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連載 (最終回) 「ASEANの経済統合と日系企業の動向」 アセアンを巡る大競争時代の到来 | 株式会社ニッセイ基礎研究所 上席研究員 アジア部長 平賀 富一【配信日:2014/7/31 No.0233-0938】

配信日:2014年7月31日

連載 (最終回) 「ASEANの経済統合と日系企業の動向」
アセアンを巡る大競争時代の到来

株式会社ニッセイ基礎研究所 主席研究員 アジア部長
平賀 富一


変化するアセアン地域の企業動向を、より客観的に考察する上で有用と思われる視点として、アセアン経済統合を控え生産拠点および消費市場としての重要性が高まるアセアン地域への取組みを強化している非日系の有力企業を含めた「大競争時代」ともいえる状況、アセアンにおける影響度が大きい韓国・中国のアセアンへの直接投資動向について述べる。


 これまでの3回では、日本企業の動きを中心に、アセアン地域への進出や当該地域内でのサプライチェーンの構築・国際分業の進化、地域統括拠点の設立などについて述べた。本稿では、変化するアセアン地域の企業動向をより客観的に考察する上で有用と思われる視点として、アセアン経済統合を控え生産拠点および消費市場としての重要性が高まるアセアン地域への取組みを強化している非日系の有力企業を含めた「大競争時代」ともいえる状況、アセアンにおける影響度が大きい韓国・中国のアセアンへの直接投資動向を取り上げることにしたい。

1. アセアン市場における大競争時代の概況
 先ず、アセアン主要国の主要な産業分野での企業動向を各種報道等からトピックス的に概観する。
 自動車産業については、日系企業が、タイやインドネシアを筆頭にアセアン全体で約8割という大きなシェアを保有している。他方、欧米大手企業や、世界市場で5位のシェアを有する現代自動車(韓国)のプレゼンスは相対的に小さいが取組みを強化する動きが見られる。例えば、米国のゼネラルモーターズ(GM)とフォードは、インドネシア・タイを中心とするシェア拡大に向けて取組みを始めている(GMによるインドネシアでの生産拠点の再設置や大型販売店の設立などが典型例である)。現代自動車も、従来のフィリピン、ベトナム、カンボジア主力からタイ、インドネシア市場での取組みを強化する動きが見られる。また自動車部品大手のボッシュ(独)によるインドネシアでのアセアン6拠点目となる新工場の年内稼働や、タイヤ製造大手ミシュラン(仏)のインドネシアでの合弁会社の設立、中国の東風汽車によるCPグループ(タイ)との輸出目的の生産拠点のタイでの合弁設立などがある。このような市場環境下で、日系企業にとっては高いシェアの維持・拡大策が重要なポイントになると思われる。その中では、所得水準の高いシンガポールにおいて日系企業よりもドイツブランドの人気が高くなっていることから、「所得水準の向上→高級車の販売増へのシフト」という傾向にどうやって効果的に対応していくかも大切であろう。
 テレビや家電製品においては、日韓の有力各企業が競合し、それに三洋電機の東南アジアの複数拠点を買収したハイアールやTCL等の中国企業やフィリップス(蘭)、エレクトロラックス(スウェーデン)等欧州企業、地場企業などが参画している。日系企業としては、技術面の優位やブランド力・信用を維持・強化しつつ、各市場の発展度合、ニーズ・嗜好を十分に把握し、投入する製品ラインナップの検討、販売店やアフターサービス網の拡充の強化を行うことが求められよう。また、携帯電話では、サムスン電子、ノキア(フィンランド)、アップル(米)が多くの市場をリードしており、それらに、中国、台湾、日本や地場の企業が参画しての競争となっている。
 他方、日用品では、ユニチャーム(インドネシアで、子供用おむつで6割強のシェア)など特定製品で大きなシェアを有している日系企業の事例はあるが、P&G(米)、ユニリーバ(蘭)、ロレアル(仏)、バイヤスドルフ(独)など欧米の有力企業が、多品目で大きなプレゼンスを有しさらに事業の拡大・強化を図っている。また殺虫剤ではSCジョンソン(米)がアセアンの多くの国でトップシェアとなっている。食品で大きなポジションを有するネスレ(スイス)もマレーシア・ベトナム等で新工場の設置やフィリピン工場の拡張を行っている。さらに欧米の製造業では、GE(米)、シーメンス(独)や医薬品・化学品大手企業の存在感が大きい。
 サービス業の状況を見ると、小売業では地場企業と、コンビニ各社やイオン(マレーシア)等日系企業、ロッテグループ(韓)、テスコ(英)、ビッグC(仏:カジノグループ)等欧州企業などが競合している状況にある。さらに上記各社にコカコーラ等飲料や金融等も含めた欧米系の有力企業各社はミャンマー・カンボジア・ラオスの新興メコン諸国への進出を積極化している。

2. 韓国・中国企業のアセアンにおける投資状況
 (1)韓国企業のアジア地域への直接投資(FDI)は一時の中国から、近年アセアンへの投資が増加している。その特徴は、日本企業の投資が多いタイ等のウェートが小さく、ベトナムが最大の投資先(投資累計額で、米国、中国、香港に次ぐ4位)、なっていることである。ベトナムには、かつて縫製業、製靴業などの中小企業の進出が目立ったが、近年では、電気・電子産業などの有力メーカーや部品製造企業などが進出している。その代表事例はサムスン電子(同社シンガポール拠点を通じての投資)であり、先般の第一工場の稼動により、携帯電話が同国の輸出製品中の最大品目となり輸出構造の変化を主導し貿易黒字化に寄与している。さらにテレビや家電製品でもサムスン電子・LGエレクトロニクスの2社は大きなプレゼンスがあり、特にテレビでは2社合計で6割強のシェアを占める。加えて、サムスン電子の第二携帯電話工場の設立とLGエレクトロニクスの家電新工場の設立が予定されている。さらに、ロッテグループを代表とする小売業、外食産業、ホテル業、不動産業、建設業などの進出が目立っている。アセアンにおける韓国の第二の投資先は、インドネシアであり、ポスコの大規模製鉄所やハンコックタイヤの製造工場、多くの人口を有する消費市場を狙ったロッテグループ・CJグループの小売業・外食産業の進出に加え、金融・証券・保険業での進出事例も出てきている。また日本企業よりも先に進出することを狙う同国企業はフィリピンやカンボジアにも多い。
 (2)中国企業のアセアン市場との関係は、従来、中国製品の輸出先としての位置づけが大きかったが、近年は直接投資も大きく増加する傾向にある。最大の投資先は、大手企業の多くが地域統括拠点を設置・保有するシンガポール向けであるが、それに次ぐのがミャンマー、カンボジアというのが特徴的である(次いで、インドネシア、タイ、ベトナムと続く)。
 ミャンマー向けではインフラ建設、石油・ガスのエネルギー関連が多い。カンボジア向けでは、資源エネルギーと不動産分野に集中し最大の投資国になっている。さらに中国国内のコスト上昇への対応として繊維、靴、家具など労働集約型企業の進出が増加している。インドネシアでは鉱山採掘業や自動車企業、タイでは生産拠点の新設や買収などの事例があり、ベトナムではホテル業、不動産開発に加えて、家電、通信、繊維等の進出がみられている。

 以上述べた諸点に加えて、もうひとつの注目すべきポイントは、アセアン企業による域内外の他国への投資・進出の動きが活発化していることといえよう。アセアン諸国の経済発展の中で実力をつけた有力企業が、今やアセアン域内だけでなく、日本や中国・インドなどアジアの他地域、米国・欧州などにも進出する事例がみられる。アセアンに関する企業活動を考察する上では、アセアン市場における欧米日韓中等の企業の活動状況のみならずアセアンの有力企業の動向にも注視する必要が増しているといえよう。

 以上、本稿では、アセアンにおける大競争時代ともいえる状況等につき概観した。日本企業にとっては、競争の激化は脅威でもあるが、それ以上に、拡大する市場の中でどのように事業機会をつかみ成果につなげていくかが重要なポイントであると考えられる。
 複数国で事業を展開する(特に大手)多国籍企業にとっては、自社の保有する組織・人材や知のネットワークや資金力、ITなどの強みを活かしつつ、現地人材の活用を図り現地のニーズ・嗜好に沿った製品・商品の提供を行う、「グローバル標準化」と「現地適応化」という二大命題の両立が求められる。他方、中堅・中小企業にとっては、既に多くの先例もあるように、日本国内における市場の伸びの鈍化や競合の存在などの事情によって事業の拡大に制約がある状況を打破して大きく発展・飛躍するチャンスがあるだろう。

(本稿の作成においては、各国政府の資料、各企業の公表資料、日本貿易振興機構(ジェトロ)の各種資料、新聞・雑誌の報道・記事などを参考とした)。

ジャカルタ(インドネシア)の家電量販店の風景(筆者撮影)

ジャカルタ(インドネシア)の家電量販店の風景(筆者撮影)

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