日イスラエル中堅・中小企業協業事例
(2020.11.8)
株式会社ルートレック・ネットワークス
● 会社沿革
1990年代、米国カリフォルニア・クパチーノを拠点にベンチャー企業のインキュベーション事業を行う株式会社アイシスに参画していた佐々木伸一氏が、知人の投資先であった株式会社ルートレック・ネットワークス(以下、ルートレック・ネットワークス)に縁あって代表取締役として就任。2005年に創業メンバーとともにMBO(マネジメントバイアウト)を行い、新生ルートレック・ネットワークスとして創業した。2005年当初は機械同士が通信し機器の管理や制御を行うM2M(Machine to Machine)事業を行っていたものの、2008年のリーマンショック、2011年の東日本大震災時と業績の悪化を経験した。そこで、同社が保有するAI、IoTといった技術を別の分野で活かすことができないかと考え、日本やアジアにおける農業の技術革新に照準を当て農業分野への事業転換を決断する。
同社のAI潅水施肥システム「ZeRo.agri(ゼロアグリ)」は、これまで「経験や勘」に基づいて行われていた農業における潅水・施肥を自動化し、土壌水分量や日照量といったIoT技術で集めたデータを用いて最適な土壌条件をクラウドにて導きだし、スマートフォン等で管理するシステムである。例えばトマト栽培の場合、水やりにかかる作業時間を大幅に短縮、土壌水分と肥料の量を最適化することで経費も抑制でき、かつ収量が2~3割向上するといった実績をあげている。2020年現在、全国で約240軒の農家で「ゼロアグリ」が導入されている。
2018年、第4回日本ベンチャー大賞(農業ベンチャー賞 農林水産大臣賞)受賞、同年 経済産業省よりJ-Startup企業、内閣府官邸 先進的技術プロジェクト「Innovation Japan」にも選出されている。また2020年にシリーズCの資金調達を実施し、スマート農業事業の加速を目指す。現在の代表的な株主には、農林中金、オイシックス、東京大学エッジキャピタル、グロービス・キャピタル・パートナーズ等が名を連ねる。
「ゼロアグリ」製品ホームページ(https://www.zero-agri.jp)より
● イスラエル企業ネタフィム社と点滴灌漑
ルートレック・ネットワークスは、これまで知見のなかった農業分野に参入した。その際、明治大学農学部からの技術指導を通して、イスラエルで誕生した点滴灌漑技術の紹介を受け、その先駆者がイスラエルのネタフィム社(Netafim Ltd. 1966年創業。全世界に29の支店があり、16の製造工場を保有する)であると知る。点滴灌漑は、少ない⽔と肥料で作物にも環境にもやさしい栽培⽅法だが、管理が難しく、水が豊富な日本ではあまり普及していない。点滴灌漑技術を保有する企業は、ネタフィム社の他にもインドの企業があることは承知していたものの、以下3つの理由からネタフィム社を選択した。1)グローバル企業で日本法人が設立されていたこと、2)点滴灌漑技術の先駆者であり長い実績があること、3)将来的なアジアへの事業展開を考えた際に、インドの会社よりも潜在的な問題が起こりづらいと判断したことである。ネタフィム社の技術は、チューブ⼊⼝の電磁バルブをコントロールすれば、数百メートル先の点滴も肥料と⽔の量が正確に制御でき、ITの視点から⾒ると⾮常に効率がよく、コントロールしやすいものだった。
「ゼロアグリ」は、液肥混入機、フィルターやチューブ、ドリッパー等にネタフィム社製品を採用している。これまでは同社がネタフィム社の商品を購⼊し、自社開発の通信制御部分とクラウド部分を組み上げ、「ゼロアグリ」として販売をしてきた。現在は通信制御ボックスのみの販売を開始し、市場でネタフィム社の機材を購入し、同社の制御ボックスを組み上げて、農家に収める形をとる。同社とネタフィム社の関係は、代理店でもなく、ライセンスを受けているわけでもない。相互リレーのような形で、まず点滴灌漑の市場を広げるために、共同で販売を行い、場合によっては販売後のメンテナンスも⼀緒に行うという位置付けだと言う。「資本提携こそしていないが、⾮常に深い形で事業提携を⾏っている」と代表の佐々木伸一氏は語る。
「ゼロアグリ」制御ボックスと運用状況
● アジア進出に向けた展望
「ゼロアグリ」は日本の中小規模の家族農家向けに開発された技術であり、気候や栽培面積の面でアジアの他の地域との親和性も高く、「ゼロアグリ」のアジア展開を見据えている。制御部分のコアコンポーネントとソフトウェアだけを同社が開発し、海外でも「誰でもどこでも買えるパーツ」を組み上げ、同じものを現地で作ってタイムリーに安く提供できるようなビジネススキームを⽬標にしている。その「誰でもどこでも買えるパーツ」というのが、まさにネタフィム社の製品だ。まずは、ブランド作物の生産が進み投資意欲も高いベトナム・ダラット高原への展開を検討している。コロナ禍にあっては、日本国内であっても直接出向いて製品を組み上げることが難しい状況だ。今後は国内も地域の代理店をうまく使って地方拡大を加速させる方針である。
・「経験と勘」に頼った農業分野をIoTで技術革新
・ 日本のスタートアップ×イスラエル大企業による協業
・ アジア展開で水や土壌の環境問題にも貢献
● イスラエル企業との関係構築
イスラエル企業との関係構築について、「一社一択だったので」としながらも、参考になる点を伺った。学ぶべきところは点滴灌漑という技術以外にも、交渉の仕方やコストに対する意識、まずビジネス面でのあるべき姿を描いてから詳細に落とし込み、初めから細部まで詰めた契約を締結するやり方など多岐にわたると言う。信頼関係の構築には時間がかかったものの、一旦築き上げた信頼関係は維持しようと努めてくれると感じるそうだ。また、イスラエルのグローバル大企業と日本のスタートアップという関係であっても、会社の大小関係なく公正に接してくれた。農業分野は口約束で動く部分もあり、契約書に書かれていない部分で、枠を飛び出すことができるかどうかは、お互いの信頼関係によるところが大きい。長期的にしっかりと手を組んでやっていけるという安心感が、今後の事業運営にも影響する。ネタフィム社の人材や製品戦略の入れ替えもある中、同社がアジア展開を進める上では、日本法人のみならずグローバル戦略にいかに同社が入り込んでいくかが鍵となる。
お話を伺った代表取締役社長 佐々木伸一氏
会社情報
会社名 |
株式会社ルートレック・ネットワークス |
代表取締役社長 |
佐々木 伸一 |
設立 |
2005年8月 |
資本金 |
7億300万円(資本準備金含む) |
従業員数 |
20名 |
住所 |
〒215-0004 神奈川県川崎市麻生区万福寺1-1-1 |
電話番号 |
044-819-4711 |
Website |
編集: (一財)国際経済連携推進センター
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