連載 (全4回) 「ASEANの経済統合と日系企業の動向」
第2回:日系企業の進出状況と製造業におけるサプライチェーン・企業立地の変化
第2回:日系企業の進出状況と製造業におけるサプライチェーン・企業立地の変化
株式会社ニッセイ基礎研究所 上席研究員 アジア部長
平賀 富一
日本企業のアセアンへの進出状況については、原加盟国5ヶ国とベトナムが多く、特に原加盟国では進出の歴史が長い会社が多い。一方、韓国はベトナム・カンボジア、中国はミャンマー・カンボジア重視という特徴がある。次いで、製造企業における特徴的なトレンドについて、自動車産業を例にとって、サプライチェーンの構築や生産拠点の配置・再配置の動向を紹介した。
1. 日本企業のアセアンへの進出動向(韓国・中国との比較の視点も踏まえて)
日本企業のアセアンへの進出状況(表1)を見ると、2014年のデータによれば、合計が6,135社と中国における日系企業数の6,276社とほぼ拮抗している。次いでその域内の国別の企業数を見ると、タイ1,956、シンガポール1,149、インドネシア944、マレーシア841、ベトナム679、フィリピン479、カンボジア・ラオス・ミャンマー(CLM)の3国計87と、アセアンの原加盟国5か国とベトナムが多い。次にこれを2004年以前の進出と2005年以降で対比すると、2004年以前の比率がマレーシアの79.8%からインドネシアの64.3%と原加盟国において長い創業の歴史を有する会社が多い。一方、後発加盟国においてはベトナムの33.1%のように比較的近年になって操業を開始した企業の比率が高い。未だ数は少ないもののカンボジア・ラオス・ミャンマーへの進出国も増加しつつある(2012年末時点の我が国の対外直接投資の残高で、アセアンは1,222.7億ドルと中国の932億ドルを上回っている)。我が国企業のアセアンにおける投資は、既進出の企業による追加投資や域内他国への投資、新規の企業による投資が増加しており、対象国としては、投資先として再び評価が高まっているインドネシア・フィリピンや域内のフロンティアであるCLM諸国が注目されている。また、部品企業やサービス企業も含めた中堅・中小企業の進出も増えている。2000年と2014年のデータで企業数にほとんど変化がないシンガポール、マレーシアでは、企業の入れ替わりの他、生産拠点から地域統括拠点等への進出目的の変化や拠点機能の高度化・高付加価値化が進んでいるものと推量される。

2. アセアンにおける製造企業のサプライチェーン・企業立地のトレンド
近年のアセアンにおける製造企業の動向における特徴的なトレンドについて、産業の裾野の広さから現地の経済発展に大きく寄与し、また日系企業が約8割のシェアを有し主導的ポジションにある自動車産業を例にとって、サプライチェーンの構築や生産拠点の配置・再配置のポイントについて以下に考察する。

さらに、人口が多く消費市場としての魅力が増しているインドネシアにも、日系企業のみならずGM(米)、吉利汽車(中国)、フォルクスワーゲン(独)など自動車メーカー各社の投資が増加しており、同国はアセアンでタイに次ぐ生産台数となっている。このように、アセアンの自動車市場においてはタイとインドネシアが二大生産拠点となり、域内の他国は、両国の拠点への部品等の供給元になるという国際分業化が進んでいる。
以上、自動車産業を例にとってサプライチェーンや企業立地のトレンドを見た。企業においては、従来のように各国の拠点がそれぞれ独立性の強い点としての存在から、アセアンやアジア地域を面として捉え、統合された戦略の下に、各国の拠点や取引先を有機的に活用し、相互の情報や知識・経験・ノウハウを利用しての効率化や標準化、リスクの分散化などを行うダイナミックな分業・連携体制が整備されつつあり、この流れは、2015年のアジア経済共同体(AEC)のスタートや、東アジア地域包括的経済連携(RCEP)、環太平洋パートナーシップ(TPP)協定などによる制度的統合の進展によってより高度で洗練された構造に進化するものと考えられる。それをより実のあるものとするためには、単に、コスト削減や標準化による経済合理性や効率性追求の面を重視するだけでなく、各国の消費者の多様なニーズ・嗜好等を捉えたデザイン・機能・特性をもった製品をタイムリーに投入できる(現地適応化)体制の整備が同時に重要なものになろう。