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内需主導の経済成長と日本経済 | 株式会社 日鉄技術情報センター チーフエコノミスト 北井 義久【配信日:2012/07/31 No.0209-0850】

配信日:2012年7月31日

内需主導の経済成長と日本経済

株式会社 日鉄技術情報センター
チーフエコノミスト
北井 義久


 日本経済はようやく内需主導の経済成長が定着しつつある。その中で懸案の財政赤字の本格的な削減を実現するには高齢者向けの社会保障支出の抑制を本格化させる必要がある。


 日本経済は、個人消費を中心として順調な拡大を続けている。例えば乗用車販売台数は、エコカー補助金の再開もあり2012年上半期は年率5.1百万台と、10年の4.2百万台、11年の3.5百万台を大きく上回っている。エコカー補助金が終了する8月以降は販売台数の減少が避けられないと見込まれるが、エコカー補助金予算が前回の半分であったこと、11年の買換え需要が12年にずれ込んでいること、ディーラーが積極的な販促策を講じることから、減少幅は比較的軽微なものに留まる。また、地デジ特需が一巡した液晶テレビは販売台数が11年の21.1百万台から年率8百万台前後に急減しているが、白物家電製品・携帯電話の販売は好調である。白物家電に関しては、電力不足問題が長引く中で省エネ性能の高いエアコン・冷蔵庫、新機能を付け加えた洗濯機・掃除機などが好調である。またスマートフォンは、携帯電話からの買い替え需要と二台目需要により販売台数が急増している。さらにコンビニチェーン全体の売上高は前年比5.9%と好調を維持している。

日本の乗用車新車登録台数  この様に、個人消費が堅調な動きを続けている背景としては、労働需給の改善により賃金がようやく下げ止まりから上昇に転じ始めたことを指摘することができる。新規求人数と新規求職数の動きを見ると、11年6月に新規求人数が新規求職者数を上回った後、その差は順調に拡大しており、12年5月には新規求人数の年率977万人、新規求職数は同745万人となっている。さらに復興投資の本格化と共に東北地方の建設労務者の日当は、15千円前後から25千円前後に上昇しており、徐々に周辺地域に波及し始めている。12年半ば以降さらに復興投資が増えることは確実であり、建設労務者不足が他の業種の労働者の需給逼迫に繋がり、賃金全体が上がり始める可能性が高い。

日本の新規求職・求人数  また、堅調な個人消費を背景にして、小売業を中心とする非製造業の設備投資が盛り上がって来た。コンビニの店舗数は、11年5月には前年比で681店舗の増加であったが、12年5月には1,747店舗と急増している。大規模小売店舗の新設届け出数も、2010年は57店9であったが、12年1~5月は年率708店と20%以上増えている。さらに携帯電話会社は、スマートフォンの急増に伴うデータ通信需要増に対応して、新たな電波帯を確保すると共に基地局投資を拡大している。製造業についても、先送りされていた維持・更新投資を本格化する動きが続いており、6月調査の日銀短観によれば、大企業製造業の設備投資は12年度に12.4%増となる計画である。住宅投資も、復興投資の拡大などにより増加しつつあり、住宅着工戸数は11年9月のボトムの年率749千戸から12年5月には903千戸に増加している。一方で、円高が定着したこと、世界経済の回復スピードが中々高まらないことから、輸出はやや伸び悩んでいる。さらに、多くの日本メーカーは今後の海外需要の増加には、現地生産の拡大で対応する方針であり、中期的にも輸出は増加しにくくなっている。

 この様に、12年度の日本経済は個人消費などの内需を中心として3%前後で成長することが確実になりつつあり、13年度に関しても内需主導で2%前後の成長を続ける可能性が高まっている。さらに、中期的に見て日本経済にとって最も重要な問題の一つである財政赤字に関してもようやく前進が見られた。6月23日に衆議院において「社会保障と税の一体改革関連法案」が可決された。8月中には参議院においても可決される可能性が高く、14年3月に5%から8%に、15年9月に8%から10%に消費税率が引き上げられることがほぼ確実になった。12年度の財政赤字は30兆円前後が見込まれており、消費税引き上げによるトータル10兆円の税収増と、法人税・所得税の自然増収10兆円により、歳出増加を見込んでも、財政赤字は15年度には名目GDPの3%前後の15兆円まで減少すると予想される。ただし、高齢者が急速に増加を続ける中で社会保障関係の歳出の増加が続くことから、日本の財政を健全なものとする為には、本格的な歳出抑制に踏み切る必要がある。ここで、中央・地方政府を合算した歳出を推計すると、高齢者向けを中心とする社会保障関係予算が2000年度の75兆円から2011年度には105兆円に増加している。さらに今後65歳以上の高齢者は団塊の世代が65歳に到達する為、向こう5年間、年率2~3%で増加すると予測されており、社会保障関係予算の自然増圧力はきわめて強い。高齢者一人当たりの社会保障関係支出を抑制しなければ、消費税率を10%に引き上げた効果は短期間で失われてしまう。欧米では公的年金の支給開始年齢の引き上げが予定されており、支給水準の見直しも議論されている。国民の間におけるコンセンサスを得ることは困難であろうが、老人医療費の抑制も含めて、高齢者向けの社会保障支出の見直しが日本の財政をソフトランディングさせる為には不可欠である。

日本の社会保障支出
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