第182回 中央ユーラシア調査会 報告/ 「新大統領登場後のウズベキスタンにおける二国間ビジネスの現状と課題」 独立行政法人日本貿易振興機構(JETRO) 企画部・海外調査部主幹 下社 学(しもやしろ まなぶ)【2019/09/25】

日時:2019年9月25日

第182回 中央ユーラシア調査会
報告 「新大統領登場後のウズベキスタンにおける
二国間ビジネスの現状と課題」


独立行政法人日本貿易振興機構(JETRO)
企画部・海外調査部主幹
下社 学 (しもやしろ まなぶ)

1. ミルジヨエフ大統領の就任から約3年
 国際通貨基金(IMF)によれば、ウズベキスタンの一人当たりGDP(国内総生産)は現在、1263ドルになっている。2017年9月の外為規制緩和前は2000ドル程度だったが、為替をほぼ100%切り下げたため、このような数字になった。首都タシケントでの生活には、少なくともこの2、3倍程度が必要で、このような水準の収入では生活は難しいと思う。
 一方、中央アジアにおける貿易や外国直接投資受け入れを見ると、どの国・地域もカザフスタンとの交易が大宗を占めている。他方で、カスピ海、オンショア、オフショアの石油天然ガス資源の開発には、オイルメジャーの投資が入っている。また、中央アジア各国のランキングに関してよく話題になるものに、ビジネス難易度がある。世界銀行のインジケーターによるウズベキスタンの順位は昨年、やや下がったものの、190ヵ国中76位だった。2014~15年頃までは、百数十位だったのが、急に上昇した。ただ、これはあくまでもビジネスのスタートの難易度であり、ウズベキスタンにはまだまだ問題がある。したがって、持続的にビジネスを行えるかどうかは別の話だ。他には、世界銀行が出している「国民の幸福度」に関する調査の順位を見ると、ウズベク国民の方が日本国民より「自分は幸せ」と思っている人の割合が高いとわかる。
 ウズベキスタンでは、2016年にミルジヨエフが大統領に就任してから、既に3年が経過した。カリモフ前大統領の逝去に伴い、当時、首相だったミルジヨエフが、まずは大統領代行に就任し、12月4日に行われた出来レースの大統領選挙で当選した。そして、大統領就任後まもなく、2017~21年の5つの優先的開発方針に関する行動戦略を掲げた。カリモフ前政権時代は、経済改革は国が主導して行うということで、中央計画型経済からの脱却や改革が遅れたという批判もあった。ミルジヨエフ大統領は当初、その路線を踏襲するとの見方が強かったが、法の支配確立や司法改革、経済発展と自由化といった方針を掲げ、大方の予想を裏切る形で矢継ぎ早に改革を打ち出した。これが、3年が経過した現在も続いている。
 基本的には開放改革路線で、カリモフ時代の漸進的な経済改革とは180度変わったという印象だ。ただ、国の意思決定プロセスはやはり、すべてがトップダウンで、その辺はなかなか変わらないのかと思う。改革の例としては、例えば、ビザなし渡航の30日許可が挙げられる。2018年2月に日本を含む7ヵ国の国民について、パスポートを持つ人はビザなしで30日滞在できることになった。これはどんどん拡大しており、来年からは中南米のメキシコやドミニカなど20ヵ国も追加されて85ヵ国が対象になるそうだ。ウズベキスタンは現在、CIS諸国最大のビザなしで入国可能な国になったそうで、このようなことは、かつては考えられなかったことだ。日本からの観光客も、どんどん増加しているという。世論調査によれば、ウズベキスタンでは国民の多くがミルジヨエフ大統領による改革を支持しているそうだ。

2. ウズベキスタンで進む様々な改革
 他にも、様々な改革が行われている。例えば、経済省が経済産業省に、国家投資委員会が貿易省と統合して投資貿易省になった。また、日本の関係者が昔からよく知っているガニエフ氏が、副首相に返り咲いた。そして上院議長には今年6月、副首相だったノルバエワ氏が就任した。一方、貿易では米国の労働省がウズベク産綿花を、チャイルド・レイバーの疑いから「強制・契約児童労働により生産された製品」に指定していたが、その疑いがなくなったということで、これを解除した。このほか、個人情報保護法制定(2019年7月)、WIPO著作権条約の発効(2019年7月)など様々な改革があり、国際スタンダードにしていくという大統領の意志が窺われる。今年7月には保険産業分野の改革も指示しており、いわゆる国民皆保険制度の創設も議論されている。保健省は一連の関連法案をパブコメに付しているが、パブコメも昔は考えられなかったことだ。
 ウズベキスタンではさらに、マクロ統計の算出手法を国際基準に移行していくという。かつての統計はまず結論ありきで、いかにつじつま合わせをするかという数字の作り方がされていたようだ。しかし、このようなやり方では外国投資家の信頼が得られないということで、変えようとしている。過去9年ほど遡り、GDPの再計算も行うそうだ。税改革も進められており、基本的にはできるだけ個人事業者の負担を少なくする、累進課税で複雑だった税体系を一律10数%にする、徴税の機能を精緻化し、きちんとやっていくといった改革がなされている。関税の引き下げも、進めている。かつてのGMウズベキスタンの車は現在、ラボンという名前で販売されているが、国内でこの乗用車の組み立てが行われているため、乗用車の関税は基本的に高止まりしている。他方で車両価格が4万ドル以上、2年落ちまでの乗用車については、関税が0%となっている。物品税については、20%程度となっている。
 また、医薬品に関しては、日本を含む主要20ヵ国で既に登録されている医薬品について、販売の登録手続きを簡素化するという。現在、ようやく細則が固まり、運用しつつあるという話だ。このほか、外部コンサルの登用も進めており、電力、空港、天然ガス、化学などの部門を効率化しようとしている。さらに、今年2月には、10億ドルという限定的な価格ではあるが、新生ウズベキスタン史上初の外債発行を行った。格付けは「投機的水準」というレベルだが、申し込みが最大85億ドル程度あり、起債は一応、成功裏に終わったという。また、従来は世界銀行などによる推測値しか出されていなかった外貨準備高についても、政府が公式発表を行った。独立から四半世紀が経ち、経済のファンダメンタルズがしっかりしてきて、自国の経済運営にある程度、自信を付けたというのがこの辺に表れていると思う。また、景況感調査(2018年8月発表)も行っており、これはエポックメーキングなことだ。お手盛りの調査という感が拭えない部分はあるが、437社が回答し、約8割の企業が「景気は好転している」、「見通しは明るい」と答えている。
 ミルジヨエフ大統領による様々な改革の中で、特に2017年9月の外為規制緩和は、私たちから見て最も意義のあるものだと思う。これによって、為替の一本化と外貨売買の自由化が行われた。以前は二重為替になっており、1ドル=4000スムのところ、闇レートでは2分の1の1ドル=8000スムとなっていた。しかし、2017年9月5日から公定レートが闇の水準に切り下がり、8100スムとなった。これに伴う輸入品を中心とした急激なインフレや買い占め騒動などは、特に発生しなかった。これは既に切り下げ時点で、ウズベキスタンの街中の物やサービスの価格が闇レートにリンクしていたためだろう。外貨売買の自由化については、以前は限定された企業のみが公定レートで外貨にアクセスできていたが、これが自由化された。また、輸入材の販売というところでは、少なくとも決済の条件について相当改善されている。

3. 外資系企業の活動と日・ウ関係
 ウズベキスタンの外貨準備は現在約270億ドルとなっており、輸入の24ヵ月分程度に当たるので、すぐにデフォルトに陥るようなリスクはなさそうだ。近年の外資系企業の活動を見ると、やはり中国が上流部門など様々なところに出てきている。中国が「一帯一路」を進める中、私たちはウズベキスタンやカザフスタンに進出している中国企業を回り、調査も行った。その際、中国企業の人たちは皆、「政府は一帯一路と言って旗を振っているが、我々企業は採算をきちんと精査し、採算ベースを見極めて進出している」と異口同音に言っていた。中国だけでなく、ロシアもウズベキスタンの上流部門に進出しており、特に最近ではロスアトムが原発建設に関する合意をしている。カリモフ前大統領の時代には、ロシアとウズベキスタンは一線を画すような付き合いだったが、ミルジヨエフ大統領に代わってから、その関係は急に近しくなったようだ。このほか、欧州復興開発銀行(EBRD)が2017年に、ウズベキスタンでの活動を再開している。
 ウズベキスタンでは自動車産業が国内の重要産業になっていることから、この分野では外資がなかなか入りにくい構造になっている。その一方で、ウズベキスタン政府は日本勢にも出てきてほしいと考えているようだ。近年の日系企業の活動を見ると、円借款については最近、新規の案件が途絶えているようだが、ナボイにある火力発電所の近代化や、トゥラクルガン火力発電所の建設など、現在行われているものがいくつかある。国際協力銀行(JBIC)などによるナボイの肥料工場建設や、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)などによるフェルガナのコジェネ実証事業、無償によるナボイ州総合医療センターの機材整備も進められている。この辺はいわゆる公的資金案件で、メインストリームとなる。
 ただ、最近は少しずつ様々なビジネスの芽も出てきている。例えば、いすゞ自動車の小型・中型バス・トラック組立事業は、伊藤忠商事がサポートし、サマルカンド・オートモービル・ファクトリー(SAF)の工場を使って、いすゞブランドのバスやトラックを製造するものだ。主要な部品は日本から輸入し、現地で組み立てるという。また、住友商事は、トヨタの高級4WDを現地で販売する計画を進めている。住友商事は従来、Toyota Central Asia(TCA)という販売会社をドバイに創り、トルクメニスタン、タジキスタン、ウズベキスタンのような、その国での展開がまだ難しい国を相手に販売を行っていた。しかし、ウズベキスタンの外貨事情好転や今後のビジネスの有望性から、拠点をウズベキスタンに広げている。
 また、大阪の繊維商社がウズベキスタンの綿花を輸入している。この綿花は今治のタオルメーカーに卸されており、高級タオルとなって「サマルカンドブランド」として販売されている。他には、日本のインスタント食品に使われる乾燥野菜をウズベキスタンで作ろうという動きもある。インスタントヌードルメーカーは従来、中国から乾燥野菜を調達していたが、中国の食の安全性に厳しい目が向けられる中、オルタナティブを確保したいということだ。中央アジアの物を日本へ持ってきて売る場合には、やはりロジスティクスの問題がある。このため、日本まで運ぶのではなく、陸続きの中国市場を狙うという方法もあるだろう。
 さらに現在、日・ウ間でホットなテーマの1つが、人材に関する話だ。日本で人材不足が深刻化する中、ウズベキスタンの人たちに来てもらおうと、今年初めに両国間で協力覚書が締結された。これを受けて現在、ウズベキスタンでは日本語学校やそのための実習機関が雨後の筍のように増えている。ウズベキスタンの若い人たちは言葉を覚えるのが早く、素直だということで、日本での評判も良いそうだ。

(敬称略 / 講師肩書は講演当時 / 文責:国際経済連携推進センター)

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