平成30年度 第4回 国際情勢研究会 『一帯一路と日本及び東南アジア』 報告1/ 「中国の動向 ― 安倍訪中の実現とその成果」 東京大学公共政策大学院 院長 高原 明生 (たかはら あきお)【2018/11/28】

講演日時:2018年11月28日

平成30年度 第4回 国際情勢研究会
『一帯一路と日本及び東南アジア』
報告1/ 「中国の動向 ― 安倍訪中の実現とその成果」


東京大学公共政策大学院 院長
高原 明生 (たかはら あきお)

1. 安倍首相による7年ぶりの中国公式訪問、中国の国内政治
 今年10月に安倍晋三首相が7年ぶりに中国を公式訪問した。天安門広場には日の丸が何本もはためき、日中関係の改善を象徴する訪問となった。短い滞在であったが、滞在中には中国のナンバー1、2、3と会談した。また、習近平国家主席と会食したほか、李克強首相とは2度も会食し、中国側はそれなりに誠意を示したと思う。これを非常に気にして見ていた国は、韓国だ。韓国では昨年末、文在寅(ムン・ジェイン)大統領が国賓として中国を訪問したが、中国の指導者らはろくに会食もせず、韓国側で憤慨の声が上がった。そこで日本の安倍首相にどのような対応をするかと思って見ていたら、中国がいわば満額回答を出して、韓国の人たちは悔しかったらしい。
 今回の訪中の成果は経済面だけでなく、安全保障面でもあり、李克強首相が来日した際、正式に合意した「海空連絡メカニズム」で対話を行うことになった。昨今の米国と中国との緊張、摩擦を見ていると、やはりメカニズムだけでは不十分で、パーソナルな交流が重要だと感じる。今回は防衛大臣の交流だけでなく、艦艇交流もまた行うという話になったほか、来年は習近平国家主席が来日する見込みだ。また、来年を「日中青少年年交流推進年」に指定する合意もなされた。
 日中関係は昨年ごろから温まってきたが、これをどのように考えれば良いか。私は日中関係分析の枠組みとして、ここ数年、「四要因モデル」を唱え、4つの領域要因を押さえるべきと考えている。第1に、国内政治があり、内政と外交がつながっていることは常識だ。第2に、国際環境や安全保障、主権の問題がある。中でも、米国要因は日中関係の要因として重要だ。第3に、経済利益も当然、1つのファクターだ。第4に、国民感情、国民の相互認識、自分の国がどうあるべきかというアイデンティティの問題がある。以下では、この枠組みに沿って説明していきたい。ベースにあるのはやはりパワーバランスだが、パワーバランスは一朝一夕には変わらないので、以下ではこれら4つの要因について検討する。
 まず国内政治だが、現在の中国政治には様々な問題もあるが、習近平国家主席の権力基盤は基本的に強固だ。しかし、今年6~7月には若干の動揺が表面化した。例えば、長老らが連名で習近平国家主席に対し、言動を批判し、いさめる内容の手紙を送ったという噂が流れたが、これはどうやら本当のようだ。そのコピーなるものを入手したという人によれば、200数十名の長老の署名があったという。やや眉唾ではあるが、手紙を送ったのは本当のことのようだ。その手紙には、個人崇拝を煽っていることや、言動がアグレッシブなために米国との関係が悪くなったといった外交面での批判もあったという。また、新華網が2、3年前に他の新聞に載った記事を突然、転載したが、その内容は「毛沢東の後で主席になった華国鋒も過ちを認めた」というものだった。これを現在の人たちが読めば、「習近平国家主席もしっかり、過ちを認めるべきだ」という批判の文章と受け止めるだろう。さらに上海では、若い女性が「共産党はとんでもない。習近平は悪い奴だ」と言いながら、彼の写真に墨汁をかけるという事件があり、その後、習近平国家主席のすべての写真が街角から消えた。
 このような状況でも、習近平国家主席は強気だ。今年7月3~4日には「組織工作会議」という人事を司る組織部門の全国的な会議があったが、彼はそこで「党中央は大脳であり中枢であり、党中央は必ず一尊を定め、一発の銅鑼の音が全体のトーンを規定する権威を持たなければならない」と述べている。これは皆に「自分の言うことを聞け」ということで、まさに一極集中、権力、権威の集中、個人崇拝をするよう言っている。8月初めには、指導部と長老らが重要課題について話し合う「北戴河会議」が開かれ、それ以降は表面化したチャレンジは見当たらないが、様々な批判にどう対応していくかは、習近平国家主席にとって課題になっているというのが現状だろう。

2. 高まる中国経済への不安、米中摩擦の衝撃
 中国経済については、公式発表によれば、今年1~9月の成長は6.7%ということだ。しかし、私は先月、かなり情報を持っている立場の経済研究者から、「中国の今年の成長率は、本当はゼロだ」と言われて驚いた。中国国内にも様々な見方をする人がおり、「3~4%程度」というのが平均的な見方かもしれない。ただ、はっきりわかることは、多くの人々の間で不安が高まっているということだ。実際、株も人民元も下がり、当局は資本流出を強く警戒している。それらを考えると、昨今の経済を巡る様々な話がよりわかりやすくなる。民営経済、私営企業が「虐げられている」という声が強まる中、全体として習近平国家主席は「そんなことはない」、「私営企業も大事な存在だ」と強調してきた。しかし、今年10月末の政治局会議ではある意味、非常に印象的な言葉で現状に対する指導部の認識が示された。それは、「目下の経済運営は安定の中で変化があり、経済の下振れ圧力がいくらか強まって、一部企業の経営困難が割合に多くなり、長期に累積したリスクや隠れた弊害がある程度露呈している」というものだ。このような表現が出てくると、指導部が相当厳しい現状認識をしていることがわかる。そこにはもちろん、米中摩擦も関係している。
 もう1つの領域である国際環境では、特に昨年末以降、米国が中国に対して非常に厳しく出るようになった。そして米中関係の悪化が明らかになるにつれ、中国が日本に接近するアプローチを積極化したと言って大きな間違いはないと思う。伝統的な外交パターンとして、中国は対米関係に問題が生じると日本やドイツを向くということがある。それが昨年末ごろから、作用している。習近平国家主席は、「今ほど多くの挑戦や困難に行き当たったことはない。海外から先進技術や鍵となる技術を獲得することはいよいよ難しく、単独行動主義や貿易保護主義の高まりは、我々に自力更生の道を歩むことを強いる」と述べている。ここで「自力更生」という言葉を使っているのは、非常に印象的だ。少し強がって、「これは悪いことではない」と言っている。例えば、半導体などのことが念頭にあるのかもしれないが、これをきっかけに必要なものは自分でしっかり作れるようにすれば良いということだ。このような発言も、指導部が現状の厳しさを認識していることの表れだ。
 米国との関係がどれほど中国にとって重要なのかについては、測りがたいところがあるが、中国人から私が聞くのは「米中関係の安定は、中国のすべての安定の基礎だ」という話だ。これについては、ややピンと来ないというのが、これまでの正直な感じだった。国際関係全般にとって対米関係が鍵であり、ベースであるというのならよくわかる。また、対米関係は経済や安全保障にとっても重要だが、「すべての」ということは、それだけでなく、社会や経済、そして政治の安定も含まれるということだ。私はこれまでピンと来ていなかったのだが、現在、起きていることを見て、何となくわかるようになった。現在、起きている米国との経済摩擦は物質的な問題だけでなく、中国にとって心理的な打撃でもある。中国の人たちは、「自分たちは米国のことをこんなに愛しているのに、米国はなぜこのように冷たいのか」と感じている。そして、指導者は米国との関係を良好にしなくてはならない。日本だけでなく中国においても米国との関係は非常に重要で、米中関係の悪化が習近平批判の1つの材料になっていると思う。しかし、中国には強気の人たちもおり、9月末には南シナ海での駆逐艦同士の異常接近事件も起きている。また、11月9日に楊潔?国務委員が訪米した際は、「航行の自由作戦」の中止を記者会見で要求したりしている。

3. 中国人の対日イメージ改善、今後の日中関係
 日中関係に話を戻すと、興味深いのは、中国人の対日イメージが目に見えて改善していることだ。世論調査によれば、昨年から今年にかけて、中国人で日本に対して良いイメージを持っていると答えた人は、2017年の31.5%より増加し、今年は42.2%に達した。ただ、問題は日本人の対中イメージ改善が見られないことだ。少しは改善しているが、依然として87%の人が良いイメージを持っていないという。これについて中国人は不思議に思っているが、世論調査の結果から見ると、三つの大きな理由がある。第1に、中国は尖閣領海に対する侵犯を繰り返している。第2に、中国は国際ルールを守っていない。第3に、中国は歴史問題などで対日批判を続けている。日中関係改善の推進要因となるものも多いが、今後の日中関係を考えると、やはり限界がある。それは安全保障問題、主権の問題であり、戦略目標が一致していないことだ。このように根本的な矛盾があり、今後、中国が国力を増して海洋進出をさらに強化する限り、摩擦は避けられないと考えるのが正しいだろう。
 今後の日中関係については、来年の習近平国家主席来日まで大きな問題はなく、良好に推移すると思われるが、その先はわからない。多数の変数があるが、まず、中国経済が心配だ。もしも中国経済が悪くなれば、日本経済にも大きなダメージがあるだろう。米中関係も、なかなか予測が難しい。特に経済の動揺が政治の動揺にどう結び付くのかというところは、なかなか予測できない。中国のあるエコノミストは、「もしも3年続けて成長率がマイナスになれば、政権は危うい」と言っている。このような話題が出るのは、かなり雰囲気が変わったということだろう。このような雰囲気は今後、景気が持ち直せば変わるかもしれないが、2016~2017年の調子の良さは、無理したものだったようで、今後は減速がいよいよ目立つようになりそうで心配だ。
 今後の日中関係でポイントとなるのは、中国側が自制できるかどうかだ。尖閣諸島周辺に中国の船が入ってくる回数は減っている。昨秋からは2回、今秋からは1回になっており、これは大変結構なことだ。最後はゼロになれば良い。中国が尖閣周辺へ来ても得することはなく、燃料を無駄にするだけだ。自制が可能かどうかについては様々な要因があるが、1つの要因は、日本に関する誤解がまだたくさんあることだ。このため、ベースになっている情報ギャップを埋めていく努力をすることが、私たちにできる1つのことだと思う。

(敬称略 / 講師肩書は講演当時 / 文責:国際経済連携推進センター)


CIECサポーターズ(無料)にご登録いただきますと、講演会、シンポジウム開催のご案内、2010年度以前の各会及びシンポジウムページ下部に掲載されている詳細PDFとエッセイアジアをご覧いただける、パスワードをお送りいたします。

担当:総務部