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コロナの先の世界(12) コロナの先のグローバル化はどうあるべきか 早稲田大学 政治経済学術院 経済学研究科 教授、経済産業省 産業構造審議会 通商・貿易分科会委員 戸堂 康之 【2020/06/04】

コロナの先の世界

(12) コロナの先のグローバル化はどうあるべきか

掲載日:2020年6月4日

早稲田大学 政治経済学術院 経済学研究科 教授
経済産業省 産業構造審議会 通商・貿易分科会委員
戸堂 康之

 新型コロナウイルスの感染拡大を機に、世界経済の分断が進行している。

 もともとコロナ前から保護主義的な政策が横行し、グローバル化は停滞していた。これは主に3つの理由による。第1に、2008年のリーマンショックによって、グローバル化が海外の経済ショックを呼び込むリスクが浮き彫りになった。第2に、中国から欧米諸国への輸入が急増したことで欧米の中間層の所得や雇用が減少しており、保護主義的な政策が政治的な支持を集めた。第3に、中国のファーウェイ社のIT機器から情報が窃取されているという疑惑などを機に、アメリカが安全保障上の脅威を理由として中国企業に対する輸出や対米投資を制限し、米中の分断(デカップリング)が進行していた。

 コロナショックは、これらの問題をさらに増幅させることになった。感染拡大初期には中国の生産活動が大幅に減退し、グローバル・サプライチェーンを途絶させて世界の生産活動に影響を与えた。また、世界の多くの国がマスクや人工呼吸器などの医療関連物資や食糧の輸出を制限し(WTO報告書)、グローバル化が医療や食糧に関わる安全保障の脅威となりうることが明らかとなった。

 とは言え、グローバル化を通じて新しい情報や知識を得ることは、イノベーションおよび経済成長の源泉の1つであり、これらの問題を恐れるあまり、保護主義に走ってグローバル化に背を向けることは、自分の首を絞めることに他ならない。

 しかし、コロナを機にこれまでのグローバル化のあり方を見直すべきところも明確となった。1つは、中国依存の見直しだ。日本は部品の輸出入の1/4程度を中国に依存しており(UN Comtrade)、今回のように中国からの部品の供給や中国での部品の需要が減少すると、日本への影響は非常に大きい。中国新華社通信は、コロナの感染を予防するために中国からの入国を禁止したアメリカに対して、「中国からの医薬品の輸出を止めれば、アメリカはコロナの大海に沈むだろう」と警告した。中国での独立機関によるコロナ感染源の調査を要求したオーストラリアに対して、中国は牛肉や大麦の輸入を差し止めた(読売新聞)。いずれも、中国に対する輸出入の依存度が大きいことがこのような中国の対応を呼び込んでいる。

 中国への過度な依存を減らすとしても、その対処法は国内回帰ではなく、より多様なグローバル化であるべきだ。国内回帰だと、日本で大規模な災害が発生したときに十分に対処できないからだ。近い将来の発生が予測されている南海トラフ地震では、日本の主要な産業地帯が大きな被害を受けると予想され、サプライチェーンの分断を代替でカバーすることができない。むしろ、生産拠点や取引先を世界各国に配置することで、どの国で生産が止まっても代替生産・販売によって被害を最小限に止めることができる。リスクへの対処は分散化が基本だ。

 特に、欧米台韓豪などの先進国に対する海外展開を拡充することが重要である。それには3つの理由がある。第1に、ロボット化によって生産における人件費の割合が減っており、人件費の安い開発途上国・新興国に生産拠点を設けるメリットが小さくなっていることがある。

 第2に、より高付加価値を生み出すためには、部品の供給関係でつながる「サプライチェーン」を越えて、研究開発やデータ解析、マーケティングなどでも企業間で連携する「バリューチェーン」を構築することがより重要になっている。技術が高度化するにつれて1社でカバーできる技術分野は相対的に狭まっており、研究開発を共同で行うオープン・イノベーションが活発化しているのはその好例である。筆者らの研究でも、国際共同研究によって日本の企業は質の高い特許を生み出していることが明らかとなっている。

 第3に、近年は企業が顧客からデータを収集して、生産効率の改善やマーケティングに利用することが増えている。しかし、中国やロシアなどの国ではそのようなデータを自国のサーバーに保存することや政府に開示することを求めており、進出のリスクが大きい。半面、欧米豪などとはそのような規定を設けないことを日米デジタル貿易協定、日EU・EPA、CPTPPで合意しており、比較的安心して投資・連携できる。

 だから、コロナの先の世界では、より積極的にこれらの先進国に進出し、製造・販売だけではなく、研究開発やデータ解析の拠点を設けて現地の企業や大学などと連携することでイノベーションを起こし、高い付加価値を生み出していくべきだ。実は、リーマンショック後に世界的に直接投資が縮小する中、日本の欧米向け投資は製造業でも非製造業でも増加傾向にある。この傾向を維持していきたい。

 とは言え、日本の国際共同研究のレベルは国際的にみてかなり貧弱だ。特許のうち国際共同研究によるものの割合は、欧米では約10%、中国で9%であるのに対して、日本はわずか1%にすぎない(OECD報告書)。だから今後は、財・サービスの取引や資本関係だけではなく、知的な活動でも先進国とつながり、重層的なネットワークを構築することが望まれる。

 重層的ネットワークは、互いの信頼感を培って、互いに助け合うような強いつながりを作り出す。それは、日本の系列関係でおなじみの光景だ。部品供給だけではなく、生産効率改善活動や研究開発で連携して、お互いの利害が強く一致したウィンウィンの関係を築いていたからこそ、日本企業は東日本大震災時にも互いに助け合った。このような関係をグローバルにも作っていくことで、コロナのような有事でも互いに助け合い、取引を途絶させない強靭な経済ネットワークを構築できる。

 とは言え、知的なネットワークでつながるのは簡単ではない。我々にしかない技術を持っていてこそ、他の先進国が進んで連携してくれ、互いに利益を得るウィンウィンの関係を築くことができるのだ。その意味では、日本の科学技術力は相当低下していることが問題だ。世界のトップ10%の科学技術論文数の国際ランキングでは、日本は1995~97年には第4位だったものが、2015~17年には第9位にまで低下している(科学技術・学術政策研究所『科学技術指標2019』)。特許1件当たりの引用数では、日本は1990年から2007年までアメリカに次いで世界第2位だったものが、2010年にはドイツ、韓国に抜かれて第4位になっている(飯野他、経済産業研究所DP)。技術レベルが低いので海外の先端企業と連携できず、ますますガラパゴス化して技術力が低下するという悪循環に陥っているのだ。

 とは言え、それでも日本にはまだ世界のトップクラスの技術力を持った企業は、中堅企業、ベンチャー企業を含めて少なくはない。だから、こういった企業が海外企業と連携し、グローバル・バリューチェーンの一員となって、飛躍的に成長することを期待したい。

 また、政府にはこのような知的ネットワークのグローバル化を支援してもらいたい。例えば、ジェトロの行う輸出展示会支援は効果があったことがデータで示されている(牧岡、経済産業研究所DP)。同様に、技術展示会や海外での産産・産学連携のマッチングなどを支援することで、日本企業の知的なグローバル化は進むはずだ。

 その上で、より多くの日本企業がグローバルな知識ネットワークに入り込んで成長するためには、科学技術力の底上げを進めるべきで、それにはいくつもの抜本的な方策が必要だ。まずは、論文ランキングが低下していることに象徴されるように、大学の研究力が落ちているのが問題だ。この1つの要因は、大学の研究者が十分な競争にさらされていないからだ。筆者はアメリカの大学1校と日本の大学4校を渡り歩いたが、アメリカとは違い、日本では採用・昇進審査を除けば、研究、教育、大学行政、社会貢献いずれの面でも大学によって自分の業績を査定されたことはない。このような環境で研究成果を挙げていくのは簡単ではない。早急に大学改革を進めて、イノベーティブな研究成果を生み出すことやその成果を社会に実装することにインセンティブを与えていくべきだ。

 もう1つ問題なのは、IT(情報通信技術)が十分に活用されていないことだ。IT投資が不足していることが日本の経済停滞の1つの要因であることは、すでに10年前に一橋大学経済研究所 深尾京司教授によって指摘されていたが、今になってもそれが全く改善されていないことはコロナによっても明らかになった。在宅勤務中に押印のためだけに出社せざるをえなかった会社員が多くいたこと(日本CFO協会調査)や、多くの先進国の学校がオンライン授業に素早く切り替える中で、日本の学校のほとんどは休校を続けたことがその象徴である。日本でIT化が進まない背景には、ITを構築する高度人材もITを利用するための社会全般のリテラシーも不足していることがある。だから、初等・中等教育においてIT機器やアプリを利用した授業やプログラミングのための授業を大々的に導入し、労働者に対しては再教育の機会を提供するべきだ。

 さらに、グローバル化のためには英語を中心として語学力、コミュニケーション力が必要となってくる。残念ながら日本の英語教育は相当効果が薄いと言ってよく、中高6年間、大学まで行って10年間英語を学んでも、ほとんどの場合まともに英語でコミュニケーションできるようにはならない。TOEFLのスコアランキングでは170か国中146位である。だから英語教育でも抜本的な改革が必要なのは明らかだ。その意味では、センター試験に代わる大学入試共通テストにおいて、文法や読む力だけではなく、書く力、聞く力、話す力すべてを評価する外部民間試験の導入が見送られたのは残念であった。

 グローバルに通用する教育があってこそ、コロナの先の激動する世界に対応してあるべき方向にグローバル化して生き延びていくことができる。ぜひコロナを機に、日本の教育が生まれ変わっていくことを期待したい。むろん筆者も、実証経済学を専門とする教育者の1人として、経済に対する洞察力を持ち、データ解析力の優れた人材を育成していくことに努めたい。


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