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国家間の依存関係を利用した影響力行使:中国の双循環

「経済と安全保障が結びついた国家戦略とは~現代のエコノミック・ステイクラフト

国家間の依存関係を利用した影響力行使:
中国の双循環

掲載日:2023年9月25日

芝浦工業大学 准教授
持永 大

 近年中国はエコノミック・ステイトクラフト(Economic Statecraft: ES)を活用した国益の確保を戦略化している。また、中国は国内の循環と海外の循環を活用する「双循環」という概念を発表している。この概念において鍵となるのは、外国の中国への依存度を強化することによって、経済的な関係を安全保障に活用することである。

 他国も国家戦略において相互依存関係を調整し、他国から仕掛けられるESの影響を低減しようとしている。一般に、国家間の依存関係が大きいほどESの効果は大きい。そのため、日本を含む多くの国がサプライチェーンの見直しや相手国の多様化などによって特定の国との相互依存関係を調整することで、他国が自国に対して仕掛けようとするESの効果を低減しようとしている。

 そこで本稿は、国家間の依存関係の利用が経済と安全保障における国家戦略の軸となっている状況を示す。まず、ESと国家間の依存関係について論じ、次に事例として中国の双循環をとりあげ、依存関係を利用した影響力の行使の現状を分析する。そして、これを踏まえ日本が採りうる策を論じる。

1.エコノミック・ステイトクラフトと国家間の依存関係

 ESは、金銭を単位とした市場価格と相応の類似性を持つような資源を主に用いた影響力行使の試みである1。ESの手段には、貿易・金融を規制する経済制裁やエネルギー外交等があり、その目的は相手国経済だけでなく紛争の抑止や同盟関係の構築・強化・維持・弱体化といった安全保障分野への影響力行使にある。

 一方、国家間には、貿易や経済協力等の経済面における依存関係と防衛力や外交関係等の安全保障面における依存関係がある。国家は紛争解決のための選択肢として経済力を重用し、その一つの方法としてESを実施する。そのため、国家戦略において経済と安全保障の結びつきが強まっている。このESは、脅し、封じ込め、強制、買収、または誘導といった形態をとる。例えば、封じ込めとして、米国が中国よりも経済・技術・軍事において競争上有利な立場に立とうと2022年10月に実施した半導体関連貨物や技術に関する対中輸出規制がある。

 ある国がESを仕掛けるとき、国家間の依存関係が大きいほど、相手国に与える影響は大きい。そのため、国際的な影響力を強めようとする国は他国との依存関係を強化する。

 ただし、依存関係の強化は、国家の脆弱性を高める可能性もある。すなわち、国同士が物資や技術で強く相互依存すると、貿易規制はそれらの調達を困難としたり、追加のコストが必要になったりする。例えば、米国のドナルド・トランプ政権は、中国の知的財産侵害、貿易赤字の増加、または国有企業への補助金などを問題視し、最大の貿易国の立場を利用して輸入関税によって中国の振る舞いを変えようとした。その結果、米国と中国は2020年1月に経済・貿易協定に署名し、中国が知的財産の保護、金融市場の開放、及び為替操作の禁止などを約束し、米国からの輸入を増やすこととなった。しかし、この協定は米国経済にも影響を与えた。その理由は、米国の産業界が中国の生産能力に依存していたためである。すなわち、米国企業が構築したサプライチェーンは、中国製部品の占める部分が多かったことから、対中関税の引き上げは米国製品の価格に転嫁され、最終的に米国企業や消費者が関税の上乗せ分を支払うこととなった。

 そのため、国家間の依存関係を有利にしようとすることが経済と安全保障における国家戦略の軸となっている。具体的には、ある国が依存関係を利用した影響力行使をする戦略を採る場合、自国が優位な立場に立てるよう相手国が自国に強く依存する関係を構築しようとする。そうすることで相手国が自国に対してESを仕掛けたときに、相手国はESによって得られる便益よりも大きな害を被る構図を作る。これによって相手国はESを仕掛けることを思いとどまり、自国は抑止力を強化し、相手国への経済以外の分野に対する影響力を高めることができる。

 国家間には貿易以外にも様々な相互関係があり、国家は戦略的にパワーを行使し、そのバランスを変えようとする。英国の国際政治経済学者 スーザン・ストレンジは、パワー行使の要素として、安全保障、生産、金融、及び知識を挙げた2。これらの要素を国家間の相互関係に適用して考えると、安全保障協力による安全の提供、分業化やグローバルなサプライチェーンによる生産の効率化、国際的な金融制度、デジタル技術を活用した組織や産業の変革となる。日本の国家安全保障戦略や関連する政策等においても、これらの要素を重点化することを示している。

 21世紀以降、中国等の新興国の発展によって、これらの要素における依存関係のバランスが変わった。例えば、生産に関する依存関係の変化は、世界的な生産ネットワークの変化から分かる。木村福成と安藤光代は、世界的な生産ネットワークの変化について、企業が一つの製品を作る生産工程を分割し、調達や物流を情報通信技術によって調整することで生産費用を削減し、利潤を最大化できたと指摘する3。この分割された生産工程は、立地、労働力、通信、及び物流などの一定の条件を満たすことで分散先の国・地域の生産ネットワークへ参加することを可能とした。特に電気・電子産業の場合、部品・中間財の重量・体積当たりの価値が高いこと、標準化やモジュール化によって分業が進んでいた。そのため、世界経済は、各国が生産ネットワークに参加することで、中国等の生産拠点を受け入れ、統合されていった。その結果、国家間の相互依存関係は深まり、21世紀の経済発展や技術革新を促進すると共に、各国はESによる影響を受けやすくなった。


2.中国は双循環の概念に沿って他国との依存関係を構築し、影響力を行使している

 中国は国家間の依存関係を利用し影響力を拡大している。中国はこれまでに希土類(レアアース)や市場へのアクセス制限を利用して、2010年頃から自国の考え方を相手国に強要してきた。例えば、2010年の尖閣諸島沖の漁船衝突事件に伴うレアアースに関する対日輸出規制、2012年の南シナ海のスカボロー礁を巡るフィリピンとの領有権争いに伴うバナナの輸入規制、2016年のTHAADミサイルとレーダーの在韓米軍配備に反対して実施した韓国に対する輸入規制措置・非関税障壁等の措置、2018年にカナダ政府がファーウェイの孟晩舟副会長兼最高財務責任者を逮捕したことに伴う同国からの食肉輸入停止措置がある。また、中国政府は、周辺国や地域との対立関係の対抗措置または交渉材料として、2023年7月に半導体製品や電気自動車等の製造で重要なガリウム・ゲルマニウム関連品目の輸出規制を実施した。これらの品目を輸入していた米国、日本、韓国、インド、台湾等の国や地域の生産活動に影響が出ることを見込んで、自国に対する規制の方針を変えさせようとしている。

 さらに、中国は一帯一路を活用した国際関係強化によって、相手国の自国に対する依存度を高め国際的な影響力を行使しやすい環境を作ろうとしている。加えて中国は、その過程で、経済的な利益を確保し、価値観を共有する国々を増やそうとしている。その手法は、中国共産党・政府による戦略・支援、民間企業による技術開発・海外進出・利益獲得、国際的な規範やルール作りの主導といったものがある。これらの手法は、中国の国内・海外における二つの循環を組み合わせる「双循環」の概念をもとに整理することができる。

 双循環は、中国国内のサプライチェーンを強化することで産業的な優位性を確保し、国内市場を活性化することで海外への依存を減らすとともに、他国に進出することで海外からの資金流入を増やすことを目指す概念である。この双循環の概念は、中国の第十四次五カ年計画と2035年への提言に組み込まれており、今後5年間の政策の基本的な考え方であることがわかる。国内循環に関して、第十四次五カ年計画は供給側の構造改革、金融能力の向上、流通システムの改善、及び政策的な支援を挙げ、国際循環に関して、国内市場の大きさを背景とした外国投資と貿易を通じた競争力強化を挙げている。

 双循環における国際的な循環は、外国からの投資や技術移転を奨励するだけでなく、中国国内から海外への国際化を推進している。この国際化は国内で培った製品、サービス、技術、ブランド、及び標準を国際的に展開する事であり、最終的にその利益を国内に戻すことで循環させようとしている。この海外の循環において大きな役割を果たすのが、税関、物流、マーケティングにおける拠点作りである。例えば、中国は物流と電子商取引や貿易のデジタル化を組み合わせて新たなモデルを開発することで貿易を拡大することを目指している。

 中国の双循環による影響力行使は三段階に分けて説明できる。双循環による影響力行使は、まず(1)国内への投資・技術開発から始まり、(2)海外進出・中国への依存度向上、そして(3)影響力行使、海外市場から国内市場へ投資を回収する、という段階を経る。第一段階において、中国政府は、五カ年計画等の政策的な重点化、中国国内での競争促進、国内企業に対する優遇策によって国内市場の活性化を促す。このとき政策上の重点化は、新たな経済成長の指針を示すだけでなく、政府による企業、大学、研究機関向けの資金助成の配分方針となっている。第二段階は、中国企業や中国由来技術の海外進出と、受益国の中国への依存度向上である。この段階は、双循環における海外との循環のうち、中国から海外へ進出する段階にあり、中国政府は民間企業の海外展開支援、技術標準の獲得、外国が中国の技術・経済力に依存するよう推進する。そして、双循環の第三段階は、海外進出と依存度の向上を利用した影響力行使と投資の回収である。ここで、中国政府が相手国にESを活用した経済的圧力を与え、政策変更等を迫る等の影響力行使を行う。

 双循環の事例として、中国における情報通信分野の外資規制、民間企業の海外進出、海外からの利益獲得と影響力行使を挙げる。まず、外資規制について、中国は一部の製品やサービスに対する外資の参入規制を行っている。外資の参入を認めていない分野には、インターネットニュース等の情報サービスやオンライン番組視聴サービスが含まれており、中国政府によるコンテンツ規制を反映している。さらに、中国のサイバーセキュリティ法は、重要情報インフラである公共通信・情報サービスなどの重要情報インフラの運営者に、段階別保障制度に基づく保護措置の適用や当局への協力、または個人情報や重要データの中国国内への保存を規定しており、インフラ事業への参入障壁を高めている。

 次に、民間企業の海外進出について、中国政府は、一帯一路を通じて外国政府と交渉、金融支援を行うことで、第一段階で競争力をつけた企業の海外展開支援を行う。金融支援を担うのは、中国の政策系金融機関である国家開発銀行や中国輸出入銀行(中国進出口銀行)である。例えば、中国の国家開発銀行と中国工商銀行は、一帯一路における二国間の合意に基づき、情報通信インフラ整備のためにインドの通信事業者に25億ドルの融資を行うことを決定した 。この融資は、インドの通信事業者による中国製通信機器の購入に充てられた。この例は、一帯一路に沿った政治レベルの合意が、政府系金融機関と民間金融機関による紐付き融資となり、中国企業の受注につながったものである。

 そして、利益獲得と影響力行使について、中国は技術と安価なインフラにロックインされた国に対して、その影響力を受け入れさせている。中国の支援をうけた受益国は、経済発展に欠かせないデジタル分野の技術・インフラ・プラットフォームを安価に調達することができた。この中国と受益国の間の経済・技術的依存関係は、受益国のインフラを中国以外のインフラ・プラットフォームに乗り換えることを困難とするロックイン状態に追い込む。また、中国は経済・技術的依存関係を通じて、国内の余剰生産能力を活用した輸出と国際標準となった技術のライセンス料収入等によって国内市場に利益を環流するエコシステムを作り上げた。実際、ファーウェイは2019年から2021年までの特許による収入が12億ドルから13億ドルになったと発表している 。

 影響力行使について、インフラ整備の契約書は、中国政府による中国企業の指名、政策的な影響力行使を裏付けている。米ウィリアム・アンド・メアリー(William and Mary)大学が公開するシエラレオネ政府と中国輸出入銀行の通信回線構築に関する契約書は、光ファイバー回線の設置に関してファーウェイを発注先として指定している。また、この契約はシエラレオネ政府の政策変更を債務不履行事由とし、期限前に償還を求める条項を含んでいた。これらの条項は、中国輸出入銀行の融資が紐付きであり、中国政府がシエラレオネ政府に意にそぐわない政策決定をさせないことを意味している。

 その一方で、中国政府は、海外の政治、経済、安全保障といったリスクの防止のために国内企業に対するコンプライアンス管理の指導を行うことも掲げており、企業に対してコントロールを強化する方針であることがわかる。この国力強化のために、政府が民間企業の活動を統制している点は、日本をはじめとする経済的自由主義の国々と異なる点である。


3.日本の採りうる戦略

 日本政府は、外国によるESのリスクを認識し、戦略的に海外への依存度を調整しようとしている。2022年12月に発表した国家安全保障戦略では、サプライチェーン強靱化について、特定国への過度な依存の低下に言及した。また、同戦略は直近の課題である次世代半導体の開発・製造拠点整備、レアアース等の重要な物資の確保等だけでなく、重要な物資や技術を担う民間企業への資本強化の取組や政策金融の機能強化を行い将来のリスクを低減しようとしている。

 さらに、日本政府はサプライチェーンのリスク低減において諸外国との協力を重視している。例えば、2021年3月の日米豪印首脳会合において、重要技術サプライチェーンに関する原則の共通声明を発出している。この共通声明では、セキュリティ、透明性、そして自律性と健全性に焦点をあて、外国の影響力による意思決定能力の制限や服従をさせないように政府と産業界が連携することを目指している。すなわち、多くの国が国家戦略において、他国との依存関係を調整し、複数国の政府と産業界が協調しながら他国から仕掛けられるESの影響を低減しようとしている。

 日本にとってこれらの戦略で有利な条件は、複数の異なる分野での連携枠組みを活用できることにある。日本は安全保障分野では日米同盟やクワッド、経済分野ではCPTPPやRCEPといった複数の枠組みに参加しており、多くの分野で連携できるパートナーを有している。そのため、依存度の調整を複数国の枠組みで実施し、特定の国に依存しない環境を目指しやすい。また、国家間でESによる威圧的な政策変更を防ぐようなルール作りもすすめることができるだろう。

 一方、日本にとっての不利な条件は、中国などの権威主義的な国とは異なり、政府と企業の関係が弱いことがある。権威主義的な国の場合、企業に対するコントロールが強いことから、政府方針と一体となったサプライチェーンの再編がしやすい。しかし、開放的で自由な経済秩序を目指す日本政府は、リスク低減を目標に掲げサプライチェーンに関するルール整備をしたとしても、政府と企業の関係が弱ければ企業の協力は得られないだろう。なぜなら、企業が長い時間をかけて最適化したサプライチェーンを短期間に変更することは難しく、その再構築に対するインセンティブが少ない場合には協力も得にくいからだ。

 そのため、日本を含む多くの国がサプライチェーンの見直しや相手国の多様化などによって特定の国との相互依存関係を調整するためには、調整によって民間企業が得られるメリットを明確化する必要がある。例えば、見直しによって原料や部品の安定供給、国際輸送の混乱対応、人権リスクの回避が可能となることが挙げられる。または、政府が貿易・投資協定による影響に係る情報提供を行うことで対応を支援するといったこともある。さらに政策の安定性や予測可能性が比較的高い日本の環境を活かして、対内直接投資を呼び込むといったことも検討できるだろう。

  • 1.David A. Baldwin, Economic statecraft, Princeton University Press, 1985, pp. 13-14.
  • 2.スーザン・ストレンジ「国家と市場: 国際政治経済学入門」ちくま学芸文庫、2020年、pp. 77 – 84.
  • 3.木村福成・安藤光代「多国籍企業の生産ネットワーク 新しい形の国際分業の諸相と実態」木村福成・椋寛編著『国際経済学のフロンティア グローバリゼーションの拡大と対外経済政策』第9章、2016年、東京大学出版会



執筆者プロフィール
持永 大(もちなが だい)
芝浦工業大学 准教授

株式会社三菱総合研究所にてネットワーク技術、サイバーセキュリティ関連技術、情報通信政策、及び外交・安全保障政策に関する中央官庁、民間企業等の調査・研究に従事。一般社団法人JPCERTコーディネーションセンターにてサイバー空間上の脅威分析に従事。2019年から慶應義塾大学SFC研究所 上席所員、2022年から一般社団法人JPCERTコーディネーションセンター専門委員。著書にサイバー空間を支配する者(2018年、日本経済新聞出版)、デジタルシルクロード(2022年、日本経済新聞出版)早稲田大学大学院基幹理工学研究科情報理工学専攻博士課程修了、博士(工学)。



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