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広く、長く、良好な国際関係へ 外国人旅行客誘致に何が必要か 一般社団法人共同通信社 編集局文化部 部長 杉本 新【配信日:2015/05/26 No.0243-0973】

配信日:2015年5月29日

広く、長く、良好な国際関係へ
外国人旅行客誘致に何が必要か

一般社団法人共同通信社 編集局文化部 部長
杉本 新


 日本への外国人旅行者数が過去最高になった。日本独自の風土や文化を伝えると同時に、歴史の負の側面も含めた異文化理解の機会とすることが、観光の真の価値になり、良好な国際関係につながる。


 まず衣服を全部脱いで、湯船に入る前に体を洗いましょう。タオルは湯につけないでください―。増加する訪日観光客向けに入浴マナーを知ってもらうおうと、東京都公衆浴場業生活衛生同業組合がサイトを一新した。英語、中国語、ハングルで説明を書き、大きなお風呂でリラックスする効能や銭湯の歴史にも触れている。見知らぬ人と裸で熱い湯にのびのびとつかる習慣がない外国の人にとって、銭湯はかなりの異文化体験だろう。
 このように訪日観光客を見込んだ取り組みが、さまざまな業界に広がっている。富士山をはじめとする自然、寺院などの文化財、温泉、和食、伝統工芸、そして「爆買い」。日本の風土や製品に関心を抱き、外国からやって来てお金を払う人たちが増え、日本の売りものを居ながらにして「輸出」しているようにも見える。

▽独自の魅力を磨き上げる
 観光庁によると、2014年に日本を訪れた外国人旅行者は推計1341万3600人で、過去最高だった2013年を約300万人上回った。円安が主な理由で、観光ビザ緩和や消費税免税品目の対象拡大も奏功したとみられる。政府は東京五輪・パラリンピックが開催される2020年の訪日客の目標を2000万人に設定しており、このところの好調で達成に期待が集まっている。人の動きがあれば当然、お金も動く。観光を中心に流通、運輸などさまざまな業界が色めき立つ。2015年1~3月に日本を訪れた外国人旅行者による消費額も前年同期比64.4%増の推計7066億円。四半期で過去最高だった。
 大幅な伸びをもたらした主因は、中国からの旅行者が大量の免税品を買う「爆買い」だと指摘されている。2015年は2月が春節(旧正月)だったこともあり、日本では景気がよくないとされる時期にも関わらず、免税品の売り上げが3~5倍だったデパートもあるという。この傾向に異を唱えるわけではないが、多くの旅行者の間で日本が炊飯器や温水洗浄便座などを買うショッピングセンターとしか考えられていないとすれば、別の国で価格や質が競合する製品が出回ったときに、現在の人数と金額が減る可能性はないだろうか。
 「メード・イン・ジャパン」に頼るだけではなく、風土や文化など日本にしかない観光の魅力を育てて伝えることが、今後の外国人旅行者確保の鍵を握っている。むろん、この点は意識されているようだ。東京、京都、北海道といった人気のエリアのほかに、最近では各地の歴史的建造物や伝統芸能などを「日本遺産」に認定したり、「テーマ性」「ストーリー性」を持つ「広域観光周遊ルート」をつくったりするプランが文化庁や観光庁を中心に練られている。前提として、交通手段や宿泊施設の拡充も必要になる。自らの力で魅力を磨き上げる姿勢に注目したい。

▽日本への招待状
 同時に、海外に出向いて日本のよさをPRすることも求められている。日本国内でいくら態勢を整えたとしても、それだけでは外国の人に目を留めてもらうのを待つだけになりかねない。例えば2015年春、ミラノで始まった博覧会では日本館が「共存する多様性」というテーマと「いただきます、ごちそうさま、もったいない、おすそわけの日本精神が世界を救う」というサブメッセージを掲げて人を呼び込んでいる。期間中、栄養バランスに優れた和食をメーンにした展示のほか、レストラン、フードコートが設けられ、日本各地の食文化を紹介するイベントも続く。ミラノで日本食を味わうことと、実際に日本に降り立つことの間にはかなり距離があるかもしれない。それでも、来場者の記憶の中に関心や親しみという種をまき、将来の交流につなげることができるだろう。
 一方で既に世界中で受け入れられているすしやアニメ、漫画、ハローキティといったキャラクターなど、日本生まれの「先達」もいる。これらを好きになって日本語を勉強したり、日本を訪れたりする人たちの存在も無視できない。忘れてならないのは、「クールジャパン」の始まりには民間の力があり、地道に世界各地に浸透し実績を積み上げた結果が日本への関心を高めたという点だ。規模や頻度において政府主導のクールジャパンの推進力は今後も重要だが、観光が個人の楽しみに端を発するものである以上、民間レベルの取り組みが引き続き進むことにも期待したい。
 その意味で、世界中にいる日本人による交流の価値があらためて高まっている。ボランティア、留学、ビジネスなど活動内容はさまざまだとしても、その人たちが努力する姿は、ひいては日本への関心、魅力と重なり、日本への招待状のような役割を担うことになるはずだ。

▽もてなしの真の意味
 2020年の東京五輪・パラリンピックは世界中の人たちをもてなす好機に違いないが、ゴールではない。観光の目的は日常を離れることにある。言い換えるなら、風土や習慣が異なる地に自ら赴き、違いを認めた上で尊重し合うことではないだろうか。日本に行ってみたい、あるいは日本の個性を好ましく思う人たちを増やす取り組みが重要であり、それは特定の業界を潤す以上に、広く長く国際関係を良好にすることにつながる。
 最後に最近のニュースを一つ挙げる。広島市の原爆資料館の2014年度の入館者数のうち、外国人の数は前年度より約3万4千人増の23万4360人で、過去最高を更新した。外国の旅行サイトで評価が高いことや円安で訪れる人が増えたとみられる。楽しみとしての観光は言うまでもなく大事だが、日本には広島、長崎、沖縄など戦争の悲惨さを伝える場所も多数ある。原因と結果を示し、負の側面も含めて普遍的な平和へのメッセージを伝える機会と言える。
 多様な視点で異文化を持つ人間同士が深く理解し合うことが、外国人旅行者をもてなす真の意味ではないだろうか。
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