第183回 中央ユーラシア調査会 報告/ 「中央アジア5か国におけるODA事業の現況」 独立行政法人国際協力機構 東・中央アジア部 部長 藤谷 浩至(ふじや こうじ)【2019/10/21】

日時:2019年10月21日

第183回 中央ユーラシア調査会
報告 「中央アジア5か国におけるODA事業の現況」


独立行政法人国際協力機構
東・中央アジア部 部長
藤谷 浩至 (ふじや こうじ)

1. 中央アジア地域の特徴と課題
 1991年の旧ソ連からの独立以降、ロシア、中国という大国の間に位置すると同時に、アフガニスタンのような脆弱国にも隣接することから、中央アジアは地政学的に重要な地域となっている。また、特に1990年代、日本が積極的に経済協力を行ったこともあり、親日的な国が多い。一部、選挙制度等が行われている国もあるが、かなり形式的で、権威主義的な政権が多い。そして内陸国であることが、開発上のボトルネックになっている。旧ソ連であるがゆえに基本的な社会インフラは一定程度あるが、独立から30年近く経過し、老朽化が進んでいる。さらに資源がある国とない国との間で、格差が大きい。旧ソ連時代は地域分業生産体制で、独立後は域内連結性が低下したが、最近は少しずつ復活傾向にある。日本からは2015年10月に安倍晋三首相が中央アジアを歴訪し、2018年9月には河野太郎外務大臣がコーカサス3ヵ国を訪問しており、この地域との経済交流の拡大が期待される。一方、治安面では、イスラム過激派の脅威が存在し、タジキスタン、トルクメニスタン、ウズベキスタンとアフガニスタンとの国境地域等で課題になっている。
 経済面では、特に資源を持たないタジキスタン、キルギスは、ロシアからの出稼ぎ送金にかなり依存しており、ロシア経済の好況、不況の影響を大きく受ける。また、資源国には石油・ガス価格の上下が大きく影響する。対外債務については、特に中国が「一帯一路」との関係で、キルギスやタジキスタンのような、他の国際金融機関が貸しにくい国に対して資金を提供しており、債務負担を増やすことにつながっている。1年程前からは、よく「債務の罠」といわれるようになり、G20サミットでも話題になった。それらの国には、金融セクターの脆弱性という課題もある。中央アジアでは旧ソ連時代から経済面で資源や特定の産業に偏っている国が多いことから、雇用の確保や産業の多様化、民間セクター育成といったところが大きな課題である。このような中、ウズベキスタンで進められている経済自由化に向けた改革や地域の連結性強化につながる動きは、開発に携わる機関においても期待されている。
 日本による対中央アジア外交の基本方針は、「中央アジアの開かれ、安定し、自立的な発展を支え、地域・国際の平和と安定に寄与する」ことが、日本の国益にも資するというものである。そして中央アジア外交の3本柱は、①各国の開発課題に応える協力、②「人間」を重視した協力、③人的・文化的交流の深化となっている。また、「中央アジア+日本」という会議が隔年ほどで開かれており、前回の外相会合には、従来は対象地域ではなかったアフガニスタンからも、地域の治安安定に向けて外相が参加した。

2. JICAの協力における重点分野
 次に、この地域の支援における重点分野だが、まず旧ソ連時代に造られ老朽化してきた経済インフラの更新、あるいは新設があり、そのインフラを維持管理していくための協力が求められている。中でも近年多いのはエネルギー部門で、日本の高効率の発電所建設や発電所を運営、維持管理する人材育成が、ウズベキスタンやアゼルバイジャンで行われている。道路分野の協力も、かなり実施している。キルギスやタジキスタンのような一人当たりGDP(国内総生産)が低い地域では無償資金協力も行い、他の地域では円借款を通じた協力をしている。無償資金協力で、空港や貨物ターミナルの整備なども行っている。
 また、この地域は内陸国であることから、域内外との連結性強化が求められ、インフラ協力でも周辺国も含めた形のつながりを検討している。中央アジア地域の開発を全体的に検討する上では、アジア開発銀行(ADB)が事務局を務める「中央アジア地域経済協力(CAREC)」という枠組みがある。このCARECで地域全体の開発計画が立てられ、その一部を日本や国際協力機構(JICA)が担う形の協力も進めている。さらに、地域の特性として資源依存があり、資源がない国や地方との格差がある。そこで、新しい雇用が生み出される産業を興すことや、中小企業の育成支援なども行っている。これらの分野は主に、技術協力となる。あとは、ウズベキスタンやキルギスで農業、畜産といった分野の人材育成や貿易振興につながる協力を進めている。さらに、ガバナンス向上のための人材育成もJICAが比較的早くから取り組んできた分野で、特に公務員の人材育成を中心に力を入れている。
 このように、①インフラの整備、②産業の多角化・雇用の促進、③ガバナンスの向上、あるいは市場経済化という3つの分野を重点領域として、JICAでは中央アジア地域の支援を進めている。インフラの整備では、質の高い整備を心掛けている。いわゆるライフサイクルコストを考え、ただ建設費用が安ければ良いというのでなく、長い目で見れば経済的にもメリットがあるような整備を支援していく。社会インフラの中でも運輸セクター、電力セクターについて積極的に進めている。また、無償資金協力による医療分野、医療機材の供与のほか、道路に関しては、雪崩対策や道路災害の管理能力向上プロジェクトなど日本が比較的得意な防災技術を組み合わせた支援も行っている。
 2番目の産業の多角化・雇用の促進では、キルギスやタジキスタンのような低所得国では雇用の促進、カザフスタンやトルクメニスタンでは国内格差の是正という観点から協力していく。その方策として、農業・農産加工業や中小企業振興などを通じた産業多角化を推進している。産業多角化に向けた人材育成の拠点となるのが「日本人材開発センター」で、ウズベキスタンとキルギス、カザフスタンの3ヵ国にある。元は旧社会主義国の人々に資本主義経済の基本的な知識を伝えることを目的に始まったが、近年は人材育成に加え、日本の中小企業と現地企業のビジネスマッチングにも重点を置いている。3番目のガバナンスの向上では、政府機関の人材能力向上などで協力を進めており、「人材育成奨学計画(JDS)」という無償資金協力を使った留学生受け入れなどを行っている。

3. 各国における具体的なプロジェクトの事例
 具体的なプロジェクトの事例では、インフラ整備の代表的なものとして、ウズベキスタンの「電力セクタープロジェクトローン」がある。電力セクターに対してインフラ整備の包括的な支援を行い、電力の安定供給をはかっている。ウズベキスタンでは近年、電力消費量が大きく伸びており、国内には天然ガスがあるが、大統領も効率の良い発電にしたいと考えている。キルギスでは、17年ぶりの円借款となった「国際幹線道路改善事業」を進めている。キルギス南部のオシュ、バトケン、イスファナという3都市を結ぶ国際幹線道路の改修と、首都ビシュケクとオシュを南北に結ぶ国際幹線道路の防災対策を行っていく。無償資金協力の事例では、タジキスタンのアフガン国境にあるハトロン州ピアンジ県の給水改善事業があり、深井戸の改修・新設、送配水施設の改修・新設・拡張工事を通じ、安全な水が飲めるよう生活環境改善を行った。かつ、大きな給水塔を造って24時間給水を可能にし、給水の維持管理体制も地元でしっかり作っていただいた。インフラ整備ではまた、中央アジアの連結性を強化していくため、CAREC回廊の整備も進められている。運輸、エネルギー、貿易を重点分野として東西南北を結ぶ6つのコリドーにおける輸送ルートの整備、いわゆるインフラ整備とキャパシティデベロップメント等を行っている。
 産業の多角化・雇用の促進に関しては、先程も触れた日本人材開発センターがある。2000年代初期に設立され、ビジネスコース、日本語コース、相互理解コースといった研修コースを設けて人材育成を行っている。近年は単純な人材育成でなく、各国の地元企業とのネットワークを形成し、センターが持つ地元企業のネットワークと日本から進出を考えている企業の橋渡し的な活動も展開したいと考えている。また、キルギスでは一村一品プロジェクトを2012年に開始した。元は地元の女性がフェルト製品やハチミツなどの食品を作っており、日本の無印良品がこれに注目、海外でも販売できる製品を作るようになった。現在は無印良品との委託生産契約を継続し、活動の規模が拡大している。そしてガバナンス向上に関しては、先程も挙げたJDSがあり、ウズベキスタンやキルギス、タジキスタンでは無償資金協力による人材育成も行っている。
 国ごとの重点分野もあり、ウズベキスタンの場合、経済インフラの更新整備、特に運輸、エネルギー、市場経済化の促進と経済産業振興のための人材育成、制度構築、社会セクターの再構築支援となっている。近年は協力が若干、円借款の電力セクターに偏る傾向があるが、技術協力として、例えば医療分野では非感染性疾患や成人病の予防につながるような疾病対策や、高等教育機関におけるイノベーション・センターなども展開している。ウズベキスタンからはアラル海周辺地域に対する支援の要望もあり、その環境回復はもう極めて難しい状況だが、地域の人々の生活環境改善で何ができるかを検討している。
 キルギスについては、基本方針や重点分野を見直し、産業の多角化と雇用の創出、行政・社会サービスの向上といったところを重点に取り組んでいこうとしている。インフラ、あるいは農・畜産物、農産加工業の支援、一村一品といった格差是正の取り組みが中心である。また、昨年ごろから、重点分野の一環として保健セクターの取り組み強化を検討している。タジキスタンについては、重点分野は経済・産業開発基盤の整備、基礎的社会サービスの向上、安全化促進となっている。アフガニスタンと長く国境を接しており、周辺国からの影響が最も懸念される国でもあり、国境管理や治安対策で関連する行政官の人材育成に力を入れていきたい。ただ、国境地域は安全確保との関係で、実際の事業はやりにくいところがある。
 カザフスタンの経済レベルになると無償資金協力の対象国ではなく、円借款も近年特に、新たな要請は出てきていない。しかし、現在も若干の技術協力を続けている。セミパラチンスク地域の医療分野の人材育成のため、留学生受け入れ等も進めている。トルクメニスタンには我々の拠点がなく、なかなか情報が出ないが、基礎社会サービス、環境、農業などの分野でニーズがあるとみている。実際の協力事業は、トルクメニスタンからの研修医受け入れを中心に行っている。
 最後に中国政府の「一帯一路」との関係だが、今年4月に第2回の「一帯一路」国際協力サミットフォーラムが北京で開催された。中国政府は今回、「一帯一路」政策の成果をアピールする一方で、債務の罠をはじめとする国際的な批判に対し、自分たちが真っ当にやろうとしていることをアピールしていた。これがどれだけ実態が伴うかについては、今後注視していく必要があるだろう。

(敬称略 / 講師肩書は講演当時 / 文責:国際経済連携推進センター)

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