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コロナの先の世界(11) コロナ禍、アフリカはどうなるのか? 一般財団法人 国際経済連携推進センター 理事、一般社団法人 アフリカ協会 特別研究員 萩原 孝一 【2020/06/03】

コロナの先の世界

(11) コロナ禍、アフリカはどうなるのか?

掲載日:2020年6月3日

一般財団法人 国際経済連携推進センター 理事
一般社団法人 アフリカ協会 特別研究員
萩原 孝一

 本年初頭のアメリカとイランの衝突が開戦に至らなかったことは幸いでした。世界中のメディアが第3次世界大戦の始まりか、とまで報じたほど危ない状況でした。

 現在の世界の有様を冷静に俯瞰すれば、いたる所にきな臭い状況があり、大規模な戦争にまで及んでしまいそうな気配が満ち満ちています。

 人類共通の敵、深刻な「環境問題」を脇に置いてまで、自国の繁栄や防衛に全身全霊が注がれているのが現在の世界情勢です。

 主に核戦争と気象変動の二つの危機を考慮した「人類終末時計」は、2020年1月「残り100秒」と過去最悪となりました。北朝鮮の核開発の脅威にアメリカとイランの摩擦が加わった結果です。

 そこに突如登場したのが新型コロナウィルスです。このウィルスに関してはその出所などを巡って様々な解釈や憶測が飛び交っています。陰謀論も含めて人類史上でも滅多にないオール地球ベースで喧々諤々の論争が続いています。

 この拙文を書いている時点(5月30日)ではまだまだ世界的には治まる気配がないので迂闊なことは申し上げにくいのですが、私の基本的な考えは以下の通りです。

 COVID-19は、かつての黒死病やスペイン風邪などの凶暴さと比較すると、とても穏やかなウィルスのような気がします。だってコロナですよ。コ・ロ・ナの3文字を合わせると「君」という文字になるって粋じゃないですか。宇宙の配剤としか思えません。

 極論を申し上げると、今回の大騒ぎは死亡率がかなり低い伝染病が人類の死因として一つ加わっただけのことです。すでに自明の理となりましたが、人類はこれまでと同様に、この新しいウィルスとも共存する道しか残されていません。今回どれだけの人命が失われるかに関わらずそれだけは確かです。すでにwithコロナの時代と言われています。

 ですから、個人的には世界中がここまで過剰に反応することにとても違和感を覚えるとともに、このコロナ禍の裏にある不気味な存在を感ぜずにはいられません。

 確かに現時点までに世界中で30万人以上の死者を出しているので大惨事に違いはありません。ほとんどの国では人命第一主義に基づきロックダウンや経済活動を一斉にストップするということを優先してきました。

 その中にあって、日本政府は医療崩壊を防ぐという名目で緊急事態宣言を発令し、広く国民に外出自粛を要請しました。諸外国に比べるとあくまでもお願いベースの緩い対応にも関わらず、日本人が一斉に外出を控えたことは評価に値すべきことです。その結果、どの主要国よりも死亡者数が少なかったことは快挙であり、諸外国の脅威の的です。


 しかしこのつけは計り知れないものがあります。2ヶ月も経済活動を止めてしまったわけですから、かつての大恐慌やリーマンズショックを凌ぐ世界的な大不況がやってくることは間違いありません。

 あまり想像したくはありませんが、おびただしい数の企業が倒産に追い込まれ、工場が操業停止となり、失職者が街にあふれ、犯罪が多発し、生活が成り立たなくなった人々の多くが自死の道を選んでしまう、というシナリオは極めて現実的です。

 私が心から愛するアフリカがどうなってしまうのか、居ても立ってもいられません。アフリカは元々超えなくてはならない問題が山積みの上に、このコロナがもたらす影響はさらなる社会不安を招き、アフリカ全土が混乱の渦に巻き込まれる可能性は大です。

 残念ながらアフリカのコロナ禍における的確な情報が極端に少なく、インターネット経由のざっくりとした統計やSNSで現地からの私的報告に頼らざるを得ません。

 各国の情報はコロナがもたらす「泣きっ面に蜂」状況を伝えています。例えば、ソマリアでは、最近豪雨に見舞われ20万人が家や農地を失い、その直後の新型コロナウィルスはまさに脅威です。隣のケニアでも大洪水があったばかりで、しかもコレラの流行に見舞われている最中でのコロナはさらなる深刻な状況をもたらしています。

 ギニアやコンゴ(旧ザイール)では麻疹が大流行しています。南スーダンでは武力衝突が続いています。エスワティ二王国(旧スワジランド)では成人の1/3がHIV陽性と言われています。「踏んだり蹴ったり」には慣れっこのはずですが、日本人には想像を絶する苦しい国情があるのです。

 さらに、アフリカのどの国にもある貧困地域では、コロナの影響による治安などの悪化で、さらなる貧困を生み出しているという絶望的な状況が想定できそうです。食料不足による飢餓の問題にも拍車がかかりそうです。

 ところが、

 アフリカ各国の状況はなかなかに厳しいものがある一方、オールアフリカで俯瞰してみると、思いの外、事態は深刻ではないということが分かります。これからどうなるか予測がつかないという不気味さはあるのですが、今の所どの大陸と比べても状況は大分ましとは言えそうです。

 5月31日現在、Africa Business Partnersによるアフリカ全土の状況は以下の通りです。

累積感染者数: 146,270人
百万人あたり累積感染者数: 115人
感染者DT(※) 19日
死亡率平均 3%
※感染者が2倍になる日数

 2月中旬にアフリカで最初の感染者が出て、アフリカはコロナ感染拡大で大変なことになると私も思っていました。ところが現時点でストップウォッチを押すと、上の統計が示すように感染は予想に反して意外と広がっていません。もちろんこれから爆発的に拡大する可能性は残されていますが、、、、。

 現在、感染者数が1万人に迫りそうなのが南アフリカとエジプト。ついで、モロッコ、ガーナ、ナイジェリアが4,000~5,000人で続きます。拡大は2週間以上で倍になるという穏やかなペースを保っています。検査陽性率も世界平均よりも低いです。

 他方、このコロナ禍は思いがけない事態も引き起こしています。南アフリカのコロナウィルスでの死亡者は約200人。5週間のロックダウンにより地上最悪と言われた治安が良くなり、車が走らないため交通事故が減り、お酒の販売がストップしたおかげで飲酒がらみの死亡が減り、普段より死亡者数が減ったという報告があります。ギャングが停戦を申し入れ、メンバーに生活費が渡り、治安が安定したという皮肉な状況を引き起こしています。

 アフリカはエボラ出血熱などの流行経験から、感染症の拡大を水際で防ぐためのオペレーションや、ノウハウがすでに存在していて、それが今回も生かされていると思われます。

 常日頃からいろいろな疫病に対応しており、そのための施設や人員が組織されています。感染の流行に即時に対応し、限られた物資で拡大を抑えるという点では、アフリカはむしろ準備が整っていると言えそうです。

 自国の医療体制が心許ないので、早い段階から行政が対策を考え、感染者が見つかり始めた3月から速攻で行動規制をし、アフリカ54カ国中50カ国が空港を封鎖し、多くの都市ではロックダウンされました。

 一部例外はありますが、各国政府は今のところリーダーシップを発揮しているようです。感染症に悩ませ続けられ、貧困による社会不安とともに生きるアフリカの弱者として積み重ねてきた経験が、今生きているのではないでしょうか。同じような経験があるはずのブラジルでは過激な大統領による「経済最優先」政策の結果、とんでもない事態に陥ってしまったことと好対照です。今回のコロナ禍においては、日本がアフリカから学べることは少なくないかも知れません。


 ここまで書き終わった瞬間、ケニアから感染合計者数が2,000人をこえてしまったとの報告が入りました。アフリカにおけるコロナの脅威はこれからピークを迎えるかも知れません。恐らくアフリカが今回のコロナ禍の最後の戦場となることは間違いないでしょう。

 早晩終息を迎えるはずの多くの先進国が文字通り、ワンチームとして総力を挙げてアフリカの窮地を救って欲しいです。それが新たな国際協力の形となり、コロナでますます分断が進んでしまった人類が統合の道へ向かうきっかけとなることを心から願います。

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