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野田首相、TPP参加で攻勢に? =政権の命運決める消費税問題= | 時事通信 解説委員 山田 惠資【配信日:2011/11/30 No.0201-0817】

配信日:2011年11月30日

野田首相、TPP参加で攻勢に?
=政権の命運決める消費税問題=

時事通信
解説委員
山田 惠資

 野田佳彦首相は内閣発足から3カ月近くが経過した。東日本大震災の復興・復旧と東京電力福島第一原発事故がもたらした甚大な被害の収束-。この2つを当面の最優先課題とし、守り徹してきた野田首相がここへ来て、攻勢に転じようとしている。その第一弾が環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)交渉参加方針の決定だった。来年に入ればいよいよ消費税引き上げ問題が最大の政治テーマとなる。TPP問題は自民党や公明党など野党側だけでなく、民主党内にも激しい反対論や慎重論が渦巻いたものの、方針決定の際の文言に配慮したことで、党内の亀裂はひとまず収まった。しかし、間もなく、野田政権にとって「本丸」とも言える消費税引き上げ論議が本格化する。このテーマでは、民主党政権内で賛否両論が激突するのは必至だ。それは野党の自民党や公明党にとって政権を追い込む上で、絶好の機会となるかもしれない。TPP交渉参加決定の背景と今後の政局を展望する。

◇「首相決断」の真意
 「TPP交渉参加に向けて関係国との協議に入る」-。11月13日、ハワイで開かれたアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議で、野田首相はTPP交渉参加を表明した。「交渉に参加する」と言い切らなかったのは、民主党内の反対派や慎重派の意見を反映したTPPに関する党側の「提言」に配慮したためだが、実質的には「交渉参加」である。それでも、この首相の配慮は一定の効果があったと言え、反対派のリーダーである山田正彦前農林水産相は「党の提言を受け入れて、踏みとどまってくれた」と評価した。
 今後も山田氏らは阻止へ向けて抵抗していくが、党の分裂に発展する可能性は小さいだろう。民主党内最大の勢力を持つ小沢一郎元代表(政治資金規正法違反罪で公判中)の支持グループにもTPP参加に慎重な議員が相当数いるものの、小沢氏自身が静観を決め込んでいることが最大の理由だ。
 政府は今後、来年春以降の交渉参加に向けた準備を本格化させる。野田首相はTPP交渉参加の理由について「現在の豊かさを次世代に引き継ぎ、活力ある社会を発展させていくためには、アジア太平洋地域の成長力を取り入れていかなければならない」と説明している。
 ただし、これはあくまで一面的な理由だ。見逃してはならない点は、「日米同盟関係への配慮」である。日本政府の米国重視はいまさら驚くに値しないが、それは基本的に外交・安保の分野でのことで、通商分野は別だ。それはまさに日本の外交・安保を担う外務、防衛両省と違って、経産省や農水省は日本国内の産業界の利害を背負って交渉に当たるからだ。霞が関の官僚からは時々こんな言葉を耳にする。「外務省や防衛省は米国とは基本的に対立しない。しかし、経済産業省や農林水産省は別だ。しばしば米国は戦うべき『敵』となる」 。
 にもかかわらずTPP参加問題では日米同盟が大きく影を落とす。鳩山由紀夫首相(当時)が2009年9月就任後、沖縄県の米軍普天間飛行場移設先を名護市辺野古沖とした05年の日米合意を白紙とし、日米関係がすっかり冷え込んだためだ。鳩山首相は後に撤回したものの、それ以来、民主党政権全体に、「米政府の意向には逆らえない」(閣僚の一人)という空気が広がったのは事実だ。米主導で進むTPP問題もそうした脈絡に入ったと言える。
 2つ目はアジアでの経済的、軍事的影響力の拡大を狙う中国へのけん制だ。特に中国は、米国抜きのアジア地域に自由貿易圏の確立を狙っているとも言われている。そうした中で、日本がTPPの交渉枠組みに加わることは、それだけで中国に警戒感を抱かせることになるわけだ。もっとも、政府はこの点をTPPの「効用」として積極的に説明しようとはしてない。「中国を必要以上に刺激することは避けたい」(日米外交筋)ことに加えて、TPPの本来の目的である「貿易自由化による経済効果」の論理が弱まることを避けたいからだろう。
 今後、政府は来年春以降の交渉参加に向けた準備を本格化させる考えだ。まず最大の問題は野田政権の交渉能力である。この点に関し、政治資金規正違反罪に問われて公判中の小沢一郎民主党元代表が「貿易の自由化」は基本的に支持しつつも、「政府は本当に米国と交渉できる人間はいるのか」と周辺に懸念を漏らしている。小沢氏は、竹下政権時代の1989年の日米電気通信協議で、官房副長官として日米電気通信協議で米側と丁々発止やり合った経験を持つ。民主党政権の深刻な「人材不足」の現状を踏まえた小沢氏の一言は、的を得ている可能性もある。日本国内の論調はTPP交渉参加を支持する意見の方が、反対・慎重派よりも多いと言え、交渉能力への不安は根強い。
 一方で、内部事情という点では自民党内も複雑だ。自民党執行部は参加反対の立場を打ち出しているものの、党内には「交渉に参加しない選択肢はあり得ない」(石破茂前政調会長)といった根強いTPP推進論者が相当数いる。こうした状況も、野田首相がTPP交渉参加に踏み切らせる要因となったことは間違いない。

◇最大争点は消費税
 TPP交渉参加とともに、今後大きな政治テーマとなるのは現行5%の消費税引き上げ問題である。「2010年台半ばまでに、10%に引き上げる」。11月3日、フランス・カンヌで開かれた主要20カ国・地域(G20)首脳会議で首相は消費税率引き上げを国際公約した。首相は消費税増税を含む税制改革法案について、来年の通常国会に提出する考えを改めて示した。
 消費税をめぐっては、菅直人前首相が2010年6月の首相就任直後、唐突に、自民党が掲げる「消費税10%」を参考に引き上げを検討する方針を表明。それが国民の不評を買ったため、7月の参院選で民主党は大敗。非改選と合わせて過半数の122議席を大きく下回ることになった経緯がある。しかし、財務相時代から財政再建に高い優先度を与える野田首相は、首相就任後も消費税引き上げに極めて意欲的だ。
 野田政権としては、2010年代半ばまでに消費税を10%に引き上げるための準備法案を来年1月召集の通常国会に提出する方針で、それに先立ち、党執行部は実施時期や引き上げ幅に関して、年内には意見集約したい考えだ。ただし、消費増税論議では党内で賛否が大きく割れており、TPP問題以上に反対論が噴出するのは間違いない。特に、来年9月の党代表選で再選を目指す首相の有力対抗馬とみなされる前原誠司党政調会長や、小沢一郎氏は、消費税増税について「時期尚早」との立場だ。
 「私はいずれ君子豹変する」。野田首相は最近、周辺にしばしばこう語る。首相側近によると、それは「首相はこれまで党内融和を優先してきたが、消費税では党内の反発に立ち向かっていく」という決意を示しているのだという。来年9月の民主党代表選での再選を果たしたい首相にとって最大の難関である消費税論議。首相は先の国会答弁で、野党側から衆院解散・総選挙を、消費税増税を盛り込んだ税制改正法案の提出段階で実施するよう迫られると、こんな表現で否定した。「税率引き上げを実施する前には総選挙で民意を問う」。また、野党が反対でも同法案は国会提出する姿勢も示した。
 自民党も「消費税引き上げそのものには反対できない」(首相周辺)ことを見越した上での強気の発言と言える。ただ、消費税問題で仮に党内亀裂が拡大した場合、自民党は来年6月の通常国会会期末ごろに、今年同様に内閣不信任決議案を提出して解散・総選挙に追い込もうとするだろう。また、通常国会終盤で内閣支持率が20%以下で低迷していれば、野党側は「消費税増税法案成立に協力する代わりに解散せよ」と、野田政権に迫ってくることも十分考えられる。事実、今年の通常国会で民主党政権を解散に追い込めなかったことで自民党内から批判されている谷垣禎一総裁は、「消費税との引き換え解散」で勝負をかけようとしている。
 野田政権の命運は消費税論議の行方にかかっている-。TPP問題は政局激動への序章にすぎないのである。

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