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経済優先に回帰した安倍政権 | 時事通信社元政治部長(仙台支社長) 山田 惠資【配信日:2015/10/30 No.0248-0987】

配信日:2015年10月30日

経済優先に回帰した安倍政権

時事通信社元政治部長(仙台支社長)
山田 惠資


 安倍晋三首相が2015年9月に打ち出したアベノミクス「新3本の矢」は、先の安全保障関連法成立を受けて、安倍政権として当面は経済を最優先する方針を鮮明にしたものと言える。ただ、日本経済の回復の足取りは依然十分ではなく、世界経済の先行きにも不透明感が漂っているのも事実。これまで安倍政権の推進力だったアベノミクスに陰りが生じれば、アベノミクスの期待値は失望感に変わり、政権基盤が一気に揺らぐ可能性もある。それだけに安倍首相は今後、政権発足以来最大の正念場を迎える。


◆「新3本の矢」の難易度高い?
 新3本の矢は「希望を生み出す強い経済」「夢をつむぐ子育て支援」「安心につながる社会保障」で、それぞれの数値目標を「(1)名目GDP(国内総生産)600兆円(2)希望出生率1.8(3)社会保障(介護離職ゼロ)」としている。2002年の第2次安倍内閣発足時に掲げた「3本の矢」(大胆な金融政策、機動的な財政政策、民間投資を喚起する成長戦略)はデフレ脱却への具体的施策を示している。これに対し、新3本の矢は、アベノミクスが目指す目標を掲げている。
 「アベノミクスの第2ステージだ」-。2015年9月24日、安倍首相は新3本の矢を発表した記者会見でこう宣言した。ただ、そのハードルは決して低くはない。2014年度は約490兆円だった名目GDPを2020年ごろに600兆円に引き上げるには、年名目3%超の経済成長が必要となる。ところが中国をはじめとする世界経済は減速傾向が続いている。国内では、実質2015年9月に政府が発表した4~6月期の実GDP改定値が年率換算で1.2%減と3四半期ぶりのマイナス成長だった。また、2015年10月の月例経済報告では景気判断を1年ぶりに下方修正した。
 そうした逆風下で目標を達成するには、賃上げなどによる個人消費の押し上げや、規制改革の推進による市場開放などが不可欠となる。

◆「守勢」目立った内閣改造
 「新3本の矢」の発表に続いて、2015年10月7日に安倍首相が行った内閣改造・自民党役員人事は守りの姿勢が目立った。内閣の要である菅義偉官房長官をはじめ、岸田文雄外相、甘利明経済再生担当相、中谷元防衛相、石破茂地方創生担当相ら主要閣僚は軒並み続投した。特に、かつては「自民党幹事長に意欲を示していた」(与党幹部)とされる菅氏や、新派閥を結成して次期総裁選に備える石破氏がそれぞれ留任。加えて、首相の「秘蔵っ子」である稲田朋美政調会長も、一時は入閣の可能性が取りざたされたが見送られた。
 安倍首相にしてみれば、攻めたくても攻められない事情があったのであろう。最大の理由は、2015年9月の安保関連法成立に向けて国民の間に反対の動きが強まったことだ。きっかけとなったのは、2015年6月の衆院憲法審査会で3人の憲法学者全員が安保法案を「違憲」とする見解を表明したことだった。さらに自民党内からは「報道威圧発言」が相次いだこともあって、国民の間に安保関連法に関する不信感や批判が高まり、国会周辺における反安保デモを盛り上げることになった。
 こうした動きに連動して各報道機関の世論調査によると内閣支持率は大きく下落。時事通信調査によると、2015年7月は支持率と不支持率はそれぞれ40.1%、39.5%で、支持率は前月比約6ポイント下がり、翌8月調査では支持39.7%、不支持40.9%となり、支持率が不支持率を下回った。朝日、読売、毎日など他の各社調査でも、7月以降は軒並みこの逆転現象が生じた。
 支持率は、2015年8月の安倍首相による「戦後70年談話」発表後にやや持ち直したものの、9月の安保法成立直後の調査によると、支持、不支持の割合は、朝日「35%、45%」、読売「41%、51%」、毎日「35%、50%」と再度下落した。この結果について政権内からは「もっと下がると心配していた」(与党幹部)といった安どの声も聞かれたが、今年前半の4~5割台の水準と比べて12-17ポイントと大幅に下降している。こうした状況から、大胆な内閣改造を実施して国民の不評を買い、内閣支持率のさらなる低下を招くといったリスクを回避するには、守りを優先する方が得策との判断が働いたわけだ。
 また、2015年9月の自民党総裁選で安倍首相が無投票再選された結果、総裁選後の自民党役員人事・内閣改造への期待値が大きく膨らんだという事情も勘案したに違いない。そうした中、安倍首相の肝いりで新設された「1億総活躍相」は事実上唯一の目玉と呼べるものとなった。同相のポストには2012年の政権発足以来官房副長官を務めてきた加藤勝信氏(衆院当選5回)が抜擢された。

◆「1億総活躍相」具体化が課題
 「この内閣は未来へ挑戦する内閣だ。少子高齢化に歯止めをかけ、50年後も人口1億人を維持する。1億総活躍という未来を切り開くため新しい挑戦を始める」-。2015年10月7日の記者会見で安倍首相は、改造内閣では「1億総活躍社会」の実現に全力を挙げる方針を表明。その上で年内のできるだけ早い時期に緊急に実施すべき対策の第1弾を設定し、直ちに実行に移す方針を明らかにした。
 ただ、「1億総活躍」という名称は抽象的だ。また、担当分野が経済再生担当相、厚生労働相と重複する上、地方創生相との役割をどう分担するのかもはっきりしていない。石破茂地方創生相も「最近になって突如登場した概念だ。国民の方々に戸惑いが全くないとは思っていない」と疑問を呈した。実際に内閣改造直後に行われた世論調査によると、内閣支持率は小幅な回復にとどまっている。
 政府は2015年10月に加藤担当相の下に厚生労働相ら関係閣僚や学識経験者のほか、障害者、主婦、学生らをメンバーとする「国民会議」を設置。少子化問題や社会保障などの分野における対策の第1弾を年内に策定するとともに、行程表となる「日本1億総活躍プラン」の取りまとめを急ぐ方針だ。
 「1億総活躍社会」の実現に向けた具体策は、「第2ステージ」に入ったアベノミクスの成否のカギを握っている。同時にそれは、来夏の参院選における重要な争点となろう。
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