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(本記事の英語版はこちら)

平成25年度 「国際教育者招聘事業 (IEJ)」 所感| ランチョ サン ジョアキン中学校 (アーヴァイン/ カリフォルニア州) 教師 ステイシー・ヤン【配信日:2013/08/30 No.0222-0903】

配信日:2013年8月30日

平成25年度 「国際教育者招聘事業 (IEJ)」 所感

ランチョ サン ジョアキン中学校 教師
ステイシー・ヤン


 IISTは日本人子女教育に携わる欧米の教育者を招聘し、日本の教育環境と共に日本の歴史や文化に触れ、その体験を教育現場で活かしていただくための「IEJプログラム」を本年6月23日~7月4日の日程で実施しました。以下、参加された24名のうちのお一人である米国ロサンゼルスの中学校教師ステイシー・ヤン先生のプログラム所感をご紹介します。

国際教育者招聘事業(IEJ)


「和を以て貴しと為す」御朱印 「和を以て貴しと為す」。御朱印に刻まれた、斑鳩の法隆寺の僧侶の筆による書の言葉である。聖徳太子の第十七条憲法第一条のこの文言は、何世紀にもわたって世の風潮や規範を形成し、又、今日の日本文化を体現している。ありがたいことに、2013年の国際教育者招聘(IEJ)プログラムの中で、私はしばしばこのテーマに触れることができた。

 IEJプログラムでは、南カリフォルニア、デトロイト、サンアントニオ、ダラス、ポートランド、デンバー、アトランタ、トロント、ブリュッセルから選ばれた教育者が訪日し、日本の教育システムを研究し、文化や社会について学んだ。参加者の多くは日本から移り住んでまもない生徒を指導しており、今回の経験を通じて彼らの日本での生活への理解を深めるのみならず、彼らがアメリカの学校制度に順応するより良い手助けができるだろう。参加者は全員、6月23日(日)東京に到着した。 何が待ち受けているか誰にもわからないが、皆、様々な新しい経験を全て受け入れようという気持ちで来日した。

IEJプログラム参加者 到着翌日の早朝、勇猛果敢な教師仲間数名と共に有名な築地魚市場を訪れた。たちまち私は市場の雰囲気に圧倒され、あちこちで忙しく行き交う互いのカートにぶつからぬようハンドルを切りながら、冷凍魚を詰めた箱を多数載せた電動車両を操る業者の様子を眺めていた。これが築地の典型的な一日であり、どこから見ても混沌としていたが、私たちは皆、それが長年の経験や確かなスキルによって演出される一種のダンスに過ぎないことに気づいた。誰もが慌ただしく仕事に追われているにも関わらず、とりわけ観光客の一団がポカンと口を開けて見とれ、道を塞いでいる時でさえ、彼らにはイライラやストレス、怒りの兆候が垣間見えないことに私はやがて気づき始めた。それどころか、彼らは礼儀正しく丁寧で、築地の調和と一定した淀みない流れを心得ていた。 これは有名な魚市場である築地なればこそ、と推測していた私であったが、このような調和は街の至る所に存在するということにすぐに気づくことになった。

渋谷スクランブル交差点 おそらく東京で最も混雑の激しい駅であり、スクランブル交差点のある渋谷でも、他国の多くの大都市とは異なり、誰もが秩序正しく行動していた。 道の左側を歩き、エスカレーターでは右側に並び、電車やバスに乗る時は整列して待つ等々、広く受け入れられている慣例があるように見えたが、誰かがそれらに違反しても混乱にはならず、あたかも一時的に方向を変えた水流が蛇行しながら本来の水路に戻るかのように、自然の成り行きで物事は滞りなく動いていた。現代社会の喧噪に付き物であるイライラ、欲求不満、不安といったものを予想していた私にとって、このことは意外であった。日本の社会に調和がいかに深く根付いているかを認識するのに時間はかからなかった。寛容さを失わず、また、人の役に立ちたいと願い、状況を十分に認識し、東京という大都会をスムーズに動かし続ける秩序正しい生活のバランスを維持することによって、争い事を避けることがここでは求められている。

 翌日は九段中等教育学校で一日を過ごした。そこでは生徒が私たちに付き添って様々な教室を案内してくれた。私が見学した二つの教室では生徒は課題に取り組んでいて、大変行儀が良かった。だが、休憩時間になるとより自由に振舞い、仲間同士で集まったり、ふざけて互いに押し合ったりする彼らを見て、私はカリフォルニア州アーバインの教え子を思い出した。授業が始まると、彼らはすぐに勉強に集中していた。授業の冒頭、生徒は揃って教師に挨拶し、 終了時には指導に対し「ありがとうございました」と感謝を述べる。この儀礼的行為は、礼儀正しいだけでなく教育に感謝の気持ちを持つ生徒を育む学習プロセスを日本の文化が尊重していることを明確に示している。昼食は教室で生徒と一緒に食べたが、彼らは野菜スープやメロンパン、新鮮な果物、牛乳というヘルシーランチを私たちに用意してくれた。食事が済むと、自分たちだけでなく私たちの分まで片付けてくれた。校内で暗黙のうちに繰り返される日常活動や調和を目にし、ここにも日本の社会が求める整然とした物事の流れが存在することを知った。

 商業都市東京の喧噪を離れ、私は都市とは異なる小さな町での全く違う経験を心待ちにしていた。だが、日本人とのあらゆる交流を通じて繰り返し思い知らされたのは、調和が日本の文化に深く根差したものだという事だ。見知らぬ人に問いかけ、無視されたことは一度としてなかった。 それどころか、多くの人はわざわざ目的地まで同行してくれたし、又、片言の英語であっても懸命に私の質問に答えようとしてくれた。興味深いことに、たとえ外国人相手であっても、食前に「いただきます」、食後には「ごちそうさま」と口にすることや、寺院での礼拝や神社での柏手の回数といったあらゆる事には、調和や意味が存在するということを証明しているようだ。文化が日常に深く浸透し、それは単にうわべだけの習慣というだけではなく、生活の全てに浸透している。

 IEJの内容にはホームステイプログラムで日本人家族と生活を共にすることが含まれており、参加者はより小さなグループに振り分けられ、それぞれ豊田、奈良、斑鳩で過ごした。私は斑鳩に到着した際、光栄にも全ホストファミリーや市長の歓迎を受けた。どのホストファミリーにもその翌日に見学する斑鳩東小学校に通う子供がいた。ホストファミリーとの生活を通じて私は、日本の家族にとって、更には日本人の子供にとって典型的な一日とはどのようなものかを知ることができた。日本の子供は通学に関して多くの選択肢を与えられ、バスや地下鉄、自転車といった手段であれ、私のステイ先の子供のように45分かけての徒歩通学であれ、自力で登校することになっている。彼らは午前8時頃から午後3時もしくは4時頃までを学校で過ごし、そして、児童の多くはスポーツや太鼓、家庭教師等の放課後プログラムにも参加していた。小学生であれば午後5時か6時頃、より年長の子供は時に夜遅くに一日の活動を終えていた。子供たちの勤勉さ、彼らの生活の多忙さには驚きを感じた。

課外活動の太鼓 斑鳩東小学校で、私は一日を通じて様々なクラスや学年を見学した。まず印象的であったのは、この学校がいかに児童主体で運営されているかということであった。歓迎集会では演奏や合唱を児童が指揮していたし、どのクラスにも積極的に活動する児童がいた。能力レベルに関わらず、全員が参加している様子を見て私は驚きを感じた。子供たちはその活動に非常に誇りを持っていて、その活動に必要な環境があらゆる面で整えられていた。私は、水泳や美術、習字、体育、課外活動としての太鼓に、英語、数学の授業を見学した。最も興味を覚え、驚いたのは、昼食後に全校児童が協力し合って学校の掃除をするのを目にした時だった。床にモップをかけ、黒板をきれいにし、机を念入りに拭く児童の姿は、彼らが自分たちの学習環境や互いの存在をどれほど尊重しているかを私に明確に教えてくれた。児童と教師の双方が、教育や学校を心から大切にしている。日本の子供は学年にかかわらず非常に幅広い教育を受けているということも、この学校訪問を通じて知った。

花火 ホストファミリーである寺田夫妻や彼らの二人の子供と過ごした時間は、紛れもなく私にとってお気に入りの最も有意義な時間であった。ある夜は皆で手巻き寿司を食べ、又、別の夜には日本風ピザ/パンケーキであるお好み焼きの作り方を彼らに教わった。お好み焼きは、今では私の好きな日本食の一つになっている。子供たちには折り紙を教えてもらい、一緒に花火で遊んだ。花火と並ぶもう一つの夏の遊びは金魚すくいである。私たちは金魚で有名な小都市、大和郡山を訪れた。まず、小さな櫂のような紙製の小さなすくい枠(ポイ)を買った。ゲームの目標は、紙が水で破れてしまうまでにできるだけ多くの金魚をすくうことである。私たちは意思疎通に悪戦苦闘しながらも、互いの生活を知り、様々な経験や背景を共有しようとする純粋な努力によって、よりリラックスすることができた。前日知り合ったばかりのこの家族を何年も前から知っているような気がしていた。

 斑鳩に滞在中、私たちのグループは東大寺を訪れた。東大寺は、世界最大のブロンズ製大仏像が安置された世界最大の木造建築の一つである。私たちは最高位の僧から仏教における調和の美徳について多くを学びながら、午後の時間を過ごした。翌日は世界最古の木造建築である法隆寺に出かけた。東大寺も法隆寺も、数百の他の寺院と共に奈良県に位置している。これらの史跡への畏敬の念、及び神道と仏教の融合を目の当りにし、日本人の歴史や文化保存への強固な信念というものを強く感じた。東京から奈良へと移動し、私は、日本の文化が世の中の発展や技術的進歩を取り込む一方で過去を正しく認識することによって、どれほど調和のとれたものとなっているかを理解することができた。大都市の人であれ、ここのように水田に囲まれた地方都市の人であれ、それほど大きな違いはなかった。

 この過去への正しい認識は、広島を訪れた時に最も明確なものとなった。私たちは原爆ドームや広島平和記念公園を見て回ったが、それは身の引き締まる内省的な経験であった。ここでも又、日本人がどのようにして過去を土台に未来へと歩んだかを知った。幸運なことに、広島原爆の生存者でカルビー株式会社相談役でもある松尾康二氏にお会いすることができた。松尾氏の父は、広島の沿岸資源や地域住民のスナック菓子製造への要望をビジネスチャンスとして捉え、同社を設立した。今や、カルビーのかっぱえびせんは世界的に有名である。松尾氏の被爆後の人生や原子力の影響についての学びは、世界の全核兵器の廃絶というメッセージと共に、講話全体を通じて心の琴線に触れる力強い教えであった。最も困難な苦渋の道を経て手に入れた、平和や安定を希求する文化がここにも存在した。

京都 プログラム最後の目的地は京都であった。それまでにかなり多くの寺院を訪れていたので、これ以上どこを見ても驚くことはあるまいと高を括っていたが、この予想は良い意味で裏切られた。京都の街を見渡す清水寺の舞台で、私はその絶景にしばし圧倒された。私たちは、金閣寺、銀閣寺、伏見稲荷大社を巡り歩いた。その他にも、街や周辺の山々の中に数えきれないほどの神社仏閣が点在していた。どこも非常に個性的で美しく、味わいがあった。哲学の道や鴨川を散策しながら、京都のような都市が現代的な建築や街並を数百年の歴史を持つ木造の神社仏閣と共存させ存在しうることに信じがたい思いがした。古い物と新しい物、木とコンクリート、過去と現在という歴然とした対比と呼ぶべきものの中に見事な調和が存在した。京都はこのプログラムの締めくくりに相応しい場所であった。ここに来て私は、東京や奈良、広島での出来事を振り返り、過去と現在の繊細な調和がどのようにこの国や人々の心に息づいてきたかを思うことができたのである。

 日本はほぼ単一民族で構成され、独自の文化を持つ極めて個性的な国である。日本史を理解する上で、中国や朝鮮からの影響を知ることは欠かせない。例えば、平和的なものであれ、戦闘的なものであれ、様々な時代における他国との関係や、全て出来事が、最終的に現在の日本の形成にどう影響したのかということである。日本人は最新の外国からの影響を取り入れて新しい物を創り出すことを好むが、日本文化は仏教や神道の歴史に非常に深く根ざしている。聖徳太子の憲法から侍による武士道の教え、明治維新、更には現代日本に至るまで、この国の文化は常に調和を重んじてきた。日本人が混沌とした現代世界でバランスを保つことができているのもこの調和によるものである。また、時には理解を超えるところがあるかもしれないにもかかわらず、外国人をひきつけ、日本文化を言葉では言い尽くせないものにしているのも、この調和というものである。

 京都での最後の夜、IEJ 参加者全員が揃っての夕食会が催された。日常的経験を披露し合って話に花が咲いたが、私たちにとってより重要だったのは、面白おかしく忘れ難い多くのエピソードに彩られた各自の気ままな冒険談を共有することであった。もはや目の前の食べ物について質問する必要もなく、それらが果たして美味しいのかどうか不安に感じることもなく、私たちは最後の日本式ディナーを堪能した。参加者の多くはもう既に箸を上手に使いこなしていたし、畳の間に上がる際に靴を脱ぐことにも抵抗がなくなっていた。参加者の経歴は様々であったが、それぞれが日本文化への一層の理解、新たな視点、共通の経験を携えて日本を後にした。翌日には私たちはアメリカやカナダ、ベルギーで教師としての生活に戻ったが、日本で過ごした日々は、ホスピタリティや友情、日本文化における調和の体験を通じて、教師としての質を高める手助けとなるであろうことを確信している。

(原文:英語)



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平成25年度 第38回 国際教育者招聘事業


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