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消費税再増税の是非に悩む安倍首相 =経済・支持率への影響読めず= | 時事通信社 前解説委員(現・仙台支社長) 山田 惠資【配信日:2014/10/31 No.0236-0945】

配信日:2014年10月31日

消費税再増税の是非に悩む安倍首相
=経済・支持率への影響読めず=

時事通信社 前解説委員(現・仙台支社長)
山田 惠資


 今年4月から8%となった消費税率を2015年10月から10%に再引き上げするかどうか。これは安倍晋三首相にとっては実に悩ましい問題である。再引き上げした場合の経済や支持率への影響が読み切れないためだ。最終判断は、12月8日に7~9月期の国内総生産(GDP)改定値が発表された直後になるとみられ、ぎりぎりまで予断を許さない状況が続きそうだ。


◆「慎重に判断」強調
 9月29日から行われた衆参両院本会議での代表質問。安倍首相は答弁の中で、消費税を再引き上げするかどうかについて「経済状況等を総合的に勘案しながら本年中に適切に判断する」と原則論を述べた上で、「景気が悪化し税収も増加しない事態に陥ることは絶対に避けなければならない」とも語った。また、続く国会での質疑応答では「景気が腰折れするかしないかということもしっかり判断しながら、適切に年内に判断していきたい」(10月7日参院予算委員会)との考えを示した。
 民主党政権時代の12年8月に現行の消費税増税法が成立し、その中では消費税率について「14年4月の8%導入」と「15年10月の10%導入」を定めている。
 首相は11月上旬から有識者からの意見聴取を開始。その上で7~9月のGDP(国内総生産)の改定値が発表される12月8日の後に最終決断をする考えで、それまでは踏み込んだ立場を示すことはないだろう。このように首相が慎重に経済状況を見極めようとしている最大の理由は、今年4月に消費税8%を導入して以来この半年間、賃金の伸びが物価上昇に追い付かず景気回復のペースが鈍いためだ。
 内閣府が10月7日に発表した8月の景気動向指数(2010年=100)速報値では、景気の現状を示す一致指数が前月比1・4ポイント低下して108・5となり、2か月ぶりに悪化。これにより内閣府は基調判断を、7月までの「足踏み」から「下方への局面変化を示している」とし、景気が後退局面に入った可能性を示した。9月以降も一致指数が低下した場合は、増税前の駆け込み需要の反動減を「想定内」としてきた政府のシナリオに疑問符が付く可能性がある。
 景気判断を誤って再増税に踏み切れば、「アベノミクスの失敗」とみなされる可能性があるからだ。事実、民主党は再増税の見送った場合を想定して、そうした論陣を張りつつある。10月3日の衆院予算委員会で前原誠司元外相が増税先送りならアベノミクスの失敗を認めることになる、と主張。これに対し首相は「アベノミクスの成功とか失敗とかには関わりがない」と強く反論した。

◆財務省、先送りに危機感
 こうした状況にあって、消費税引き上げを主導してきた財務省サイドは表向き強気の姿勢を崩していない。財務省幹部は「消費税増税は短期的な視点よりも、大切なのは長期的視点だ。首相は分かっていると信じる」とつぶやいた。そこには、社会保障費の確保や財政規律のためには一時的に景気の落ち込んでもやむを得ない、との本音ものぞく。
 また、自民党総裁時代に消費税増税の自民、公明、民主3党合意に深くかかわった谷垣禎一幹事長はこのところ、「上げたときは手の打ちようがあるが、上げなかった際のリスクには非常に不安がある」と発言している。その真意を解説するなら、消費税再引き上げで経済が悪影響を受ける場合は、補正予算や追加的金融緩和などの対応策を講じることができる。しかし、再引き上げ延期なら、日本は財政再建に意欲的でないとして、外国人は日本株売りに走りして株価は暴落し制御不能になるというわけだ。
 また、自民党と連立政権を組む公明党も「消費税の役割をしっかり認識し、社会保障の充実を着実に進めることが連立政権の柱だ」(山口那津男代表)と再増税を主張している。同時に逆進性対策として、飲食料品への軽減税率の導入を求めている。来年春の統一地方選に向けた「実績」とする狙いもある。
 統一地方選や2年以内に実施される国政選挙では自公連携は不可欠だ。公明党への配慮は首相としても軽視できまい。

◆菅氏は延期論
 一方で、自民党内では再増税に慎重な意見も聞こえ始めている。10月22日に開かれた再増税に慎重な立場を取る議員連盟「デフレ・円高解消を確実にする会」(山本幸三元経済産業副大臣)には自民党の衆参両院議員42人が参加。講師として招かれた本田悦朗内閣官房参与が再増税の時期を1年半先送りして17年4月からとすべきだと主張すると、賛同する意見が相次いだ。
 これについて記者会見でコメントを求められた菅義偉官房長官は「自民党にはさまざまな考えの方がいることは事実だ」と指摘して、慎重論にも配慮する立場をにじませた。菅氏はもともと再増税先送り論者だ。
 最近の各社の世論調査でも、内閣支持率は依然高水準を維持しているものの、再引き上げについては反対が7割以上に達している。にもかかわらず10%導入を決めて、内閣支持率が急落した場合、安倍政権は大きく失速する事態を招く可能性がある。しかも、9月の内閣改造で入閣させた小渕優子前経済産業相、松島みどり前法相が同時辞任した問題は、安倍政権へのイメージを大きく傷つけた。この件が支持率下落要因となって、再増税慎重論を勢いづかせる可能性がある。そうした展開を強く懸念しているわけだ。

◆ライフワークは憲法改正
 首相にしてみれば、あくまで憲法改正を成し遂げることで歴史に名を残したいのであって、消費税導入によって財政再建に道筋を付けることは副次的な目標にすぎない。憲法改正実現のためには、来年9月の自民党総裁選で再選を果たし、18年9月まで首相の座を死守しなければならない。まさに、高い内閣支持率を維持することは安倍政権の生命線と言える。ここが、2年前に消費税増税と引き換えに与党だった民主党の敗北を覚悟した上で衆院解散・総選挙に打って出た野田佳彦首相(当時)とは大きく異なるところである。
 恐らく現在、野田政権や谷垣政権であれば、再増税は事実上の既定路線となっていたであろう。消費税再増税をめぐり悩む姿からは、安倍首相の自身が求める政治理念に対する強いこだわりも浮かんでくる。
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