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正念場を迎える日米韓3カ国協力 ― 制度化へ日本の役割

「岐路に立つ世界と混迷の行方」

正念場を迎える日米韓3カ国協力
――制度化へ日本の役割

掲載日:2024年5月7日

日本経済研究センター 首席研究員
伊集院 敦

 2023年8月の首脳会談で歴史的成果を誇った日米韓の3カ国協力が早くも正念場を迎えようとしている。中国、ロシア、北朝鮮の攻勢に加え、各国が民主主義国家の宿命である選挙の試練にさらされるためだ。3カ国協力の舞台は既に朝鮮半島などの北東アジアを越えており、協力体制の行方はインド太平洋地域の安全保障や経済秩序だけでなく、国際秩序をめぐる世界規模の攻防にも影響を与える。

 3カ国協力拡大のビジョンを示したのが岸田文雄首相とバイデン米大統領、韓国の尹錫悦大統領の3首脳による米ワシントン近郊の山荘「キャンプ・デービッド」での会談だ。3カ国協力の指針となる「キャンプ・デービッド原則」や具体的な協力メニューを盛り込んだ「キャンプ・デービッド精神」という共同声明を発表した。

 日米韓の安保協力は従来、核兵器やミサイルの開発を進める北朝鮮への対応に焦点を当ててきたが、共同声明に「インド太平洋及びそれを越えた地域」での協力拡大を明記した。台湾海峡や南シナ海などの海洋問題はじめ、影響力を拡大する中国を意識した内容だ。サプライチェーン強靭化などの経済安全保障も3カ国協力の柱に据えた。少なくとも年に1度、3カ国の首脳、外相、防衛相及び国家安全保障局長間でそれぞれ会合を開催することを申し合わせた。日韓の首脳とそろって記者会見に臨んだバイデン大統領は「この歴史的な場所で、歴史的な瞬間を迎えるために会った」と会談の意義を強調した。

 安保協力の象徴が北朝鮮のミサイル警戒データ共有に関する協力だ。ミサイル情報の3カ国共有は尹大統領が韓国で一時破棄の動きがあった日韓の軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の正常化に踏み切ったことで環境が整った。同年12月、日米韓の防衛当局がミサイルの探知情報を即時に共有するシステムの稼働を発表した。

 経済安全保障では商務・産業政策の担当閣僚の会合を毎年開催し、財務相会合を新設することを申し合わせた。3カ国で半導体などのサプライチェーンの強靭化に取り組む。蓄電池や重要鉱物など特定物資を指定し、供給網が混乱する事態に備える。先端技術の保護で3カ国の連携を強化。科学協力や技術革新を主導するため3カ国の国立研究所の協力を進め、宇宙協力に関する対話も強化する。人工知能(AI)のガバナンスを含め新興技術の技術標準をめぐる協力を拡大する方針も盛り込んだ。これらの合意は2024年の前半までは概ね予定通りに進められた。

 日米韓の協力が飛躍的に拡大した背景には、合意を築いた3首脳の個性があった。バイデン大統領は同盟関係を重んじ、少数の同志国の協力枠組みであるミニラテラルも重視する。日米豪印の「QUAD」や米英豪の「AUKUS」とともに、日米韓協力をその中核に位置付けた。複数の同盟・同志国との枠組みを格子状に重ねて中国に対応する狙いだ。検事出身で政治経験がないまま国の最高指導者に上り詰め、前政権から大胆な政策転換を進めた尹大統領の功績も大きい。大統領就任時には3カ国協力に不可欠な日韓関係が戦後最悪とも言われていたが、障害になっていた元徴用工問題で政治決断を下した。「新時代リアリズム外交」を標ぼうする岸田首相がそれに答えた。

 しかし、2024年の春から逆風も吹き始めた。尹政権の中間評価とされた4月10日の韓国総選挙で、尹大統領を支える与党が大敗を喫した。少数与党からの脱却を目指したものの目標の過半数はおろか、改選前の議席を下回る惨敗だった。選挙の主要争点は内政だったとはいえ、野党が尹政権の対日外交を「日本への一方的な譲歩だ」と批判してきたのも事実だ。革新系の野党は尹政権の日米への過度な接近が朝鮮半島の緊張を招いたとの批判を展開してきた。

 韓国総選挙と前後して、北朝鮮は尹政権への対決姿勢を強めている。金正恩総書記は2023年12月末に開いた朝鮮労働党の重要会議で、韓国との関係について「根本的に闘争原則と方向を転換しなければならない」と強調。「もはや同族関係ではなく、敵対的な2国間関係が完全に定着した」と述べ、「もしわが国との軍事的対決を企てるなら、核戦争の抑止力はちゅうちょなく重大な行動に移る」と威嚇した。2024年1月の最高人民会議では、韓国を「第1の敵対国、不変の主敵」と位置づけるための憲法改正に意欲を示した。

 軍事力強化にまい進し、戦術核弾頭の搭載が可能な新型の弾道ミサイルや巡航ミサイルの発射を繰り返している。北朝鮮は今年で4年目となる国防5カ年計画に沿って多様なミサイルの開発を加速。ミサイル戦力とも密接に関係する軍事偵察衛星を年内に3基追加で打ち上げる計画を明らかにしている。

 北朝鮮の軍事力強化を、技術面などで支えるのがロシアだ。金総書記は23年9月にロシアを訪問し、極東のボストーチヌイ宇宙基地で行ったプーチン大統領との会談で軍事分野を含む協力拡大で合意した。金総書記はロシア滞在中に様々な軍事施設を視察した。ロシアのウクライナ侵攻を支持する北朝鮮がロシアに武器・弾薬など供給する見返りに、ロシアが軍事技術を提供する取引だと見られている。

 ロシアは2024年3月末の国連安全保障理事会で北朝鮮への制裁の履行状況を調べる専門家パネルの任期延長決議案の採決に拒否権を行使し、多国間外交の舞台でも北朝鮮擁護の姿勢を見せている。更なる関係強化に向け、3月の大統領選で通算5選を果たしたプーチン大統領の訪朝が実現するかどうかにも関心が集まる。

 韓国やロ朝の動きをにらみ、北朝鮮への関与を強め始めたのが中国だ。中国は韓国総選挙の翌日の4月11日、共産党序列3位の趙楽際全国人民代表大会(全人代)常務委員長を平壌に送り込んだ。中朝国交樹立75周年にあわせた友好行事への出席が目的で、中国最高指導部の訪朝は2019年6月の習近平総書記以来およそ5年ぶり。新型コロナウイルス感染症の拡大以降では初めてで、カウンターパートの崔竜海最高人民会議常任委員長のほか、金正恩総書記と会談した。

 中国は北朝鮮の貿易の9割以上を占める後ろ盾で、趙委員長は訪朝中に、外交・公用査証の相互免除、名著の相互翻訳・出版、税関・検疫、ラジオ・テレビ、郵政などの分野に関する中朝の協力文書の調印にも立ち会った。北朝鮮への関与は、日米への傾斜を強めてきた韓国の尹政権に中国の力量を見せつけることにもなる。北朝鮮がロシアとの関係強化で中ロを天秤にかける動きを見せる中、趙委員長の訪朝が節目の年である2024年中の中朝首脳会談につながるかどうかも注目される。

 中国は韓国への圧力を徐々に強める構えだ。「中韓は互いに重要な近隣、協力パートナーであり、中韓関係の健全かつ安定的な発展を推し進めることは双方の共通利益に合致する」。4月11日、与党が大敗した韓国の総選挙結果について記者の質問を受けた中国の外務省報道官は「韓国の内政であり、コメントしない」としながらこう述べた。「我々は韓国側が中国側と同じ方向に向かって進み、このために共に積極的な努力を払うことを希望する」とも表明した。

 中国が対韓外交のカードに使ったのが日中韓の首脳会談だ。日中韓はアジア経済危機後の1999年、当時の小渕恵三首相と中国の朱鎔基首相、韓国の金大中大統領がマニラで会談したのを機に3カ国協力の枠組みをスタートさせたが、3カ国首脳会談は新型コロナウイルス感染症の拡大前の2019年12月に中国・成都で開催して以来、開かれていなかった。輪番で議長国となる韓国は韓悳洙首相を中国に送り込むなどして早期開催を働きかけてきたが、中国は長くあいまいな態度をとり続けた。

 韓国が中国との関係をないがしろにできない最大の理由は北朝鮮問題だ。挑発を繰り返す北朝鮮を抑えるには影響力を有する中国の協力が不可欠。北朝鮮とロシアの関係強化が進む中、中国にはロ朝の軍事協力に加担しないようくぎを刺す必要もある。中国ビジネスを展開する経済界の期待も大きい。ひところより中国への貿易依存度が低下してきたとはいえ、中国は韓国にとって依然として最重要な経済パートナーのひとつだ。

 韓国に対する中国側の要求ははっきりしている。中国の王毅共産党政治局員兼外相は24年2月の趙兌烈外相との電話協議で「韓国側が1つの中国の原則をしっかり守り、中韓関係の政治的基礎をしっかり擁護し、両国関係が健全で安定的な発展の軌道に立ち戻るよう推し進めることを望む」と強調した。韓国が台湾問題に関与せず、これ以上、日米との安保協力を進めないよう戒めた格好だ。文在寅・前政権の時代には韓国側に①米軍の地上配備型ミサイル迎撃システム(THAAD)を追加配備しない②米国のミサイル防衛(MD)システムに参加しない③日米韓安保協力は軍事同盟に発展させないーーの「3不」の原則を約束させたことがある。

 経済面の要求は韓国が米国の対中包囲網には加わらず、中韓のサプライチェーンの安定化を図って先端分野を含めた中国への投資を増大させることだ。安保、経済の両面で対中戦略の性格が強まる日米韓の協力枠組みから韓国を引きはがすのが狙いである。

 価値観外交を掲げる尹大統領の信念は強く、韓国政府内では「選挙後も対米、対日関係重視の外交の方向性を変えることは考えにくい」との見方が多い。国会議員選挙で与党が敗北したとはいえ、立法や予算措置が重要になる内政の政策課題とは異なり、外交・安保政策は大統領のフリーハンドの余地がある。

 とはいえ、政権基盤が弱まった大統領の政策推進力が大幅に低下するリスクはある。外交の弱点はやはり日韓関係だ。元徴用工問題をめぐり、韓国の最高裁は2018年以降、日本製鉄など複数の日本企業に対し元徴用工への賠償を命じる判決を確定させた。尹政権は韓国政府傘下の財団が判決金を支払う解決スキームに基づき、勝訴した原告への支払いを始めたものの、財団の支払い原資が不足。鉄鋼大手ポスコなどが資金を拠出しただけで、他の企業に寄付の動きは広がっていない。今後、政権の求心力が低下すれば寄付集めがいっそう難航しかねない。今回の選挙で与党が勝利すれば立法で新たな財団をつくり、完全解決をめざす案もあったが、与党の大敗でその道は閉ざされた。日米韓の三角形のうち、同盟関係にある日米、米韓に比べ、日韓の関係は歴史、領土などの懸案を抱えて内政問題化しやすく、もともとぜい弱だ。

 そもそも尹政権が示した解決策は「日本への一方的な譲歩だ」という国内世論を押し切って始めた経緯があり、財団からの資金の受け取りを拒否する原告への弁済が滞っている問題もある。最大野党の「共に民主党」が元徴用工や慰安婦の問題で「日本企業や政府の直接補償」を求めてきたうえ、慰安婦問題をめぐっては最近、中国でも日本政府を相手にした訴訟が起こされた。

 「共に民主党」の李在明代表は4月29日に尹大統領に会い、総選挙の結果を踏まえて国政の基調を転換するよう要求。対日関係についても「国民の自尊心が傷つかないよう積極的な努力を」と求めた。今後、野党が国会の議席数や中国の動きを背に強い態度に出た場合、尹政権が掲げた解決策を最後までなし遂げられるかどうか不透明感も漂う。苦しい選挙を勝ち抜いた与党議員の関心も徐々に「ポスト尹錫悦」を決める3年後の大統領選挙に向かい始めると見られ、与党関係者への配慮も従来以上に求められるようになる。

 韓国の総選挙以上にインパクトが大きいのが11月の米大統領選挙だ。バイデン大統領が再選すれば日米韓の協力を含む外交安保の基調は継続されるが、「米国第一」を掲げるトランプ氏が大統領に返り咲けば日本や韓国との外交にも極めて大きな影響が及ぶ可能性がある。

 トランプ前大統領は同盟や同志国との協力を重視してきたバイデン大統領とは対照的に、多国間協力に消極的で、同盟についても徹底して「ディール(取引)」の観点から捉える傾向がある。1期目において韓国、日本の駐留米軍経費負担の大幅な引き上げを求め、同盟国を困惑させたことは記憶に新しい。2020年の大統領選で激しく争ったバイデン大統領への遺恨から、バイデン大統領の外交路線を大幅に転換する可能性も否定できない。

 トランプ前大統領はウクライナ問題でロシアのプーチン大統領に歩み寄る姿勢をにじませ、国際社会に波紋を広げてきた。東アジアの安全保障で問われるのは中国への対応、就中、台湾海峡や南シナ海などのへの対応であり、核・ミサイル開発に邁進する北朝鮮への対応だ。

 台湾情勢をめぐっては既に現地で不安が広がっている。トランプ前大統領は中国が台湾に侵攻した場合の対応をメディアに問われた際、「交渉」に関わることなので「答えない」と応じた。米政府は台湾有事への対応について「あいまい政策」を採ってきたとはいえ、米軍の関与を明言して中国をけん制してきたバイデン大統領とは対照的だ。前大統領は「台湾は米国から半導体を奪った」とも発言し、台湾防衛と引き換えに「米国に半導体工場を移せ」といった圧力をかけるとの観測もある。2024年1月の台湾総統選で蔡英文総統の路線を継ぐ民進党の頼清徳副総統が当選したが、米大統領選の結果次第では日米、米韓同盟の強化と日米韓の安保協力を軸に対策を進めてきた台湾有事への対処方針に揺れが生じる可能性は排除できない。

 台湾情勢に決定的な影響を与えるのが米中関係で、トランプ前大統領は再選されたら中国に対する最恵国待遇を撤廃し、中国製品に60%超の関税を課すと公言する。2017年1月の大統領就任に先立って、トランプ氏は2016年12月に台湾の蔡英文総統と電話した。米国の次期大統領と台湾総統が会談したのは国交断絶後初めで、中国は猛反発した経緯がある。しかし、大統領就任後は習近平国家主席に書簡を送って「一つの中国」に関する原則を確認した。最初に揺さぶりをかけて相手の期待値を下げ、従来の路線に戻すことであたかも前進があったような印象を与えるトランプ流のディールだったとの分析もあるが、今後、台湾が再び対中関係のカードに使われる懸念も払拭できない。

 朝鮮半島情勢をめぐり、トランプ復活でささやかれるのが北朝鮮との取引の可能性だ。米政治専門紙「ポリティコ」は2023年末、トランプ前大統領が選挙に勝利した場合、北朝鮮へのアプローチの見直しを検討すると報じた。北朝鮮の核保有を認め、援助などの見返りに新規開発を凍結させる案が指摘されている。前大統領はSNSで「作り話、偽情報だ」とする一方、「記事で唯一正確なのは、私が金正恩とうまくやっているということだけだ!」と指摘し、対応に含みを持たせた。

 この案を実行に移そうとすれば日本や韓国の尹政権が反対するのは必至だ。仮に米国が一方的に北朝鮮の核保有を事実上容認した場合、米国の核不拡散へのコミットメントに対する疑念が広がる。米国の日本、韓国に対する「核の傘」の公約が後退し、日米韓の安保協力に乱れが生じることが予想される。核運用に関する協議メカニズムである「核協議グループ」の創設や米国の戦略原子力潜水艦の韓国寄港などの約束によってひとまず封印した韓国国内の核保有論に再び火が付き、アジアにおける核軍拡競争を引き起こす可能性も否定できない。駐留米軍経費の負担問題で米側の過度な要求が重なれば、過激な行動で知られる労組などによる反米運動が燃え上がることも考えられる。

 試練が待ち受ける日米韓3カ国協力の維持・発展には何が必要か。日米両国は韓国で総選挙が行われたのと同じ4月10日に首脳会談を行い、「未来のためのグローバル・パートナー」と題する共同声明を発表した。日米を軸にほかの同盟国の抑止力も統合し、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序を守る決意を示した。安保、経済、技術、社会など様々な協力メニューが並べられたが、日本側が意識したのは協力拡大の「制度化」だ。トランプ政権になっても、後退しないよう、二重三重の対策を講じたのである。

 声明では日米韓3カ国の協力枠組みを維持することにも気を使った。3カ国協力をアップグレードさせたキャンプ・デービッド首脳会合からのモメンタムを維持し、日米韓による複数領域における毎年の共同軍事訓練の実施に向けた進展を歓迎。日米韓が安全保障の推進や抑止力の強化だけでなく、開発・人道支援の調整、北朝鮮の不正なサイバー活動への対抗、経済、クリーン・エネルギー、技術課題など多様な分野で引き続き連携していくことも盛り込んだ。

 3カ国協力の肝である安全保障をめぐっては韓国総選挙から一夜明けた4月11日から12日にかけ、米海軍と日本の海上自衛隊、韓国海軍が東シナ海で共同訓練を実施し、目に見える形を残した。捜索救難や潜水艦との戦闘を念頭に置いた訓練で、弾道ミサイルの発射を繰り返す北朝鮮や海洋進出を強める中国をけん制する狙いだ。林芳正官房長官は記者会見で「法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序を守り抜くというコミットメントを示すものだ」と述べ、訓練は日米韓3カ国の協力を力強く推進するとの認識を示した。

 4月17日には訪米から帰国した岸田首相が尹大統領に電話し、訪米の内容を伝えた。両首脳は日韓、日米韓の関係をさらに深め、様々な機会をとらえて意思疎通すると申し合わせた。首相は「バイデン大統領との間で日米韓の連携をはじめ、韓国の関心事についても話した。訪米の成果について共有しようと電話をかけた」と記者団に説明した。

 同じ日にワシントンでは初の日米韓財務相会合を開催。20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議のため集まった鈴木俊一財務相とイエレン米財務長官、韓国の崔相穆経済副首相兼企画財政相の3人が顔を合わせ、共同声明を発表した。「北朝鮮の弾道ミサイルのロシアへの輸出、ロシアによる調達を強く非難し、北朝鮮とロシアに対し、そのような活動を直ちに停止するよう求める」と明記し、3カ国でサプライチェーンの強化に取り組むことを確認した。東南アジア諸国連合(ASEAN)や太平洋島しょ国の重要性を再確認し、マクロ経済と金融を強化するために力を結集することを打ち出した。為替問題にも言及した。

 日米韓は3カ国協力のモメンタムを維持するため、7月の北大西洋条約機構(NATO)首脳会議の機会に、日米韓首脳会談を開催する方向で調整する。2国間の同盟管理と同様、ミニラテラルも維持・発展のためのマネジメントが欠かせない。日米同盟と同様、韓国を交えた3カ国協力の制度化も進め、指導者の交代などでも揺らがない実績を積み上げていくことが大事になる。

 欧州、中東での地域紛争が国際秩序を揺さぶり、安全保障上の危機が朝鮮半島や台湾海峡など東アジアへ波及することが懸念される。逆に東アジア情勢がインド太平洋地域のガバナンスを左右し、国際秩序をめぐる攻防に決定的な影響を与える事態も考えられる。そうした中で、日米韓の3カ国協力は望むと望まざるとにかかわらず、既に東アジアの平和と安定に欠かせない枠組みになりつつあるのだ。

 中国や北朝鮮などに対抗するだけではない。北朝鮮問題などでは中国の協力が欠かせず、日米韓が結束して中国を良い方向に誘い、建設的・安定的な関係を築くのが理想的だ。数年前まで日韓の首脳がいがみ合っていたことを考えると、いまの日米韓3カ国協力への期待は荷が重過ぎるようにも感じられるが、東アジアを取り巻く情勢がそれだけ厳しくなっているのである。

 4月に発表された「外交青書2024」は現下の情勢を「国際社会は再び歴史の大きな転換点にある」と表現した。米大統領選など大型の選挙が相次ぐ2024年。各国の内政と国際関係が相互に影響を及ぼすことは避けられないが、各国で行われる選挙が地域安保や国際秩序の問題に悪影響を及ぼさないようにうまく管理できるか。9月に自民党の総裁選があり、来年秋までには総選挙も行われる日本も例外ではないとはいえ、大統領制の米韓に比べれば外交政策の振れ幅は小さい方だ。内政で不安定になりかねない米国や韓国との調整役としての役割が大いに期待される。

 自由で開かれた世界の実現に向け、4月の日米首脳共同声明でグローバルな次元で貢献する決意を世界に示した日本にはこれまで以上に重い責任が伴う。日米韓3カ国協力のマネジメントは試金石のひとつとなろう。


執筆者プロフィール
伊集院 敦(いじゅういん あつし)
公益社団法人 日本経済研究センター首席研究員

早稲田大学卒業後、日本経済新聞社に入社。ソウル支局長、政治部次長、中国総局長、編集委員などを経て現職。ジョージワシントン大学客員研究員、早稲田大学招聘研究員、同志社大学嘱託講師などを歴任。専門分野は東アジアの国際関係、経済安全保障、中国・朝鮮半島の政治・経済。近著に『アジアの経済安全保障』(編著、日本経済新聞出版、2023年)、『東アジア最新リスク分析』(同、同、2022年)、『米中分断の虚実』(同、同、2021年)、『技術覇権―米中激突の深層』(同、同、2020年)、『ポスト「冷戦後」の韓国・北朝鮮経済─経済安保への対応』(編著、文眞堂、2023年)、『朝鮮半島の地経学―「新冷戦」下の模索』(同、同、2022年)、『金正恩時代の北朝鮮経済』(同、同、2021年)などがある。



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