| トップページ |この記事のカテゴリー: アジア・国際オピニオン・論説 |
e-Magazineのバックナンバー:| カテゴリー検索 | キーワード検索 | 記事一覧 |
2010年度以前 (IIST ワールドフォーラムメールマガジン) のバックナンバー:| キーワード検索 | 記事一覧 |

  • このエントリーをはてなブックマークに追加


(本記事の英語版はこちら)

イラン核協議 “歴史的合意”の意味 | NHK解説委員 出川展恒【配信日:2015/07/31 No.0245-246-0983】

配信日:2015年7月31日

イラン核協議 "歴史的合意"の意味

NHK解説委員
出川展恒

 イランの核開発問題の平和的な解決に向けて、オーストリアのウィーンで行われた、イランと欧米など関係6か国の直接協議が、2015年7月14日、ついに最終合意に到達した。当初6月30日とされた期限を2週間も延長して続けられた交渉が、159ページに及ぶ「包括的共同行動計画」の合意文書の形で結実した。1979年の「イスラム革命」以来、対立を続けてきたイランとアメリカなど国際社会の関係を考えれば、まさに「歴史的合意」と言える。
 一連の協議で、欧米側の狙いは、イランの核兵器開発の可能性を完全に摘み取っておくことにあり、イラン側の狙いは、すべての制裁を速やかに解除させることにあった。まず、最終合意の内容を簡単に説明する。
 イラン側は、今後10年以上にわたって、核開発を大幅に制限し、たとえば、ウラン濃縮に使う遠心分離機の数を、現在の3分の1以下に減らす。製造する濃縮ウランは、原子力発電用の濃縮度の低いもの(3.67%以下)に限定する。また、イラン側は、IAEA・国際原子力機関が国内のすべての核施設を査察することに同意した。最後まで対立した問題、すなわち、核兵器の研究開発が行われた疑いが指摘される軍事施設への査察については、IAEAが査察を求めることができる一方で、イランにも異議申し立ての権利を与えることで決着が図られた。
 一方、イラン側が強く要求してきた制裁の解除について、アメリカとEU・ヨーロッパ連合は、イランが合意を守っていることを確認したうえで、イランの原油輸出や金融取引を対象に行ってきた独自の制裁を停止する。ただし、イラン側の合意違反が明らかになった場合は、制裁を元に戻すことができるとしている。そして、国連安保理決議に基づく制裁については、基本的に新たな決議を経て解除されるが、イランのミサイル開発に関する制裁は、今後8年間、また、武器取引を禁止する制裁については、今後5年間継続することで決着が図られた。
 もし、今回の協議が不調に終わり、イランの核開発が進んでいた場合、サウジアラビアなど他の中東諸国による核開発を招いて、「核の拡散」に歯止めがかからなくなり、敵対するイスラエルが武力行使に踏み切る危険性も指摘されてきたが、今回の合意によって、そうした懸念は、当面は回避されたと言えるだろう。
 ただし、「問題は解決した」と喜ぶのはまだ早い。アメリカでは、イランが合意を守るかどうか、懐疑的な見方が根強いからだ。いずれイランは国際社会を欺き、核兵器の獲得を目指すのではないかという不信感は払拭されていない。このため、今回の合意が確実に実行されてゆくかどうか検証することが非常に重要で、その役割は、主にIAEAが担うことになる。
 アメリカでは、イランとの最終合意について、議会による承認を義務づける法律がすでに制定されている。それによると、まず大統領は合意の内容を議会に報告し、60日間の審査を受けなければならない。その結果を踏まえて、議会は賛否の採決を行う。合意に反対する野党・共和党が、上下両院で多数を握っているため、否決される可能性は高い。その場合、オバマ大統領は拒否権を行使すると明言している。拒否権を覆すには、議会側は3分の2以上が必要だが、共和党にそこまでの議席はなく、最終的には制裁解除が可能になると考えられる。
 つまり、イラン側が強く待ち望む制裁解除は、今後数か月から半年以上、実現しない可能性が高い。もしそうなると、イランでは、保守強硬派が多数を占める議会や、強い発言力を持つ革命防衛隊が反発を強めることが予想される。これまでは、欧米側との交渉を支持してきた最高指導者ハメネイ師も態度を硬化させ、イランが合意を守らなかったり、破棄したりする可能性も排除できない。
 一方、今回の合意には、イスラエルが強く反対している。ネタニヤフ首相は、「イランの核保有に道を開く歴史的な誤りだ」とこきおろした。イランは、これからも核技術を向上させ、いずれ、核兵器を開発できる水準に到達すると懸念している。ネタニヤフ政権としては、まず、アメリカ国内のいわゆる「イスラエル・ロビー」を通じて、アメリカ議会に対し、今回の合意を承認しないよう、強く働きかけると見られる。そして、イランの合意違反が明らかになったり、イランが合意を破棄したり、イランが核兵器の保有に近づいていると判断した場合には、武力行使の選択肢も排除していないと見られる。イラン核問題が、来年11月のアメリカ大統領選挙の重要な争点となって、「イスラエル・ロビー」の影響力を強く受ける可能性もある。
 中東の大国サウジアラビアも、今回の合意に強い不満を示している。サウジとイランは、中東地域で熾烈な「覇権争い」を繰り広げており、もし、イランが核技術を確立すれば、自らが圧倒的な劣勢に立たされると危惧している。今年3月、日本を訪問したサウジのトルキー外務副大臣は、筆者との懇談の中で、「イランは、核開発によって、中東の覇権を握ろうとしている。今は平和目的だとしても、核開発能力を高めてゆけば、将来の政治決断で容易に核兵器を獲得できる」と述べて、今後サウジ自身が核開発に乗り出す可能性も排除しなかった。アメリカが、今回の核協議を通じ、イランと接近することにも強い懸念を示した。
 イランが、今回の合意をきっかけに、アメリカとの関係を改善する可能性については、慎重な見方が支配的だ。最高指導者ハメネイ師は、合意の直前、「アメリカは傲慢さを体現している。われわれは、傲慢な国との闘いを続けて行く」と述べ、核協議での合意がアメリカとの関係改善には直結しないという考えを示唆した。ただ、イランとアメリカは、過激派組織「IS・イスラミックステート」という共通の脅威に直面しており、今回の合意を通じて信頼関係が生まれてくれば、IS対策やシリア内戦など、他の問題でも協力できる可能性は十分にある。合意を実行できるかどうかが、鍵を握っている。
 イランが「イスラム体制の根幹」と位置づける核開発問題が、欧米側との話し合いによって解決されれば、中東のパワーバランスが大きく変わるきっかけになる可能性がある。また、今後、イランに対する制裁が解除されてゆけば、イラン産原油の輸出や外国企業のイランへの進出が促進され、日本を含む世界経済に与える影響も非常に大きい。しかしながら、イラン核問題の平和的な解決はこれからが本当の正念場だ。合意内容をどう実行に移して行くのか、慎重な立場をとるアメリカ議会や強く反対するイスラエルなどの動向も含めて、当面、緊迫した状況が続くだろう。(2015年7月16日)
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

(本記事の英語版はこちら)


| トップページ |この記事のカテゴリー: アジア・国際オピニオン・論説 |
IIST e-Magazineのバックナンバー:| カテゴリー検索 | キーワード検索 | 記事一覧 |
2010年度以前 (IIST ワールドフォーラムメールマガジン) のバックナンバー:| キーワード検索 | 記事一覧 |