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安倍政権、中韓との関係改善が課題に =オバマ政権も注視= | 時事通信社 解説委員 山田 惠資【配信日:2014/03/31 No.0229-0923】

配信日:2014年3月31日

安倍政権、中韓との関係改善が課題に
=オバマ政権も注視=

時事通信社 解説委員
山田 惠資


 高い内閣支持率を追い風に安定した政権運営を続ける安倍晋三首相だが、外交面では不安要因も広がっている。引き金となったのは昨年末の首相による靖国神社参拝だ。中国、韓国の激しい反発を招いただけでなく、同盟国である米国も憂慮の念を深めている。安倍政権としては、対中・韓関係の改善を急ぐ必要性に迫られているが、具体的な道筋は見えていない。


◆集団的自衛権行使容認に強い意欲
 3月4日の参院予算委員会。集団的自衛権行使について、「戦争になる」と反対論を展開する野党の質問に対して、安倍首相はこう反論した。「議論をすることで日米同盟の抑止力が強化され、結果としてそういう事態を招かないことにもつながっていく。(米国との)同盟関係を維持するには、お互いに努力が必要だ。(日本は)何もやりません、米軍の兵士に命を賭けてください、というのが通用するのか」
 首相は4月に私的諮問機関「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」(安保法制懇)から集団的自衛権行使を憲法解釈変更によって容認する内容の報告書を受け取った後、今国会中(会期6月22日)に閣議決定したい考えだ。同時に、4月下旬のオバマ米大統領来日を控え、米側が長年求めている集団的自衛権行使の容認への道筋を明確にして、日米同盟を強化する狙いがある。
 このような首相の集団的自衛権行使容認への積極姿勢には、首相の靖国参拝以来、漂う日米間のぎくしゃくした空気を払しょくする意図があることも見逃してはならない。

◆靖国の狙いと誤算
 首相が靖国参拝を行ったのは政権発足から丸1年を迎えた昨年12月26日。首相周辺では、中国や韓国との関係悪化を懸念する菅義偉官房長官や今井尚哉首相秘書官らが慎重論を唱えていた。また、米政府からも参拝断念を求める声が届いていた。しかし、自民党内の保守派自任する首相にとって、第1次安倍内閣(2006年9月~07年9月)時代に靖国を参拝しなかったことは、「痛恨の極み」(首相)であった。就任当初から靖国参拝は悲願だったわけだ。
 参拝後、首相は待ち構えた記者団に神妙な面持ちでこう説明した。「二度と再び、戦争の惨禍によって人々の苦しむことの無い時代を創るとの決意を込めて不戦の誓いをした」。「不戦の誓い」を強調することで国内外の幅広い理解を求めたわけだ。同時に首相は「中国、韓国の人々を傷つける考えは毛頭ない」と強調した。
 それでも中国は「極めて大きな憤慨を覚える。靖国神社は対外侵略を精神的に支えた場所でA級戦犯が祭られている。国際社会への挑戦で、中国、韓国の感情を傷つけた。」(程永華駐日大使)と批判。韓国も朴槿恵大統領自身が「歴史の傷をえぐるな」と厳しく難じた。ただ、首相にとって両国のこうした反応は「織り込み済み」だった。首相の靖国参拝を支持していた首相周辺の一人は「もともと、日本と中韓慮との関係は十分悪く、火の手が上がっている。ここで首相が靖国参拝してもボヤみたいなものだ。急に火が付くわけじゃない」こう言い放っていたほどだ。しかし、首相の靖国参拝にオバマ政権は「失望」を表明した。
 それでも、このメッセージが首相の靖国参拝直後に米国務省サイドから発せられた際、日本側では「中国重視の民主党政権が失望しているにすぎない。対日関係の主流である共和党系の専門家は首相を支持している」と過小評価した受け止め方が根強かった。象徴的だったのは、米国の失望表明に対して、2月中旬に首相側近の衛藤晟一首相補佐官が動画サイトで「むしろわれわれの方が失望なんだ」と批判したことだ。衛藤氏の発言の背景にはオバマ政権への「不信感」があった。
 衛藤氏は自身の発言が批判的に報じられても、「何が問題なのか分からない」と語っていたが、その直後に発言を撤回し、動画も削除した。菅義偉官房長官が首相と協議した上で撤回を指示したのだった。これは米国への配慮もあったと言える。

◆米の懸念
 米側の「失望」発言の本質には、1952年発効のサンフランシスコ講和条約を土台に出来上がった日米同盟が、東京裁判で戦争責任が確定したA級戦犯を合祀する靖国神社参拝によって揺らぎかねないことへの懸念がある。ただ、それ以上に米側が神経を尖らせているのは次の2点だ。
 一つは、日本と中国との関係悪化がきっかけとなって両国間に偶発的な衝突が起きて、アジア太平洋地域の安全保障が不安定化することである。仮に、日中間で不測の事態が起きれば、米国としては同盟国関係にある日本側に付かざるを得ない。しかし、米国にとって「中国との軍事的対立はリスクが非常に大きい」(日本側のシンクタンク関係者)。それだけに、オバマ政権は尖閣問題への深入りを避けつつ、日中両国に自制を求めてきたが、首相の靖国参拝で日中関係の緊張が強まることを不安視している。
 ただ、中国側は、首相の靖国参拝を受けて、旧日本軍による南京事件や抗日戦争勝利の節目を国家の法定記念日に制定すると決定。また、戦争中の強制連行をめぐり中国人元労働者らが損害賠償を求めて集団提訴。安倍政権に相次ぐ「歴史カード」で揺さ振りを掛け続けているのが現状だ。
 もう一つは、冷え込んでいる日韓関係修復の道筋が依然、見えないことだ。安倍政権発足以降、日中首脳会談と同様に、安倍首相と韓国の朴槿惠大統領による首脳会談は一度も実現していない。日本海の竹島をめぐる領有権問題に加え、靖国参拝や従軍慰安婦問題が大きな障害となっている。とりわけ、従軍慰安婦問題で旧日本軍の強制性を強く示唆した1993年の「河野官房長官談話」(河野談話)の見直し論が日本側に浮上していることが韓国側の反発を一段と硬化させている。安倍首相自身は、河野談話や過去の植民地支配と侵略を認めて謝罪した95年の村山富市首相談話を継承する意向を示し、「対話のドアは常にオープン」と対話を呼び掛けている。しかし、韓国側は応じようとしない状況が続いている。
 そうした中、3月25日、オランダ・ハーグで開かれた核安全保障サミットの会場で、安倍首相、オバマ大統領、朴大統領の3者による首脳会談が開かれた。安倍、朴両氏の初の正式会談はこれが初めて。この会談が実現した背景にはオバマ大統領の強い意向が働いた。日韓間の対立がいつまでも続けば、中国や北朝鮮と対峙する東アジア地域での情勢が不安定となり、米国の利益が損なわれるとの危機感があるからだ。このため、オバマ大統領は4月下旬のアジア歴訪の際、日本とともに韓国も訪問。引き続き日米韓の連携強化を図るが、日韓首脳同士の会談実現につながるかどうかは、なお未知数だ。
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