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日本についての洞察に満ちた考察 | ベトナム商工省 多国間貿易部 ASEAN部門 主任 レ・チャウ・ジュン【配信日:2012/01/31 No.0203-0827】

配信日:2012年1月31日

日本についての洞察に満ちた考察

ベトナム商工省 多国間貿易部 ASEAN部門
主任
レ・チャウ・ジュン


 メコン地域の貿易・投資及びその他地域の経済活動の活性化と我が国とCLMV諸国との経済関係強化を目指して、貿易研修センターは平成18年度から「CLMV有望指導者招聘」を実施しています。「地域資源を活かした産業振興」をテーマとするその第5回には、カンボジア、ラオス、ミャンマー、ベトナムの中小企業振興担当の行政官、経済団体幹部等、計12名が参加しました。そのなかのお一人、ベトナム商工省のレ・チャウ・ジュン氏から同事業についてご寄稿いただきました。


 東南アジア域内において経済統合がより一層進められる中、東南アジア諸国連合(ASEAN)の後発加盟国であるカンボジア、ラオス、ミャンマー、ベトナム(CLMV)は、先進加盟国との経済格差を是正するため日々努力を重ねている。天然資源などの地域資源という共通の強みを持ち、経済の工業化を推進するこれら諸国にとって、「地域資源を活かした産業振興育成」をテーマとした第5回CLMV有望指導者招聘事業は、日本の経験から学ぶ絶好の機会であった。また、本招聘事業は、日本の中小企業が如何にして一貫した理念を持ち続ける一方で、実務レベルでは革新的な力を発揮し、発展してきたかについて考察するまたとない機会となった。

プログラム・オリエンテーション

プログラム・オリエンテーション

 日本というと、私たちの多くが、強い回復力、勤勉さ、ソニー・ホンダ・トヨタといった大企業を思い浮かべるが、その他の企業や個人がどのように地域資源を活かして働き、世界へ優れた資質を提供し、経済発展に貢献しているかを知る機会に恵まれる人はあまりいない。一週間(2011年12月4~10日)にわたり東京・香川・京都で実施された本事業を通じて、われわれカンボジア、ラオス、ミャンマー、ベトナムからの参加者は、それぞれの国の発展そして日本とのより一層の協力関係を強化する上で役立つであろう、地域資源を活かした産業振興に関する日本の経験についてだけでなく、日本の起業家精神や文化を理解する機会を得た。

 中小企業育成・振興を含む地域資源を活かした産業振興に関する日本の経験で最も重要なのは、国の関連機関が財政支援により中小企業が活躍しやすい環境を提供したことであろう。日本では中小企業の割合が国内企業の90%以上を占めるが、CLMVでは更に高い比率を占めている。そのため、参加者の多くが、当分野における日本の経験に強い関心を持っており、経済産業省からは各国で応用できる非常に有益な情報を得ることができた。また、CLMV諸国が他のASEAN加盟国同様に、ASEAN経済共同体(ASEAN Economic Community)が第3の柱として掲げている「域内の均衡のとれた経済発展」という目標を達成するためにも、中小企業の発展は、より一層重要な意味を持っている。

 本プログラムで大変貴重だったのは、地域資源を活かすための情報やケーススタディー、そしてこの分野における日本の経験が初めに紹介されたことである。参加者はまず、ロイヤルシルク財団の黒田正人氏より地域資源を活かした興味深い事例、例えば「いろどりプロジェクト」※1を通じて、横石知二氏※2が如何にして沈滞していた上勝町を活気ある場所へ変えたか説明をうけた。こうしたコミュニティの力を活用した産業創出事例から、私たち参加者は、地域資源を活かした製品の開発を成功させるためには地域ブランドの育成が重要だと理解した。今まで私達は、マーケティング戦略としてブランド力を利用するためには多額の投資資金が必要だと考えていたが、すでに存在する地域資源に目を向け、想像力を発揮し、それぞれの資源に適した市場を探求、創出し、地域資源を上手く活用することが大切なのだと学んだ。こうした日本の成功事例は、多くの地域資源を有するものの、ブランド力育成のために多額の予算を持っているわけではない我々CLMV諸国にとって大変有益で、新産業創出の上でも、大いに参考になると思われる。

 本プログラムは、日本人起業家や経営者の仕事や人生に関する哲学について理解する機会ともなった。1本の鉛筆の持つ意味を夫婦の絆になぞらえた北星鉛筆(株)の社長、「(自然とともに)生かされている」という勇心酒造(株)の(東洋的)発想、鎌田醤油(株)の伝統を守るという強い思い、そして自らのつづれ織りに対する研究や創作活動に関する小玉紫泉氏※3の話から、我々は、製品とりわけ地場製品には製作者の理念や哲学が秘められていることを知った。また、このような理念や哲学を持った中小企業だけが、浮き沈みを経て発展し、企業を継続維持できるのだと感じた。

北星鉛筆株式会社(東京都葛飾区)訪問

北星鉛筆株式会社(東京都葛飾区)訪問

小玉紫泉つづれ織工房(京都市)訪問

小玉紫泉つづれ織工房(京都市)訪問

 本事業で最も興味深かったのは、中小企業が発展していく上でどのように創造性を発揮してきたか、その方法を発見できたことだ。私達は、「もくねんさん」※4を導入した北星鉛筆(株)の革新的アイディアや、米を用いた新製品として化粧品や発酵製品等を産み出した勇心酒造(株)のライスパワープロジェクト、(株)大和製作所による麺類の「トータルソリューション」アプローチについて興味深く、そして楽しみながら学んだ。そして、これらの経験事例から、地域資源を活かす方法だけでなく、刻々と変化する市場の需要に対応するためのイノベーションの大切さについて学んだ。CLMV諸国で米は主要産品であることから、伝統的な素材(米)から新たな価値を見出した勇心酒造の事例を、CLMV企業もぜひ研究し、追随してほしい。また、ハードからソフトまで網羅したトータルソリューションビジネスのアプローチが、IT部門におけるIBM等の主要企業に限られず、製麺機生産を手掛ける(株)大和製作所、更にはCLMVに存在する多くの中小企業にとっても同様に可能なアプローチであることに気が付いた。生産面だけでなく流通分野においても革新的なビジネスモデルをもつ鎌田醤油(株)や高松市における大型商店街の改革プロセスからは、ニッチ市場の探し方や都市開発プロセスについて示唆を得た。

 香川大学訪問では、「日本の食の安全」人材育成プログラムに参加する中国やタイ、ベトナム等の留学生に会うことができたのが印象深かった。(株)ホワイトフーズの中国への進出や業務展開に関する事例は、私達が外国人投資家、特に中小企業の投資家と仕事を進める上で重要な情報となった。また、味の素冷凍食品(株)によるトレーサビリティー(食品の生産履歴管理)に関するプレゼンテーションも大変役に立った。CLMV、特にベトナム企業と日本企業間では現在、食品加工業分野において緊密な連携関係が深まりつつあり、香川大学のプログラムやホワイトフーズ、味の素等の事例はこの連携をより一層促進するのに役立つだろう。冷凍食品は新たな可能性を秘めた分野としてCLMV諸国で注目を集めており、日本企業の経験や経営手段等は双方にとって新たなビジネスチャンスを追求する上で強みとなるのではないだろうか。
 私は、本招聘事業を通じて日本の地場産業振興や革新的アプローチによる地域資源の活用方法に関する私達の理解が深まったと確信している。また、日本の中小企業が起業家精神にあふれ、非常に伝統的な製品であってもビジネスの開発に創造性を発揮し、変化する市場ニーズに的確に対応していると認識した。日本がCLMV諸国を含めた地域との経済統合をより一層進めようとする今、日本の中小企業は、これらの資質によって国内のみならず、国外に目を向け、海外に業務を拡大しても、成功し続けるであろう。もちろん、そのためには政府による適切な支援が欠かせない。日本のみならずCLMV諸国も、経済統合プロセスが加速する中、素晴らしい伝統文化や職人の技を守るため、中小企業を手助けしていく必要がある。日本とCLMV双方の中小企業の協力の機会について大きな可能性を見出した私達は、これらの機会が近い将来実現することを切に願っている。
 色々と述べたが、本招聘事業の重要な成功要因は、貿易研修センター(IIST)による周到な準備と優れたプログラム運営によるところが大きい。この日本での大変有意義な事業に参加できたことに関し、全参加者を代表して経済産業省(METI) 並びに IISTに称賛と深い感謝の言葉を捧げたい。個人的には数度の来日経験を持つ私ではあるが、この第5回CLMV有望指導者招聘事業は最も印象深く心に残るものであった。本事業を通じて培われた知識や絆は日本との協力事業を含む今後の仕事における支えとなるであろうことを、私達は強く確信している。
感謝を込めて

(原文:英語)

※1:徳島県の山村が木の葉を料亭や旅館などが使う飾りとして、新たな市場を創造した成功プロジェクト
※2:当時上勝町農業協同組合営農指導員、本プロジェクトの火付け役
※3:西陣織伝統工芸士
※4:鉛筆製造からでるおがくずを再利用して作成した粘土


関連ページ
平成23年度 第5回 アジア有望指導者招聘事業


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