第102回-1 中央ユーラシア調査会
「中央アジア・カスピ海周辺における石油・天然ガス開発情勢について」
石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)
調査部 調査課 主任研究員
古幡 哲也
1. 各国における石油・天然ガスの状況

国別にさらに見ていくと、まずカザフスタンには、カズムナイガスという国営の石油会社がある。カズムナイガスの新規投資では、既存油田の買収が多く、新たな油田を開発する投資はあまり多くなく、カザフスタンの生産量維持・拡大にはあまり貢献していない。また、これまでにもカザフスタン政府との間でトラブルが起きているカシャガン油田などについては、「政府からまた、言いがかりを付けられるのではないか」と懸念する声も聞かれるが、他の生産量が伸びていないことを考えると無理に止めたり利権を剥奪したりする可能性は高くない。ただ埋蔵量や生産量が伸びず、いろいろなプロジェクトでコストが上がっている、中国企業のプレゼンスが上がっている、経済回復のための財源確保が必要、といった要因があるため、外資事業への圧力は今後も高まる傾向が続くだろう。カザフスタンではカントリーリスクを補って余りあるほどの地質的ポテンシャルがあるため、いかにリスクをマネージするかが重要になる。中国がどんどんリスクを抱え、強力な投資を進めている一方で、ロシアとの間では政府間合意は多いものの、具体的なプロジェクトはあまり進んでいないようだ。また輸送ルートに関しては、大半は未だにロシア頼みだが、新しくできているものは中国絡みが非常に多い。
アゼルバイジャンについては、油田、ガス田があるのではないかということでソ連崩壊後の早くから探鉱も進んできた。しかし、実際に商業量の石油があったのはACG(アゼリ・チラク・グネシリ)油田、その後に見つかったシャーデニスのガス田ぐらいだ。ACGプロジェクトは埋蔵量が54億バレルだが、開発の仕方、井戸の掘り方、あるいは施設設置の仕方によって生産量が伸びる余地があり、追加開発計画があると報じられている。またアゼルバイジャンからグルジア経由でトルコのジェイハンまでつながるBTCパイプラインでの出荷が始まっており、その能力は100万バレル/日で、さらなる増強も可能だという。2008年8月にはトルコ区間で爆発事故が、その直後にはグルジアで南オセチア紛争があったが、パイプラインそのものにも特に大きな影響はなく、数日後には操業を再開した。
トルクメニスタンについては、ドーレタバード・ガス田が非常に大きいガス田だったが、南ヨロテン・ガス田、オスマン・ガス田についても非常に大きいということが最近、確認された。さらに先月はトルクメニスタンの政府関係者が上方修正をしており、今後は陸上のガスの生産に大きな期待が持てる。ただトルクメニスタンは国の政策として、外国企業に陸上の油ガス田を開放していない。特例として認められているのは、中国のCNPCだ。また今後の鍵となるのは、ガスの値段だと思う。将来的にはロシアも中国もガスがほしいとなると、値段の問題になるだろう。トルクメニスタンでは現在、ガスについては国境渡しという方針をとっている。またカスピ海横断パイプラインは、アゼルバイジャンとつないでヨーロッパに出そうという構想だが、トルクメニスタンは自国でパイプを引くつもりはないという。アゼルバイジャンも自国で引くつもりはなく、どの国も引くつもりはないという状況なので現段階では難しい。もしも本当につくるのであれば、やはり陸上の大きいガス田に西側、欧米の、特にメジャーズの企業に入ってもらうことが重要だろう。
ウズベキスタンのアムダリア堆積盆地には、伝統的なガス田がたくさんある。またフェルガナ盆地にも、まだポテンシャルがあるといわれる。注目すべきはウスチュルト堆積盆地のエリアで、1週間ほど前にもアラル海コンソーシアムがいる鉱区でガスが発見されたという報道があった。このエリアでは今後、ガスの生産が伸びてくるかもしれない。
2. 増大する中国のプレゼンス
伝統的に中央アジアはロシア、欧州の裏側として捉えられていると思う。資源は従来、当然のごとく西側に向けて流通しており、スウィング・プロデューサーとして、需要が減ったときに生産量を減らさせられる役目も負っていたのではないか。ただ最近では中国のプレゼンスがどんどん高くなり、中央アジアの国々にもマーケットをきちんと確保したいという考えがある。このため東向けの石油・ガス輸送ルートが実現しつつあるというのが、大きな特徴だろう。中央アジアの石油・ガス産業では、中国企業や韓国企業のプレゼンスがどんどん高まっており、ロシアのプレゼンス、特に経済的なプレゼンスは低下が不可避かと思う。
中国企業の場合、パイプラインが短期間で建設されるなど西側のスタンダードでは時間をかけて進めるようなことが、おろそかになっているかもしれない。やはり中国は10年後、20年後の需要に対する供給の確保という戦略的な視点から、事業を推進しているといえるだろう。日本は同じような土俵で勝負はできないと思うので、技術力を背景に、例えばエンジニアリング会社とのパッケージ、政府間のスキームでのサポートを行ってみてはどうかと考えている。JOGMECで私は今、ベネズエラ担当もしており、ベネズエラのプロジェクト開発では、政府間のMOUを結んでいただき、その傘の下で事業を進めることもしている。もしかすると、余り知見のない中央アジアやカスピ海でもこういった仕組みが必要になるのかという声も聞かれるようになっている。
(敬称略 / 講師肩書は講演当時 / 文責:国際経済連携推進センター)
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担当:企画調査広報部