令和元年度 第4回 国際情勢研究会 報告/「最近の朝鮮半島情勢 ー日韓、日朝関係を中心にー」 南山大学 総合政策学部 教授 平岩 俊司 (ひらいわ しゅんじ)【2019/11/11】

講演日時:2019年11月11日

令和元年度 第4回 国際情勢研究会
報告/「最近の朝鮮半島情勢 ー日韓、日朝関係を中心にー」


南山大学 総合政策学部 教授
平岩 俊司 (ひらいわ しゅんじ)

1. 混迷を極める日韓関係
 現在の日韓関係は、戦後最悪といわれる。これまでも政権の性格によって日韓関係が良くない時期はあったが、安全保障をめぐるプロフェッショナル同士の関係、経済の合理的な関係、そして1998年の日韓パートナーシップ宣言以来の民間交流の拡大、という3つが下支えになり、底が抜けることはないという状況だった。しかし、ここ数年で、この3つもぐらつき始めている。一方、北朝鮮に関して言えば、ミサイル発射、核実験を繰り返した2017年とは打って変わり、昨年はいわゆる対話の年となったが、残念ながら国際社会が期待するような形で非核化が進んでいる訳ではない。にもかかわらず、安倍総理は、北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)委員長と無条件で対話するとしている。
 日韓関係を考える際によくいわれるのは、韓国の政権を理解するにはもう一度、韓国の民主化を考える必要があるということだ。文在寅(ムン・ジェイン)政権を支えているのは「386世代」といわれる人々で、386とは1990年代に年齢が30代、1980年代に大学に通い、1960年代生まれという語呂合わせだ。この頃、学生運動をしていた人たちは、当時の全斗煥(チョン・ドファン)政権の正統性に、極めて強い疑義を持っていた。これは1961年の朴正煕(パク・チョンヒ)大統領の軍事クーデターに連なる、軍出身者が政権を取った権威主義体制の時代だ。このような政権に批判的だった世代で、さらに言えば戦後、日本の植民地から解放されてからも「政権に正統性がない」という感覚を持ってきた人たちだ。要するに、第二次世界大戦が終わり、日本が敗戦したことで、自分たちは自動的に解放されただけで、自ら勝ち取った訳ではないというコンプレックスがある。中でも極端な政治グループは、むしろ金日成(キム・イルソン)パルチザン・グループが日本に大打撃を与え、政権を奪取した北朝鮮の方が政権の正統性があると考えている。このような構造が基本的にあり、我々はそれを反日親北と単純化して理解するが、その根本は韓国の当時の政権に正統性がないというところから始まっている。そういう人たちが現在、政権を支えている。
 文在寅政権がよく言うのは、1919年の三一運動と、その後の大韓民国臨時政府が韓国の起源で、韓国の建国記念日ということだ。学生運動の際の政権に正統性がなかったため、歴史を再構成し、政権の正統性があるようにしたいというのが彼らの考え方だ。そのためには同時に、日本との関係を根本的に見直さなければいけないということになるので、日本からすれば反日に映る。また、北朝鮮との関係について言えば、ある種の親和性を持った人たちが集まっていて親北に見えてしまう。
 日韓関係で我々がよく立ち戻るべきと言うのが、1998 年の小渕恵三・金大中(キム・デジュン)による「日韓パートナーシップ宣言」だ。この宣言以降、サッカーの日韓W杯共催があり、日本では韓流ブームも起きて日韓関係が緊密化した。ところがその後の盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権、李明博(イ・ミョンバク)政権、朴槿恵(パク・クネ)政権では、難しい状況が続いた。日韓パートナーシップ宣言の基本的な考え方は、いわゆる価値観の共有だったが、これを巡る日韓の齟齬が朴槿恵政権前半で起きる。そして2015年の安倍総理の施政方針演説では、それまで言及されていた価値観を共有する関係という文言が取れて、外務省のホームページからもそれが削除された。

2. 文在寅政権と日本
 現在の文在寅政権は、自分たちの政権の正統性に疑義を持つと同時に、前政権のいわゆる保守政権が行ったことに対して反発がある。文在寅政権はリベラルと表現されるが、韓国の保守政権も基本的に共有する部分があり、それは1965年の日韓国交正常化に際する日韓基本条約、あるいはその前後の交渉で必ずしも対等な関係で国交正常化した訳ではないという不満がある。とりわけ重要なのが、1910年の韓国併合を合法的とするか、非合法とするかという点だ。結局、韓国側は1910年から無効だったという立場を採り、日本側は1910年に関しては合法的で、その後、日本が敗戦になったことでこれが無効になったとする。要するに、1910年の韓国併合は当時の国際法に基づいて行われ、韓国側の合意を得て行ったので問題ないというのが日本の立場だったが、村山談話以降、戦前の行為には不当な部分があったと認めた。この1910年の韓国併合に関する現在の日本の立場は、合法不当と言って良いと思うが、韓国の立場は不法不当というものだ。
 朴槿恵政権はカッコ付きだが、冷静な対応をして日韓関係が好転し、2015年12月28日に日韓の慰安婦に関する合意が行われる。しかし、その後、朴槿恵政権は「蝋燭革命」で交代させられた。文在寅政権は「自分たちは蝋燭革命によってできた革命政権だ」と言うが、革命政権だからと言って、国家がした約束を反故にするのはどうかと思う。また、盧武鉉政権の時に行われた民主化のようなことも、自分たちが完成させたいという想いがある。よくメディアなどで韓国の大統領は非常に権限が強いといわれるが、これはなぜかというと、やはり分断国家だからだ。いつ北朝鮮と交戦状態になるかわからず、その際、民主的な手続きを踏んでいれば間に合わない。そこで、権力が1つに集中するという状況がある。また、分断国家でスパイが多く入ってくるので、社会に対する圧迫が重要だ。だからこそ、韓国中央情報部(KCIA)のような情報、諜報機関が肥大し、いびつな政権構造になっている。しかし、民主化の過程でKCIAはかなり骨抜きにされ、政権側が替わりに使ったのが司法、検察だ。そして、検察が非常に大きくなった。
 2017年5月には文在寅政権が発足するが、当時は朝鮮半島危機などといわれ、トランプ大統領が北朝鮮に強くプレッシャーをかけて戦争が起きるのではないかという状況だった。それが2018年1月1日の北朝鮮の金正恩委員長による新年辞を機に変化し、平昌オリンピック、南北首脳会談、米朝首脳会談という流れになった。そこで、韓国政府は南北関係を自分たちの思惑どおりに動いていると見ていただろうし、そういう流れの中で徴用工裁判の判決が昨年11月に出された。
 日本政府はこれに対し、三品目に関して輸出管理を強化し、さらに韓国側が日韓軍事情報包括保護協定(GSOMIA)に手をかけた。その間、韓国から日本への旅行者は減少し、日本の特定地域に影響が出たり、韓国内における日本製品の不買運動でその販売も減少した。GSOMIAの最終的な結論は11月23日午前零時に確定するようだが、韓国側がなぜこれを破棄したかというと、日本側が輸出管理の問題を安全保障の問題にしたからだという。経済関係や安全保障の問題で、物質的なやり取りができない、あるいは制限を加えなければいけない関係なら、より機微に触れる軍事情報のやり取りはできず、日本側がGSOMIAを破棄しないなら我々が破棄するということだった。ただ、本音を言うと、GSOMIAは日本だけでなく米国との関係もあるので、彼らにはおそらく米国から日本に姿勢を改めるよう言ってほしいという思いがあった。しかし、米国が日本に対してそのように言ってくることはないと、今のところ私は聞いている。一方、日本側にはGSOMIAを維持したいという考えがあり、米国から韓国に対して強いプレッシャーをかけてほしいという思いがあるだろうが、日本が期待するほどの強いプレッシャーが米国からかかっている訳ではなさそうだ。今のところ、韓国側の原則は、GSOMIAについて見直しを検討しても良いが、その前提条件は日本側が最初に手を出した輸出管理の問題で見直しをすることだという。また、この問題の根本的な部分には徴用工問題があるが、これに関する韓国側の解決法もなかなか出てこない。

3. 朝鮮半島非核化と日朝関係
 北朝鮮の核ミサイル問題の状況は、昨年からほとんど変わっていない。朝鮮半島の非核化については、これまで国際社会が北朝鮮に対し、開き直る根拠をいくつも与えてきてしまったというのが私の正直な印象だ。よく北朝鮮に核を放棄する意志があるのかないのかという議論がなされ、よくわからないというのが正直なところだが、全くないとは言い切れない部分もある。ただ、彼らが「申し訳ございませんでした」と言って、自発的に核を放棄することはあり得ない。彼らがよく言うのは「米国次第」ということで、米国が真剣に取り組まなければ、我々が望むような核放棄に北朝鮮が応じるはずはないというのが現在の状況だ。
 一方、日本政府は昨年の国連総会で、金正恩委員長と直接向き合う用意があるとし、その後は日朝の接触があったり、国連人権理事会で共同提案国になっていた北朝鮮の人権問題提案国から日本が降りる状況もあった。また、外務省の『外交青書』から「圧力を最大限高める」という文言が削除され、日米首脳の電話会談があった5月6日には、「条件を付けずに向き合わなければならない」という言い方もしている。では、日本の姿勢が変化したのかというと、私は拉致、核、ミサイルの包括的解決、そして国際協調を前提とし、対話と圧力をバランスよく使い分けるという基本線は変わっていないと思う。それでは、基本線を変えない中で安倍総理が条件を付けずに金正恩委員長に会って何を話すのか。トランプ大統領は北朝鮮との交渉で盛んに、「非核化が実現すれば、明るい未来が待っている」と言っている。ただ、「金を出す気はない」というので、明るい未来を具体的に見せるのは日本だということかと思う。日本側からすれば当然、拉致問題も重要だが、中距離、短距離ミサイル廃棄も重要だ。これらについて米国が一緒に協議してくれればよいが、北朝鮮の自衛権ということもあり、日本が独自にやらなければいけない話なのだろう。
 一方、北朝鮮から見ると、安倍総理と会う価値があるのかという話だが、私は唯一、会う意味があるとすれば、新しい日朝平壌宣言を作ることだと思う。金正恩委員長には、政権基盤が安定してきて、父親の七光りで政権を取ったというよりも、自分の政権にしてきたという自信がここ何年かであるはずだ。とりわけ、父親が会えなかった米国の現職大統領と既に3回も会った。そして中国との間では問題もあるが、一応、関係を回復した。唯一、日本との関係は小泉純一郎元総理と父親の金正日(キム・ジョンイル)総書記の間で取り交わされた日朝平壌宣言に基づいている。このため、金正恩委員長にとっては何らかの形で日朝平壌宣言を自分の宣言にし、日朝関係を仕切り直せるなら、少し魅力的なのではないか。ただ、日朝平壌宣言の一番のポイントは、賠償でなく経済協力に北朝鮮側が納得したことで、韓国の徴用工問題もあり、新しい宣言を作る際にそこで北朝鮮がごねる危険性はないかと思う。しかし、金正恩委員長にとって唯一、日本との関係で魅力的なのはその部分ではないかと思う。

(敬称略 / 講師肩書は講演当時 / 文責:国際経済連携推進センター)


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担当:総務部