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シリーズ : 日本の力―進化する製造業 IIST取材記事 (東京都 墨田区編4) 「革素材と連携の力で挑戦を続けるタンナー」 山口産業(株) 専務取締役 山口 明宏氏【配信日:2015/06/30 No.0244-0979】

配信日:2015年6月30日

シリーズ : 日本の力―進化する製造業 IIST取材記事 (東京都 墨田区編4)
「革素材と連携の力で挑戦を続けるタンナー」
山口産業(株) 専務取締役 山口 明宏氏

 日本の皮革産業は、他の多くの国内製造業と同様に縮小傾向にある。国内の豚革生産の中心地、墨田区東墨田も例外ではない。ピーク時に月80万枚を誇った同地域の豚革生産量は現在わずか10軒足らずのタンナー(なめし革製造業)による3万枚を数えるのみである。そんな中「オンリーワンの技術」を武器に独自の経営哲学で従業員6名のタンナーを引っ張るのは、山口産業(株)専務取締役の山口明宏氏だ。製造業において自社ブランドとして最終品まで作り出すトレンドが強まる中、あくまで素材としての「革」にこだわる。そのスタンスを可能にするのは「当社に2級品というのはありません」との言葉に滲み出る品質への自信だ。業界や地域の垣根を越えた連携を活かして、地域に、社会に「革で出来ること」を追求する同氏に話を聞いた。

■オンリーワンの技術
 大学卒業後、3年の会社勤務を経て山口が2代続く家業を継いだのは1990年代の半ば。すでに墨田区のタンナーの数は減少の途にあった。安価な海外皮革の流入やメーカーの海外移転、工場排水の規制強化など、逆風に遭うたびに同業者が廃業を決断する中、同社はむしろ多額の借金をして設備投資を行い、経営のアクセルを踏み込んだ。その決断について山口は振り返る。「どの業界でも衰退産業って行きつくと、最後にぷっと浮かぶところがあるらしいんですよ。そのぷっと出る部分は技術だそうです」。業界で何か特化したものを持っていれば生き残れるらしい。「それなら自分たちにはあるな、と」。同社の一番の強みは独自に開発した「ラセッテー製法※」という、人にも環境にも優しい独自のなめし製法と、創業より代々磨き続けた熟練の技術だ。それからは表から見えにくく同業者も多く携わる靴のライニング(靴内側の裏張り)を中心とした製造からバッグの表革等へと、より価値が認知されるよう製造転換を行い、一方では積極的に展示会に出展し、多くの顧客の信頼を得て行く。今、同社の革はフランスの高級ブランドのバッグにも使われている。※日本エコレザー基準認定第一号

■最終製品は作らない
 バッグ用の表革を製造し始めた同社だが「バッグ」そのものは作らない。いくつかそうした誘いも受けているが全て断っている。「日本の豚の原皮は品質が高いのに、ほとんど海外のタンナーに行ってるんですよ」そう現状を語る。この流れが強まれば今後ますます生産拠点は海外に移り、原皮も今以上に国外へ流出してしまう。「だけど日本はその豚皮の生産地なんだから、日本のタンナーはその豚革の良さをPRすれば海外にも負けないはずなんですよ。」ここ10年で革を取り扱う量産型ブランド、メーカーは激減しているという。「メーカー自体がどんどん廃業し、ブランドも減っている。結果としてかなりの製品卸問屋さんやアパレルさんが廃業されています。」タンナーだけではない、関連する製造業全てが急速な勢いで縮小していることを山口は身をもって実感している。しかし一方で、日本で品質の高い革を生産し、皮から革へのパイプをしっかり維持すれば、日本の豚革の関連産業を守り発展させていくことにつながるに違いないと希望も持っている。「それで皮革素材のマーケットに完全に特化しちゃおう、と決めたんですよ」そう笑って振り返る。以後、営業活動は卸問屋に委ねて、自身は質の高い革素材を多く作ることに専念している。

■うちだけが勝てばいいわけじゃない
 東墨田を歩くと油脂業者の看板が多いことに気付く。皮をなめす工程で出される油脂はここで加工されて石けんや洗剤として生産される。また皮革産業の下請け企業も多く、同社は自社の効率化を進めると同時に製造工程の一部をこれらの業者に、可能な限り数社に分けて卸している。「皆さんが流通飛ばしをする頃に、当社は流通を入れたんです。」中間業者を抜かして経費を節減する傾向が強まる中、逆にメーカーとの直接取引を減らして卸問屋を入れ始めた鋭い見識には驚かされる。それも新たに発生するマージンは同社が負担することでメーカーを納得させたのだと言う。「皆と連携するのは、うちが企業として弱い部分だからですよ」と冷静に説明する。自社の小さな経営規模を最大限に機能させるために周辺産業を活用する一方で、タンナーとして経営を存続させることが地域の産業を守ることにつながっていることを山口は十分に認識している。「別に特定の人が勝ってほしいとかじゃないし、うちだけが勝っていればいいかと言えばとてもそれでは先行かない。」こうした姿勢は住宅と工場が混在する同地の住民に対しても変わらない。自ら地元の小学校に働きかけて定期的に見学会を開催し、毎年数百人の生徒を受入れている。同区の地場産業に対して子供たちが誇りを持ってもらえるといいと考えている。

■MATAGIプロジェクト、そしてその先へ
 今、山口は全国の中山間地域において駆除された鹿や猪など野生動物の皮をなめして地元へ還す「MATAGIプロジェクト」を推進している。2008年に島根県と北海道の山間部から野生獣の皮の有効活用の相談を受けたことに始まるこの事業は仕上げた革質の高さから評判を呼び、今では北海道から九州まで全国100近い地域に連携先が広がる。野生皮特有の傷の多さや、種類やサイズの不揃いさ、供給量の不安定さによる流通の難しさに直面しながら、何とか加工業務の一つとして採算が取れるところまで到達した。同社によってなめされた革は、産地ブランド商品として新たな価値を生み出している。現在は全国に5つのなめし工場を建設する計画で、国内はもちろん海外からのニーズにも応えられる体制作りに取り組んでいる。目下の悩みは、わずか1枚のA4の試作革依頼書をどうやってネットもFAXも使わない猟師や関係者たちの手に届け、この仕組みを活用してもらうかだと言う。「一度なめして返すと夢みたい、って大喜びしてくれるんだけどねえ」と苦笑する。

 プロジェクトは更に広がりを見せている。それまで山口と個別につながっていた産地とメーカーや百貨店等が直接取引できる「ラセッテーアライアンス(仮称)」という取組みを開始した。看板の皮革ブランド名を冠したこの事業において、趣旨に賛同するデザイナーやプロデューサーも巻き込み、文字通り一個一個のジャンル・ブランドが独立、自立して連携を組めるネットワークを形成したのだ。これにより「作れるもの」ではなく「売れるもの」を作り、売り場も確保出来る。「革本来の価値を案内する。この商品を持つことで心の豊かさを得られる。また共感を生むことで価値をお客様に感じて頂く。」そんな見せ方をしたいそうだ。そう語る一方で、一気には行かないだろうと認める。「でもこれから本当に50年、100年ブランドを作ろうと思ったらこういう歩みをしていかないと。」目線はずっと遠くを見据えている。
(川西 亜紀)
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