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自然体で回復してきた日本経済 | 日鉄住金総研(株) チーフエコノミスト 北井 義久【配信日:2013/09/30 No.0223-0904】

配信日:2013年9月30日

自然体で回復してきた日本経済

日鉄住金総研(株) チーフエコノミスト
北井 義久


 日本経済は昨年末から回復を続けている。これはアベノミクスの効果と言うより、輸出の底打ちにより日本経済の自然な回復力が素直に表れた結果である。さらに、労働需給のタイト化による賃金の上昇より、自律的な回復が続く。


 日本経済は、中国向けを中心とする輸出の減少により12年春から冬にかけて軽い景気後退を余儀なくされた。しかし、個人消費が堅調を維持し輸出が底打ちしたことにより、景気は12年11月に底を打ち、13年度上期にかけておおむね順調な回復が維持されている。さらに、13年2月の補正予算の効果、14年4月の消費税率引き上げを控えた駆け込み需要の顕在化により回復テンポは高まりつつある。

 個人消費は予想以上に好調である。例えば、乗用車販売台数は4月以降年率で4.5百万台前後と12年度の4.4百万台を上回るペースを維持しており、食料品などの基礎的な消費動向を示すチェーンストア販売額も持ち直しに転じている。さらに、これまで抑制されていたサービス関係の消費と高額消費が活発化している。シティホテルの客室稼働率は、80年代末のバブル期に近い水準に達し、13年夏の国内旅行者数は前年を10%前後上回ったと言われている。加えて長期化した節約の反動などから、外食・サービス分野などでワンランク上の消費を求める動きが強まっている。この様に、個人消費が好調な背景としては、雇用環境の好転を指摘することが出来る。失業率は6月に3.9%と08年10月以来初めて3%台に低下した。「団塊の世代」の完全リタイアにより労働人口が減少を続ける中で、サービス産業を中心として企業は雇用を増やしており、労働需給はタイト化してきた。結果として賃金は横這い圏内にあるものの、個人は雇用に不安を持たず、消費を行うことが出来るようになった。

 次に、住宅着工戸数は、リーマンショック後一時、年率700千戸まで下落した後、13年上期には年率900千戸台半ばまで増加している。特に消費税率引き上げを前にして分譲住宅の伸びが目立っている。さらに、リーマンショック後に先送りされた持家・貸家の着工も景気回復期待の高まりと共に顕在化してきた。一方で、設備投資は、個人消費の持ち直しを背景として非製造業の動きが活発化している反面、製造業の動きは鈍い。非製造業の設備投資に関しては、個人消費の持ち直しと収益の好転を背景として大店立地法届出件数がリーマンショック前の水準まで回復し、コンビニの店舗増加も年率2千店を超えている。さらに、インターネット販売の増加に伴う自動倉庫需要の増加により倉庫建築も活発化している。ただし製造業の設備投資は、12年末まで輸出が減少を続けてきたこと、設備能力過剰が解消していないこと、14年度に設備投資減税の強化が予定されていることなどから、回復が遅れ気味である。

 輸出に関しては、減少を続けていた中国向けがようやく下げ止まったこと、米国向けの回復が維持されていることから、底打ちから回復に向かいつつある。ただし、急速な円安にも関わらず輸出は伸び悩んでいる。これは、BRICs諸国・ユーロ圏経済の低迷が続いていることに加えて、円安の影響力が弱まっていることによる。これは、移転価格税制への対応がさらに厳しくなっていることによる。移転価格とは親会社と海外子会社などの関連企業間に取引に適応される価格である。この価格の設定次第で親会社と子会社に発生する利益に大きな変化が生じる為、各国の税務当局は移転価格の設定水準には神経質になっており、移転価格の設定方法等に関して企業は税務当局との間で事前協議を行うことが珍しくない。従って、円安により円建て輸出価格を引き下げる余地が日本の親会社に生じたとしても、円建て輸出価格の引き下げは日本の税務当局により否認される可能性がある。海外の資本関係の無い企業への輸出価格は、自由に設定することはできるが、輸出に占める親子企業間の取引比率は最近50%前後で推移しており、円安は輸出に影響しにくくなっている。特に対米輸出に関しては、90%前後が親子間取引とされており、ドル安円高が対米輸出に与える影響は少ない。

 以上の通り、13年に入ってからの景気回復は、「アベノミクス」の効果と言うより、日本経済の自然体の回復力が、輸出の底打ちにより素直に発揮されてきた結果と考えることが出来る。今後5兆円前後の公共投資追加の効果が本格化することは確実だが、国債大量購入による超金融緩和は、円安が輸出増加に結びついていないことや、輸出企業の設備投資に動意が見えないことから、実体経済に顕著なプラスをもたらしたとは言いにくい。逆に円安は、食料品・エネルギー価格上昇により個人消費にマイナスに働いていると見ることが可能である。また株高に関しても、百貨店の高級品販売が増加していることは事実だが増加額は500億円前後にすぎず、他の分野における高級品販売を含めても、個人消費全体を支えているとは考えられない。

 さらに、今後の日本経済を展望すると、14年度上期は消費税率引き上げにより一時的な停滞を余儀なくされるが、その後は個人消費の持ち直し、設備投資・輸出の緩やかな回復の継続により1%台の内需主導の安定成長が実現する可能性が高い。日本経済は2000年代以降、2度の安定成長への移行の機会があったが、リーマンショック・東日本大震災の二つの大きな外的ショックにより、景気後退を余儀なくされた。今回は、消費税率引き上げが安定成長への移行を妨げる要因となり得るが、a)失業率低下により賃金が今後緩やかに上昇することが確実なこと、a)必要があれば補正予算の追加などの柔軟な経済対策が打ち出されること、c)中国など新興国経済に不安は残るものの海外経済の急速な落ち込みが想定しにくいこと、から安定成長への移行にようやく成功する。

日本の乗用車販売台数
日本の実質輸出
日本の失業率と賃金上昇率
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