第178回 中央ユーラシア調査会 報告/ 「ロシアと他CIS諸国の天然ガス輸出政策」 公益財団法人 環日本海経済研究所 共同研究員 杉浦 敏廣(すぎうら としひろ)【2019/04/19】

日時:2019年4月19日

第178回 中央ユーラシア調査会
報告 「ロシアと他CIS諸国の天然ガス輸出政策」


公益財団法人 環日本海経済研究所 共同研究員
杉浦 敏廣 (すぎうら としひろ)

1. 東方シフトを強化するロシア
 1991年12月末にソ連邦が崩壊した際も含め、ソ連やロシアからヨーロッパ向けの天然ガス供給が止まったことは一度もない。その理由は簡単で、ソ連・ロシアは天然ガスと石油でしか外貨収入を得られないからだ。このため、自ら輸出を止めることはできない。ロシアにとって、天然ガスで最も重要な市場は欧州市場だ。ソ連邦時代、ロシアの天然ガスはすべて西シベリアから西へ向かっており、東向きはなかった。しかし、近年は東方シフトも強化しており、中国向けの天然ガスや原油の輸出が拡大していくとみられる。
 中国向けは、原油では東シベリア~太平洋(ESPO)パイプラインとタンカー輸送があり、天然ガスは今年12月1日からパイプライン「シベリアの力1」で中国向けに輸出されることになっている。
 シベリアの力1はサハ共和国からロシア中国国境付近のブラゴベーシェンスクを通り、中国へ向かう2160㎞の天然ガスパイプラインだ。地下から出る天然ガスには不純物やメタン以外の有用成分が多いことから、ブラゴべーシェンスクには大規模ガス処理工場が建設された。ここで不純物や他の有用成分を取り除き、残ったメタンを年380億m³、中国に輸出する契約になっている。
 また、現在は「シベリアの力2」の交渉も進められている。これはピーク時には年間300億m³となる見込みで、天然ガス供給源は欧州向け天然ガスと同じ西シベリア産天然ガスなので、実現すれば西シベリアからヨーロッパ向け天然ガスの供給能力が不足するはずだ。
 油価とロシアの経済成長は、ほぼ連動している。プーチン大統領が登場した頃は乖離が大きく、相関関係はなかったが、その後、ロシア経済は油価に依存する構造となった。油価が高かった時は天然ガスと石油の税収(輸出関税と地下資源採取税)だけで国家歳入の約半分になり、2018年は46.4%だった。
 ロシアの原油輸出量は約500万bdなので、原油価格が1ドル上がるとロシアでは1日当たり約500万ドルの収入、輸出金額が増えることになる。一方、ガスプロムは昨年、約2000億m³の天然ガスをヨーロッパに輸出している。したがって、1000m³当たりの価格が1ドル上がれば2億ドルの収入が増え、10ドル上がれば20億ドル増えることになる。
 パイプラインの建設では現在、「ノルト・ストリーム2」が問題になっている。露ヴィボルグからバルト海経由独グライフスヴァルトのルブミン受入ン基地まで1224㎞のパイプライン「ノルト・ストリーム1」は、既に完成・稼働している。ノルト・ストリーム1は海底パイプライン2本から成り、年間の輸送量は2本を合わせて550億m³だ。1本目は2011年に、2本目は2012年に稼働を開始し、西シベリアの天然ガスが流れている。
 一方、ノルト・ストリーム2は現在建設中で、2本を同時に作っている。今年末までに完成予定だが、デンマークが領海を通ることに関して建設許可を出しておらず、年内に完工するかどうかわからないという状況だ。デンマークがこれに反対している背景には、米国の圧力もあるのではないかとみられている。
 一方、ロシアから黒海経由の「トルコ・ストリーム」では既に2本が完工しており、トルコ国内陸上パイプラインと陸上の受入基地を現在建設中で、まだ完成していない。また、トルコ国内に天然ガスを供給するには陸上の絶族パイプラインが必要で、現在それを作っている。1本のパイプラインの年間輸送能力は約160億m³で、1本目はトルコ向け、2本目はヨーロッパ向けだ。
 しかし、ヨーロッパ市場と天然ガスの売買契約が結ばれなければ、2本目はパイプラインができても、売り先がないので稼働しない。
 先程述べたように、シベリアの力1は今年12月に天然ガスの供給を開始する予定で、シベリアの力2は、西シベリアの天然ガスをアルタイ共和国経由で中国へ送る計画となっている。さらに、「シベリアの力3」はサハリンからウラジオストクまで1800kmの既存天然ガスパイプラインの途中ダルニエ・レチェンスクから、昔の満州方面へ天然ガスを流そうというものだ。そして「シベリアの力4」はウラジオストクから北朝鮮経由、韓国向けのパイプライン構想だが、これができるかどうかは政治情勢による。
 東シベリア、極東の総合的な開発では、「ボストーク・ガス綱領」が2007年9月に採択されている。「ボストーク50構想」は東シベリアと極東で、年間50bcm、500億m³の天然ガスを生産して輸出しようという構想だ。

2. 進まないTAPIパイプライン構想
 アゼルバイジャン領海カスピ海で生産された原油は、バクーからBTC パイプラインで地中海沿岸のトルコのジェイハン出荷基地から世界中に輸出されている。この原油パイプラインと、バクーからの天然ガスのパイプラインが並行して作られた。カザフスタン領海北カスピ海にはカシャガン海洋鉱区という大油田があり、カシャガン原油はテンギスからロシア黒海沿岸ノボロシースク港近郊までのCPCパイプラインに接続され、ノボロシースクから輸出されている。
 一方、カスピ海の天然ガスはジョージアとトルコ、ギリシャ、アルバニアを通ってイタリアまで輸出される予定。バクーからトルコ、ギリシャ国境までのパイプラインがつながり、現在は天然ガスを充填しているところだ。すべて充填されたら、本格的に送り出す。現在はトルコとギリシャの国境までのパイプラインに天然ガスを注入する作業が進んでおり、ギリシャとトルコの国境からイタリアでは98%パイプラインができていることから、もうすぐ全体が動くはずだ。
 トルクメニスタンからは3方向に、輸送用のパイプラインがある。それらはロシア向け、中国向け、そしてイラン向けだ。アフガン向けにはTAPI構想がある。
 これまで、56インチのトルクメン国内東西接続パイプラインがカスピ海までできているが、動いていない。2010年に作り始め、2015年に完成したが、その先にまだパイプラインがないため動かない。本来はここまでトルクメニスタンが作り、ロシアへ輸出する構想だったが、ロシアとトルクメニスタンの外交関係が悪化、メドベージェフ大統領の意向でこの構想は取りやめになった。
 一方、中央アジア諸国から中国向けの天然ガス輸出を見ると、トルクメニスタンが最も多く、増加している。また、ウズベキスタンとカザフスタンも増えている。トルクメニスタンから中国向けには3本の天然ガスパイプラインがあり、全体の輸送能力は550m³だ。このうち350億m³がトルクメニスタンに割り当てられ、100億m³がカザフスタン、100億m³がウズベキスタンだ。カザフスタンとウズベキスタンは今後、100億m³を中国へ輸出する見込みで、そうなると残りは350億m³しかなくなる。計画では4本目を作る予定だったが、無期延期となっており、現状ではパイプラインの中国向け年間輸送能力は550億m³しかない。
 トルクメニスタン、アフガニスタン、パキスタン、インドのTAPIパイプライン構想については、全く進んでいない。2015年12月にトルクメニスタンでTAPIパイプライン建設開始記念式典が行われ、2018年2月にはアフガニスタン領内でTAPIパイプライン建設開始記念式典がトルクメニスタンで行われた。その後は今年4月12日になって、ようやくロシアの鋼管工場とトルクメンガスは214km分のトルクメン国内パイプライン用大径鋼管の供給契約を結んだ。しかし、これは全長1814kmのうち214kmだけなので、ここだけ作っても全く意味がないという状況だ。
 アフガニスタン国内のTAPIパイプライン建設構想は、実質全く計画が進んでいない。

3. ウクライナとのトランジット輸送契約、信頼できるロシアの資源供給
 ロシアでは現在、油価依存型の経済から何とかして脱却しようという動きが出ている。しかし、米国が経済制裁をしており、なかなかできない。
 一方、ロシアにとって、天然ガスの最重要市場はヨーロッパであることから、ロシアはヨーロッパ市場を死守するはずだ。しかし、東方へのベクトルも今後、深めていこうとしている。
 天然ガスの供給源は西シベリアなので、先程も述べたように、西シベリア産天然ガスが中国に流れるようになれば(「シベリアの力2」)、ヨーロッパ向けの天然ガス供給余力に近い将来、問題が出ると思う。しかしこれには解決策がある。中央アジア産天然ガスを輸入して、これをロシア国内の供給分に充当すれば、西シベリア産天然ガスの欧州向け輸出量は確保できるだろう。
 ロシアは過去、ウクライナに年400億m³から500億m³の天然ガスを輸出し、この輸出分とほぼ見合う数量の天然ガスをトルクメニスタンから安い価格で購入していた。これはロシアの国内需要に充てており、高く売れる西シベリア産天然ガスは輸出に回していた。
 ウクライナでは近く大統領選挙があるが、ゼレンスキー候補が勝てばロシアとの関係は改善されると思う。
 ウクライナ経由の天然ガスのトランジット輸送契約は2009年1月から2019年末までとなっており、今年末で切れることから、現在、交渉中である。新大統領は5月に就任予定で、ゼレンスキーが当選すれば、トランジット輸送は継続されるだろう。パイプラインは定期的に保守点検や改修工事が必要で、ロシアとしては多くの輸送路を確保しておかなければ、保守点検で止めた際の代替供給ルートがなくなる。そういう意味でもガスプロムにとって、ウクライナ経由は必要だ。
 また、ロシアは今後、液化天然ガス(LNG)の輸出を強化していく方針で、ヤマル半島のヤマルLNGで生産を始めている。さらにアークティック2という2番目のLNGプロジェクトが、ヤマル半島対岸のギダン半島で計画されている。
 アゼルバイジャンにとっては「南ガス回廊」を完成させ、ヨーロッパに天然ガスを輸出することが悲願となっている。アゼルバイジャンから出る年間150億m³の天然ガスはヨーロッパの天然ガス市場においては微々たる量で、経済的なインパクトはあまりないが、政治的インパクトは大きい。
 一方、トルクメニスタンは天然ガス大国なので、何としてもロシアとイラン向けの天然ガス輸出を再開したい。イラン向けは2017年から、ロシア向けは2016年から止まっており、現在は中国向けしかないことから、トルクメニスタンにはほとんど外貨が入っていない。また、カザフスタンとウズベキスタンについては今後、年間約100億m³をパイプラインで中国に輸出するとみられている。
 2020年1月1日からは、国際海事機関(IMO)の新しい燃料規制が導入される予定で、これが現在、船舶業界や石油精製業界で大問題となっている。船舶の燃料として使われている重油は現在、3.5%まで硫黄分含有が許されているが、2020年1月1日以降はその含有率が0.5%以下の重油を燃料として使わなければ、船はどこにも寄港できなくなる。これは、ロシアにも大きな影響を与える。ロシアは約100万BDの重油をオランダに輸出しているが、ウラル原油を原料としており、硫黄分の含有率が新しい基準を満たさない。このため、今後はこれが輸出できなくなる見込みだ。
 他方で米国には重い原油を精製する余力があることから、私は今後、この重油が米国へ行くようになるのではないかと考えている。
 私は自分の経験から、かつてのソ連邦やロシアほど資源の供給国として信頼に足る供給源はないと考えている。これは民間でロシアとエネルギーの商売をしている人の間では常識だ。
 日本の原油輸入量では近年、ロシア産のシェアは増えていないが、これは単に価格の問題からで、価格さえ合えばロシアからはどんどん入る。しかも、西シベリア産原油は質が良く、ロシアは現在、東方ベクトルを推進している。ロシアの代表的な輸出原油はウラル原油で、国家予算で油価という時はその価格を前提にしている。現在は65ドルから70ドルで推移しており、これはロシアにとって非常に良い水準だといえる。
 ロシアとのエネルギー協力関係推進・深化が、日本のエネルギー安全保障の強化に貢献するだろう。

(敬称略 / 講師肩書は講演当時 / 文責:国際経済連携推進センター)

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