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(本記事の英語版はこちら)

ミャンマー産業発展ビジョン | 経済産業省 貿易経済協力局 資金協力課 課長補佐 佐藤 亮洋【配信日:2015/10/30 No.0248-0988】

配信日:2015年10月30日

ミャンマー産業発展ビジョン

経済産業省 貿易経済協力局 資金協力課 課長補佐
佐藤 亮洋


 経済産業省は、ミャンマーの産業の将来像とそれを実現するために優先的に取り組むべき施策をまとめた「ミャンマー産業発展ビジョン」を関係省庁の協力を得つつ作成した。2015年7月3日、安倍総理大臣から、日メコン首脳会議に出席するために訪日中のテイン・セイン・ミャンマー大統領に本ビジョンを手交した。
 本ビジョンは、低廉・良質な労働力等の比較優位や内外実需を踏まえ、都市における外資主導の労働集約型産業の発展と、地方における農林水産業、高付加価値な織物等の地場産業の発展の好循環を起こす「都市・地方シナジー開発戦略」を掲げ、そのための電力・交通インフラの整備、予見可能で効率的な法制度、人材育成、戦略的産業政策等、そして農林水産業の潜在力の具現化を促すものとなっている。本稿では、そのうち製造業・サービス業に関連する部分を中心として概要を示す。


1. 本ビジョンの目的
 ミャンマーは2011年の民政移管以降、高成長を実現してきた。一方、中長期の持続的成長を実現するための構造的な課題が明らかになりつつある。まず、財政赤字と貿易赤字の拡大が続いており、国内産業の国際競争力を高め、安定したマクロ経済の基盤を確立する必要が増している。加えて、現在の経済成長は都市部を中心とする不動産・貿易・流通等のサービス業に主に牽引されており、地域・産業の両面でより幅広い経済成長の実現が求められている。このため、産業レベルでの経済発展の見通しの下、インフラ・法制度、人材育成など幅広い分野にわたった適切な政策の立案、実施が求められている。
 こうした問題意識に基づき、本ビジョンにより以下を明らかにする。
(1)ミャンマーが国土の均衡ある発展と持続的な経済成長とを両立させ得る段階的な産業発展の将来像
(2)当該将来像の実現に向け、ミャンマーが今後5年程度で実施することが期待される優先的な産業発展施策

2. 都市・地方シナジー開発戦略
 本ビジョンでは、次に掲げる3つの基本的考え方により都市と地方双方の開発のシナジーを生み出す「都市・地方シナジー開発戦略」の推進を提案する。

第1図 都市・地方シナジー開発戦略  以下では、何故この3つを基本的考え方とするか、これらによってどのように国土の均衡ある発展と持続的な経済成長が実現されるかを検証することにより、「都市・地方シナジー開発戦略」を推進すべき理由を明らかにする。
(1)都市開発と地方開発の好循環・シナジー
 都市と地方の重点産業はそれぞれ個別の特色と課題を有しているが、いずれかの地域のみに絞った対処は効果的なものにならず、むしろ両地域の同時並行での開発がシナジーを生み出し、特色の発揮や課題の解決に資することになる。都市と地方の互恵的なリンケージを有効に機能させることが、バランスのとれた経済発展には極めて重要である。この鍵は連結性の強化であり、シナジーの創出に不可欠の要素といえる。
(2)経済の発展段階に応じた比較優位に基づく産業の育成
 比較優位に基づく産業育成とは、育成すべき産業を政府が恣意的に決定するのではなく、市場の導く方向に従うことである。市場原理を極力活用することで国内資源の望ましい配分を実現し、国内経済を活性化させることが重要である。
 現在のミャンマーでは、1.良質・低廉・豊富な労働力、2.大市場・生産国に隣接する地理的優位性、3.農林水産業・観光業・地場産業を育む多様な風土・伝統・文化の3つが比較優位の源泉になる。
(3)人の尊厳や社会の調和を実現した環境社会配慮
 ミャンマーは経済成長のみに焦点を当てた開発ではなく、人間中心の開発を重視している。経済成長は決して人間中心の開発に相反するものではないが、経済成長のための開発が、住民の生活や人権を脅かし、自然・社会環境を破壊するのであれば、人間中心の開発の観点でむしろ悪影響が大きくなる。とりわけ自然・社会環境への影響が大きいインフラ開発プロジェクトでは、慎重な環境社会配慮が必要になる。このためには、できる限り環境面での影響を緩和するように適切な技術を採用した上で、国際的な基準と手続を以て、開発に当たることが重要である。

3. 製造業の将来像:都市部への集積と裾野拡大
(1)製造業の役割・都市部に集積させる理由
 国土の均衡ある発展には、都市部への製造業の集積は極めて重要である。製造業の発展は安定的な雇用機会を提供し、比較的高水準の所得層の創出を通じて地方産品の消費市場を創出し、経済成長の恩恵を地方も含めた社会全体に浸透させる。中長期的には、生産プロセスの改善を通じた継続的な生産性向上とともに、金融・流通・法務等の関連サービス業の発展が期待される。
 競争力ある製造業の発展には、電力・交通・通信等のインフラが必要不可欠であるが、現在、都市部を中心に整備されている。こうした状況を踏まえ、特に外資の誘致を念頭に置いた場合、今後数年の間には都市部への製造業の集積が現実的である。この際、1.周辺国と差別化した産業誘致を行うこと、2.内外実需を把握して獲得可能性を十分に検討すること、3.外資の果たす役割の重要性を考慮することが重要である。
(2)当面5年間で集積が期待できる具体的な業種
 当面5年間は都市部を中心として、より一層の環境整備を行うことは、工業化の流れの更なる加速につながると考えられる。具体的な業種を例示として指摘すると、1.建設資材関連産業、2.加工食品産業、3.化学品産業(肥料、洗剤、塗料など)、4.プラスチック加工産業、5.繊維製品産業、6.労働集約的な組立産業等がある。

第2図 労働集約的な組立産業等の業種・品目例 (3)工業化に向けたミャンマーの今日的課題と新たな機会への対応
 先行発展し、外資誘致を進める周辺国が存在する中で、ASEAN経済共同体(AEC)の形成が予定されており 、周辺国以上に立地環境を整備しなければ、輸出志向型を中心とする多くの外資企業にとってミャンマーへの立地を選択する理由がない。一方、全世界的な工程分業はより細分化された短工程単位で行われる余地が広がっており、ミャンマーにとっては特定の工程に特化して競争力が発揮できるような、更なる国際分業の深化がみられる。
 こうした中、ミャンマー政府は外資企業の要望を丁寧に聞きながら、育成すべき産業に必要な環境整備に万全を期すべきである。また、自国の地理的優位性を最大限発揮できるよう、交通インフラや通関制度の整備を進め、周辺国との連結性の向上に努め、タイ等の産業集積と連携可能な地域・産業の発展を図る必要がある。
(4)各種環境整備により、中長期的に発展が期待できる産業
(2)のような製造業の集積を基礎として、中長期的には、より高付加価値な産業の立地が期待できる。中長期的な発展が期待される産業群が求めるインフラや制度は、短期的に立地していく産業群に比べてより高度であるため、その要望を考慮に入れて整備を進める必要がある。
 具体的な業種を例示として指摘すると、1.輸送機械工業(二輪)、2.電機電子産業、3.その他機械産業(金型等)、4.鉄鋼業(電炉)、5.非鉄製造業、6.石油精製・石油化学産業がある。

4. 今後5年間で優先的に取り組むべき政策
 本セクションでは、今後5年間に優先して取り組むべき政策パッケージのうち、各分野で日本が支援しつつミャンマーが実施することが期待される優先的プロジェクトを中心として紹介する。
 近年、途上国を中心に、ビジネス環境のベンチマークとして世界銀行グループが毎年実施している "Doing Business"レポートがしばしば参照される。この2015年レポートではミャンマーのビジネス環境は改善方向にあるとされているものの、ビジネス環境の改善に向けた取組は引き続き不可欠であり、下記の施策は極めて重要である。
(1)インフラと連結性の向上をテコにした産業振興
 ミャンマーは電力を中心としたインフラが圧倒的に不足しており、経済成長・産業発展といった政策課題の実現の阻害要因になっている。自国の比較優位を十分に発揮するためにも、インフラを適切に整備して、阻害要因を着実に除くことは死活的に重要である。また、地域面からみると、今後労働集約型産業の立地とともに人口流入の進むヤンゴン、マンダレー等の都市部にインフラを整備しつつ、面的拡大を円滑に進めることも極めて重要である。
 関連する優先的プロジェクトとして、ティラワSEZの開発、先進的な高効率発電・環境対策技術と環境法制・行政の導入、ヤンゴン・マンダレー鉄道などが挙げられる。ティラワSEZは、ヤンゴン中心市街地から南に約20kmに位置し、関連インフラの整備に円借款・無償資金協力を利用しつつ、工業団地等の開発が実施されている。2014年1月に成立した改正SEZ法に基づき、ティラワSEZ向けのワンストップサービスセンターが設立され、同年9月よりJICA専門家が同センターに派遣され、入居企業への迅速な許認可付与に寄与している。
(2)予見可能で効率的なビジネス環境の制度基盤整備
 多額の投資に基づいて、将来にわたり経済活動を拡大するには、それを支えるビジネス環境の整備が重要であるが、経済活動の開放が遅れてきたミャンマーには適切な環境整備と運用の蓄積がないことが大きな課題である。ティラワSEZにおける国際標準のワンストップサービス等の投資環境整備、効率的な通関システムの導入といった優先的プロジェクトが、こうした課題の解決につながることが期待される。
(3)「人間中心の開発」を支える人材育成
 ミャンマーの人材は基礎力と潜在的な能力が期待されるが、産業人材の育成は必ずしも十分に行われていない。これまで、ミャンマー政府の産業人材育成は、各省庁が自らの所掌範囲内で分野ごとに小規模に実施されてきた。加えて、周辺国より賃金が低く、雇用機会も少ないため、多くのミャンマー国民が海外で働いており、国内で教育を受けるインセンティブが働きにくいという問題もある。
 人材への需要面からみると、今後、ミャンマーが工業化を進めるには、生産現場の中間管理人材の不足が問題となりうる。外資企業にとってミャンマーが工場運営の現地化を進めやすい魅力ある投資先となるためにも、生産現場の中間管理職候補となる人材を増やしていく必要がある。
(4)その他の戦略的・横断的政策
 優先的プロジェクトとして、ティラワSEZへの外資誘致、2015年7月に開催した地場製造業の日本における展示会が挙げられる。この他、2014年11月にプレッジした中小企業ツーステップローンでは、仲介金融機関への中長期資金供給を介したツーステップローン及び同機関への融資能力向上の支援を実施する。本取組が、金融機関の融資審査能力を向上させ、一方で融資先となる中小企業の経営管理の正確性を高めるなどして、中小企業向け融資が円滑に実行されるための制度構築に寄与することが期待される。
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