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連載 中央アジアと日本 第1回 中央アジア・南コーカサス概観 「今でしょう! 中央アジア・南コーカサスへの再取り組み」 | IIST・中央ユーラシア調査会 代表幹事 中央アジア・コーカサス研究所 所長 田中 哲二【配信日:2013/04/30 No.0218-0889】

配信日:2013年4月30日

連載 中央アジアと日本 第1回
中央アジア・南コーカサス概観
「今でしょう! 中央アジア・南コーカサスへの再取り組み」

IIST・中央ユーラシア調査会 代表幹事
中央アジア・コーカサス研究所 所長
田中 哲二

1. 地政・文化・親日観など
 ――1991年にソ連邦より独立したユーラシア内陸部の8カ国(日本の10倍の面積、カスピ海東岸に中央アジア5カ国、カスピ海西岸に3カ国)。典型的な大陸性乾燥気候<緯度的には日本の東北・北海道>、各国とも80~120の多民族国家、古トルコ族のイスラーム圏(ただしグルジア・アルメニアはインド・ヨーロッパ語族系、最古のキリスト教国)、歴史的には周辺大勢力の緩衝地帯性格が強く、東西<シルクロード>・南北<スラブ圏~イラン・インド>交流の交差点。近年150年間はパックス・スラブの支配、とくに後半70年は社会主義ソ連邦の政治的・思想的呪縛を受ける。それにも拘わらず、イスラーム文化の保持・復活と潜在的なアジア人帰属意識は根強い。「雁行モデル」に示される経済開発の模範・多額のODA供与国(2010年度までに中央アジア合計で3500億円)であることに加え、「日露戦争」における日本の戦勝イメージや第二次大戦直後の日本人抑留者のインフラ建設の労働作業での貢献等からもともと「親日観」は強いのだが、昨今日本のODAの絶対的・相対的後退や米国、EUに加え近隣のアジアから韓国・中国・トルコ・パキスタン・インドの進出が加速していることから、「親日観」はこのところ後退気味である。現在、尖閣諸島問題、竹島領有問題、北方4島帰属問題等の一斉台頭に示されるように、我が国を巡る東アジア情勢は厳しさを増している。こうした折だけに、"中国の裏庭"と"ロシアの柔らかい脇腹"に多くの親日国の存在を維持・発展せしめることは、資源の開発輸入対象地域であることも含めて、中央アジア・コーカサス友好外交が我が国の安全保障上これまで以上に極めて重要なテーマになってきていることを改めて認識すべきである。本シリーズでは中央アジア・コーカサスの現状の理解深化のために、2回目以降国別に専門家に易しく解説してもらいます。

中央アジアとコーカサス 2. 政治情勢――権威主義的政権の継続、軟着陸していない政治と経済の関係
 ――中央アジア・南コーカサスのソ連邦からの独立は、連邦中枢のロシア・モスクワの政局混乱によって受動的に実現した所謂「棚ボタ」独立でした。従って独立といってもほとんどの国で、新共和国の大統領にはソ連時代の地区の共産党のトップが横滑りで座り、未だに独裁体制の一歩手前の「権威主義的統治」を続けている。2000年代に入り幾つかの国で民主化を標榜した所謂「カラ―革命」が発生したが、後継政権も権威主義的統治手法から抜け出せていない。一方、社会主義イデオロギーから脱した新しい国造りに期待される「民主的国民国家アイデンティー」の確立の前に、パックス・スラブ以前の「部族主義」「地域主義」「ネポティズム」への回帰という一種の「先祖返り」現象が先行してしまっている。この結果、国内統治が「法治主義」より「人治主義」に傾斜し、政府機関や半国営大企業への人材登用の偏りや様々な組織の腐敗・汚職を招来している。翻って中央アジア・南コーカサスの現実をみると、政治的民主化と国民経済の発展・向上のバランス(所謂「途上国における政治と経済の軟着陸」)を獲得するまでは、「権威主義的統治」は取り敢えずは国民生活引き上げのための経済開発活動に、求心力と秩序を持たせるための「段階的な必要悪」という現実的な機能を果たしていることも否定しきれない。ただその場合でも、権威主義的リーダー(為政者たる大統領)は、人権抑圧と環境破壊のコストを最小限に留める責任と、これが不十分な場合には厳しい西側からの国際的非難を背負っていることを改めて銘記すべきである。
 中央アジア・コーカサス地域は9・11事件後の米国等西側軍の進出により、プレーヤーをロシア、中国、米国、EUそれにトルコ、イラン、韓国、パキスタンとする21世紀版グレートゲームの様相を呈している。また、中央アジア・コーカサスが東西冷戦時の東側の最前線であった痕跡は随所に残存する。キルギス共和国では米軍の「マナース国際空港基地」進出の直後にロシアが「旧カントCIS空軍基地」を復活させており、30キロメートル以内に米空軍とロシア空軍が対峙を続けるという世界でも珍しい状態が続いている。プーチン復活ロシア大統領は、首相時代の2008年8月にグルジアに再進出し、2011年秋には中央アジアへの復帰も意味する「ユーラシア経済共同体」構想の推進を打ち出している。
 中央アジアはその地政学的な位置から、「独立国家共同体(CIS)」等多くの地域協力機関に参加を余議なくされているが、その最大のものは「上海協力機構(SCO)」である。SCOの形成と拡大は今のところ、主に中国に多大のベネフィットをもたらしているが、中国とロシアを中心とするSCOに加盟している中央アジア4か国は、対日関係を含めSCOが偏った行動に出た場合に何らかの歯止めの役割を果たすことが期待されている。

中央アジア・南コーカサス諸国概要 (510KB)

3. 経済の状況――相当な天然資源(主にエネルギ―、希少金属)保有地帯、ただし資源国と非保有国の経済格差は拡大
 ――中央アジア・コーカサスは、基本的にはパックス・スラブ以前の遊牧業・オアシス農業の伝統を引き継いだ農・牧業国家群である。今経済的に世界が注目しているのは、既に大々的に開発がスタートしているエネルギー資源(石油・天然ガス、石炭)を中心とする鉱物資源埋蔵の多様さと外資によるその一段の開発期待である。主な資源埋蔵量を世界順位で見ると、カザフスタンではウラン第2位、クロム第1位、亜鉛第5位、石油第9位(世界シェア―2.8%)。キルギスでは水銀第3位、モリブデン第10位。ウズベキスタンでは金第10位、ウラン・モリブデン共に第12位、ヨウ素第4位、天然ガス(世界シェア―0.9%)。タジキスタンではアンチモン第4位。トルクメ二スタンでは天然ガス第4位(世界シェア―4.3%)、臭素第3位、ヨウ素第6位。また、コーカサスのアゼルバイジャンでは原油・天然ガス(共に世界シェア―0.5%)、臭素第3位、ヨウ素第6位などが目立っている。しかし、現状は中央アジア・コーカサス諸国8カ国中、エネルギー資源保有4カ国と非保有4カ国の間には経済パフォーマンスに大きな格差が生じている。例えば、1991年の独立時にはほぼ同水準であった一人当たりGDPをみるとは、20年後の現在、資源国のカザフスタンで約10000ドルに達しているのに対して非資源国のキルギスでは約1000ドルと10倍もの開きとなっている。この背景の一部として、経済開発モデルとしての(1)急進的な自由化・民営化・市場化を標榜する「IMF ・アングロサクソンモデル」と(2)市場未発達状態下での政府・中銀の市場介入と漸進的な制度改革を容認する「日本・東アジアモデル」への対応問題がある。多くの国では「IMF融資の条件(コンデショナリティー)」として(1)を採用した。資源保有国は何とかこのタイトロープの政策をクリア―したものの非資源国は経済活動の混乱が先行してしまったケースが多い。近年、非資源国の中でも独立20年を経て漸く小規模製造業等が自律的に立ち上がるケースも目立ちはじめてはいる。エネルギー・非鉄金属の開発輸入以外の投資市場としてみた場合、(1)労働コストは中国の半分以下、という有利な条件はあるが、(2)消費市場としては規模が小さいこと(8カ国合計でも総人口6000万人)、(3)地勢的にインターロックトで貿易に有利な海港を持たない、(4)政治的にも一枚岩でなく経済共同体的なまとまりに乏しい、などの不利な条件はまだ根本的に解決されてはいない。この地域の投資に絡むカントリーリスクの政治的マイナス要因として「イスラーム過激派の活動」「権威主義的政府の外資管理」が指摘されている。しかし、前者は地域的にもごく限られた範囲のものであり勢力としては飽くまでマイナーなもので、日本にはジャ―ナリステックに過大に報道されているきらいがある。後者については、窓口業務の非効率性や汚職絡みを伴い易い面もあるが、経済発展の現段階ではむしろ外資の安定性の保護機能の役割を果たしている面もある。何れにしても、たとえ一見良好パフォーマンスに見える資源保有国であっても、資源開発中心型の経済発展に偏ることなく、もう一度「輸入代替・輸出促進型」の経済構造の再構築に立ち戻る必要がある。かっての宗主国ロシアのエネルギー資源開発偏重型経済が、原油の国際価格の変動に大きく左右されている現実を隣国から目の当たりにしているはずである。それに代替エネルギーの開発も世界の大きな潮流である。また現状では、資源開発関連及び一部都市(アスタナ、タシュケント等)での建設・不動産投資以外の外資は資金の回転の速い第3次産業(小売・流通業、ホテル・レストラン、金融・両替商等)に集中する傾向が強い。依然高いカントリーリスクと受け皿企業の未発達から、海外からの投資資金が、本来長期資金の必要な製造業に大量には向って行かないという状況は改善していない。

中央アジア諸国等の独立後の実質GDP成長率の推移 (88KB)

4. 日本との関係・日本の役割――資源開発だけ止まらない多面的な外交が必要
 ――1990年代の日本・中央アジア関係は、もっぱら日本が同地域での最大のODA供与国として存在していたことにあるが、2000年代に入りそれも4~5位に後退した。現在、日本が対中央アジア経済外交として最も力を入れているのが、石油・天然ガス開発への参加とレアーメタル、レア―アースの開発輸入のための民間投資である。当面こうした資源外交とODAを中心に日本・中央アジア関係は進んで行こうが、20~30年後の日本・中央アジアの太く安定した関係の樹立を展望するならば、資源開発に止まらずに幅広く産業技術の輸出のほか環境対応システム・技術の供与、教育・医療の高度化のための支援、その他もろもろの文化交流活動等の多面的な交流の一段の促進は不可欠である。現地側もこれを期待している。
 さて日本は今後どういう姿勢で中央アジア・コーカサスに対応していくべきか。
 資源外交以外では、
(1) インド、インドネシアの後の製造業の直接投資市場、
(2) 旧シルクロードの国境を越える国際観光ルート開発への参加と大量の観光団の送り込み等が期待されるが、より長期的・歴史的視点に立てば
(3) 日本の経済援助は中央アジア・コーカサス諸国の経済格差シェ―レを縮小させるように運用されるべきである。その結果、域内経済共同体化が促進されることが望ましい。この点について日本政府は2004年8月に「中央アジア+日本」フォーラムを立ち上げ、域内共同体の形成を後押しているが、バイの関係はかなりの進展がみられるが、中央アジア全体の統合という意味ではまだ実質的な動きには至っていない。
(4) 中央アジア地域の旧ロシア時代の負の遺産の解消に貢献する必要がある。特に「アラル海の干害問題」や「セミパラチンスクの放射能残留問題」の対応は日本の専門家・学者の得意な分野である。
(5) 地勢的・歴史的に根強い対立構造の存在する中・ロ間(ないし中華民族とスラブ民族間)に一定の政治・経済力を持った「中小緩衝国家群」の育成への貢献が望ましい。安定的な緩衝地帯の形成は、ユーラシア大陸内陸部の平和・安全保障ひいては東アジアの平和のために重要な役割を果たすことになる。
(6) 21世紀における日本の経済力・各種技術、文化の中央アジア・コーカサスへの移転は、ミレニアム単位での「西から当然した文物(東大寺正倉院に残る文物、仏教など)」に対する逆流ないし返礼と考えるくらいの余裕が欲しい。

5. 中央アジア・南コーカサスのカントリー・ランキング――まだ低い西側の評価
 ――中央アジア・コーカサス諸国のいくつかのカントリーランキングは別表 (116KB)のとおりである。域内最大の資源国であるカザフスタンが、毎年のダボス会議の主催団体でもある「ワールド・エコノミック・フォーラム」の世界競争力評価で144カ国中51位まで上昇してきたのはまずまずとしても、親欧米的な政治スタンスをとるキルギスやグルジアはその経済の実力から見ればやや過大評価になっているように窺われる。
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