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(本記事の英語版はこちら)

平成26年度 「国際教育者招聘事業 (IEJ)」 所感 “私の中で小さくなった世界、広がった世界観”~ IEJ2014を顧みて | ウエスト・ビュー・ハイスクール/ヴェートーベン・スクール校区 パトリック・マクリーリ(ポートランドUSA)【配信日:2014/7/31 No.0233-0940】

配信日:2014年7月31日

平成26年度 「国際教育者招聘事業 (IEJ)」
“私の中で小さくなった世界、広がった世界観”~ IEJ2014を顧みて

ウエスト・ビュー・ハイスクール/ヴェートーベン・スクール校区
パトリック・マクリーリ(ポートランドUSA)


 IISTは日本人子女教育に携わる欧米の教育者を招聘し、日本の教育環境や歴史・文化に触れ、その体験を教育現場で活かしていただくための「IEJプログラム」を本年6月22日~7月3日に実施しました。以下、参加された24名のうちのお一人である米国ポートランドの高校教師パトリック・マクリーリ先生の所感をご紹介します。

国際教育者招聘事業 (IEJ)


 アメリカに戻って一週間が過ぎたところだが、私は、今回のプログラムで得た経験が、自分の人生にもたらす影響がどれほどのものか、未だに十分に計り知ることが出来ないでいる。「日本を再び訪れ、文化を学べるのはいいことだ」 と6月20日に荷造りを終えながら考えていた。実のところ、27年前に初めて日本を訪れて以来、久しぶりに日本を訪れ、その文化に触れて学べるわけだ。ところが、わずかばかりのことしか知らず、2週間後に帰ってきた時には、世界観が広がり、世界がそれまで認識していたものより一層小さくなった感覚を覚えた。

 東京・成田空港に到着すると同時に、私は日本の文化に内在するすてきな優しさとおもてなしの心を思い起こしていた。空港の到着ホールで出迎えを受けると、品川のホテルに向かうリムジンまで親切に案内された。到着の翌日に行われたオリエンテーションでは、IISTの事務局が紹介された後、日本の歴史と社会、教育システムについてレクチャーを受け、さらには基本的な日本語の挨拶を「サバイバル」日本語として練習した。プログラムの冒頭から、私達の世界の眺めは、新しい言語、習慣、伝統や歴史を取り込むところから始まった。また私達は、親切さは国境による違いはそうなく、どこにいようとも、あまり変わらないものと感じ取っていた。

 東京という大都会は街そのものがハイスピードで動くように、我々も流れるように紹介を受けた。人口わずか60万人のオレゴン州ポートランドからやってきた私は、すぐさま東京の大きさに気おされてしまった。都内見学では、皇居や浅草に向かう途中、人々であふれる通りや狭小地に林立するビルを至る所で見ることが出来た。より注意して見ると、歴史ある神社や寺が、近代的な建築物の間で佇んでいる。案内してくれたガイドも指摘したが、ゴミ箱やゴミそのものも見当たらないのに気が付いた。その夜、プログラムに参加している他の教員4名と都内を山手線で移動中、安全性とプライバシーを保ったまま、何百人もの乗客が電車の中ですし詰め状態で乗車することが如何に可能なのか、直に体験することが出来た。すぐさま、私は都市の規模が大きいからと言って、必ずしもその生活の質が落ちる訳ではないと気付かされた。東京では、人々が如何に1,300万の人口がある中でも、隣人を尊重し、責任感をもって、高い質の生活環境をなお維持することが可能であることを、目の当たりにした。ポートランドにおける私の隣人は東京の隣人ほど近接していないが、互いを尊重する思いは、ともに同じだと感じた。

 観光や文化体験は楽しみと面白さの両方を持ち合わせているが、東京でのハイライトは九段中等教育学校の訪問であった。その歴史と学校の創設について学んだ後、私は英語科と社会科の印象的な授業を見学することが出来た。

 後者では、担当教員が生徒に、最近の新聞の社説記事を読んで、「限定的な自衛活動を認めるために日本国憲法は改正されるべきか?」という論争に答えるため、小グループに別れて検討するように呼びかけた。私自身も意見を求められ、課題は違えども、クリティカル・シンキングや議論への敬意は、場所は変われども、どこも同じだと気づいた。社会科の教師としては、日本国民が直面している最近の問題について学ぶ機会を得たことが意義深かった。そして私は、世界の問題解決の為に、生徒たちに自分自身の考えを持つように推奨している教員が他の国にも居ることに勇気づけられた。

 こういった経験は、奈良から広島、そして最後に京都へと進むに連れて、積み重なって行くこととなった。景色、経験、学びに、更には食べ物も申し分なく、無駄な重複はなく、益々良くなってゆくと感じた。

 言葉だけではこの重みを伝えることが出来ないことは承知の上で、以下にハイライトを幾つか紹介する;

お寺と神社~
 お腹をすかせた鹿たちに出迎えられた奈良・東大寺では僧侶に案内していただき、広島の宮島では、まるで水面に浮かんでいるかのような厳島神社の大鳥居を横目にして、宮島へ上陸した。千畳閣と五重塔や、大聖院に続く小道も散策した。京都では、幾重にも鳥居の続く伏見稲荷神社の他、龍安寺では静穏な石庭を鑑賞し、きらびやかな金箔を纏った金閣寺では偶然にも同郷ポートランドから来たという学生たちのグループに遭遇、清水寺では音羽の滝が記憶に新しい。お寺や神社では、その美しさや歴史の重みだけでなく、人々の信仰の形についても理解を深めることが出来た。案内してくれた多くのガイドによれば、日本における信仰とは人生を際立たせるためのようなもので、考えを縛りつけたりするものではないという。こうした考え方は、信仰のシステムは一様でなくとも、我々がとるやり方がとても似通っている事を思い起こさせる。

歴史~
 私は歴史の教師であるが、今回紹介された日本の歴史はあまりに豊富で詳細であったため十分に消化することができなかった。神道の信仰の仕組みの起源や、聖徳太子による仏教の導入について、奈良から京都/江戸への遷都について、あるいは将軍と侍について、何を学ぶにおいても、日本の豊かな古代史は、今の現代社会の中にも確実に息づいていると感じた。しかし、広島で訪問した平和記念公園や資料館で受けた強烈な衝撃に比べられるものは他にはなかった。私は大きく揺さぶられた。それはあらかじめ予想していた恥や罪の意識というものではなく、寛容の心と平和記念公園が掲げる平和に向けての歩みによってもたらされる希望に揺さぶられたものだ。こういった思いは、幸運にもこの日、美甘進示さんが娘の章子さんのサポートを得て明らかにした彼の被爆体験を聴く機会を得たことで、更に増幅された。このような生き証人のお話を伺う機会は大変貴重なことであり、感謝に堪えない、頭の下がる経験であった。この講演を支援してくれたカルビー株式会社の二宮かおるさんにも感謝したい。私の歴史理解は、新たな情報や展望を得て、さらに幅を広げ、また同時に、前進、平和、寛容の心といった、どの歴史にも通じるいくつかのテーマを見つけることができた。

文化~
 日本文化の沢山の側面に触れることが出来たのは大変幸運であった。東京で訪問した鈴乃屋でのきもの体験では、美しく気のきいた紋付袴を体験できた。どの国や文化から来たひとも、皆よく体にフィットするように綺麗に着せてもらって、皆、生きいきと映って見えた。京都では、友禅染めの工房で、刷毛を手にとって、ハンカチーフを染める作業を体験することができた。最後の夜は、ホテルの自分の部屋でテレビの深夜番組を見ながら、モダンな日本のポップ・カルチャーと即興の日本語レッスンをしばし楽しんだ。しかし何をおいても最も印象深かったのは、広島の基町小学校の訪問を通じて、日本文化に固有な要素について学ぶ機会を得たことだ。快活で物柔らかく、引き込まれるように話される二宮校長先生より、先の大戦時、中国に残留する運命となった日本人の歴史について、またその後、残留孤児が日本の社会に再び同化しようとする動きの中での、学校の取り組みについて学ぶことが出来た。日本社会の中でも文化的な摩擦があったことを知って当惑したが、先生たちが如何に積極的にその摩擦を解消させようと努力しているのかを知り、心強く思えた。日本文化に関しては新しい情報や新たな体験もあったと同時に、どこから来た人なのか、どこにいる人なのかにかかわらず、文化とは刻々と変化するものであり、それを学ぶことよりも実際に体験することの方が限りなく楽しいものであると断言できる。

食べ物~
 オー!日本の食べ物! 唯一心残りがあるとすれば、美味しくて興味深い日本食を試す十分な時間が無かったことだろう。ホテルではビュッフェの朝食が用意されていて、馴染みの西洋スタイルの朝食を食べてしまいがちであるが、外に出て、伝統的な日本の味噌汁、ご飯、お魚、サラダ、豆腐と納豆の朝食を試すのも良い。東京と京都では、昼食に様々な伝統的な日本食材とモダンな食材の両方を試す機会があった。広島ではお好み焼きのスタンドがあり、私の胃袋を2日間満たしてくれた。京都では楽しい居酒屋でたまたま知り合った旅行者の小さなグループが集って美味しいつまみと冷えたビール、お酒と焼酎を楽しんだ。京都駅には回転寿司のお店があって、新鮮なお寿司が運ばれてくる。フェアウェル・ディナーでは美味しいだけでなく見た目にも楽しい料理が並んだ。広島の移動の車中では日本のモスバーガーも体験し、ところ変われども人々が時折、ファストフードを楽しむのもまた良いと思えた。私の味覚とメニューは広がったと思われるが、私の美味しい料理への志向は間違いなく高められたと云え、ポートランドではそんな懐かしい味を求めてマーケットで日本食を探し回ることになると思う。

 今回の素晴らしい体験をいくつか紹介したが、奈良県斑鳩町のイナダ家で経験したホームステイはこの旅行の中のまさにハイライトで、他に比較になるものが見当たらない。ホストのヒロミさんとは事前に電子メールでコミュニケーションを取っていたが、実際に彼女やご主人のクニユキさん、子供たちキョウスケくん、アヤカちゃんとユユちゃんに会うことができたのは斑鳩町でバスを降り会場のホールに入ってからだった。彼らの笑顔を見て、私はこのホームステイが、このIEJプログラムの中でもお気に入りになることをすぐに確信した。彼らは色んな経験を私にさせようと気遣ってくれて、彼らのカナダからの友人を紹介してくれたり、地元の食堂でとても綺麗に用意された有機野菜の食事を楽しんだり、子どもたちが、私よりもずっとうまく金魚すくいをやって見せてくれたり、地元の工房で伝統的な藍染め体験をさせてもらったりして楽しんだ。何よりも私が最も楽しんだのは彼らの自宅でとてもくつろいで受入れてもらったことである。彼らの英語力は限られていて、また私の日本語も錆び付いているので、互いに言葉には少し苦労したが、多くの言葉の壁は、沢山の笑いやスマートフォンやグーグル翻訳を使って、乗り越えることができると気づかされた。クニユキさんとは好きな音楽とビールの話題、ヒロミさんとは料理や食べ物の話し、キョウスケくんとはゲームの「マインクラフト」について、そしてアヤカちゃんとユユちゃんとは午後の時間を使って本の読み聞かせをしてお互に言葉のレッスンをした。斑鳩町の法隆寺を訪れた朝は、地元の通訳ガイドが個々に付いてくれ、印象的で広大な法隆寺を詳細に見学することが出来た。その後、午後には斑鳩西小学校を訪問し、ホストファミリーの3人の子どもたちの姿を見つけることも出来て、素敵な半日を過ごした。学校では教室で食べる給食や、茶道教室、お習字、折り紙に、音楽やバレーボール、かるたなどのクラブ活動を通じて、日本文化の様々な側面に接することが出来た。
 それは日本の教育を垣間見る素晴らしい経験でもあったが、イナダ家との交流のように新しい友だちを作ることに勝るものはなかった。私の世界観は地上の異なる場所でどのように人々が生活しているかを体験することで大きく成長してきたのだが、言葉の壁や文化や食事、生活習慣の違いがあっても、学ぶことでそのギャップを埋めてきた。我々は皆、新しい人々に出会って、末永い友情を育むことを楽しんでいる。

 日本に出発する前、私の参加の目標は単純に、日本の文化について学んで、その知識や理解を私の生徒たちと共有することであった。その目標は簡単に達成された、それ以上のものを学んだ。私の日本への旅行は、ただ単純に、生徒に「何を」教えるべきかについて影響をもたらしただけでなく、彼らに如何に教えるのかについても大きく影響したといえる。我々は京都で、日本の地理や人々や文化について話してくれるマリアさんという素晴らしいガイドと出会えた。彼女は、日本には比較的限られた国土しかなく、カリフォルニア州よりわずかに小さいことにも触れた。日本の人口はアメリカの約3分の1しかないことや、日本文化は限られたスペースの中で、調和を保って人々が生活することを可能にしてくれるマナーを作り出してきたと続けて説明してくれた。それ故に、日本人は他者への尊敬と平和的な関係を重んじ、話すことよりも聞き手に回り異論を招くコメントを避けようと舵取りをする、だから日本人は(グループの)他の人のニーズを自分自身のニーズや関心ごとよりも優先して汲み取ろうとする。これを聞いた時、自分の頭の中にあった疑問がすべて解き明かされた気がした。人が互いに啓発するためには調和のための努力が欠かせない。その考え方は自分の教室にも当てはめることができる。そして私はそのための礎を自分の生徒たちに授ける努力をしたいと思う。私の世界観は劇的に、そして予期せずに、こうした考えによって変わった。私達の間に数千キロの距離が離れていようともすべての人は根本的に同じであるということを思い起こさせてくれた。
 そんな真実を私に気づかせてくれた、IEJプログラムとIISTに敬意を表し、感謝したい。

(原文:英語)



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平成26年度 第39回 国際教育者招聘事業


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