第113回-2 中央ユーラシア調査会
報告2「中国の中央アジア資源戦略」
(独)石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)
石油開発推進本部 石油調査部 調査課
主任研究員
竹原 美佳 (たけはら みか)
エネルギー需給ギャップ拡大に向かう中国

サウジアラビア、アンゴラ、イランが中国の原油三大輸入相手国である。天然ガスについては、中国は世界7位の天然ガス生産国である。日本の1年間の消費量に相当する量を生産している。
中国政府はCO2排出抑制等の観点からも、天然ガスが一次エネルギーに占める割合を現在の4%から、第12次5ヵ年計画最終年の2015年までに8%、2020年までには11%程度に高めるという目標を設定している。天然ガスの輸入比率は現在2割程度だが、今後拡大していく見通しである。
中国は、LNGを、豪州、マレーシア、インドネシア、カタールなどから輸入している。IEAが、2011年6月に発表した天然ガス黄金時代シナリオに基づいた需給シナリオや、政府の一次エネルギー全体の見通しや省エネ計画に基づき、国産ガスの供給計画、LNG、パイプラインガスの長期売買契約等を加味した私どもで試算したシナリオでも、2020年の輸入比率が現在の2割から6割程度には拡大する見通しである。
エネルギー需給ギャップへの対応
(1)国有石油企業:対外投資(資産買収)
中国には、CNPC(子会社はペトロチャイナ(PetroChina)、シノペック(SINOPEC)、シーノック(CNOOC)という三大国有石油企業があり、国内の原油、天然ガスの生産を牛耳っている。三社とも国外投資を行っている。1980年代頃に、中国では原油生産が1億トンに達し、親会社CNPCは、シノペックに安く原油を買い叩かれていた。国家が価格を統制し、CNPCは原油をたくさん生産しても、安く買い叩かれて赤字にあえでいた。シノペックも社会主義的な、国家政策の犠牲となり高コスト体質でやはり赤字体質であった。朱鎔基の時代に石油産業の大改革を行うことになり、まず1980年頃に、ペトロチャイナとシノペックがお互い持っている油田や製油所の資産を譲渡しあい、財務や資産の取捨選択を行い、中核の優良な資産を会社に移し、その会社をNYや香港で上場させた。資金調達能力が向上して、国内の探鉱開発にお金を投じるとともに海外投資を拡大していった。2004年時点では、三社の国外の権益分生産量が石油と天然ガスをあわせて約40万バレルだったのが、2011年には140万バレルを超え約3倍に伸びた。ただし、国有石油企業三社のコアエリアはあくまでも中国国内であり、国外生産量が国内生産量に占める割合は約15%程度である。ちなみにアメリカのエクソンモービルはアメリカにおける生産量が約15%で国外が85%なので、まったく逆の状況である。
国外権益生産量に占める割合は、スーダン、アンゴラといったアフリカが多いが、その中で健闘しているのが中央アジアのカザフスタンである。全体の3割くらいがカザフスタンの生産となっている。カザフスタンの原油で中国に入ってきているのは、ほとんどCNPCの生産である。CNPCは、1997年にアクトベムナイガスの民営化に伴い株式の60%を取得し、2003年に25%買い増し現在85%を持っている。ケンキャック油田などの生産が12万バレル程度あるが、CNPCの持分はおそらく日量約10万バレルである。
中国のアプローチは、既に見つかっている油ガス田を買収することで、手っ取り早く権益生産量を増やし、自分たちの企業規模を拡大するというものである。企業規模拡大により資金調達等がしやすくなり再投資にまわす余地も増えるという、お金がある企業ならでは技である。既発見の資産の買収を続けていくことでどんどん拡大している。
(2)政府:資源国への中国的アプローチ
中国政府がおこなった資源国への中国的アプローチで、ローン・フォー・オイル(ガス)がある。2009年の金融危機のあとに、中国政府が国家開発銀行を通じて、ポテンシャルが高い産油国国営石油会社向けに公的な融資をコミットし、それとパッケージで石油ガスの長期売買契約や、パイプライン建設といった輸送インフラの整備、中国の上流参加などを組み合わせた。2009年の合意額は約4兆円(約450億ドル)である。国内へのエネルギーの安定供給という目的が図られる一方、中国は外貨準備、特にドル資産が多く、金融資産の運用多様化、金融の国際化といった目的もあった。いわゆる資源外交によるプレゼンス拡大といったいろいろな目的の元に公的融資が行われた。
ロシアでは、太平洋パイプラインの大慶支線が、ローン・フォー・オイルの一環として建設された。2010年8月にロシア区間が完成し、11月に原油の注入と試運転を開始、2011年から供給を開始している。中国は、パイプラインによって、ロシアから日量30万バレルの原油を調達できる他、タンカーで出される原油についても購入することが可能となり、調達の多様化が図れるようになった。ローン・フォー・オイルの対象は、ロシア、中央アジアのほかに中南米の国もあった。ローン・フォー・オイルの官民双方の動きによって、ロシア、カザフスタンからの原油輸入は着実に伸びている。今年の1月から7月のロシアから中国向け輸入量は日量約33万バレル、カザフスタンからは約24万バレルである。
このように中国は、需給ギャップへの対応で調達地域、手段の多様化を図ろうとしている。IEAの見通しによると中国の原油輸入は、2015年には日量680万バレルに延びる。陸路のパイプラインを建設することによって、原油の2割を陸路で、マラッカ海峡を通過しない調達が可能となる。ロシア原油も、ナホトカからタンカーでマラッカ海峡を通らず調達することができる。
天然ガスを巡るロシア・中央アジア・中国
中央アジアのガスパイプラインが中国向けにどんどん伸びている。トルクメニスタン、ウズベキスタン、カザフスタン経由で約2000km、輸送能力は約400億立米である。ロシア向けの輸出が先細りしている状況の中、トルクメニスタン、カザフスタン、ウズベキスタン3国共に、中国向けの増量を志向している。カザフスタンは、ベイネウ・ボゾイ・シムケントのパイプラインが着工したというような話もある。
パイプラインの増強だけを足し合わせると、2020年頃に、中国向けに650億立米/年のパイプライン能力が整備される可能性がある。しかし、大手コンサルタントの見解や、実際の油田、ガス田の開発状況等から判断し、中央アジアから中国向けの輸出は最大でも450億立米/年程度ではないかと見ている。
中国とウズベキスタンは、2010年にウズベキスタンが100億立米/年を引き取ることで合意をしている。トルクメニスタンからの天然ガスは、今年輸入量がぐっと増えている。トルクメニスタンは、今後20年くらいで、生産量が約800億立米/年になり、うち600億立米/年をロシアと中国に半分ずつ輸出するのではないかという見方もある。カザフスタンについては、中国向けの輸出は30~50億立米/年程度にとどまると見られている。
450億立米/年の天然ガスが中央アジアから中国にむかうのはやはり大きいことで、ロシアはどうなるのか。ロシアはマーケット価格を追求し、欧州準拠価格を中国に対し求めている。それに対して中国は、中央アジアから独自のスキームで天然ガスを入手しているので、その条件を崩すことが中央アジアに対してできない。やはり中国はロシアに対して、値引きや柔軟な引き取り状況を要求する。お互いまったくかみ合わないのでいくら交渉しても成立が難しい。ESPOの原油パイプラインの問題はトラブルもあったが解決に向かった。ESPOの原油が中国に入っても、カザフスタン、中央アジアには何のデメリットもない。しかし、こと天然ガスについては、パワーゲームの様相を呈している。
ロシアは、2009年には700億立米を中央アジアから輸入していたが、2010年にはその半分374億立米/年に減少している。トルクメニスタンにいたっては4分の1の100億立米/年に減らされてしまった。そういったことから供給の多様化を図りたいと考えているようだ。ロシアに対して対ロバーゲニングという意味でも中国への供給拡大を図りたい、というのが中央アジア側の思惑であろう。
中国は自国にメリットのある国に対しては惜しみなくファイナンスを行う。双方に良い関係が、中央アジアと中国との間で構築されている。将来、中央アジアのガスがロシアと中国で二分される可能性がある。エネルギー貿易投資の拡大によって、中国の中央アジアにおけるプレゼンスが拡大に向かうという要素も十二分にあると考える。
(敬称略 / 講師肩書は講演当時 / 文責:国際経済連携推進センター)
※CFIECサポーターズ(無料)にご登録いただきますと、講演会、シンポジウム開催のご案内、2010年度以前の各会及びシンポジウムページ下部に掲載されている詳細PDFとエッセイアジアをご覧いただける、パスワードをお送りいたします。
担当:企画調査広報部