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アベノミクスでデフレ脱却はなるか | 一般社団法人 共同通信社 予定センター長 編集委員 柳沼 勇弥【配信日:2013/04/30 No.0218-0887】

配信日:2013年4月30日

アベノミクスでデフレ脱却はなるか

一般社団法人 共同通信社 予定センター長 編集委員
柳沼 勇弥


 安倍晋三首相はデフレを克服するため、大胆な金融緩和などを柱とする経済政策「アベノミクス」を打ち出した。アベノミクスの本質を検証し、日本経済の先行きを探ってみたい。


▽金融政策のレジームチェンジ
 日銀は4月4日、黒田東彦総裁ら新執行部による初の金融政策決定会合で、2%の物価目標の達成に向け、大規模な「量的・質的金融緩和」を決めた。アベノミクスの中核である大胆な金融緩和の大きな一歩であり、金融政策の歴史的な転換と言える。アベノミクスにより日本経済は長期のデフレから脱却できるとの期待が高まっているが、ハイパーインフレや国債価格の暴落が起きるという反対論も強い。
 安倍首相が昨年12月の衆院選で公約に掲げたアベノミクスは、大胆な金融緩和、機動的な財政政策、成長戦略の「三本の矢」により脱デフレを目指す経済政策だ。このうち最も重要なのは第一の矢の金融政策である。具体的には物価目標の下で強力な金融緩和を進める。安倍首相は金融政策の「レジームチェンジ(体制転換)」とうたっている。
 日銀は、白川方明前総裁が率いた今年1月の金融政策決定会合で、2%の物価目標を導入するとともに、追加金融緩和を決めた。しかし追加緩和の開始は2014年初めからで、13年中はすでに決定していた金融緩和を実行するという内容だった。物価目標という新しい枠組みはつくったものの、具体的な金融緩和策は先送りされたのが実態だ。昨年11月の衆院解散以降、大幅な株高と円安が進行したが、金融政策に対する期待が先行してきたと言える。
 黒田日銀は、2%の物価目標を「2年程度の期間を念頭に置いて、できるだけ早期に実現する」と宣言。金融市場調節の操作目標を、無担保コール翌日物金利からマネタリーベース(資金供給残高)に変更し、残高を12年末の138兆円から14年末に約2倍の270兆円に拡大することを決めた。白川日銀の小出しの金融緩和と比べるとまさに次元の異なる金融緩和であり、レジームチェンジと呼ぶにふさわしい。
 日本経済は、生鮮食品を除いた消費者物価指数では1998年から、GDPデフレーターでは1995年からデフレに陥り、十数年にわたりデフレ不況が続いてきた。アベノミクスで日本経済はデフレを脱却することができるのだろうか。

▽予想インフレ率の上昇
 日銀が2%のインフレを目指して資金供給を持続的に拡大し、人々の期待に働き掛けることにより、予想インフレ率が上昇する。これに伴い、株高と円安が進行し、予想実質金利が低下する。これらの経路を通じて企業業績の改善、設備投資と消費の増加が実現し、2年程度でデフレから脱却できる―。これが黒田日銀の描くシナリオだ。
 通常の国債と物価連動国債の利回りの差を示す「ブレーク・イーブン・インフレ率(BEI)」は、市場の予想インフレ率を示す指標とされる。各種の調査では一般の人々の予想インフレ率はまだあまり上昇していないが、BEIはすでに1%台半ばに上昇している。一方では大幅な株高と円安が進行し、輸出企業の業績改善と一部企業の賃上げの動きも出てきている。金融政策はすでに相当の効果を挙げていると言ってよい。
 しかし、長期デフレで人々の間には強固なデフレ予想が定着している。投資家はともかく、一般の人々の予想インフレ率を高めるのは容易ではない。このため、2年程度で2%の物価上昇を実現するのは無理だという見方が少なくない。
 これに対しては、景気指標がある程度改善し、デフレ脱却が展望できる状況になれば、2%のインフレにこだわる必要はないと言いたい。インフレ目標(物価目標)を採用している国では、目標値に上下1%の幅を設けている例が多い。日銀の場合も、2年間で1%程度のインフレを実現できれば合格としてよい。その時点で景況感は相当に良くなっている上に、予想インフレ率は2%程度に上昇している可能性が高いからだ。日銀は再度、2%の物価目標を達成するまで資金供給を拡大することを宣言し、実行すればよい。そうすれば、時期は遅れても2%のインフレは実現できると考えられる。

▽2%の物価目標は世界標準
 アベノミクスに対しては、金融政策を中心に批判が絶えない。しかし、それらの批判は誤解に基づくものが多い。その最たるものが、2%の物価目標が異例の金融政策だという見方だ。
 物価目標、あるいはインフレ目標は、二十数カ国で採用されている世界標準の金融政策である。目標値は2%程度が多く、ポイントで定めている国と上下の幅を設けている国がある。中央銀行は目標の達成責任と説明責任を負うのが一般的だ。大規模な金融緩和も、08年のリーマン・ショック以降、米連邦準備制度理事会(FRB)をはじめ多くの国の中央銀行がすでに実施している。日銀はようやく先行グループの仲間入りをしただけだ。
 安倍首相は日銀法の改正に言及しながら2%の物価目標の導入を日銀に迫った。この経緯に「日銀の独立性が侵害された」という批判が相次いだ。しかし、これは「中央銀行の独立性」を理解していない論評である。
 インフレ目標採用国では、目標値は政府が決めるか、または政府と中央銀行が協議して決め、金融政策の手段は中央銀行に一任される国が多い。すなわち中央銀行に「目標の独立性」はなく、「手段の独立性」だけが認められるのが一般的だ。安倍首相は日銀の手段の独立性は尊重すると明言しているから、問題はない。

▽高インフレ、国債暴落の懸念は
 金融政策でインフレは起こせないという批判がある半面、インフレが起きるとハイパーインフレになるという警告がある。しかし2%の物価目標がある以上、インフレが2%を超えて高進しそうになれば日銀は金融を引き締めるから、インフレの進行は止められる。インフレ目標採用国で高インフレが発生した例はない。
 日銀が国債を大量に購入し続ければ、財政ファイナンス(政府の借金の肩代わり)と受け止められ、国債価格が暴落(金利は暴騰)するという批判がある。しかし2%程度のインフレが安定的に実現できれば、日銀は国債の購入をやめるから、財政ファイナンスは回避される。
 そもそもインフレ目標はインフレを防止するために考案された仕組みであり、ハイパーインフレや財政ファイナンスを防止するのに最適なのである。

▽財政政策と成長戦略の役割
 第二の矢の財政政策は、効果が一時的であり、金融緩和を後押しする役割と位置づけられる。その限りでは有効な政策だが、公共事業のばらまきという古い自民党政治が復活して財政出動が繰り返されることになれば、大いに問題がある。財政規律が損なわれれば、それこそ日銀の国債購入に対する信認が低下する懸念があるからだ。
 政府は、6月につくる経済財政運営の指針「骨太の方針」を踏まえて、今後数年間の歳出の見通しを示す財政健全化計画をまとめる方針だ。ここで財政再建の詳しい道筋を示すことが、アベノミクスが成功するための一つの重要なポイントになる。
 金融政策と財政政策だけでデフレを克服するのは困難で、最も重要なのは骨太の方針に盛り込まれる第三の矢の成長戦略だという意見が多いが、的外れである。成長戦略は中長期的な潜在成長率を高めるのが目的で、極めて重要だが、短期のデフレ対策にはなり得ないからだ。本命となるべきは規制改革だが、実現には何年もかかり、それが効果を挙げるにはさらに何年もかかる。過去10年ほどで成長戦略は6回策定されたが、成果はゼロに近いことを思い起こすべきだ。
 (2013年4月8日)
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