民党は「1勝5敗」と完敗した。安倍政権の経済政策であるアベノミクスの効果が実感されていないことや環太平洋経済連携協定(TPP)への農村の反発などが背景にあると見られる。
 これに対し野党側の反応は複雑だ。民進党の議席数は改選前の45から32に後退。掲げた「改憲勢力3分の2阻止」と「与党改選議席の過半数割れ」の目標はいずれも達成できずじまいだったことから、「参院選は敗北した」と総括した。一方で共産党など野党との選挙協力については「多くの1人区で一定の成果を挙げた」と評価した。また、共産党は「党勢回復に向けた足掛かりと自信を得ることができた」と自賛し、次期衆院選でも民進党を中心とする野党共闘を今後も継続すべきだとの立場を鮮明にした。

◆与党、野党共闘を警戒
 無論、共産党を含めた野党共闘が今後、連立政権に直ちにつながるとは考えにくい。参院選に続いて行われた東京都知事選(2016年7月31日投開票)でも、民進、共産両党などの野党統一候補は大敗した。にもかかわらず2016年9月15日に誕生した民進党の蓮舫代表も共産党との連携を維持する方針を表明。共産党側はむしろ野党共闘を強める構えを見せ、特に衆院選の全小選挙区(289)のうち、200以上の選挙区で共産党は候補者を立てず、野党共闘を行う用意があるとされる。
 この野党共闘の行方に安倍政権側は、かなり神経をとがらせているようだ。仮に次期衆院選でも野党共闘が続いた場合、「小選挙区への影響は小さくない」(自民党選対幹部)との見方が有力だ。にもかかわらずここへ来て、政界では早期の衆院解散論がささやかれだしている。
 今年12月15日に安倍首相とロシアのプーチン大統領による日ロ首脳会談が首相の地元・山口県長門市で行われる。その際、懸案の北方領土問題で具体的な進展があるのではないか、との観測が強まっている。一方、民進党は9月15日に蓮舫氏を新代表に選出したが、同氏をめぐっては代表選中、日本国と台湾との「二重国籍」問題が浮上。これに対しては、与党からだけでなく、民進党内でも批判の声が上がり、新代表の下での党勢回復の道のりは険しいものとなっている。こうした状況を踏まえると、首相が年内か年明けに解散・総選挙に踏み切る可能性は否定できまい。

◆二階幹事長起用の真意
 2016年8月に安倍首相が行った内閣改造・自民党役員人事の中で最大のハイライトは、二階俊博氏の幹事長起用だった。二階氏は自民党長老印の「党内の重鎮の一人。安倍政権を支えつつ、時に安倍首相の政権運営に苦言を呈することもあった。それが安倍首相とは「戦略的互恵関係」にあるとも評されるゆえんだが、一方で参院選の最中から首相の党総裁任期延長論を唱え続けてきた。首相が二階氏を幹事長に起用した真意については「総裁任期延長への布石」(首相周辺)との見方が有力だ。
 背景にあるのは、安倍首相が強い意欲を示す憲法改正の実現に今後、かなり時間を要する見通しとなっていることだ。安倍首相側はそもそも、現在開会中の臨時国会中に憲法審査会で具体的な改憲条項の検討に着手し、残り約2年の総裁任期中に国民投票につなげようと考えてきた。
 しかし、参院選で改憲勢力が3分の2を占めた結果、内心では改憲に慎重な与党・公明党が民進党の合意も必要と強調。また、天皇陛下が生前退位の意向を強く示唆する「お気持ち」を表明したことを受けて、「憲法よりも皇室典範の問題に優先して取り組む必要性が出てきた」(同)
 このため、国民の抵抗が大きい「9条改正」を論議の対象から外し、参院の合区解消や緊急事態時の国会議員任期の延長といった「国民の合意が得られやすいテーマ」(自民党執行部関係者)に絞り込んだとしても、合意を得るのは容易ではない。首相の出身派閥である細田派の幹部はこう解説する。「任期満了1年前から政権は死に体化する。残り任期は2年といっても、実質は1年しかない」。となれば、首相にとって任期延長は「有力な選択肢」となる。
 一方で二階氏にとって政権の要である幹事長ポストへの就任は「悲願だった」(公明党関係者)とされる。それだけに二階氏にしてみれば、安倍政権が続く限りできるだけ長く幹事長にとどまって権勢を振るうことを望んでいる、と見るのが自然だ。二階氏が総裁任期延長論を主導してきた最大の理由はそこにあるといえる。

 自民党は総裁任期延長問題について、「党・政治制度改革実行本部」(本部長・高村正彦副総裁)で議論を開始。早ければ年内にも議論をまとめ、来年初めの党大会での党則改正を目指す。仮に任期を延長して「3期9年」となれば、安倍首相の任期は2021年9月までとなり、改憲の猶予も生まれることになる。ただ、任期延長には党内に異論も根強く、この論議は党内対立に発展する可能性を秘めている。
 「2年先のことは誰にも分からない。なぜ最優先事項なのか。私には分からない」。首相の入閣要請を断って閣外に去った石破茂前地方創生担当相は不快感を隠そうとしない。岸田文雄外相も「(今の)3年間の任期のさらに先の話をするのは、随分気の早い話ではないか」と疑問を呈している。両氏とも2年後の総裁選を念頭に「ポスト安倍」をうかがっているだけに、総裁任期延長論をおいそれと受け入れるわけにはいかない立場だ。
このほか若手のホープである小泉進次郎党農林部会長も講演で「なぜ今なのか、率直に言って分からない」と。
 総裁任期延長の是非をめぐり党内が2分される事態となれば、「政局は一気に流動化する可能性も排除できない」(与党関係者)。任期延長論は、安倍政権の安定度を判定するリトマス試験紙と言えよう。

※自民党総裁任期とは
 自民党は党則で、「総裁任期を1期3年とし連続で2期6年まで」と規定している。安倍晋三総裁(首相)は野党時代の2012年9月に就任。2015年に無投票で再選されたため、任期は2018年9月に満了する。
 1955年の結党時は1期2年で、再選制限はなかった。党則改正を重ねて、小泉純一郎総裁時の2002年に現在の制度となった。かつて1986年に中曽根康弘首相(当時)が1986年の衆参同日選大勝したことを受けて、特例で任期が1年延長された例がある。
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