テーマ「グローバル経済戦略-東アジアの統合と日本の選択」
平成18年度 第3回 アジア研究会
「東アジア共同体構築-リージョナル・アーキテクチャーをどう考えるか」
政策研究大学院大学教授、副学長
白石 隆

それがどういうことか、これを説明するため、3つのことをお話したい。1つは、なぜ東アジア共同体という言葉になにか意味があるように受け止められ、このことばが力を持つようになったかだ。東アジアという言葉が今のように使われ始めたのは1980年代後半で、事実上の経済統合が進んだためだ。またこの地域で制度構築の政治的意思がどうして出てきたかと言うと、これは1997年の経済危機が最大の理由だろう。このとき日本は「ASEAN+1」を提唱し、ASEANは「ASEAN+3」を提案した。この結果、1997年にASEAN+3の首脳会談が開催され、1998年には「ASEAN+3」が定例化し、2001年にはASEAN+3首脳会談の合意で設立された「東アジア・ビジョン・グループ」の提言のかたちで「東アジア共同体」がうたわれるようになった。
しかし、東アジア共同体ということばはセクシーではあっても、そういうものをつくろうという大きな共同の政治的意思はまだこの地域に生まれていない。ではなぜ「東アジア共同体構築」の名の下に、さまざまの地域協力が行われているのか。その1つの理由は、経済危機以降、民主的な体制の下で政治をどう組み立て直していくか、これが多くの国で大きな課題になっているためだと思う。「成長の政治」をしていくには、「共同体構築」という名の下で経済連携を進めることが鍵となる。もう一つの理由は、中国の台頭にどう対処するかだ。中国の台頭にどう対処するかは、経済においても政治においても、周辺諸国にとって大きな課題となっている。中国が一方的に勝手なことをしないよう、共同でルールを作る、そういう意味でも「東アジア共同体構築」は重要になっている。
では「共同体構築」ということで、実際には、どういう協力の仕組み、あるいはアーキテクチャーができつつあるのか。3つほど特徴がある。1つは、協力が機能ごとに行われていることである。もう1つは、ASEANがハブになっていることで、さらにもう1つは協力の機能領域ごとにメンバーが異なることだ。こうして「東アジア共同体構築」の名の下に、実際には、ASEANをハブとして、領域毎に、しばしば違うメンバーシップでさまざまの協力が進んでいる。
では現在の課題はなにか。3つ、指摘したい。1つは「ASEAN+3」はプロセス、「東アジア・サミット」はフォーラムという役割分担をどうするか、「東アジア・サミット」もプロセスにするにはどうすればよいかだ。2つめはASEANそのものへの対処だ。近年、東アジア地域統合の進展とともに東南アジアは東アジアの中に解消され、我が国では東南アジア政策がそのまとまりを失ってしまった。しかし、東南アジアに日本としてどう関与するかは今でも重要であり、そこでも特に重要なことは東南アジアの国々の国家の能力をつけていくことだ。それをしなければ、地域協力と言っても意味がない。さらに3つめはアジア太平洋協力の再活性化である。これについては、ASEAN+3、東アジア・サミットのような東アジア協力とアジア太平洋協力、この2つの協力枠組みの整合性をどうとるかという問題が鍵であり、それに関連してAPECをどう活性化するかが重要である。また中国にどう関与するかについては、中国の一方的行動のコストを上げ、中国がマルチの強調主義的な行動をとるよう促す、そのためにはどうすればよいかを考える必要がある。
東アジアにおいて、秩序はネットワーク型で構築されつつある。その意味で、この地域の統合は、EU、NATOといった機構の発展としてではなく、ネットワークがますます密度を高めていくようなかたちで進んでいる。こういうネットワーク型の秩序形成において、ハブとなっているのはアメリカとASEANだ。このシステムはまだ当分続くだろう。日本はこの2つのハブにどうエンゲージして、どのような秩序を形成していくかを考える必要がある。
(以上、発表)
【コメント】
村山 拓己・アジア生産性機構(APO)企画調査部長:

牧野 義司・経済ジャーナリスト、アジア開発銀行前広報コンサルタント:

篠田 邦彦・経済産業省APEC室長:

(敬称略 / 講師肩書は講演当時 / 文責:国際経済連携推進センター)
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担当:企画調査広報部