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消費税率引き上げを克服する日本経済 | 日鉄住金総研(株) チーフエコノミスト 北井 義久【配信日:2014/04/30 No.0230-0926】

配信日:2014年4月30日

消費税率引き上げを克服する日本経済

日鉄住金総研(株) チーフエコノミスト
北井 義久


 日本経済は4月の消費税率の5%から8%への引き上げにより一時的な景気後退を余儀なくされるが、労働需給のタイト化による賃金上昇により夏以降再び順調な回復がスタートする。


 日本経済は、個人消費を中心として順調な景気拡大を続けている。さらに労働需給のタイト化により非正規労働者の賃金は既に上昇に転じており、正社員の基本給の引き上げも緩やかながら進みつつある。4月の消費税率の5%から8%への引き上げにより消費税負担が8兆円強(名目GDPの1.7%)増えることから、日本経済は一時的な後退を余儀なくされるが、個人所得拡大が税負担増加を打消し14年夏以降再び順調な回復に向かうと見込まれる。

 ここでこれまでの景気回復過程を振り返ると、好調な個人消費と不振を続ける輸出が好対照である。個人消費では特に旅行などのサービス関連需要が好調である。例えば、大手旅行業者の国内旅行取扱額は13年2月に前年比でプラスに転じ、14年に入って8%近い伸びを続けている。さらにシティホテルの稼働率は14年2月に79.9%と80年代末のバブル期並みの水準に達し、新幹線の輸送客数も13年末には前年比で4%前後増えている。サービスだけでなくモノの需要も好調である。消費税率引き上げ前の駆け込み需要による押し上げもあるが、13年度の乗用車販売台数は484百万台と12年度を9%上回った。12年度にエコカー補助金による上振れ分が含まれていることを考慮すると、足下の乗用車販売は、リーマンショック後の買替えの先送り分の顕在化により予想以上に好調である。

日本の新幹線輸送人数  この様に個人消費が好調な背景としては、まず消費者マインドの改善を指摘することが出来る。まず、労働市場の状況をみると、有効求人倍率が13年11月に07年10月以来初めて1倍を超えるなど需給が急速にタイト化している。その結果として失業保険受給者数は90年代初めの水準まで低下しており、失業率も14年2月には3.6%まで下がっている。失業に対する懸念が払拭されてきたことから、消費者マインドは着実に好転しており旅行などのペントアップディマンドの顕在化に繋がっている。

 さらに労働需給のタイト化は、派遣社員やパート社員の時給上昇をもたらし、個人消費を支えている。日本では、従業員の過不足の調整は派遣社員、パート社員、正社員の順番で行われることが一般的であり、派遣社員の時給が景気動向に最も敏感に反応する。その派遣社員の時給は13年半ばの1,470円前後から14年初めには1,530円前後に4%上昇している。同様にパートの時給も上昇基調にある。

三大都市圏の派遣スタッフ募集時平均時給  非正規従業員の賃金が上昇に転じる中で、女性・高齢者の就業増加も消費にプラスに働いている。これまで時給が低かったことから就業をためらっていた層が時給の上昇と共に働き始めており、両者を合わせた労働人口は年率で50万人前後増加している。賃金の上昇と共に就業者数が増加することで個人所得トータルの伸び率は着実に高まっており、個人消費の拡大を支えている。加えて、個人消費の順調な拡大は、サービス産業の設備投資増加をもたらしている。大型小売店やコンビニの新規出店は高水準を維持しており、インターネット販売増加による小口輸送拡大に伴って倉庫・トラック需要も伸びている。空運・鉄道・ホテル業でも、好調な企業収益を背景に企業は設備投資に前向きになっている。

日本のコンビニ店舗増加数  一方で輸出の伸び悩みは長期化しており、その結果として製造業の設備投資の回復も遅れ気味である。移転価格税制の影響により契約価格の変更が難しいことから円安にも関わらず輸出契約価格は下がっておらず、日本製品の価格競争力は高まっていない。さらに、中長期的な現地生産へのシフトの動きが維持されていること、アジア諸国の景気が失速気味であることが思いがけない輸出停滞の長期化をもたらしている。さらに14年第1四半期には、消費税率引き上げ前の駆け込み需要に対応するために、国内への出荷を輸出に優先する動きも見られている。

 この様な状況の中で日本経済は4月1日の消費税率引き上げを迎えた。4月以降個人消費が数か月間減少することは避けられないが、夏以降景気は持ち直しに転じ15年に向けて徐々に拡大テンポは加速する。この背景としては第一に、賃金上昇の動きが非正規労働者から正社員に広がることが指摘出来る。失業率は賃金が上昇に転じるとされる4%を下回る水準となっており、14年の春闘で、多くの大手・中堅企業が数年振りの月例基本給引き上げを容認せざるを得なくなっている。加えて、企業収益の拡大に応じたボーナスの引き上げが14年には期待出来ることから、消費税率引き上げに見合った賃金の引き上げが実現出来る可能性は高い。また公務員の給与削減が14年3月に終了することも、賃金上昇に寄与する。国家公務員で3,000億円弱、地方公務員に関しては7,000億円前後の給与所得の増加が見込まれる。また、「経済の好循環実現に向けた政労使会議」が安倍政権の下で開催され、13年12月に経済の好循環を起動させる為に企業収益の拡大を賃金上昇に繋げることの必要性を盛り込んだ提言案が公表された。90年代半ば以降、基本的に賃金抑制政策を維持してきた日本政府の方針が転換し、賃金上昇の必要性が政府・企業・組合の間で共有され、たことで、賃金上昇へのハードルは確実に低下した。

 第二に、停滞していた輸出の持ち直しも期待出来る。新興国は長期化した金融緩和の後遺症に14年内は苦しむ可能性が高いが、米国・欧州諸国は不良債権問題や財政赤字問題の解決に一応目途を付けており概ね順調な回復を維持する。その結果、新興国向け輸出は底入れし、先進国向け輸出は安定した増勢に転じると見込まれる。また消費税率引き上げ前の一時的な輸出抑制の影響が4月以降無くなることも輸出にはプラスである。さらに、輸出が持ち直しに転じることにより、出遅れていた製造業の設備投資の回復テンポが徐々に加速する。

 第三に、東京で大規模な都市再開発がスタートする。2020年の東京オリンピック招致が決まったことをきっかけとして、東京都心部で計画されていた数多くの再開発計画が一斉にスタートする。2020年にかけて北陸・北海道新幹線の開通、東京周辺の三つの環状高速道路の完成が予定されており、東京圏のインフラ整備は一挙に進む。このインフラ整備を踏まえて大規模な再開発計画が東京都心で数多く計画されている。公表されている計画を集計すると、現在の東京23区内のオフィスビル床面積90百万㎡に対して、20百万㎡の大型ビルが今後10年前後で建設される予定である。これが日本経済に与える、直接間接のプラスは大きい。

 1997年4月の消費税率引き上げは、不良債権問題の悪化、アジア金融危機の発生、後ろ向きの財政政策などにより深刻な景気後退を日本経済にもたらしたが、今回はその二の舞は避けられそうだ。
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