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関西の経済と産業- 経済協力への秘められた可能性 | スイス日本商工会議所(SJCC) 事務局長 ポール・ペイロ【配信日:2011/12/27 No.0202-0823】

配信日:2011年12月27日

関西の経済と産業- 経済協力への秘められた可能性

スイス日本商工会議所(SJCC)
事務局長
ポール・ペイロ


 IISTは、2011年10月24~28日に、関西地域(大阪、神戸、京都)において、第40回「リーダーシッププログラム」を開催した。プログラムでは、「21世紀の新たな発展をリードする関西の経済と産業」をテーマに、海外8カ国のオピニオンリーダーを招聘した。 以下、スイスの参加者ポール・ペイロ氏に、所感をご寄稿いただいた。


 海外から日本への関心はほとんど東京に集中している。 私個人も同様だ。関西地区とその膨大な文化遺産、経済力、そして潜在力はあまり知られていない。 そこでIISTが企画した第40回「リーダーシッププログラムへ」のお招きを、深い感謝と関心をもってお受けした次第である。

 このプログラムには、政府関係者、企業トップ、研究者、起業家、芸術家の皆様方の幅広い識見が巧みに組み合わされ、取り入れられていた。 我々のグループは、設立間もない企業から数世紀の歴史をもつ企業、伝統手工芸品を生産する企業から最新のハイテク機器を生産する企業、手作業で生産を行う企業から完全オートメーションの生産ラインを導入している企業まで、大小さまざまな企業を訪問させていただいた。 数々の素晴らしい訪問によって、関西経済の幅広さと多様さを見ることができた。

シャープ(株)グリーンフロント堺

シャープ(株)グリーンフロント堺

 近畿経済産業局の長尾正彦局長から関西経済の特色を具体的にご説明いただいた。 続いて週のハイライトとも言える企画が登場した。 シャープ(株)のグリーンフロント堺工場訪問である。 バスで現地に到着したとき、私は自問した。 「工員・社員の皆さんの駐車場はどこにあるのだろう?」。 生産ラインのツアーでその答えは明らかになった。 シャープの大型薄型テレビディスプレイとソーラーパネルの生産が、始めから終わりまですべてオートメーション化されているのである。 この複雑な生産の全工程を、最新式のロボットだけで処理している。 人の手が関わるのは、自動化された工程を遠隔で操縦・制御する部分のみである。 光栄にも片山幹雄社長のお出迎えを受けた。 片山社長は、これら2つの分野(テレビディスプレイとソーラーパネル)の激しい国際競争を踏まえた上で、見事なほど率直にシャープの戦略を詳しく説明してくださった。 製品と生産工程の両面で最新技術を駆使する、競争の世界の明らかな「勝者」さえもが競合他社に一歩抜きんでるため、今も常に課題に立ち向かっている。私にとって、シャープはそのことを示す一つの印象深い実例である。

 さらに、ハードロック工業(株)を訪問し、そのカリスマ創業者である若林克彦社長にお目にかかることによって、我々は関西経済のもう一つの典型例を知ることになった。 ハードロック工業はSME(中小企業)で、完全な私企業である。創業者が日本の伝統的建築技術(楔:くさび)を取り入れたユニークな製品(ハードロックナット)を開発し、同社を設立した。この製品は幅広く使用され、固定用にボルトを使用するすべての建物、構造物、機械の安全性を実質上ノーコストで高めている。 完全に独力で自身の他の発明品によって資金を集めた若林氏は、そのユニークな製品によって世界市場、そして宇宙さえも手中に収めつつある。その成功は誰の目にも明らかだが、若林氏は謙虚な姿勢を忘れず、新たな発明に関心を持ち、社会に貢献する製品の開発・販売に熱意を注いでいる。 若林氏が起業家として、そして人としての鑑であることは間違いない。 また、(株)フジキンの見学も、起業家精神について一つの教訓を私たちに与えてくれた。 コンピュータチップ産業にも貢献するハイテクながれ(流体)制御システムの一流メーカーであるフジキンは、創業者らの力で困難な時期を乗り越え、注目企業として返り咲いた。 その後、同社のマスコットは「ダルマ」になった。 困難な状況に直面しても決して諦めない姿勢を象徴する不屈のキャラクターである。

フジキンのシンボル、ダルマ

フジキンのシンボル、ダルマ

 現在、フジキンはその基礎を関西に置きながらグローバルに事業を展開し、米国、アイルランド、ベトナムに生産拠点を設けるなど、本当の意味での多国籍企業へと成長した。 大阪城見学は、我々が関西地区の豊かな文化遺産に初めて触れる機会となった。

 住友精密工業(株)訪問は、完璧な機械技術を幅広い製品ラインの成功にどのように結び付けることができるかを我々に教えてくれた。 同社の製品は、マイクロ技術から航空宇宙用部品まで幅広い。 チーフストラテジストの洞察に満ちたプレゼンテーションによって、我々は多くの日本企業が国際化を重視していることを知った。 政府と経済産業省は、企業が海外の新しいマーケットを切り開き、販売と供給の両面で活動の場を多様化することを積極的に奨励している。 (高級酒を試飲させていただいたからというだけではなく)私が気に入った訪問先の一つは清酒醸造元の神戸酒心館である。 神戸酒心館は1751年に創業した。創立者一族とのつながりが現在もあるのかどうかを久保田常務取締役にお尋ねしたところ、今でも創業者一族が同社を所有し、現在は14代目が会社の経営者であるというお返事だった。 創業者一族が260年間、14世代にわたってずっと経営権を維持し(かつ成功させている)というのは途方もないことではなかろうか。 さらに神戸医療産業都市は、我々全員に神戸を強く印象付けた。
神戸産業医療都市

神戸産業医療都市

明らかに、産業クラスターは各国の産業戦略において非常に重要な役割を果たしており、その役割はますます大きくなっている。 しかし、経験からすると、実際に有効に機能し、世界中から投資を呼び込むことができる新しいクラスターを構築することは各国政府にとって困難な仕事である。 日本は、神戸産業医療都市によってそれをやってのけた。 クラスターの中核は、最高水準の病院と大学施設、理化学研究所が製作した素晴らしいスーパーコンピュータ「京」である。 これらの「灯台的存在」の周辺では、民間企業が活気に溢れたエコシステムを作り上げている。 神戸港や海岸が見える立地と同じように、素晴らしいキャンパスもまた、クラスターの「手触り」の良さを大いに高めている。 神戸医療産業都市は、全世界のクラスター構築の手本となり、青写真となるサクセスストーリーである。

 今度は、有名な新幹線が我々のグループを神戸からもう一つの「クラスター」へと運んでくれた。 古に遡るルーツと伝統を持つ京都が文化遺産のクラスターであることは疑いの余地がない。 文化遺産、人々の歴史に対する意識、そして共通のルーツは国の基盤である。 京都の文化的な宝が持つ巨大さ、豊かさは私に強い印象を与えた。 有名な寺院や建造物だけではない。小さな木造住宅、小さな伝統手工芸工場が建ち並ぶ都市の伝統的な町並みもまた京都の宝である。
(株)日吉屋

(株)日吉屋

古代の伝統がいかに守られ、21世紀まで引き継がれたかを示す堂々たる実例が(株)日吉屋である。 義理の父が伝統和傘の製造元を廃業しようとしているという事実は、西堀耕太郎氏にとって受け入れがたいことだった。 かつて公務員であり、手工芸品の知識もなく、訓練も受けていなかった西堀氏だが、工場を引き継ぎ、継続することを決意した。 西堀氏は傘づくりの全工程をマスターするために必要な知識と技術を独学で身につけ、会社を経営し、発展させるために必要な実務スキルを同時に学んだ。 現在、西堀氏は美しい伝統和傘を、日本だけでなく海外でも最高品質のデザイン商品として販売している。同氏は革新的、創造的なマーケティング・キャンペーンを展開することにより、デザイナーやオートクチュール界の注目を浴びた。 西堀氏はまた、時代を越えた和傘のエレガントな線条細工法とデザインを取り入れ、新ラインの商品をデザインした。 それは美しいランプシェードである。 西堀氏が日本の伝統品で世界の注目を集めることができたという点に興味を覚えた私は、自分自身に問いかけた。「日本には、世界的に知られる日を待っている伝統手工芸品の『隠れた宝』が他にもあるのではなかろうか?」。このようなサクセスストーリーをもっとたくさん知りたいものである。 有名な古代工芸が熱心な顧客たちによって引き継がれ、大切にされている場所がもう一つある。それは、伝統的な錦織工房の光峯である。 繊細な柄の錦織の織物が、小さな工房で近代技術の助けをほとんど借りずに伝統的な木製織機を使って手作りで作られている。 これもまた、伝統への熱意を現代的な感覚とうまく組み合わせた素晴らしい例である。 しかし、京都の経済の中心が伝統工芸品だと考えることは完全に間違っている。 それは(株)島津製作所訪問によって見事に証明された。 島津製作所は、画期的研究で名を馳せる医療機器、分析計測機器のトップメーカーである(島津製作所の研究者 田中耕一氏は2002年にノーベル賞を受賞した)。 島津製作所は、その科学的ノウハウをハイテク製品に転換し、活用することに成功したが、 同社のチーフストラテジストは、今日の世界ではもはや科学・テクノロジーの分野でリーダーシップをとっても、グローバル経済の中で商業的な成功が約束されるわけではないと説明してくれた。 海外市場へのアクセスと、グローバルな調達市場、サプライチェーンとの一体化が、継続的な成功のキーファクターになったということである。 そこで島津製作所は今、統制された慎重な国際化戦略を策定している。 第40回「リーダーシッププログラム」の参加者は島津製作所の今後に関心を持ち、本国で同社の活躍を歓迎するだろう。 有名な映画スタジオ(株)松竹撮影所でも国際化がホットなテーマになっている。 長年にわたり時代劇を専門としていた撮影所が、大学や海外の大手映画会社と手を組み、製作と顧客ベースの両面で活動の場を広げたのである。

 リーダーシップツアーの最終日、我々は龍安寺の庭園、金閣寺、清水寺を見学し、京都の文化遺産をより身近に感じることができた。 日本の人々とその精神的なルーツとの結びつきは、多数の観光客とそれらの観光客が払う敬意に鮮明に表れている。

(原文:英語)


関連ページ
平成23年度 第40回 リーダーシッププログラム


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